我らを殺すは暇だけである――
赤く、塗りつぶされた空間
赤、空も赤、地の底も赤
他にあるのは灰色の浮島に、そこにある建物
ついでに言えば、銃のマズルフラッシュくらいか
「邪魔!」
「ギャ!?」
顔がのっぺらとした兵士を剣で叩き潰す
側面からの銃撃を盾で防御
ソイツも範囲内に居た為、大剣で潰す
「グアッ」
声から女だと思われるが顔のせいでそうと思えない
もしかしたら顔がそれなだけかもしれない
見た目もまちまちな奴等ばかりである
タンクトップと黒いズボンを履いた雑兵
サングラスとスーツ姿のエリートみたいな兵
今のところ、そんな奴しかいない
四角のドアのない仕切りを通り、次の部屋へと向かう
そこも、敵が数人居た
酒を飲んでいたのか、フラフラとしている
大剣を投げつけ顔面に刺さったそれを一瞬で近づき抜く
何が起こったか分からないままそいつは倒れる
その場で二回の回転斬り
簡単に敵はバラバラになった
死ぬ直前に引き金を引いたのか、あらぬ方向に弾丸が飛ぶ
頬の血を拭い、窓を見る
正確には、窓枠とでも言うか
そこから見える景色は、辺獄
赤1色の世界に浮島が何個も浮かんでいる
大きなものから小さなものまで
そのうちの1つ、中くらいのところが騒がしかった
「…」
千里眼
視界を拡大する
見る、見る、見る
最初に見えたのはマズルフラッシュ
その次はキャップとヘッドホン
そしてヘッドホンから繋がる背中の大きな通信装置
着ているのは軍服の様なジャケットでポケットが多い
ズボンは迷彩柄でこちらもポケットが多かった
光をどこかに追いやった深淵の目が敵を見ていた
殺す、滅殺、殺
そんな、感情しか見えない
ウィンチェスターをバカスカ打ちながら
空中の岩から"出てくる"
その岩から鎖が浮島に突き刺さっていた
ザァーッと鎖を滑り降りると、追っ手を撃つ
浮いた岩から顔を覗かせた敵が顔を霧散させた
そして彼は手早い動作で地面のレバーを倒す
「ッ…!?」
瞬間、全てが"引っ繰り返る"
重力は下から上に
地面に倒れていた敵は全て天井に
何とか受け身をとり、痛みを逸らす
「…彼は?」
見てみると、彼は落ちていた
空中に薄い長方形の岩があり、そこから先程の地面に鎖が伸びていた
彼はそこに着地しようとするが、少しズレる
手を伸ばし、端を掴んだが、その手は離れてしまった
「…」
椛は何も見なかったかのように、大剣を持つ
そして、辺りを見渡した
あるのは、敵の死体だけ
「…どうし――」
そう、呟いた時
腹の横辺りから刃が出ていた
「へ」
後ろを見ると、鎖が見える
それは壁に続いていた、少し黒い液体がぽたぽたしている
壁に、黒い穴が空いていた
暗い、暗い、暗い
先が見えぬ程に、暗い
そして、鎖は巻かれていく
「――!」
どれだけ抵抗しようと、かえしがあったのか抜けない
そのまま、壁に飲まれていった
〇
気分は最悪
但し状況は良好
今していることと成し遂げようとしているのはクズのそれだ
そんな復讐の感情に流されなくたっていい
だが、これは彼女の為だ
自分の為でも無い、種族のためでも無い
これは弔いの儀式なのだ
この神社が忘れ去られたのも彼女が死んでから
この神秘的な雑学が生まれたのも彼女が死んでから
この複雑な状況になったのも彼女が死んでから
こんな事になったのも、彼女が死んだから
この手は、忘れないだろう
この瞳と記憶は、忘れないだろう
全てには終わりがある
それは変えることの出来ない絶対的な物
それを、俺が早めてやる
この幻想を、終わらせてやる
だから、早くその桜を封じて見せろ
俺に、挑む資格があると感じさせろ
生き地獄を、終わらせてやる
〇
「……、…」
首を振って立ち上がる
酷い気分だ、口の中に芝刈り機を押し込まれたような
顎の辺りから黒い液体がポタリと落ちた
大剣を支えにして辺りを見渡す
少し、小汚い小部屋だ
先程の岩を削って豆腐のようにした建物と変わりない
シンプルな、建物
「行くしかないか」
ふと、見た左手が黒い液体に汚染されていた
大剣を仕舞い、袖で拭い取ろうとする
しかし、それは袖に着くだけで取れはしなかった
嫌悪感を抑えること無く振りまきながら床に落ちていた銃を拾う
軽くコッキングし、部屋を移動する
移動した先にも敵はいる
的確に弾丸を放つ
パパパと軽い破裂音を連続させる
辺獄に居る罪人とでも言うか
恐らく死にたくても死ねない奴等
なら、私が一瞬の平穏を貴方に
その思いを込め、弾丸を放った
敵は少し、強くなったような気がした
タンクトップを着た奴らがほとんど居なくなった
代わりに出たのは、変なマスクを被った奴ら
しかも、血液は黄色く、人間のそれとは思えない
空になった銃を投げ捨て、大剣で叩き伏せる
そうやって、何回も叩き伏せた時だったか
下から鎖が伸びた
それは天井に突き刺さる
鎖が出てきた所は黒い液体が広がって行った
ついでに、何かが出る
「ッ――!」
声に出ない悲鳴が出る
出てきたのは先程の男だった
だが、その姿は異形だった
腹の横は椛と同じように鎖に刺されたのか、黒い液体が侵食している
それは横腹を大体黒く染めていた
そして、何よりの顔
黒い液体が顔の一部に付着している
絵の具で絵を書いた時、それが顔についた、様な
そんなものより、ある所が無い
"下顎が無い"
下顎がもぎ取られたかのように無い
上顎の歯が反射して少し光っていた
皮膚が少し長く垂れ下がる
死に場所を無くしたかのような、亡者
「…、……、、………」
彼はどうやら喋れないらしく、カラカラと骨と骨を打ち合わせていた
見ていて、背筋が凍る
彼が落ちていたナイフを拾う
その瞳は先程と変わらない
手を抜けば、死ぬ
先に見えたのは彼が飛びかかって来るところだった