機憶顕出都市 新宿   作:タングラム

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14節 響憶-Ⅱ

─それから数分後。

辛うじて肉塊の追撃をかわし切った一行は休息を兼ねた緊急の作戦会議を開く羽目になった。

 

「しかし、ロボたちの一撃でも仕留めきれなかっただなんて…」

 

奥歯をかみしめる表情のまま、陸斗が呻く。

その声に彼同様不服そうな唸りを返したのはロボだった。

 

すかさずヘシアンがペンを取り出し、彼の言葉を通訳する。

そして書き上げたメモを燕青に差し出し、彼がそれを受け取り読み上げた。

 

「なになに…?『手ごたえが浅く感じた、攻撃されたら反撃が来るのは当然の流れであり、故に騎手を通じて逃げろと話したわけだ』・・・・・・だってよ」

「手ごたえか、あの壁は一個の生命体じゃないのか?」

 

そう陸斗が話すと、ヘシアンは次のメモ帳にペンを走らせる。

少し時間を置き、その紙を彼の方につきだした。

 

「『然り、一つの形に複数の命が混ざっている。我はそう感じた』か」

 

「───複数の命、というのも合っています。人間でない貴方達にはよくわかる様ですね?」

 

 

それまで押し黙っていたシオリが口を開く。

そのセリフにカルデア一同が視線を向けた。

 

「どういう訳さ?」

 

燕青の答えを求める声にうなずくと、まずシオリは浮いているNDトランシーバーのモニターも含めて周囲を一度見回す。

それに気づいたマシュがモニターを彼女の近くまで移動させたところを見て取り、彼女は続きを話し出した。

 

「まず、あの乱雑に手足が生えた肉塊からお話ししましょう。アレの名前は、サクリファイス」

 

【サクリファイス…犠牲、ですか?】

 

「ええ。私達ドールズはオーパーツであるギアによって生き返った存在という事はお話ししましたね?そこにたどり着くまでに数多の実験が行われたのですが、このギアという物は誰にでも使えるわけではありません」

「確かにな、誰にでも使えるオーパーツってまず有り得ないだろ」

 

燕青の言葉にわずかに目を伏せ、再び目線を上げるとシオリは続きを話し出した。

 

「・・・・ええ。数多くの犠牲者が生まれ、それでも血にまみれた事実は明かされることはありませんでした」

 

モニター越しのマシュが、話の続きを固唾を飲んで見守る。

 

「そして、記録の奥底にしか残されていなかったそれが、もう一度私たちの前に姿を現したことがあります」

「忘れ去られていたはずのものが蘇ったって事か」

 

「──結果的には」

 

陸斗の確認するかのような声に、シオリは固い声のまま答える。

 

「かつて、ピグマリオン浄化の為に地下鉄を用いた浄化ライブという企画を行ったことがあります。その時もピグマリオンが発生していましたが、ドレスを十全に活かすための結界である『テアトル』が展開できなくなったことがありました」

 

そのセリフに陸斗は灼眼を輝かせたナナミやサクラの姿を思い出し、口をはさむ。

 

「『テアトル』というと、赤い目を輝かせて何かを展開してたのは思い出したんだが・・・それの事か?」

「ええ。テアトルの使えないDOLLSは機能不全もいいところ、とるものも取らずに退却していきました」

 

そこまで話を終えたところで、マシュが口をはさむ。

 

【シオリさん、テアトルという物は何なのでしょうか?】

「そうですね─」

 

彼女の言葉に、シオリはわずかに押し黙ると、話の続きを語りだした。

 

「私たちはここにいるという意思。それを表した結界というのが正しいのかしら。私たちのドレスに秘められた力も、その結界の中でしか機能させることはできない。

だから、機能不全だったとお話ししたんです」

 

【意思……まるで固有結界ですね、こちら側にもそういった魔術の使い手に心当たりはあります】

 

そのやり取りを聞き取り、陸斗が口を開く。

 

「それでもDOLLSは生き延びてここにいる・・・・前の時はどうやって突破したんだ?」

「──《奇跡》で」

 

「奇跡?」

彼のおうむ返しにシオリは一度頷くと、かつて乗り越えてきた事変の結末を語りだす。

 

「イベントに招かれたファンにピグマリオンの存在を知られるわけにはいかない。

 地下崩落を引き起こそうとするピグマリオン「ケルベロス」も浄化し討伐しなければならない。

 普通であれば二者択一でもやり遂げられるかどうかの状況で、マスター・ハヤテに言われたんです──『完璧な奇跡を望んで良い』と」

 

 

「颯のヤツ、なかなか決め台詞を言ってくれたじゃないか。しかし、奇跡ときたか」

 

そこまで話し、陸斗は鈍く光る令呪を見つめる。

 

「だが、当の颯もチームAの連中もどこにいるかは分からない・・・・」

 

 

そこまで話したところで、彼の脳裏に燕青たちの記憶を思い出した場面が蘇る。

 

「シオリ、一つ確認良いか?」

「はい、答えられることなら」

 

 

 

・・・それからいくらかの時間が経った後。

 

彼らは、眼前をふさぐ肉壁…否、群体ピグマリオンとでも呼ぶべき壁の前に立っていた。

 

「確証はない、けどやらなきゃここでずっと足踏みだ。皆、覚悟はいいか?」

 

陸斗の声に、一同が頷く。

その気配を察知したのか、サクリファイスの群れが動き出した──!!

 

 

 

 

 

その頃。

 

 

「シオリ、今どこにいるんだろう・・・」

 

隠しきれない不安感をにじませつつ颯がつぶやく。

その声にミサキが足を止めた。

 

「シオリの事が心配?でも、彼女はそんなにヤワじゃないわよ。それよりも」

 

そこまで言ったところで、彼女は得物を―結晶の埋め込まれた長銃を抜き打ちで撃ち放つ。

その一撃で、二足歩行の「脚だけ」のピグマリオン、キッカーが光になり消えていった。

 

 

「・・・・周囲クリア、まずは一安心ね」

 

警戒の残心を解いたところで、彼女の耳に届く声。

振り向くと、光にきらめく金髪をなびかせて走ってくるアヤたち、チームCの姿があった。

 

「ミサキじゃない!討伐の方は・・・」

 

 

そこで、彼女はいつも見慣れているはずの人影がないことに気づく。

 

「あれ、シオリは?」

「それが──」

 

 

 

 

 

 

視点を戻し…

 

 

テアトルの結界に集中しつつも、シオリは陸斗との作戦会議を反芻していた。

 

「(燕青さんたちの記憶を思い出した時、テアトルの中にいてそれでもピグマリオンと戦えていた、それに私たちの基本的な戦い方は一人がテアトルの維持、二人がその護衛という立ち回りだけれど・・・)」

 

その間にも、刃のような回し蹴りで燕青がサクリファイスを砕いたのであろう湿った破砕音が響く。

 

「(本職の「私達」には及ばないけれど、こうまで戦える、だなんて)」

 

 

 

「おっし、道は開いたぜ!」

「そのままヘシアン達の援護を頼む!」

 

 

そう指示を出しつつも、陸斗は左拳を─令呪に目を配り、右手でペンダントを握り締める。

 

「(前はヘシアン達だけの魔力だったから生命のジャミングに惑わされた、そのはずだ…まだだ、焦るな……)」

 

それから視線を戻し、肉塊・・・もはや肉壁と化していたピグマリオンから目を逸らしてたまるものかという気迫そのままににらみ続ける。

その先で、首狩り剣と爪牙を振るうヘシアン達を、両手両足を振るい嵐のごとき様相を見せる燕青を見据えながら。

 

 

『汝ラノ苦痛モ痛ミモ、獣ノ我ラニハ分カラヌ』

『シオリ嬢ちゃん達は奇跡を、イメージをもってお前らを浄化しきったそうだな?』

 

首狩り剣で抉るように切り払い、とどめとばかりに牙を突き立て引きちぎる。

形容しがたい悲鳴が響きわたる!!

 

「黙りやがれ化け物がよぉ!!」

 

その口へ燕青が全力を込めた掌底を叩きこみ、黙らせる。

 

 

『俺たちはそんなイメージは持てねぇ、生者への恨みのみで立ち上がった共同体だから・・・なっ!!』

 

反撃とばかりにしなった肉鞭を切り払う間に、ロボが念話をもって陸斗を呼ぶ。

 

『我ガ子ヨ、我ラモ態勢ハ整ッタ!!』

『よし!!』

 

 

その念話を受け取るが否や、彼は左拳を肉塊へ向け──

 

 

「赤き令呪二画をもって、星見の同胞に命じる!!」

 

「『それぞれの宝具をもって、過去から引き出された記憶を葬送せよ!!』」

 

 

その言葉が終わるのと同時に、彼の左手の甲から猛烈な赤光が迸り、二筋の光となって二騎のサーヴァントに注ぎ込まれる。

「ソレ」を受け取るが否や、まず燕青が凄絶な笑みを浮かべ・・・・視界に映らないほどの速度で駆け出した。

 

 

 

「——闇の侠客ここに参上」

 

 

 

冷徹過ぎる声が響く。

その声に反応した肉鞭が彼を打ち据えようとするが、それはただ虚空を切った。

 

「『十面埋伏・無影の如く』!!」

 

その声も置き去りに、音を置き去りにした四方八方からの連撃が肉塊を打ち砕く!!

 

 

「──っ、ロボの旦那ぁ!!」

 

『任セヨ!!』

 

大振りのバックステップで燕青が下がり、ほぼ同時にヘシアン・ロボが位置を入れ替わる。

蒼炎と外套を纏い、首狩り剣がそれを反射し蒼く煌き──

 

 

『人ならざる欲によって理不尽に奪われた命よ』

『復讐すら考え付かないほどに擦り切れた記憶よ』

 

《我らが汝らを葬送する!!》

 

 

燕青の猛連打によって剝がれかけの肉塊に外套の楔が突き刺さる。

そして、前の時とは違う手ごたえをロボは感じ取った。

 

『遥かなる者への斬罪』(フリーレン・シャルフリヒター)ッッ!!》

 

 

 

その中で、居合わせた彼らは確かに聞いた。

硬いものが砕ける音を。

 

【前方のピグマリオン反応、急激に低下中!周囲の魔力汚染も同様です!】

 

ナビゲートをしていたマシュの声がどこか遠くに感じる。

まるで巻き戻るかのように、周囲の肉壁が消えていく。

 

だが、その「巻き戻った姿」は──明らかに駅の中と言えるような場所ではなかった。

 

 

「な・・・?!」

 

目を見開き、陸斗が周りを見渡す。

 

乱雑に止められ炎上したバスや車の残骸。

彼の視界の後ろには崩れ落ちた新宿駅。

そして目の前に広がるのは、辛うじて姿を保っているビルとひび割れて朽ちた長大な横断歩道──

 

 

「ここは…バスターミナル。バスターミナル前──ッ?!?」

 

 

そう言葉がついて出たと同時に、彼の脳裏に声が刺さり、その場にうずくまった。

 

「──藤丸くん?」

 

明らかに異常な様子の彼にテアトルを解除したシオリが歩み寄ろうとするが、彼はそれを右腕で制する。

そしてゆっくりと、だが舗装を踏みしめ、立ち上がった。

 

 

「・・・・そうかよ。これで全部分かった」

 

見開いた氷河色の瞳は、砕かれたはずのピグマリオン…否、二対四翼の大蛇を睨みつけていた。

 

「ピグマリオンは感情を餌にする、トラウマの化身」

 

その足取りは固く、重く。

何か重々しさを察したシオリも大蛇へと振り返り、剣を構えなおす。

 

「さっきはシオリのトラウマを餌に、俺たちを異空間に引き込んだ」

 

ロボが唸り、燕青も拳を構える。

脳裏の声が音量を増したように感じるが、もはや彼は意に介していない。

 

「今度は俺のトラウマを突き付けてきたわけか。だが残念だったな、んなもん折り合いはついてるんだよ──」

 

 

無数の雷球が発生し、ピグマリオンたちが降り立つ。

 

 

「なあ、『大蛇』さんよぉ!!」

 

 

 

その声に応えるように、大蛇と呼ばれたソレはけたたましい声で咆哮するのだった───。

 

 

ほぼ同時刻、EsGによる戦況更新がハヤテ達にもたらされる。

額を寄せ合い、彼女たちがその文面を見つめていた。

 

「旧新宿バスターミナル前横断歩道にナハツェーラー反応を大量に検知?、またその至近距離にカルデアの協力者とドール・シオリの反応を確認——?」

「シオリもずいぶんと離れたところに出たわね」

 

そう話を進める間にも文面は追加され、ハヤテは即座に文字送りをしていく。

 

「なお、旧新宿駅地形図の更新は完了とみなされるほどのデータ集積を確認。

オペレーション・ミズガルズのフェーズを完了とし、オペレーション・ビフロストへの戦力集中を提案」

 

 

そこまで声に出し読み終えたところで、集結しきっていた8名のドールがそれぞれに頷く。

ここまで来れば、否応も語る必要はないとそれぞれの眼が語っている。

 

 

「─行こう、皆!」

 

 

彼の声をきっかけに、彼女たちは駆け出して行った──!!

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