「ふっ」
「ギェエエアアアアアア!」
汚らしい声とともに妖怪が倒れる
軽く刀を振り、その血を振り払う
こんな真夜中であってもその白銀の刃はよく見える
そして、その紅白の衣装も
その特徴的な紫色の髪の毛も
「これでも終わりね」
そう言って札を仕舞う
だが、その刃先は常に地面を向いていた
彼女はゆっくりと後ろを向く
「よお」
そこには、岩に腰掛ける白狼の姿があった
彼女ははぁと軽い溜息をついた
「貴方ですか」
「俺さ、何か問題でも?」
ニヤニヤと笑いながら彼は言う
彼女はまたこれか、と首を振った
「博麗巫女に丁度良いのはお前さんだけだよ」
「私には子がいる、2人の幼い子が」
「なら神社で育ててればいい、今のように苦しく生活することもない」
斬鬼は甘い言葉を這わせる
だが、修羅場を何度も見てきた彼女に意味は無い
「嫌、と何回言えばいいの?
私としては貴方個人は嫌いじゃない、どうして私が使命を」
「そんな力を持った時点で恨め、小童」
瞬間斬鬼が目の前に"居た"
「ッ!」
勘を頼りに振られる前に振る
それは斬鬼を斬ることを叶わず、スカす
後ろに少し引き、体制を整える
「簡単な遊び、お前が負けたら博麗巫女、勝ったらいつも通り」
「…簡単ね、やるしかないわよね」
「出来たらな」
刀を斬鬼に叩きつける
斬鬼はそれを刀で軽く受け流す
空いている腹に蹴りを入れ、距離を作る
おおっと、なんて言っている斬鬼の顔目掛けてパンチ
斬鬼は体を捻って躱し、軽く飛ぶ
そのまま足をグルンと回して、遠心力のついた蹴りを入れる
妖怪の一撃をモロに食らうわけにはいかない
基本として、被弾は許されない
「ッ」
ファサと髪が揺れる
刀の柄を思い切り斬鬼の鴨居にぶち当てる
硬い感覚、腹筋を使ったか
手首を捻り、刀を逆手に持つ
そのまま腕を曲げて刃を斬鬼の腹に突き込む
腹筋に少し邪魔され、五センチ程しか刃が入らない
「リーチが短いというのにご苦労なこった」
力任せに刀を抜き、下がる
彼の言う通り彼女の刀は彼のものより短かい
斬鬼の身長程あるものとは違い、こちらは身長の半分程度
長いと重く、人間の身では使いにくい
それに、こちらの方が力を使い易い
「私にはコレがやり易い」
「そうか、そうかい」
刀を振る
リーチが短くとも、反撃と攻撃は出来る
こちらから届かない位置で攻撃されのは癪だが…
「そうら」
刀の攻撃が激しい
横から縦、斜めから突き
こちらとしては防御に徹するしかない
「そうら、そうら!」
にやりと斬鬼が笑う
それは嘲笑でも無い、本当の笑顔
彼の胡散臭い笑顔は何度か見た事がある
どうせ本心は違うんだろうな、という笑顔を
だが、彼は心から笑っていた
今の今まで見たことの無い、本当の笑顔
彼は戦いを楽しんでいる
――そして、私も楽しんでいる
「ふふふ」
「へへへ」
不思議と2人から笑いが零れた
嘲笑でも無く、巫山戯たものを見たものでもなく
それは心からで
両者、似た者同士で、考えることも同じで
「小童、名前は」
「私はせん靈夢、博麗になるかもしれない女」
「俺は紅白斬鬼、お前を博麗にする妖怪」
「出来るかしら?」
「無理矢理にでもやってやる」
刀を構える
やはり、全ては戦いで方がつく
特に、戦いを好む者にとっては
居合の体制
両者は刀を鞘に仕舞い、その柄と鞘に手をかける
目を瞑り、気配を肌で感じとる
風が不意に体をなぶった
瞼の上から月光が網膜を刺激する
目の前の霊力が段々と大きくなっていくのを肌で感じる
いや、肌でなくとも分かる
そのしんとした空間は永遠のように思えた
両者は彫刻の様に動かず、固まったまま
ふと、風が止んだ
瞬間、刀を振る
振ったそれは既に振られ、両者は振った状態で硬直していた
森は何も言わず、風も吹かず、何も起きないと思ったのもつかの間
2人は音と光を置いてけぼりにしていた
直後に来る2つの銀と音
甲高いそれは刀がぶつかりあった音に過ぎない
それで両者が倒れることもまた無い
「死に晒せ」
「使命を与えてやる」
連撃
直ぐに振り返った2人は刀を振る
剣筋は貪欲で、敵を殺すことにしか興味は無い
そこにのみある快楽は、その者にしか分からないからだ
紫の髪が揺れる
「はっ」
この2人の圧倒的な差はほぼ無いに等しい
人間は生ける時間は短いが、技術を磨く
それは人と思えぬものからゴミのようなものまで
彼と彼女は技術を磨いた
体力も補い、増やし、力をつけた
差なんてどこにもない
ただ、たった一つ差を上げるなら
男と女ということしか、無いのだ
「斬ッ!」
「あっ」
刀を切り上げ、靈夢の刀を切り飛ばす
名工が作ったものか、真っ二つになることは無かった
この世界で、武器を手放すこと
その結果はただ1つ
負け―――
「小童、いい腕だったぜ」
斬鬼は彼女の頭に峰打ちをし、気絶する前にそういった