機憶顕出都市 新宿   作:タングラム

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足掛け3年ほど、やっと最終回までたどり着けました。


終節 そして、黎明へ至る

先鋒になる場所を疾走するのはヤマダを先頭にしたチームCだった。

現在地は旧新宿バスターミナル2階、本来であれば直結のエスカレーターを登っていけるが…

 

「――ダメね、崩壊している上に白紙空間のおまけ付きよ」

 

「なら北西部の内側は?」

 

アヤと陸斗の話を聞きつけたモニターが浮遊し、シオンの顔を映す。

 

【藤丸くんいいとこ突きましたね、確認してみたところ北西部の階段は何とか使えるようです】

「けどただじゃ通さないって訳っすか」

 

 

ヤマダの声に一同が振り返ると、すし詰めになりつつあったピグマリオン達がまるで飢えた表情を見せたかのように一斉にこちらに振り返る。

にらみ合いは一瞬。

 

その一瞬でヤマダが得物である機械槌を顕現させて飛び掛かる!!

他にもナナミやミサキと言った遠距離戦に割り振られた面々が弾幕を張り、その道を押し広げていった。

 

「そらそらぁ!!道を開けな、量産型ァ!!」

 

荒々しい咆哮と共に機械槌が振り回され、イーターやキッカーをかき分けていく。

だが、その先に――不穏すら湛える、緑の光。

 

それを見て取るが否や、アヤが白銀の銃を構える。

 

「ナハツェーラーね!そっちの手札はもう分かってんのよ!!」

 

 

金髪をなびかせ走りながらも、その銃口は狙い過たずナハツェーラーを捉え続ける。

更に弾丸に紛れ、姿勢を低くして駆ける銀の光が一つ。

 

「――そこを退いてもらいます。答えはいりません」

 

ユキの一刺しでナハツェーラーは塵に消え、その輪郭の後ろに――辛うじて通れる階段。

 

 

「っ見えた、北西の階段だ!!」

《掴マレ!振リ落トサレルデナイゾ!!!》

 

陸斗の声にロボが吼え、その意味が彼の脳裏に流し込まれる。

させるかと言うかの様に立ちふさがろうとするピグマリオンすべてに風穴があき、あるいはそこら中に叩きつけられていく。

 

「後ろは引き受けたわ!行って、マスター!!」

「――任せたよ!!」

 

 

 

後ろをチームCに任せ、彼らが次に飛び込んだ場所は―

 

 

かつては絶え間なく行き先を示していた掲示板。

数多の分岐点が始まるはずだった、砕けて読めなくなった乗り場の案内図。

整然と、だが温かみがあったはずの椅子の残骸。

 

 

「こいつは・・・待合室か」

 

 

かつての記憶が陸斗の頭をよぎる。

煌びやかさと旅立ちの気配を持っていた「そこ」は、今や見る影もない。

 

『プシュケー確認、ピグマリオンへの警戒を!!』

 

カナの声とほぼ同時に燐光と雷光が迸り、ピグマリオンたちが降り立つ。

 

「セルブロッカーにシールド、どうしても進ませたくないみたいね」

 

 

どこか冷徹さを帯びたレイナの声に、その通りだとでも言うかのように形容しがたい咆哮が返る。

間合いを図るかのように、チームBの三人がそれぞれの得物を構え異形の軍団とにらみ合う。

 

ライフルを構え、レイナが彼我の距離を測る。

その眼は普段の作戦よりも鋭さを増していた。

 

「(この待合室からバス搭乗口まで、サーヴァントの足なら一秒もかからないはず。

 勝負は一瞬ね)ヒヨ」

「ほえ?」

 

レイナの声に、この場では気が抜けたかのような返答をしてヒヨが振り向く。

 

「貴女の素早さの出番よ、あの」

 

そこで言葉を切り、レイナは開きっぱなしになっている自動ドアの残骸の先を指さす。

 

「ドアへの通路を確保するようにピグマリオンをかく乱して頂戴。カウントは3よ」

「おっけぃ…!」

 

小さく、だが確実にうなずきヒヨが得物である太鼓の槌を顕現させる。

そしてそのまま、彼女はナナミを呼ぶ。

 

「貴女は藤丸くんたちとチームAがあの搭乗口に向かうドアをくぐるまで、援護をお願い」

「はいはい、お任せあれってね」

 

二人への指示を終え、レイナが二人のマスターとチームAにふり返る。

 

「二人とも、ここはチームBが受け持つわ」

「─分かった、ここは任せるよ」

 

 

確認は最小限に。

声も最小限に。

 

だが、その気迫は燃え上がるほどに。

 

「3」

 

サーヴァントたちが身構え。

 

「2」

 

二人のドールがそれぞれの得物を構え。

 

「1、GO!!!」

 

その号令一下、止まっていたかのような状況が一気に動き出す!

 

 

「鬼さんこちらっ!!」

 

目立つ声音そのものの叫びでヒヨがピグマリオン達の注意を引き付ける。

それでもなお立ちふさがろうとするものは─

 

「邪魔よ!!」

 

ナナミとミサキの弾幕で撃ち落とされ、その姿を消滅させた。

そしてその奥、高速バスの搭乗口につながる自動ドアの残骸の前に立ちふさがる異形が一つ。

 

筋肉質な四つ脚に巨大な一つ目、平たい甲羅を背負ったピグマリオン──!!

 

「っ、チャリオット?!こんな所で─」

「任せなァ!」

 

立ち止まりそうになったサクラを咆哮と共に燕青が追い抜く、否、それも一瞬。

 

「押しとおるぜ、肉弾戦車さんよ!!」

 

鋭すぎるほどの回し蹴りがその脚を切り飛ばし、槍の様な正拳突きが単眼を貫く。

崩れ落ちる合間を縫い、五人と二騎が自動ドアの先へと飛び込んだ。

 

それを見て取り、まずヒヨが自動ドア前に陣取る。

散らばった小型ピグマリオンを撃墜しつつ、レイナとナナミが隊列を整え横一列の陣を組んだ。

 

「へへっ、成功だね!」

「油断しないでくださいよ、こんな所で終わるなんて許さないし、許しません」

「ええ―そうね」

 

そう声を掛け合う三人に、残されたピグマリオンの群れが襲い掛かっていった──

 

 

 

 

◇         ◇         ◇

 

 

 

 

 

 

残骸と化した自動ドアを駆け抜けた直後、カナとマシュの警告が同時に二人のマスターの耳を打つ。

 

《シュードメモリア反応及び大蛇型ピグマリオンの反応、確認!》

【!!、高エネルギー反応です、皆さん回避を!!】

 

言葉もなく、五人と二騎は左右に分散し回避する。

数秒遅れ、光の刃と形容してもいい光線が彼らのいた場所を貫いた。

 

 

「――あんなの直撃したらひとたまりもない…!」

 

殺意そのものの貫通力に颯が青ざめる。

その視線の先に映ったのは、整いすぎるほどに綺麗にくりぬかれたバスターミナルの建屋。

 

耳をすませば、まだ戦闘音が鳴り響いていた。

一方の陸斗は頭を振って振り返ると、一人呟き…傍らの狼王に視線を向けた。

 

「だが接近しないと話にもならねぇ…ロボ、頼めるか?」

『我ニ任セロ、アノ様ナ隙ダラケノ一撃、恐レルニ足ラズ…』

 

 

低く唸るロボだが、そこでチームAの三人にも目を向けさらに唸る。

 

『娘ラ、汝ラモ乗レ』

「え、え??」

 

先頭にいたサクラが困惑そのものの返事を返せば、ヘシアンがその唸り声を通訳したノートを見せる。

 

「大丈夫なんですか…?」

『思案シテイル時間ハナイ、タメラエバ、汝ラデモ死アルノミダ!!』

 

 

 

その気迫に押され、一同はロボの背に掴まろうとする。

だが。

 

《大蛇型ピグマリオン、攻撃兆候を確認!早く退避を!!》

『チィッ!』

 

「わ、わわっ!!」

 

 

ロボが跳躍して一瞬後。

引き上げられたサクラの身体があった空間を閃光の剣が貫いた――今度は、鬱蒼とした魔都の空が割れる。

 

そこから跳躍した先で、一行は再び体勢を立て直す。

 

「マシュ、こっちとあっちの位置関係は分かるか?」

【は、はい!――出ました、大蛇型ピグマリオンを基点に、皆さんの位置は4時方向、距離は50mほどです】

 

そこへさらに別の声が割り込む―シオンだ。

 

【どうやらあのレーザー、次元融合に回しているエネルギーを使っているようですね。あの貫通力は尋常じゃありません】

「同感ね…つまりどうあっても私たちを排除するという意思そのものかしら」

 

硬い声を返すミサキに、シオンが答える。

 

【ええ。どうやら初手の切り札でこちらを殲滅するつもりだったみたいで――攻めるなら今では?】

「いや、そうもいかねぇみてぇだ」

 

会話に割り込む燕青の声。

その声と同時に雷光が光る――

 

 

《ピグマリオンの増援を確認、数30!》

「そりゃあ、こちらの動きを読んでくるよな!」

 

 

 

このままではらちが空かない。

そんな思いが一行の頭をよぎったが、陸斗は開発室のシミュレーターを観戦していた時の一幕を思い出す。

 

「なぁ、チームAの皆、それにハヤテも」

「何です?」

 

シオリの声に、彼はこう話を切り出した。

 

「そのドレスに仕込まれてた宝具は使えないか?」

「宝具…?」

 

 

聞きなれない名前に颯が顔をしかめる。

すかさず、モニターを滑らせシオンが説明に入った。

 

【いわゆる切り札、奥義という奴ですよ。ハヤテ君、思い当たることは?】

 

 

そのセリフに、颯が思案顔を浮かべる。

だが数秒して合点がいったのか、しっかりと頷いた。

 

「神威の弓…確かにそれなら!」

「――よし、まぁやることは変わんないがな…それとマシュ、ちょっといいか…」

 

 

その間にもピグマリオンの群れが近づく。

だが。

 

 

「神の使いたるこの身をもって、全てを光に!!行っっけぇぇ!!!!」

 

 

ミサキの咆哮一声、渾身の力をもって引き絞られた矢が解き放たれ、さながらあたり一帯を塗りつぶす光の鉄槌と化す。

 

それを背に、カルデアの一行が中空を駆け抜ける!!

 

 

【大蛇型への彼我距離、残り20m!】

 

マシュの声が、陸斗にはどこか遠くに聞こえる。

一瞬一瞬が引き延ばされる。

 

彼らに近づこうとするものは、戦闘要員たるサクラたち二人と二騎が片っ端から蹴散らしていく。

 

【残り10m!射程圏です、先輩!!】

「――っ!!いまだロボ、俺を投げろ!!」

 

《良イダロウ、征ケェェ!!!!》

 

咆哮と共に陸斗が空を舞う。

それに気づいた大蛇が貫通光を――

 

 

「サクラさん、彼の援護を!」

「はいっ!!」

 

二筋の神威の矢がその口を縫い留め、解き放たれた力がその首筋で爆ぜる。

首を失った大蛇の奥で煌くものは――雫型が繋がった、虹色の光を湛える宝玉!!

 

《藤丸さん、それです!シュードメモリア確認!!!》

「こいつ、かぁぁ!!!」

 

 

カナの咆哮混じりの声に、残った全力を振り絞る陸斗。

引き絞られた拳に、赤い光が宿る。

 

 

 

『最後の赤き令呪をもって、星見の輩に命じる!我らがあるべき世界へ、帰還せよ!!』

 

 

まるで火の玉そのものとなった一撃は。

確かに。

想念の宝玉(シュードメモリア)を。

砕いた。

 

 

 

光が解き放たれ、魔都が白一色に塗りつぶされ―――……

 

 

 

 

 

暴力的な光が収まり、颯たちは辺りを見回す。

つい先ほどまで連続して轟いていた戦闘音は、まるで嘘だったかのように静まり返っていた。

 

否、そこへ駆け足で近づく複数の足音。

 

 

「レイナ、アヤ、皆!大丈夫?!」

 

颯の声に、自慢げにアヤが答える。

 

「あれくらいなんてことないわよ!」

 

 

そう気を吐いた直後、ふと気づいたように一言呟いた。

 

「―ねえ、カルデアはどうしたの?」

 

 

 

 

ドールズの捜索にもかかわらず、陸斗たちの姿は見つかることはなかった。

だが――

 

 

「これは…NDトランシーバーと……鍵?」

「ちょっと見せてください」

 

砂嵐を吐き続けるトランシーバーを無視し、ナナミが颯から渡された鍵を手に取る。

 

紫が混じった銀色とでもいうのか、どこか冷たさと知性を漂わせる雰囲気。

そしてその柄は、九つの頂点を持った星型の形をしていた。

 

頂点を形作る九つの正三角形は、内側の色合いがそれぞれ違った色で塗り分けられている。

 

「珍しいですね、ダヴィンチの星って図形ですよ、これ」

「僕も初めてみるよ…それに、この色合いどこかで――」

 

 

 

 

 

 

「(取り戻そうぜ、俺たちそれぞれの世界を)」

 

 

 

 

 

 

 

「?、なんか言った?」

 

「聞き違いじゃないっすか?もぉ帰りましょー?」

 

 

心底疲れたというヤマダの声音そのものを最後に、ドールズの一行は旧新宿駅を後にしたのだった―――。

 

 

 






「レイシフト確認、コフィン内部に藤丸君の反応検知!」


そのシオンの声に、管制室が喜びの声に包まれる。
ゴルドルフもまた、脱力そのものの姿勢で椅子に深々と腰かけた。

「しかしまぁ、異世界まで飛ばされるとは。ラリーで遭難しかけたことはあったが、藤丸も大概なことをしたものだ」

そこに近づく静かな足音。
その主は、漆黒のスーツを隙なく着こなし、知的さそのものを纏った顔立ちの涼やかな男だ。

「お疲れさまでした、ゴルドルフ新所長」
「おお、ホームズ経営顧問か。ご自慢の考察とやらはまとまったのかね?」
「ええ、これで一息つけるのでゆっくりと話して聞かせましょう――」



そんな会話を知る由もなく、当の陸斗はコフィンから半身を――

「先輩ーーーーーっ!!」
「う、うわ!マシュ落ち着けって!!」
「だって、だっでぇ・・・!!!」

普段の出で立ちが完全に崩れ去ったマシュに抱き着かれ、体勢を崩しかけていたのだった。
そのマシュは、彼の首筋にきらめくものに気づく。

「あれ、先輩それは?」
「ん?―――――」

その声に促され、彼が首筋から―首筋にかかっていた鎖の先にあったもの。
それに、彼は言葉を失う。



それは、異界の女神から渡されたペンダントそのものだった―――
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