「―――」
目を開けると、ソファーにうつ伏せになっていた
窓から見える景色は曇り空
にしても何故ソファーに―――
原因は覚えている、ああ、良く覚えているさ
「…やっちったな」
紅白斬鬼こと俺はそう呟いた
自分の妻である舞の羊羹を何も言わずに食べてしまった
何時食べたのか定かでは無い
だって覚えていないもの
―――兎も角俺が食った事に変わりない
これが文とか天月ならまだ良かった
だがまぁ、舞の羊羹だった…
食べ物の恨みは何よりも恐ろしい
それは舞と…そして自分にも言える事だった
「あーあ」
夜逃げされちったぜ☆
と言っている場合ではない
あの不貞腐れた顔本当に…ああ
溜息が漏れ出た
それに合わせるかのように、雨が降り始めた
屋根を叩き、俺を攻めているかのようだ
「…娘」
ポツリと呟き、俺はソファーから降りる
娘も一緒に連れて行かれていないだろうか
最低な事をした身でよくこんな事が思える
俺は自己嫌悪しながら襖を少し開けた
「―――すぅ」
「…ふぅ」
そこには毛布を抱き枕のようにして眠る娘の姿がある
少し安心した後、何を思ったか俺は冷蔵庫に向かった
そこに進む事に何故か脚が重くなる
少し、嫌な予感がするのだ
「…何でだろうか」
自問する
その答えはすぐには帰ってくることは無い
冷蔵庫まで数歩だが、10歩くらいの距離があるように感じる
いや、数百歩だろうか…
「…」
鉛の様な足を動かしてなんとかたどり着く
なぜだか冷蔵庫が変なオーラを放っている様に感じた
斬鬼は動かなかった
「開けたくないな…」
ポロリとそんな言葉が出てしまった
こんな失言をするなんて、当主失格だな
自分でそう思いながら冷蔵庫を開けた
「異常は…無さそ―――」
〇
いきなりの殺気、私は飛び起きた
抱きついていた布団を投げ飛ばし、小刀を抜く
寝る時にいつも懐に入れている小刀だ
親に寝ている時でも常に気を配る様に言われていた
最初はじっくりと寝れなかったが、慣れれば余裕なものだ
「…」
殺気はあの襖の向こうから感じる
かなり強い、気絶してしまいそうだ
足を動かして襖の前に行く
「?」
ふと、この殺気が父親の物と気づき、首を傾げた
父はこんなに怒りっぽい人だったか?
いや、無いだろう
そう思って襖を開けた
―――そこに、鬼が立っていた
「!」
いや、鬼に見えた
父は激情して己を鬼の様に見せていた
周りを見ると、天月さんや文さん、青年さんが立っていた
三人は各々の武器に手を伸ばしたまま固まっていた
そして、父がこちらを向く
「―――」
無表情
想像と違い、無機物と言うべき顔をしていた
つり目で口が裂けんほど怒り狂っていた訳では無い
その反対、無機物、本当に命が宿っていないかのようか顔
能面
私はすぐさま、それを思い浮かべた
この空気に耐えかねたのか、文さんが声を出す
「…あんた、どうしたのよ」
その質問に、何も答えない
彼は何も答えず、4人を見ていた
「何か、言ったらどうなんだ」
青年が少し震えながら言う
父の口が小さく開く
「戦闘準備だ」
「は…」
私は言葉を失い、何も言えなかった
斬鬼をよく見ると、その瞳に復讐の炎が燃え上がっていた
「聞こえなかったのか、戦闘準備だ」
よく聞くと、その声には底無しの怒りが見える
決して怒鳴るような声じゃ無い
「何処とやるのよ」
「大和だ、徹底的に潰してやる…!」
隠しきれない感情を抑えながら、父は言った