機憶顕出都市 新宿   作:タングラム

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10節 拍動

二人と別れ、陸斗は足の赴くまま中庭へと足を進め…そこで、ドールハウスの中でも一際深い木立のほうへ目を向ける。

 

 

「(なあ燕青、ヘシアン達は外の緑地を寝床にしたって言ってたよな?)」

『(おうさ。あの二人は太陽の下は好まないだろうしちょうどいいだろうよ)』

「(そっか…なら、様子見に行くか)」

 

 

一見すると無言。

だが確かに会話を交わし、二人は足を進めた。

 

中庭を見渡すと、深い木立の手前には花壇と菜園が植わっている。

花壇にはヒマワリとサルビアとマリーゴールドが整然と植えられ、菜園にはトマト、ピーマン、ナスといった夏野菜が小さな実を付けつつあるようだった。

 

「(いい趣味をしているな、ノウムカルデアじゃ菜園をやるスペースだなんて普通作れないからな…)」

 

 

そう思いつつ、彼は菜園の様子をよく見ようと近づいていく。

よく見れば、ドールズの制服に金髪をツインテールにまとめた姿の少女が水やりをしていた。

 

「えっと・・アヤ、だっけ?」

「わひゃあああ?!?」

 

声をかけてみると、いまにも飛び上がりそうな勢いの反応が返ってきた。

全身をいからせ、少女─アヤが陸斗に詰め寄ってくる。

 

彼の喉元ぐらいまでしかない背丈のはずだが、憤りを乗せたアパタイトブルーの目はそれ以上の威圧感を放っていた。

歴戦の旅人であったはずの彼がたじろぐ。

 

 

「音もなく近づいてこないでよ、ビックリするじゃない!!」

「わ、悪かった、謝るって!」

 

 

彼の声に深くため息をつき、彼女は息を整えて口を開く。

 

「で、どーしたのよ。今日は割り振られた仕事はないんでしょ?」

「部屋で引きこもってるのも美しくない習慣ってやつだからさ、適当にぶらついてたんだ」

 

その答えに、彼女はいくらかの不信感を乗せたセリフで返す。

 

「レイナの受け売りね?ところで変なところ入ったり触ったりはしてないわよね??」

「出来るわけないって!俺はほとんど部外者だぞ?」

 

 

ならいいわ、と言い彼女は花壇の方へと振り返る。

つられて陸斗ももう一度花壇を見回した。

 

 

落ち着いてもう一度見回せば、木の杭で囲った花壇に植えられたラベンダーやユリ、そしてネモフィラが咲いている一角もある。

高くなってきた太陽の光を受け、まさに匂い立つというかのような状態だった。

 

「しかし、ここら一帯はものすごく色鮮やかだな。ドールズの皆で世話しているのか?」

「そうよ?私の他にサクラとヒヨ、それにシオリもここを使っているわ。ほら、あの花壇とか」

 

そこで言葉を切り、彼女は木の杭で囲われた箇所を指さす。

 

「あそこの部分はシオリのセンスね。そういえば藤丸君はガーデニングに興味あるわけ?」

「興味あるというか、色鮮やかなのに惹かれてきてな…」

 

 

まだ世話を続ける、と話したアヤと別れ、彼は深い木立にそって歩いていく。

途中、白いフレームで形作られた机と椅子が四脚ならんだ一角を見かけた。

 

「そっか…チームBの皆と臨時のお茶会をしたところはここだったんだな」

 

 

 

深緑に白いフレームが映える。

首を軽く振り、彼はその場をあとにした。

 

開けたドールハウスの中庭と比べると、日が高くなってきた太陽の熱さも和らぐような木立。

その途中に、大小の影が二つと…そこに頭を預け眠っている少女がいた。

 

「ロボ?それになんでこんなとこにユキが」

 

それに気づいた首なしの騎士…ヘシアンが服から取り出したボールペンとノートに文字を書いていく。

 

 

【相棒のやつ、この娘…ユキに気に入られちゃいまして。いくら近寄るなと威嚇しても全くなしのつぶてで、枕にされちゃってますよ】

 

「(ヒトノ匂イハ一切許セヌ。ダガコノ娘、ドウモタダノ人間ノ匂イガ薄イノデナ──マサカ我ガ枕ニサレルトハ)」

 

青い炎を宿した瞳を煌く銀髪に…ユキの方に一度向け、そのまま陸斗の方へと瞳を戻す。

そうして一度鼻息をつくと、ロボは再度念話で彼に話しかける。

 

「(マァ良イ。コノ娘ガ起キルマデ守ル事ニシヨウ)」

【丸くなったもんだね、相棒。マスター君の影響かな?】

 

「(言ッテオレ)」

 

 

セリフそのものはとげとげしさが残っているものの、その顔はどこか優し気だった。

 

 

彼らと別れ、木立を抜けた先にあったもの。

それは……

 

 

「──なんだ、これ…墓、か?」

「貴方そこで何をしているの!!」

 

 

訝しむ陸斗の後ろから鋭すぎる声がかかる。

振り向いた先には花束を片手に持った紺色の髪の少女がいた。

 

「え、と…ミサキ、だっけか?ただ単に通りかかっただけで」

「……」

 

声の圧にしどろもどろに応対する彼をしばらく見据えると、彼女は一度目を閉じ息をつく。

 

「散歩しているなんて、気楽なものね」

 

 

そういうと、彼女は持っていた花束を墓石の前に置く。

そこでやっと、彼は墓石に何かの名前が刻まれていることに気がづいた。

 

「ノ……ド…カ?これって一体」

「──…」

 

アイオライトの眼がいまいち要領を得ない様子の彼を見据える。

 

「……サクラがここに来る前にいた子の墓よ」

「─?!」

 

端的に告げられた事実に、陸斗の眼が見開かれる。

 

「いい、これは全部ひとりごとよ」

 

そう前置きしてミサキはこの墓のいきさつを語りだした。

 

 

「まだ未熟だった私を、私たちを逃がすために自分自身を燃やし尽くしてピグマリオンと相打ちになった少女がいる。一度世界から存在を忘れられた私たちがまた誰かを忘れる事なんてできない。

 まして私たちを助けるために消えていった仲間の事を。それを思い起こす為に、この墓を作ったの」

 

「自分自身を燃やし尽くした、か」

 

 

陸斗の脳裏にも、モヤがかかったような情景ではあるが自分自身を燃やし尽くして己の道を切り開いてくれた「名医にして最古の魔術師」の姿が頭をよぎる。

そんな思慮に沈んでいる彼に向け、ミサキが声をかけた。

 

「藤丸君、まだあなたに見てもらいたいものがあるの」

 

「見てもらいたい物?」

「ええ─シミュレーションルームでね」

 

 

有無を言わさないような空気とともに、ミサキは彼を連れていく。

その先は「ドレス」の製造機器と言われているものや様々な端末が並んでいる部屋だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ここはファクトリー、ピグマリオン討伐部隊としてのDOLLSの屋台骨と言っていい場所」

 

 

 

そう話を聞かされつつも、陸斗は周囲を見回していた。

 

何人かの研究者が本来部外者であるはずの彼を見て顔をしかめるが、引き連れているミサキがいることを確認するとすぐに目線をそれぞれの作業へと戻す。

 

 

 

「─目的地よ、貴方はここで待っていて」

 

 

 

端的に言葉を切り、念押しするかのようにアイオライトブルーの目を氷河色の眼とぶつける。

 

 

 

「余計な物には一切触らないで」

 

 

 

 

 

その冷徹な威圧感は、つい先ほどのアヤのものとは比べ物にならない。

 

それまでの旅路で修羅場を経験しているはずの陸斗自身も、冷や汗が流れたのを感じ取っていた。

 

 

 

やがて、どこからかアラームが鳴る。

その音がする方向に振り向くと、つい先ほど別れたはずのミサキと緑髪の穏やかさを漂わせる女性─シオリが画面の向こうにたたずんでいた。

 

服装も、つい先ほどのドールズの制服から一変している。

大雑把に言えば、白と黒と金を配色した衣装だ。

 

彼女らの片足だけを覆うタイツに、これまたその体の半分だけを覆う白いスカートとローブ。

そのもう半分は金の帯で縁取りされた黒い外套で覆われ、交差する箇所に金の刺繡が施されたベルトを巻いている。

 

そしてその肩から伸びる紫紺の外套は、遠間で見ただけでも翼のようなシルエットをしていた。

 

ドラゴンとの戦いの時と違い、ミサキは緑の結晶を加工した剣を、シオリはショットガンを構えている。

その佇まいに、陸斗は北欧異聞帯のワルキューレの姿を思い出した。

 

《これよりシミュレーション:ナハツェーラー及び“神使偶像”の第3次テストを行います》

 

 

加工された電子音声が状況を端的に告げる。

 

《─状況開始》

 

 

その声と共に二人が飛び出し、同時に彼女たちの前へある姿が現れる。

それは─

 

 

「(あいつ、魔都で出くわしたシャドウサーヴァントもどきか?!)」

 

 

 

 

鮮やかなネオングリーンの直線をまとう、大剣を持った人影。

それは一度サクラの攻撃をそらし、彼女を追い詰めたモノだった。

 

大剣の一撃を片身を逸らしてかわし、シオリが灼眼の光を置き去りにして影の懐へと潜り込む。

陸斗の中の印象に残っていた穏やかな姿とはまるで違う、冷徹さそのものの動きだった。

 

刹那、銃撃音と閃光が轟く。

 

ショットガンの一撃で弾き飛ばされたナハツェーラーと呼ばれた影に向け彼女はもう一度距離を詰め、発砲。

だが先ほどと違い─

 

「(やはりダメか、入りが浅いのか!)」

 

影は即座に衝撃から体勢を立て直す。

否、立て直そうとしたが─疾駆してきたミサキが結晶剣を突き刺し、影は彼女に向け救いを求めるかのように手を伸ばす。

 

それを一瞥し、ミサキはもう一度結晶剣を振り払いソレを切り伏せた。

 

 

《シミュレーション:ナハツェーラー──完了。続けてタイプドラゴンによるテストへ移行します》

 

 

影が跡形もなく消えると、その代わりにピグマリオン・タイプドラゴンの姿が現れる。

それを見て取り、まずシオリがハンドサインを出した。

 

うなずき、ミサキが疾駆する。

駆け抜ける速度そのままに剣を振るい、ドラゴンの注意を引き付ける。

 

その動きと、「彼」にとってみれば潰すことができない敵に苛立ち、ドラゴンが大きく息を吸う。

だが、その先に既にミサキはいない。

 

それよりも─空を切り、『落ちて』くるシオリの方へモニターが向いている。

その彼女が何かの詠唱を終えるが否や虚空から弓矢が現れ、その矢が解き放たれた。

 

 

爆発と閃光がモニターを覆い尽くす。

それらが収まると、タイプドラゴンは跡形もなく消え去っていた。

 

 

 

《シミュレーション完了、ドールズ2名のバイタルオールグリーン……》

 

 

電子音声が流れていてもなお、陸斗は己自身が拳を握り締めていたことに気づかなかった。

有無を言わさない、神威とでも言うかのような弓矢の一撃。

 

その状況で思い出したのは──インドの授かりの英雄。

 

 

 

 

「─まるでガーンデーヴァだな」

「お褒めにあずかり光栄です」

 

 

彼の呟きに、この状況ではあり得なかったはずの声が返事をする。

振り向くと、先ほどのシミュレーションの衣装姿のままにシオリとミサキが立っていた。

 

「ところで、陸斗さんは何を?ここは部外者以外立ち入り禁止ですよ?」

「ああ、私が連れてきたの」

 

わずかな不信感をにじませつつシオリが問いかけると、即座にミサキが答える。

その声に我を取り戻した陸斗が問いを投げかけた。

 

 

「…ミサキ、見せたかったのってこれか?それにその衣装は一体?」

 

彼の声に、二人は一度顔を見合わせる。

そしてシオリが頷くと、口を開いた。

 

「……そうです。つい先日遭遇した新型ピグマリオンのデータが纏まったこと、そしてこの衣装─【神使偶像】のテストを同時にしていたんですよ」

 

「新型の名はナハツェーラーという名前だそうです」

「ナハツェーラー?確かにシャドウサーヴァントとは似て非なるって感じだったけど」

 

おうむ返しに質問してきた陸斗に、シオリは再び頷く。

 

「EsGが……ここのマザーコンピューターがデータを集めてくれて、そこから識別名までつけてくれたみたいで。

 ナハツェーラーというのは、ドイツの伝承にあったアンデッドの名前で、埋葬が不十分でない死体がよみがえり墓場をさ迷う、という伝承だそうです。

 何度も確認してみたのですが、どうも一度攻撃された武器の性質を記憶してそれに対するバリアを展開するみたいですね」

 

 

そう話す彼女の声に、槍の一撃を逸らされたサクラやショットガンの連撃から体勢を立て直した姿が即座にフラッシュバックする。

 

「だからか?昨日の戦いでサクラの追撃を何事もなく凌いだって……」

「ええ。けれど、こうしてシミュレーターに記録されれば怖くありません」

 

 

そこまで話し、彼女は一歩下がってミサキと位置を交代する。

 

「この衣装の事も話す必要があるわね。これは【神使偶像】というドレスよ」

「しん…?」

「神の使いたる偶像って書くわね」

 

「だからか…モニター越しに見ていたけど、天使というか有無を言わさない迫力があった」

 

「迫力というのはあながち間違ってはいません。このドレスは渦巻く感情の力を形にしただけのもの。

 これ以外のドレスはある程度力の方向性をドレスが教えてくれますが、これに限ってはそのルールから外れます。

 ただ形を得た莫大な力とどう向き合い、どう使うのか。それが、この力を得た責任と言えますね」

 

シオリのその言葉に、陸斗はある単語を思い出す。

 

「まるで聖杯だな…」

「聖杯?」

 

「ああ。色付けのされてない莫大な力と言えば、俺はこいつに思い当たる。所持者の願いだけでどんな世界も願いも形作り描いてしまう、それが聖杯だ。

その力にずっと向き合い続けること、それは並大抵な精神力でできるものじゃない」

 

「まるで知っているような言い方ね」

「まぁな…その聖杯の力で異世界を作り上げたやつ、隠し持っていた聖杯でゆがんだ理想世界を作ったやつとも俺たちは戦ってきたからな…」

 

 

神使偶像の衣装から普段の制服に着替えたミサキたち二人に連れられ、陸斗はそのままファクトリー内を見学することになった。

その途中、配管がむき出しになりいくつかのモニターがあちこちの方向を向いている奇妙な端末がメンテナンス用の台座と思われる個所に固定されているのを見かける。

 

「こいつは……?」

 

その形に怪訝そうな表情のまま近づこうとする陸斗の襟をミサキが捕まえる。

 

「余計なものは触らないでと言ったでしょう──」

「んぐ…!!わ、悪かった…けど、あの端末は一体」

 

 

危うく息を詰まらせそうになりつつも、陸斗が説明を求める。

それに答えたのはシオリだった。

 

 

「ああ、あれはNDトランシーバーと言います。ニア・ディメンジョンでNDですね」

「見た感じだと……なんか奇怪な形してるな」

 

そう話している間に、ミサキも彼の横へと陣取る。

 

「前に話した舞台女優の卵だった娘の話があったでしょう、その時もこれを持ち出したわね」

 

 

 

だが─そのセリフが終わるか終わらないかの所で、不意に陸斗の令呪が鈍く光る。

そして、モニターの一つがそれに呼応するかのように点灯した。

 

 

 

「………え?」

 

呆気にとられた陸斗。

ドールズの二人はその間にうなずきあうと端末のメンテナンス台の方へ駆け寄る。

 

彼自身もすぐに駆け出していた。

 

 

三人が何とか端末の画面前に集まる。

 

点灯した画面はしばらく砂嵐交じりだったが、しばらくしてラジオのチューニングがあったかのようにはっきりとした画像を映し出す。

その向こうに見えたのは、蒼と黒の積層構造をした端末に洞窟そのものの岩肌──

 

「なん、で──」

《ああ、繋がった…先輩、聞こえますか先輩!!》

 

声とほぼ同時に映し出されたのは、薄紫色の髪を片目で隠すような髪型にまとめ、アメジスト色の瞳に眼鏡をかけた少女。

 

「─マシュ?!」

《良かった、ご無……事…彼女たちは……?》

 

安堵と呆気にとられたような空気を乗せたセリフに、ドールズの二人がにわかに鋭さを増した眼で陸斗を見据える。

わずかにひるんだものの、彼はこれまでのいきさつを話し出した。

 

 

 

《社会の裏で戦い続ける、霊的存在と戦い続ける秘密組織??それとアイドルが結び付く、だなんて─》

 

硬直しかかっているマシュに翡翠の眼を向け、シオリが話しかける。

 

「ところで、藤丸くんを先輩と呼ぶ貴女は何者ですか?話をしようにも、まずは名前を教えてもらわないと」

 

《そ、そうでした─》

 

軽く咳ばらいをし、モニター向こうの少女が名前を名乗る。

 

《こちら、人理保障機関ノウム・カルデアのマシュ・キリエライトです。そちらにいらっしゃるカルデアのマスター、藤丸陸斗の後輩にしてファーストサーヴァントです!》

 

「(いつだったかの話は本当だったのね…信じられなかったけれど信じるしかないようね)」

 

名乗りを聞きつつ、ミサキは己の認識を改めていた。

その間にもモニター向こうの顔が……通話している人間が変わる。

 

今度は立派な髭と体格を蓄えた、見た目は中年に見える金髪の男だ。

その顔を見た瞬間陸斗が声を上げる。

 

 

「ゴルドルフ新所長まで!」

《無事だったか藤丸!無事ならなんですぐに連絡を寄こさん?!綿密な連絡はいい仕事の基本ではないかね!》

 

「それはまぁ、ごもっとも……」

 

「お初にお目にかかります、ゴルドルフ・ムジーク所長。私は国土調査院特務機関DOLLSのシオリ、横の紺色の髪の娘はミサキといいます」

「──」

 

肩身が狭くなった、というかのような対応の陸斗をしり目に、シオリが名乗りを返す。

ミサキもアイオライトの瞳でゴルドルフを見据え、目礼した。

 

 

《待て待て、カルデアと何ら関係ないはずのお嬢さんがなんで私の名前を知っているのかね?》

「先日藤丸君からお聞きしました、散逸するところだったカルデアの権限をまとめて買い上げた方がいると」

 

 

《むむ─勝手な判断ではあるが状況が状況だ、致し方なしか。ところで藤丸、この一週間何をしていたのかね─》

 

 

ゴルドルフが語りを進めようとしていたところで、ノイズが悪化する。

 

 

「(これは…時間切れの兆し!)藤丸君、向こうに伝えることがあれば今のうちに!」

「あ、ああ!ゴルドルフ所長、マシュ、聞いてればシオンもホームズも!日本の東京があったところに重点的に観測を頼む!」

 

《東京、ですか?》

 

「そうだ!俺がいる世界は新宿という存在が掻き消えている場所だ!けどそちらからなら新宿という土地の情報は観測できるはず!亜種特異点の記録も使ってくれ!!」

 

《は──》

 

 

返事を返しきる前にノイズがさらに悪化し、ついに完全に通信は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、新宿駅周囲の光景が更に変質していたが……それを知る者は、今この時点ではいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

*    *    *    *    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通信が途絶してしまったノウムカルデア管制室、ほぼ同時刻。

 

通信断絶に慌てて連絡を取りなおそうとしたマシュだったが、考え付く手段全てを使っても通信は復帰せず。

愕然となってしまっていたが、そこへ紫色のベレー帽にアトラス院の制服、そして眼鏡に緑瞳を煌かせた少女が肩を叩く。

 

「シ、シオンさん!」

「マシュさん、よくやってくれました!このまま藤丸君の行方が分からないままだったら一切お手上げでしたが、彼の令呪がまだ機能しててよかった」

 

そう言いながらも、シオンはマシュを下がらせて椅子へと腰掛け……そして猛烈な勢いでキーを叩き始める。

 

「あの、これは何を?」

「あちらの端末への接続を補助するプログラムを応急処置で組み立てて…っと、とと??」

 

最後のコマンドを打ち込もうとしたところで、観測機──『トリスメギストスⅡ』が強烈なブザーをかき鳴らす。

 

「さーて、何が観測されましたかねぇ…うぇ?」

 

 

普段ひょうひょうとしているシオンが硬直する。

マシュも、その後ろから画面をのぞき込んだ。

 

 

そこにはただ一行の警告文があった。

 

 

 

『並列世界との衝突及び融合の危険あり』と。

 

 

 

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