「…死ぬって、言ったのにね」
「退く所で退かないのが悪いのですよ」
風の大槌で潰された場所には血の池が広がっていた
血肉は塵も無く、また骨も何処にも残っていない
だが、舞はとある所に目を向けた
「まぁ、貴女がこんなに早く来るとは思いませんでしたが」
「…」
そこにいるのは片手で楼観剣を構える妖夢
片手には既に意識の無い魔理沙が担がれている
「さ、どうします?
逃げるも良し、手当をして応戦するのも良し」
「その必要はありません」
妖夢は魔理沙にぺたりと札を貼る
すると陣が広がり、魔理沙は何処かに転送された
その術は古い時に見たものだった
「ふむ、彼女も敵ですか」
あの薬師も敵に回ったらしい
恐らく早苗を連れていった時、その札を渡したのだろう
それは次に倒れる者が居ると確信したと言うことだ
そしてその札はちらりと、二つ、見えた
妖夢は片方でもう1つの刀をゆっくり引き抜く
―――白楼剣
魂魄家の家宝と呼ばれる名刀であり、当主に必ず伝わる物
その刃は太古の武人が鍛えたとされ、砕ける事は無い
さらにその刃には迷いを断ち切るという効果がある
故に幽霊である舞には効果的なのだ
迷いを持ち、現世に留まる
「ほう、白楼剣ですか
確かにいい判断でしょう、来なさい」
「―――シイッ!」
音速
ブレた姿が後に残り、妖夢は楼観剣で刺突する
かなり長いそれはとある武人の刀、物干し竿の様だった
その長さに比例して重さ、てこの原理でさらに重くなっている筈
破壊力は言うまでも無い
「ふん」
当たれば、の話だが
舞は無駄の無い動きで扇子を楼観剣に当てる
扇子によって切っ先が移動していく
(パリィ!何もしなかったら心臓をやられる!)
舞の脇腹に行った楼観剣の刃を舞に向け、斬る
力を入れたそれは彼女を真っ二つにするはずだった
「よっと」
「なっ」
舞は刃に手を置き、そのまま力を入れて回転飛びする
その間も刃は動いている上、普通体重が刀の先にかかれば落ちてしまうだろう
だが、彼女はやってのけた
恐らく遠心力で重みを上にし、若干軽くなる
その一瞬のうちに楼観剣を越える
技量が凄まじい
妖夢も、再現出来るか分からない技
「驚いている場合ですか」
「グッ!?」
脇腹に痛み
閉じた扇子で思い切り突き刺されたらしい
腹に足が置かれる、そのまま力が入る
「ぐえ」
「ふん」
余程深くまで入れていたのか、足を使わないと取れなかったらしい
彼女の片手を見るとなるほど、手首辺りまでが血塗れだ
「ごほっ」
「選手交代ね」
そこで大幣が舞を襲った
それを後ろに回転して避ける
後転、足と手を伸ばし、スラリと水のように
「危ないですねぇ、もう少し余裕を持って」
「別に要らないわ、さっさとこの世から出ていきなさい」
「もう出てますよ、かなり最近に」
飛んできた札を避ける
その間に霊夢は懐に入り込み、大幣を振る
それを舞は掴み、離さなかった
霊力の纏われたそれは恐らく舞に火傷のような痛みを味あわせている事だろう
(動かない!コイツ離す気が無い!?)
どれだけ引っ張ろうとも、大幣は奪い返せない
舞はガッチリと掴み、離そうともしなかった
その拮抗していた時
「今っ」
「おっとぉ」
斬撃が舞を細切れにしようとする
それをおどけたように彼女は避ける
「あらあら、彼女の薬ってそんなに速攻だったのね」
「おかげで前線復帰が早くなりましたよ」
脇腹に軽く包帯を巻いて応急処置をした妖夢が立ちはだかる
その横に霊夢が歩み寄り、針と大幣を構える
「永琳に少し協力して貰ったのよ、あんたら面倒だからね」
「死ねば楽に慣れたかもしれませんよ、半人から完全に死人、あ、もう半分死んでましたか」
「一人前になるにはまず生きていなければ、まだ死ぬわけにはいかない!」
「さっさと終わらせる!」
先に妖夢が攻撃する
後ろから追尾性のある札で援護しながら、時に攻守交代する
斬撃、楼観剣の長さを生かして扇子の届かないところから斬る
懐に入り込まれた時には白楼剣を使い、追い払う
どうやら力が効くらしく、かなり苦しそうな顔をしていた
そして、動きが少し鈍った時が交代の合図だ
妖夢がさっと引き、霊夢が大幣を叩きつける
舞がそれをよけ、叩き付けられた場所からの衝撃波も避ける
その避けたところに妖夢の半霊が弾幕を放つ
無論殺傷力のあるそれは当たれば一溜りもない
性質が同じ幽霊なら尚更だ
そして彼女は少し隙を晒した
その隙は霊夢が懐に入り込むには十分だった
「終わりよッ!」
「ぐっ」
ありったけの霊力を込めた大幣
それを思い切り腹に深く突き刺す
彼女は腹筋で大幣を抜かせることなく、攻撃に移ろうとする
だが、その行動こそが
その抜かせない事こそが狙いだった
後ろから短い刃が襲いかかる
それは彼女の宝刀、彼女の家宝
或いは、亡霊を消す為の最後の手段
「ッ!」
舞はそれを避ける為に体を動かそうとする
だが体は動かない
「させないわよ!」
霊夢は大幣をがっちりと支えた
その手は離れることなく、体幹は揺れる事すらない
引き抜こうにも腹筋が力を入れれば腹筋が締まる
そして、どうにも動けないまま、白楼剣が背中に突き刺さる
「うぐ」
決定打のソレを受け、舞は嘔吐く
持っていた扇子がぽとりと地面に落ちる
霊夢と妖夢は獲物から手を離し、二三歩下がる
そして、それを見ていた
舞は腹と背中に攻撃を受け、動かなかった
腹に刺さった大幣からだらりと手が降りる
「…はは」
乾いた笑い声が聞こえた
「諦めたかしら?」
「いいえ全然」
「「―――え」」
片手で大幣を軽々と抜き、背中の白楼剣も片手で抜く
まるで苦しんでいる様子も無く、軽々とそれを振る
霊夢に向け、大幣の連撃突き
腕、足、胸と様々な所を突き、最後に脇腹に大幣を突き刺す
「ぐががっ」
白楼剣で妖夢を斬る
右腕を切り飛ばし、楼観剣を使いにくくさせる
半人前の腕が更に鈍れば、舞に勝てるはずも無い
彼女の胸に白楼剣が突き立てられる
「あがっ」
半霊の彼女にはかなり効くらしい
妖夢が蹲り、苦しそうに悶える
半人故に即成仏はないものの、このままだと死に至るだろう
「ふむ、やはり人間には荷が重い
というよりこれは貴女達に向けたものじゃない、"彼女の為だ"」
妖夢は這いずり、楼観剣と右腕を回収する
そして重症の霊夢と己に札を付ける
ふると、2人がサァァと粒子になって行く
その様は死んでいくかのようだった
波動が急に無くなり、死んでいくかのような
「ふふふ、もう二度と喧嘩を売ることが無いように、ね」
「この…覚え…とき、なさい」
霊夢が舞を睨む
彼女は何処吹く風で、全く気にしていなかった
舞は彼女達が完全に消えると、中心の岩に座り込む
そして、次の者を待った