機憶顕出都市 新宿   作:タングラム

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描写不足などに気づいたため、追記しました (10/17)


15節 光陰

ドールたちが駆け出したのとほぼ同時刻。

陸斗達は──その場を一歩も進めずにいた。

 

 

 

「手数が足りなさすぎる──!!」

 

 

 

 

 

歴戦のマスターらしからぬ、敗北という文字が彼の脳裏を離れない。

 

それでもなお、敵は―

ナハツェーラーとピグマリオンの混成軍団は、攻め手を緩めるはずもなかった。

 

 

 

『──!!』

 

「旦那ァ!!」

 

 

 

 

 

混戦の一撃を突かれたヘシアン達が体勢を崩す。

 

だが、その窮地は燕青の正拳突きでかき消された。

 

 

 

その彼も疲労の色を隠せずにいる。

 

テアトルを維持しているシオリもまた、大量の霊的反応を抱えた空間に初めて見せるかのような脂汗を浮かべていた。

 

 

 

 

 

それ故に・・・・佇んでいた大蛇が不意に身体を伸ばして大口を開いた姿に、全てが凍り付く!

 

 

 

 

 

【—先輩っ!!!】

 

 

 

マシュの悲鳴に虚を突かれふり返る二騎のサーヴァント。

目を見開き、視線だけしか返せないシオリ。

トランシーバーからの悲鳴に意識を引き戻され、眼前に不意に現れた口腔に思考も何もかもををかき消された陸斗。

 

 

 

 

 

刹那、彼の姿は大蛇もろとも消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*    *    *    *

 

 

 

 

 

 

 

何もない虚空の空間。

周りは見えず、声だけが響く。

 

 

 

 

 

 

 

【数合わせの?はっきり言って肉壁にでもなればいいだろ】

 

 

 

《アイツ、何を考えてるのかさっぱりわかんねぇよな。ほっといて外行こうぜ》

 

 

 

『お前さぁ、もう少し周りを頼ること覚えたら?』

 

 

 

 

 

 

 

陸斗が目を開いたと同時に、彼の脳裏に反響していた声が更に音量を増す。

 

 

 

(─やめろ)

 

 

 

 

 

静かな、されどそれを止める声は届かずに脳裏の声がさらに続く。

 

 

 

《あんな少年がマスターで大丈夫なんかねぇ?》

 

《決意も覚悟もまだ足りてない。そんな彼がこの責務をやり遂げられるとは思わんな》

 

《へえ、話が合うじゃねぇの》

 

 

 

 

 

(——決意と覚悟、そんなもんは最初から持ち合わせてるはずもない)

 

 

 

場面が変わる。

 

 

 

【彼、出てきませんね】

 

【■■■■の島から命からがら帰ってきたみたいだからね】

 

【ったくかったりぃ、オレが喝入れてやるよ!】

 

 

 

聞き覚えのある声が続けざまに響く。

 

それは、いつだったかの夏の記憶の後。

 

 

 

(─ああそうだ、一心不乱に走り抜けることもできなかった日だってあった)

 

 

 

 

 

そうして『無』の空間にたたずむ彼の前に、もう一つの姿が現れる。

 

 

 

《お前、折り合いはついてるって言ったよな?けどこの様はなんだ?》

 

 

 

 

 

その声は、陸斗の周りをうろつきつつセリフを紡ぐ。

 

ほの暗い愉悦を纏わせながら。

 

 

 

 

 

《お前の能力はない。それを認めろよ》

 

《お前は英雄なんかじゃない、一人の凡人だ》

 

《ましてや致命的なコミュ障。そんな有様でよくもまあここまで続いたもんだな》

 

 

 

そして、陸斗の耳元で声がささやく。

 

 

 

《今なら全部忘れてこの世界で一人生きていくことだってできるぞ?》

 

 

 

 

 

 

 

その声に、彼の眉が微動する。

打ちのめされていたはずの表情が変わっていく─

 

 

 

「——違う」

 

《あん?》

 

 

 

「ああ認めるさ。俺だけだったらただの凡人で世界の裏側なんか知るはずもなかった人間だ」

 

 

 

けど。

 

 

 

「俺の選択じゃ無かったら越えられなかった世界があった」

《はぁ?お前自分の選択に自信をもってこれで良かったといえるわけ?》

 

 

 

心底愚弄する声が彼の後ろから響くが、それには振り返らずに陸斗がセリフを紡ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

「──そうだ。後出しだったら何だって言える」

《──言ってくれるじゃねぇか。じゃあここでオレを消すか?》

 

 

 

 

 

言葉が途切れると同時に現れたのは、藤丸陸斗その人。

 

だが、その髪は鈍く光る銀髪であり、また目は血が乾いたような赤錆色。

 

 

 

 

 

《消せる訳ねぇよなぁ!オレはお前だ、それに今のオマエには戦う力は》

 

「ある」

 

《あん?》

 

 

 

 

 

「もう一人の陸斗」の声を遮り、彼—黒髪碧眼の陸斗は左拳を突き出す。

 

掠れた令呪が燃えるかのように光り輝く!!

 

 

 

「来い、星見の同胞たち!!!」

【呼ぶと思ったぜ!】

 

 

 

虚空に快活な声が、そして遠吠えが響く。

 

現れたのは─燕青とヘシアン・ロボ。

 

 

 

《バカな?!ここは隔離空間。いくらサーヴァントでも呼べるわけ》

 

 

 

 

 

「もう一人の陸斗」が、そう途中まで話したところで絶句する。

 

開かれた掌、その指に吊り下げられた物から目を離せないまま。

 

 

 

《お前・・・なんだ。それは──》

 

 

 

「さっきの質問に答えてなかったな。俺の帰るべき世界はここじゃない」

 

それに、と息をつき彼はペンダントを掲げ吼える。

 

 

 

 

 

「夢の女神からこう言われててな、ピグマリオンの想定外の進化を始末しろって!!」

 

 

 

 

 

陸斗の咆哮を最後に、ペンダントが直視できないほどまばゆく輝く。

そして、全ては白く塗りつぶされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【先輩!先輩っ!!】

「——マシュ、心配かけたな」

 

 

【本当です!先輩のバイタルが消えたときはこっちだって生きた心地しなかったんですよ?!】

 

 

 

 

 

陸斗を気遣うあまり普段の口調が崩れかけたマシュをなだめつつも、陸斗は周囲を見回す。

 

 

 

崩れかけの階段に石畳。

 

眼下の線路もまた辛うじて形を保っており、駅へ到着しようとした態勢のまま朽ちた電車。

 

遠くを見渡せば、半分ほどの高さから折れた時計塔。

 

 

 

 

 

忘れもしない─

 

 

 

「高速バスターミナルから降りた展望台、か」

 

 

 

 

 

そうつぶやき終えたと同時に、あわただしい足音。

 

ふり返れば─

 

 

 

「藤丸さん、大丈夫ですかっ?!」

 

 

 

国土地理院特殊部隊DOLLSの面々が息を切らした態勢のまま彼を見据えていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*   *   *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

息を整えたDOLLSと顔を突き合わせ、陸斗たちは再度情報交換を行う事となった。

 

その中でも、驚いたのは─

 

 

 

 

 

「シュードメモリアの反応があった?今までなかったはずなのに?」

 

 

 

陸斗が虚を突かれたように発したこの報告そのものだった。

 

画面向こうのカナも、怪訝そうな表情をしながらもうなずく。

 

 

 

『はい。ちょうど藤丸さんの反応が復活したタイミングとほとんど同時にシュードメモリアの反応が確認されたんです』

 

 

 

「─場所は?」

 

『はい、それが……旧新宿バスターミナル4階、そちらの現在地の真上です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通信を終えると、まずサクラが口火を切った。

 

 

 

「藤丸さんが消えたと聞いて驚いたんですよ─今までどこに」

 

「それがだな…何もない空間で悪意しか言わない自分自身にあったんだが、信じられるか?」

 

 

その話を聞き、サクラは得心を得たようにうなずいた。

 

 

 

「自分自身のマイナスの心、負の心—私も、相対したことはあります」

「そうなのか?」

 

 

 

「はい。マスター・ハヤテからもお聞きしたとは思うのですが、私達ドールの記憶は心の奥底に封印された。

それを開けるための迷宮の先に待っていたのが、陸斗さんが遭遇したような負の心にまみれた自分自身だったんです」

 

 

 

「けど、俺は特殊な機器なんか使ってねぇぞ?使えるはずなんてない」

 

 

 

 

 

怪訝な顔の陸斗に答えたのは、意外にもユキだった。

 

 

 

「あの、想像ではあるのですが思い当たる理由を話していいですか?」

「心当たりあるのか?」

 

 

 

 

 

彼の蒼眼がペリドットの眼とぶつかる。

その目線を感じ取り、彼女は頷くと語りだした。

 

 

 

「シュードメモリアは藤丸さんの記憶をもとにこの旧新宿駅に現れた。そして」

 

 

 

そこまで言うと、彼女は右手を差し出す。

 

 

 

「藤丸さん、前に見せてもらったペンダントを」

「あ、ああ」

 

 

 

首をまさぐり、銀鎖を外すとそれを彼女の掌に載せる。

 

 

 

それを光に透かすように吊り下げつつも彼女は続きを話し出した。

 

 

 

「このペンダントは、私たちの使うメモリア結晶を更に凝縮したものが使われています。そして、生きていく以上絶対に切り離せない記憶を吸い上げてシュードメモリアと反応した。そうとしか思えないんです」

 

 

 

そこまで言い、彼女はペンダントを陸斗に返した。

 

「そいつはいいんすけど、こんなとこで話し込んでていいんすか?」

 

 

 

 

 

そうぼやいたのはヤマダ。

 

彼女の言葉に一行の視線が集まる。

 

 

 

 

 

それを意に介さず、彼女は続きを話し出した。

 

 

 

「ブリーフィングの時に聞いた異世界の融合とやら?いつ始まるかわかってないんでしょ?なら急いだほうが」

 

《いえ、どうやらそうでもないみたいで》

 

 

 

そのセリフに更に割り込んだのは、NDトランシーバー越しのシオン。

 

 「おん?ソカリス氏そりゃあどういう訳で?」

 

 

 

ヤマダの質問にモニターを操りつつシオンが答える。

 

 

 

《解析を進めたのですが、シュードメモリアの反応と異世界融合の反応が旧新宿バスターミナル四階で止まってるんですよ─いうなれば、来るなら来いって感じですねぇ》

 

 

 

「ははん、ピグマリオンの癖に行儀よく待ってるって訳っすか」

 

 

そう会話を終えると、一行の目は上を─階段の先を向くのだった。

 

 

 

 

 

一行が階段を駆け上がると、ピグマリオンとナハツェーラーの群れが彼らを向く。

それと同時に、カナの通信が入った。

 

《ピグマリオン及びナハツェーラーの反応、現時点で一千オーバー、なおも増殖中……っ!》

 

その通信を聞き取る間にも絶え間なく雷球が光っては消え、新たなピグマリオンを呼び寄せる。

入れ替わるように、今度はシオンから通信が繋がる。

 

その表情はわずかに硬い。

 

【次元融合値が上昇してってます、ここで決着をつけるのは必須事項になりますね。デッドオアアライブです】

「基本の作戦は?・・・って確認するまでもないな」

 

陸斗の声に、神使偶像のドレスをまとったチームAとハヤテがそれぞれに頷く。

確認するかのようにレイナが声をかけた。

 

「マスター、今の最高戦力は貴方達よ。後ろは私たちに任せて美しい決着をお願い」

「――分かった。皆も無理だけはしないで」

 

颯は静かに、だが大きくうなずく。

そして彼は陸斗の方へと振り向いた。

 

 

「行こう、それぞれの世界を取り戻す懸け橋の為に」

 

 

その声に、陸斗は一瞬虚を突かれた表情を見せる。

だがすぐに我を取り戻すと、ほくそ笑んだ。

 

「―言ってくれたな。ロボ!」

 

【任セヨ、貴様ラモ振リ落トサレルデナイゾ】

 

普段はヘシアンが乗っている位置に二人のマスターを乗せ、狼王が一声吼える。

 

 

「オペレーション・アスガルド、これが総仕上げだ!!」

『了解っ!!』

 

 

二人のマスターのうちどちらかが吼えたのかは分からない。

だが、その声と共にすべてが動き出した!!

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