納得できる展開をひねり出すのが大変でね??
かつては読んで字のごとくの不夜城を支えていた新宿駅。
その廃墟を、五人と二騎は進んでいく。
その途中、空間がわずかに揺らぎ続ける箇所が彼らの目を引いた。
「実際に目の当たりにすると、異様の一言で済ませていい状況じゃないわね」
その不安定な揺らぎから視線を外さないままミサキが呟く。
それを見て取り、彼女がその目線に気づく前に陸斗は視線を外し、傍らに浮遊するモニターへ目を向けた。
「何かの手掛かりになるかもしれないな…マシュ、シオン、何か解析できないか?」
《了解しました、先輩。何とか解析してみます。シオンさんもお願いします》
彼の話を受け、NDトランシーバーが揺らぎから体二つ分ほど離れた位置へ浮遊する。
《オッケー、さてさて何が飛び出しますかねぇ》
ホバリングを続けるモニターを、チームAの三人は不可思議そうに見ていた。
しばらくして、わずかな砂嵐と共にカルデアの二人がもう一度画面に映りこむ。
《ひとまずという程度なのですが、この空間は激しく”揺らいで”いるんです》
「揺らいでいる?普段ならあり得ないという所だけれど、目の前で見せられてはね」
ミサキがわずかにうなずき、次はシオンが口を開く。
《この旧新宿駅…名前を借りてターミナルと呼びますけど、この空間は「私たちの世界」か「貴女たちの世界」なのか、所属を決めあぐねているってとこですね
──今この場に、二つの世界の住人もそろっているし》
「所属を決めあぐねている、ですか。シオンさん、決め手になるものの手掛かりなどは考え付きそうですか?」
《んむむ、今現在だと証拠もなんもナイナイ尽くしだから厳しいですねぇ…》
悩む顔のシオンを意に介さず、陸斗は胸元に下げたペンダントに手を触れる。
そして、これまでの流れを思い返していた。
「(所属を決めあぐねている空間、異世界からやってきた俺自身、そして──「こちら側の対霊戦のプロが知らない敵」)・・・・あと一押し何かあれば掴める気がするんだがな」
だが、その思考を遮るかのようにアラートが鳴り響く!
「な、何ですか?!」
不意のアラートにサクラが周囲を見渡す。
その間にも、白砂と瓦礫のモザイクが彼らに向けて迫る!
《騎手ヨ、我ガ子ヲ!!》
《あいよ!》
「お、おいヘシアン?!」
モザイクの波が彼らを割る間一髪で、陸斗はロボの背に引き上げられる。
落ち着いて見渡せば燕青とシオリも彼らのそばに降り立っていた。
「──分断されましたね・・これは偶然?」
「出来過ぎとは思うけどな」
そう会話を交わす彼女らに、颯から声がかかる。
「シオリ、そっちは大丈夫か?!」
「ええ、私たちは無事です。マスターたちの方は?」
「─僕らは大丈夫だ、さっきの波の後のマップをシオンさんたちが更新してくれたけど、道はまだつながってるみたいだ!後で合流しよう!!」
「貴女なら大丈夫だと思うけど、気を付けて─!」
ミサキの声を最後に、彼らは分断された道の奥へと姿を消した。
そして、残された彼らの前に開けた道はどこか生々しさをまとう回廊だった。
「シオリ、俺の気のせいじゃなきゃこっから先の道にはみ出てるやつ、脈打ったりしていないか?」
「いえ、見間違いでも気のせいでもありません。けど、もう進むしかないでしょう?」
《(サーヴァントでも、ピグマリオンでもない霊的反応・・・?これは一体)》
モニター越しに解析を進めるマシュを連れ、彼らは「肉の回廊」と呼ぶべき道へと踏み出していった。
一歩足を進めるごとに、生暖かい風が彼らにまとわりつく。
「周り見ているだけで気分がおかしくなりそうだ…シオリの方は大丈夫か?」
「──、ええ」
得も知れぬ不快さに耐えつつ、陸斗はシオリへと声をかける。
だが、その彼女の顔色は青白くなっていた。
「お前さん本当に大丈夫か。やせ我慢じゃねーよな?」
「大丈夫です」
燕青がかけた声にも、彼女はただ固く返事をするのみだった。
その様子を見て取り、ロボが陸斗の方へと視線を向ける。
『我ガ子ヨ』
『どうした…ってどころじゃないか』
『然リ。アノ緑髪ノ娘、コノ道ヲ進ムタビニ息遣イガ妙ダ──ソレニ』
そこまで念話で話しきると、巨狼は周囲を見回し、再び陸斗の方を向く。
『注意セヨ──見ラレテイルゾ』
『見られて、って』
その意味を問おうとした時、トランシーバーごしにマシュの警告が響く!
【っ先輩、未知の反応が急激に先輩がたの前方に発生しています!】
「・・なっ、」
その警告と同時に周囲の壁から、あるいは床から異常な肉塊が起き上がり、あるいは落下してきた。
いずれも、人の手足を乱雑に突き刺したかのような姿に、少女のものと思われる面影がどことなく見える。
その肉塊たちは虚ろな声を上げ、一行へとにじり寄る。
《イタイ、イタイヨ》
《トウサン、カアサン─》
《タスケテ、タスケテ…》
「なんで、どうして………ッ!!」
いるはずのない物を見た。
それらと相対したシオリの様子は正しくそれそのものだった。
《アアアアアアアア!!!!!》
「っ!」
首を振るい、シオリが得物を──蔦の巻かれた長剣を呼び出し、袈裟懸けに切り伏せる。
飛び掛かってきたことで至近距離となったソレに、霊的な力をまとった切っ先は致命的な一撃そのものだった。
《ア、あ…》
「ここを切り抜けるしかないか…!シオリ大丈夫か!」
「・・・・・っはい、ご心配をおかけしました、もう、大丈夫です」
そう声をかける間にも、肉塊たちが次々と現れ彼らの道をふさぐ。
「(けどどうする、あの化け物の壁を貫くには広範囲の一撃で焼き切るしかない)」
「(シオリの様子は明らかに危険だ、燕青は一対一に強いがこの状況じゃ焼け石に水だ──)」
そこまで考えたところで、陸斗の眼がヘシアン達に向く。
『─ヘシアン・ロボ、頼みがある』
『流石に全部言わなくてもいいさ、陸斗の旦那』
『ウム。彼ノ者ラノ有様、捨テ置ケヌ』
頷きあうと、彼らの姿が変化していく。
コートが風もないのにはためき、巨狼の瞳に蒼焔が宿る。
その喉元からは低く唸り声が響いていた。
『下ガレ、緑髪ノ娘』
聞くものが居なければ分からなかったその声は、もう一騎のサーヴァントに…燕青の脳に確実に届いた。
「(ロボの旦那、宝具を切るつもりか?!)お嬢、立てるか?ここから先はロボが引き受ける、だそうだぜ」
「──はい。頼めますか?」
『任セヨ。アノ者ラノ葬送、我ラガ請ケ負オウ』
彼ら二人が陸斗の傍へと避難したことを確認し、『二人』がそれぞれに魔力を展開し宝具の詠唱態勢に入る。
眼前を覆い尽くした肉塊たちが津波のように迫りくる──!!
『故郷を追われた恨み』
『果てしない、生者への恨み』
『我らが恨みは永劫彼方まで消えることはなく』
二つの声なき声が重なる。
姿を変えたヘシアンのコートが増殖を続けようとする肉塊の壁に四方八方から突き刺さる。
そして、彼は首切り刀を両手に構える。
『果てよ、果てよ、我らが恨みをその身で知るがいい!!』
蒼焔をまとった剣閃が、肉塊を切り崩す。
だが、「それ」はその一撃を意に介していないように姿を取り戻しつつあった。
『──何…?』
喉に溜まる様な唸り声と共に、ロボがそれを睨みつける。
『(この一撃で首を狩れていないってのか!だとしたら!!)』
そうヘシアンが思考を練る間にも、再生しきった肉塊は本能的な動きそのもので触手を彼らへと叩きつける。
それを切り払いつつ、彼は陸斗へ念話を繋げた。
『すまねぇマスター、どうやらしくじったみたいだ!ここは逃げの一手しかなくなった!!』
その念話を察知するが否や、陸斗が即座に叫ぶ。
「っくそ、来た道を全力逆走だ!!」