機憶顕出都市 新宿   作:タングラム

11 / 16
11節 変容

NDトランシーバーによるカルデアとの対話が途切れたその翌日の事。

 

旧新宿市街地を監視していた自衛隊から急を告げる一報がある、という事でドールズ一行と二人のマスター、つまりドールハウスのすべての戦闘要員が会議室へと集められていた。

 

「急を告げる…気のせいじゃないかとは思うんだが、何か頭の奥底で疼いている感じが止まらん…」

「いい年して格好つけたがりですか?しっかりしてくださいよ、お兄さん」

 

陸斗の呟きにナナミがそう返したところで、スクリーンの通信が入り画面が切り替わる。

 

 

その先に映ったのは、黒髪をしっかりとまとめてスーツを着こなし、鋭い目をした三十代半ばに見える男だった。

その後ろではしきりに車両が往復しており、時折重装備をした兵士が隊列を組み移動していく様子が見える。

 

「小鳥遊大臣、早朝から急を要する連絡があるとは珍しいな?」

 

セツナの挨拶を──刺々しい口調はいつもの事なのだろう、それを聞き取り、画面向こうの男…小鳥遊と呼ばれた男は小さくうなずく。

 

『珍しい、それどころか初めての事例だ。論ずるより見るが早いだろう…例の画像を』

 

 

画面の外から声がかかったのと同時に、モニターに映されたものが切り替わる。

 

「いやいや…これ、異様過ぎるっしょ……?」

 

思わずといったようにヤマダがつぶやくが、そのセリフは会議室にいた全員の意見だった。

 

 

真っ白に漂泊された砂漠のような一角があれば、薄汚く何かの骸が転がっているような路地が接続されている。

バスの残骸が燃えており、砕けた舗装からも漂白された砂が顔をのぞかせていた。

 

何より──陸斗にとっても、ドールズにとっても因縁そのものの姿が、何体も所在なさげにさまよっている。

 

「魔都新宿にいたアイツが…いや、あいつ等が何体も……」

 

 

砂と舗装交じりの道をうろつくその姿は、ネオングリーンを禍々しく輝かせていた。

そこまで映したところで、画面は小鳥遊の顔を映す。

 

質問を投げかけたのはセツナだ。

 

「小鳥遊大臣、この変化…いや、もはや変質だな、それが起きた時間は?」

『少なくとも早朝4時には警備用のドローンがこれを発見している。

 だが、変質は魔都新宿全体ではない。南田くん、地図を』

 

「は、はい!」

 

彼の言葉を受け、カナが機器を操作する。

モニターの画面に割り込んで映されたのは、旧新宿区の地図。

 

そこの一部が拡大し…

 

『そう、変質した個所はピンポイントだ。新宿駅周囲100メートルと、旧高速バスの発着場があった個所。情報提供された新種のピグマリオンはそこから出てこない』

「まるで我が物顔で領地を主張しているようね」

 

小鳥遊の言葉にレイナが率直な感想を返す。

 

『我々害特は周囲の警戒を引き受ける、申し訳ないがドールズはこの区域の調査、および可能であれば新型の殲滅を依頼したい』

 

 

 

 

通信を終えた直後。

 

 

「状況は先ほどの連絡通りだ、旧新宿駅周辺の調査作戦を開始する…」

 

端的に話をまとめたセツナが、悩んでいるような、それでいて煮え切らないようなという表情の陸斗の方を向く。

 

 

「藤丸、どうした。何か言いたい事でもあったか」

 

 

その言葉に、彼は何とか意を決したというかのようにうなずくと話し出した。

 

「……はい。ナハツェーラーはともかく、あの光景に俺は見覚えがあります」

『俺も同意見だ、直接話させてもらおうか』

 

虚空に声が響き、漢服姿の燕青も姿を現した。

 

「見覚えがある?どういう事なんです?」

 

ナナミの声にうなずくと、彼は話し始める。

 

「まず、あの真っ白い砂漠だ」

 

 

彼の言葉を感じ取ったのか、共有された動画の白い砂漠が映っていた個所を拡大する。

 

「こいつは─俺の元居た世界が漂白されて出来た場所そのものなんだ」

「漂白…って」

 

「読んで字のごとくだ、異聞帯を上書きするためには当然もとからある歴史は邪魔になる。それを徹底的に削除された成れの果てがコイツだ。ただ、妙なところもある」

 

「妙なところ?──やけにまだら模様に見える有り様ですか」

 

 

ナナミの確認するかのような声に、今度は燕青が話を引き継いだ。

 

「正しくそれよ。漂白…人理漂白ったっけ?そいつの跡地は何もかもが真っ白い砂漠になるわけだが、やけに落差がひどい。ある所は砂漠になってるが、またある所は生々しい姿のままだ」

 

彼の声に、画面が拡大し炎上し続ける残骸を映し……そして元の尺度に戻る。

 

「言われてみれば。先ほどの徹底的に削除された歴史、って話と矛盾してますね」

 

 

そこまで話したところで、会議室へ持ち込まれていたNDトランシーバーが砂嵐を吐き出す。

同時に、陸斗の令呪が輝きだした。

 

《──ぃ》

「おん?トランシーバーちゃんがなんか言いたがってるみたいっすよ?」

 

ヤマダの指摘に、一行の眼が壁掛け状態と化していたトランシーバーへ集まる。

 

《…い、先輩、聞こえますか?返事をお願いします!》

 

やがて画像が映されると、そこには片目隠しの髪形に眼鏡をかけた少女の姿。

 

「マシュ?」

《ああ、良かった》

 

そういうと、トランシーバーが壁掛けの状態から浮遊し、会議机の上空へ留まる。

多少怪しむような視線とともに、セツナがソレに向けて問いかけた。

 

「む…お前は何者だ?それに先輩とは藤丸の事であっているか」

《そうですね、改めて自己紹介します》

 

そこで一度呼吸を整え、マシュが口を開く。

 

《私はマシュ、マシュ・キリエライト。今そちらでお世話になっている藤丸陸斗の後輩にして、今現在はオペレーターの役割を引き受けています》

「ふむ…それならキリエライトと呼べばいいか。

 そしてわざわざ通信してきたという事は、何かがあったか」

 

《はい…シオンさん、お願いします》

《はいはいっ、ここから先は引き受けましょう!》

 

マシュの声と映像が途切れ、数秒して別の人物が映り込む。

 

ボリューム豊かなラベンダー色のツインテール、ビリジアンと黒で塗り分けられたベレー帽に眼鏡、そしてその配色に近い色合いのセーラー服の少女だ。

年の頃は二十代に入りたてのように見える顔立ちをしている。

 

その彼女が口を開いた。

 

《みなさん初めまして、私はシオン。シオン・エルトナム=ソカリス。彷徨海の錬金術師です》

「彷徨海ってのは、魔術師の組織の一つだ、そしてカルデアの今の避難先でもあるな」

 

陸斗が即座に挟んだ補足に、シオンは満足げにうなずく。

 

《藤丸くん、説明ありがとね!……さて》

 

 

陸斗にモニターを向けウインクを返すと、彼女はもう一度ドールズ一同の方へモニターを向ける。

その表情はつい先ほどまでの快活さを感じさせるものではない。

 

《ドールズの皆さん、今起きている事態をこちらからも…藤丸くんから聞いた情報をもとに解析したのですが、非常にマズイ事になっています。そちらのオペレーターさん、資料を展開しても?》

 

「少々お待ちを……NDトランシーバーからのデータ送受信回路確立よし、どうぞ!」

 

カナの合図に合わせ、データが送信される。

 

それは、『二つの平面図が少しずつよじれ、一つに結ばれつつある』というワイヤーフレーム図形だった。

 

「てんで分からないわね…シオン、だっけ?何が言いたいのよ」

 

苛立ちを乗せ、アヤがシオンに問いかける。

その彼女は険しい表情のまま頷くと話し出した。

 

《これは、『二つの世界がある接続点をもとに融合しつつある』という状況をかみ砕いて説明するためのグラフですよ》

 

「二つの世界?──まさかさっきの変質した新宿駅って」

 

 

思い至った説にわずかに顔を青ざめつつ、颯が口を開く。

 

《そこのカジュアルな格好の君、なかなかの頭の回転の速さです。

 ──ええ、『こちら』と『そちら』の在り方がまるで紐のように捩りあい一つになりつつあるという状況です》

 

 

 

「シオン、さっき"ある接続点をもとに"って言ったよな?それまさか俺自身じゃないだろうな…」

 

 

令呪の刻まれた左手の甲を見つつ、陸斗が不安さを乗せた声で問いかける。

それに対し、彼女は小さく、だがしっかりと首を横に振った。

 

《藤丸くんだけのサイズだと、世界を融合させるほどの『穴』にはなり得ません、もっと巨大なモノがいるはずです。オペレーターさん、このまま私たちも作戦に合流しても?》

 

 

「え、ええ?どうしましょう…」

 

眉を八の字にしたカナが、セツナに助けを求めるような表情を向ける。

 

 

「ふむ……事ここまで至ってはドールズだけでは手に余るようだな。

 いいだろう、カルデアも臨時にこの作戦に合流してもらう。

 君たちには藤丸のオペレートを頼もう」

 

《承知しました!そちらの指揮官さんも頭が柔らかくてよかったです》

 

 

そこまで言うと、シオンはそのまま沈黙する。

いや、その画面の横からモニター越しにこちらを覗きこんでいるマシュの姿もあった。

 

 

会話が終わったことを見計らったのか、カナの操作している端末にあるデータが送られてくる。

 

「!、EsGからのオペレーション案が更新されました!」

「よし、映し出してくれ」

 

数秒して、スクリーンに画像が映し出される。

 

「──提示作戦案は二つ、同時進行となるようだな」

 

マーカーが画面の上を飛び、一つ目の矢印が色付け強調される。

色は青、旧新宿駅をくまなく探索してから高速バス停留所跡地を一筆書きのように通るルートだった。

 

「一つ目は変異領域をくまなく探索、情報収集にリソースを向ける作戦案だ、我々はこれを今よりオペレーション・ミズガルズと呼ぶ」

 

セツナの声に、一同が深くうなずく。

 

青い矢印の…オペレーション・ミズガルズの部分が消え、代わりに赤い矢印がマーキングされる。

それは最小限の移動で立ちふさがる敵のマーカーを次々と破壊しているかのような動きを見せた。

 

「二つ目は変異領域内のピグマリオン及びナハツェーラーを排除、戦闘へリソースを向ける作戦案だ。これをオペレーション・ビフロストと呼ぶ。

 そして、これらを統合した変異領域統合作戦群をオペレーション・アスガルドと呼称する」

 

その説明が終わり、今度は二つの矢印が同時に地図上を埋め尽くす。

いずれも、終着点は高速バス停留所の最上階だった。

 

 

「現在の状況ではどちらを優先すればいいのか方針を決められない状況にあります」

「ひとまずという程度でも構わないので、割り振りを決めるのは?」

 

「それが良いでしょうね、なら─」

 

シオリの問いかけへカナが答える前に、陸斗が手を挙げる。

 

「なんだ、藤丸」

「先ほどのオペレーション二つなら、俺は…カルデアはビフロスト作戦の方へ配属してもらいたいのですが大丈夫ですか」

 

いつの間にか位置を変えていたNDトランシーバーも…そのモニター向こうにいるシオンとマシュもうなずいている。

それを見て少しいらだったかのようにセツナは見据えていたが、ため息をつくと

 

「──、好きにしろ、お前は客人だからな。ドールズの邪魔をしなければそれでいい」

 

と話す。

そうして、割り振りは決まった。

 

変異領域調査作戦、ミズガルズ作戦にはドールズのチームBとCが。

 

変異領域内霊体掃討作戦、ビフロスト作戦には藤丸陸斗とカルデア、そしてチームAがロールアウトしたての神使偶像のドレスを装備し向かう事となった───。

 

 

 

息を整え、セツナが会議の締めとなる檄を飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

「では、変異領域対処作戦群(オペレーション・アスガルド)を開始する。ヒトの国を守り、いびつに繋がれた虹の橋を砕いてこい!!」

 

 

 

『了解ッッッ!!!』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。