父が何故激昂しているのか
私は自分なりに調べてみたが、かなりくだらなかった
母が楽しみにされていた羊羹を父が勝手に食べた
母は激昂し、父を気絶させた
その時、父の大切にしていた酒を飲んだのだそうだ
ついでに、羊羹も全部
これが父の激昂した理由だった
「…くだらな」
ポツリと呟く
「分かるわ、その気持ち」
横で文さんが私の頭を撫でる
その顔は疲れた顔をしていた
なぜなら、その後に母が大和についたという伝達があったからだ
父は速攻に洩矢に味方することに決めた
そしてその伝達役を文に頼んだのだ
寝起きの彼女にとってこれほど理不尽な事はあるまい
「でも、兵士さん達は出なくていいじゃん」
「斬鬼と舞だけの戦いになるからねぇ、はーヤダヤダ」
名も無き兵の出番は無い
なんなら文さんや天月さん達も出ないだろう
あの夫婦喧嘩程怖い物は無い
「…はぁ」
私はため息をまたついた
〇
「で?君はこちらにつくと」
「ええ、何か問題でも?」
目の前に女が座っていた
ここは大和の本部、その面会室のようなものだ
私…八坂神奈子は額に手を当てる
「まぁ、問題は無いんだが…どうしてこっちに?」
「はて、何か問題が?」
問題しかない
スパイかもしれないと思うと怖い
直接的な戦闘を天狗たちとした訳では無いが、それでもだ
「あー、なんか恨みでも?」
「えぇ、まぁ…そういうことにしておきます」
「もしかして食べ物とか…」
そこで、己の失言に気づいた
というより、気づけるわけが無かった
冗談のつもりで言ったそれは…当たりだったらしい
女は、青筋を浮かべていた
口の端がひくついて、怒りを堪えているようだ
そして、何も言わせることなく、言う
「今度余計な事を言うとその口を縫い合わす
分かったな?」
「あ、ああ…」
「それと、戦闘はほぼ私と奴だけになるから、手出しはするな」
「あ、ああ…分かった」
そういうしか無かった
他の事を言えば、縫い合わされるどころか、殺される気がする
〇
一方洩矢も大変な事になっていた
「さーてさーて、一大事…」
いや、本当は喜ぶべきなのだ
何処でも名を聞くことの出来る斬鬼が仲間になる
圧倒的な実力を持つ彼が仲間になってくれる
それは嬉しいのだ
だが
過程がクソすぎる
酒と羊羹全てを食べられて、怒った
だから大和についた妻をぶっ飛ばす
なお原因は彼自身の模様、えぇ…(困惑)
「あはは…こりゃ私の出番無さそうだね」
といっても、小さな戦い位はするだろう
斬鬼とその妻の戦いのせいで小さく見えるんだろうな
小さなため息が口から出てしまう
「ため息をついていたら幸せが逃げるぞ」
「アンタのせいでもあるんだよ?斬鬼」
後ろから聞こえてきた声にそう返す
振り返ると、1人の白狼が居た
「アンタねぇ…本当に」
「下らないってか?死ね」
「あー…うー…」
食べ物の恨みは恐ろしいと聞く
特にこの夫婦のそれはかなりヤバいものだ
私たちの宗教戦争に介入してくる程、恨みが強い
…なんなんだろう、この夫婦
邪魔では…ない訳が無いだろう
本当なら私と敵将の一騎打ちの筈だった
それが蓋を開けてみればこれである
なんともまぁ、血なまぐさい事になりそうだ
結果はどうせ私達の戦いになるだろう
私たちの激しい戦いの結果、と惨事はそうなるのだ
「何にしろ、私たちの出番は無さそうだねぇ」
「無いだろうな」
縁側に座り、刀を抜く
ちなみにここは私の神社だ
その本社でこうやってだべっていたのだ
「何にせよ、奴は殺るべきだ」
「…私に言われてもねぇ」
そう、言われてなんなのだ
どうせ自分の出番は無いようなものなのだ
「ま、お前らは勝手にやってな」
「あんたらのせいで無理そうだよ」
この夫婦の戦いの規模は分からない
ただ、自分たちより凄まじい戦いになりそうだ
神が妖怪より弱いのは癪だが、この夫婦の場合は…不可抗力だ
「まぁ、勝手にしておくよ、勝手に」
「勝手にしてくれ、俺は殺ってくる」
そういうと、彼は飛んで行った
どうやら、今から戦争を始めるらしい
と言えど2人だけだから、戦いと言った方が正しいが…
「何にせよ、面倒だねぇ」
私は他人事のように言う
本当なら、私が奴らと戦う筈なのに
本当なら、宗教戦争の筈なのに
〇
「よぉ、クソッタレ」
「久しぶりですねあほんだら、調子はどうです?」
「おお、頗る調子が良いぞ?」
ニコニコと笑い合う夫婦
ほのぼのと見れるそれではなく、コワイ
絶えること無く発せられる殺気のせいだ
「いやー、本当に調子がいいよ、えぇ?」
「それは良かったですねぇ、にしても奇遇ですね
実は私もとても調子が良いのですよ」
首をごぎごきと鳴らしながら斬鬼は回す
舞は指の関節をグキっと音を立てる
「見限りましたねぇ、旦那さんの事」
「いやなぁ、俺はお前さんの事を見限ったよ」
舞は目を細くする
「はい?あなたが私を見限ったと?」
「あぁ、この程度で怒るとはな」
舞が扇子を取り出す
そして手で弄び始める
「ええ?あなたが原因でしょう?
勝手に人の物を食って私のせいにするんですか?」
「…次はお前を黙らせる」
首を力なく振る
体が震えた、刀を抜き、両手で構える
不思議と柄を握る手は強かった
舞はバッと扇子を広げる
そして右手で顔を右側を隠すように
左手の扇子は下に向けて構える
その構えは見るだけでも魅力されそうなくらい、妖艶だった
「行くぞ」
「さ、来なさい」