怒れ、波動を操りし者よ
退屈だ
退屈だ
諸君、私は本当に退屈だ
不良から天人になった時からずっと思っていたことだ
人間だった頃は、まだ挑戦してくる輩が居て、楽しかった
少なくとも、つまらなくは無かった
たが、こうなってからと言うもの、つまらない
この天界というところは本当に、本当に退屈だ
楽しみはほとんど無い
天界の桃というのも最早飽きてきてしまった
「何か、楽しいこと無いかな」
私は雲から下を見下ろす
そこには、古い神社らしき物が見える
先代だったか、誰だったか
あの神社は下の世界で重要な場所らしい
それを見て、ふと思った
「壊そうかな」
そしたら、下からわんさか楽しい者が来るだろう
この永遠の退屈を紛らわせてくれる
「下民が、私を何処まで楽しませてくれるか」
要石と呼ばれる石を地上へ落とす
それは重力に従い、段々とスピードを上げて落ちていく
これが地面に刺されば大地は鎮まり、その力は留まる
その力が最大の時に放たれれば、前代未聞の大災害が巻き起こる
「ふふ…貴女達の力が本物なら、見せてよ」
この時点で、彼女の運命は確立したような物かもしれない
彼女は己を最強と思っていた
なぜなら、この天界は退屈だから
喧嘩を売ってくる者などどこにも居ない
それを彼女は「私を恐れている」と思ったのだろう
実の所、蔑まれていたのは彼女なのに
最強の肩書きは地上に無数に居る
その強さ、最強は誰か分からない
だが、文字通りの最強は存在する
それこそ最近幻想郷に帰還した…白狼の夫婦
あの2人に勝てた者など何処にも居ない
彼女は圧倒的な間違いを犯した
そう、それは圧倒的な間違い
この幻想郷の制作に携わった夫婦、それを怒らす
妖怪の賢者の怒りを超える怒り
前代未聞の大災害が起きれば、1番の犠牲者は人間だ
首が飛ぼうとも、生きる妖怪とは違う
骨が折れたら、酷い場合にはショック死する
そんな、か弱い人間
それを愛する、白狼天狗の夫婦
不可能を可能に
夫婦の名は
紅白斬鬼と紅白舞
この幻想郷を誰よりも愛する、妖怪だ
〇
「…誰か助けてー」
神社だった物の残骸に埋もれている
お茶を飲んでいた霊夢は局地的な地震に巻き込まれた
老朽化していた神社は倒壊し、霊夢は死にかけた
目の前にある包丁がいい例だ
景色を見た限り、ここ以外は被害を受けていないらしい
どうやら戦争を起こしたい奴が居るらしい
「…むー!霊夢居るかー!?」
「ここよー、潰れそうだわー」
取り敢えずそれっぽい声を出す
すると、その…魔理沙の声が近づいてきた
「こりゃ…派手な事をする奴が居るもんだ」
「やられたわねぇ、予測出来なかったわ」
魔理沙が残骸から霊夢を引き出す
腹部の息苦しさから解放される
「これは…アイツも怒りそうだ」
粒が集まり、萃香が現れる
霊夢は気だるそうに言った
「紫でしょ、アイツはあれでも1番幻想郷を愛しているものね」
「違うね」
即座に萃香はそれを否定した
霊夢が怪訝に萃香を見た
「違うって…アイツ怒らないの?」
「激怒…とまでは行かないだろう
…だがな、行くやつが居る」
「…誰…まさか」
霊夢は異様な妖力を感じ、階段の方向を見た
"それ"はかなり近いのか油断すれば気を失いそうだ
そして、それは現れた
能面の様なピクリとも動かない顔
その目は底知れぬ怒りに飲まれ、暗い
腰の黒刀がいつもより暗く、妖刀はカタカタと揺れている
その横には、人魂が浮かんでいる
いつもより、大人しい
「…」
「ざ…斬鬼」
よく見ると、後ろには外野達が居た
勇儀、レミリア、幽々子、アリス…etc
勇儀はいきなりの異様な妖力に飛び出した
幽々子も、同じ理由で顔を顰めながら
レミリアは少し怯えが混じっている
その後ろに、フランが隠れていた
斬鬼が黒刀を引き抜いた
「ッ!」
殺気
今までの異変でも感じた事の無い殺気
だが、それは少しの陰陽を付ける飾りにしかならない
彼は底知れぬ怒りを辺りに振りまいていた
触るだけでドロドロに溶けてしまいそうな怒りを
「…」
斬鬼は何も喋らなかった
境内を真っ直ぐと歩き、倒壊した神社の目の前で止まる
そのまま、しゃがんだ
「…ヴっ」
嘔吐く様な声が聞こえた気がした
だが、彼は何も無かったかのように立ち上がる
黒刀を水平に横を指す
「―――!」
それを勢い良く境内に突き刺した
突き刺した所から吹き上がる凄まじい光
それと共に、青い霊気が吹き上がる
「これは…!?」
こんな霊力の塊が神社の下にあったのか
それはともかく、斬鬼の姿が見えない
霊夢は眩しさに耐えながら、目を開ける
光は視覚的な暴力を止めることをしない
だが、光の僅かな隙間から姿を見ることは出来た
「…?」
そこには3人の姿があった
いや、1人は分かる
斬鬼の右で手を繋ぐ、紅白舞、彼の妻だ
だが、その横に居る…巫女装束の女は誰だ?
斬鬼の左で手を繋ぐ、そいつは誰だ?
やがて、光と霊気は消えた
あの第3の女も消えた様だった
「…え」
そんなことより、重大な事が起こっていた
目の前に、博麗神社があった
さっきまで、ただの残骸だった博麗神社が
しかも過去の栄光を象徴するかのように、新しい
妖怪の山にある守矢神社といい勝負だ
「何が…」
「…天人か」
斬鬼は刀を抜き、納刀した
「はは…はははは…」
虚ろな笑い声が響く
その感情の無さに身の毛がよだつ
「そウかぁ…天人かァ」
機械的な声
もはや、何を言っても受け付けない
それどころか、何も言えない
「アハ…ははは…ひひひ…随分とォ…舐めたマネを…」
フランは何故か、1人前に出ることが出来た
その様子は知っている、体験している
狂気に犯された時の、自分
あれから完璧に操れるようになった狂気
その狂気は彼に畏怖した
今の場面で出て来ることは絶対に無いだろう
他の奴らも動けないでいた
生ける伝説が、怒った
今までで例を見ない程の怒り
そう、これが彼にとっての逆鱗の1つ
博麗神社を崩す事は、彼を激怒させることに繋がるのだ
斬鬼は、居なくなった
いや、飛んだのだ
早すぎて、見えなかった
ぼーっとしている霊夢に魔理沙が声を掛ける
「と、とりあえず神社の状態ををを、確認確認確認確認…」
まるで、壊れた機械だったけど
「そうね…それも…そうね」
周りに一切の影響を受けることの無い彼女も、珍しく焦っていた
〇
「…お父さん」
1人の白狼が天を見つめていた