機憶顕出都市 新宿   作:タングラム

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4節 残夢

 

レイナ達…もとい、チームBとのなし崩しの様に始まった茶会から、その翌日。

陸斗は手提げかばんをもった姿で、あるショッピングモールに来ていた。

 

彼女の口添えもあり、その日の買い出し当番だった颯やサクラとともに、ドールハウスのある地区から電車で少し離れた位置のショッピングモールへと来たわけである。

 

賑わい続けるショッピングモール。

行きかう人、老若男女問わず様々な姿。

 

その姿は、記憶が欠落したはずの彼にどことなく懐かしさを呼び起こさせるものだった。

 

一通りの買い出しを終え、出口を後にした三人の耳にある曲が聴こえてくる。

聴こえてきたほうへ陸斗が振り返ると、DOLLSのPVが大型モニターへ映し出されていた。

 

 

「"世界が変わる"・・か」

「どうしたんですか、リクトさん?」

 

ふと足を止めた陸斗にサクラが振り向き、声をかける。

 

「いや、このフレーズがやけに耳に残るんだ」

 

そう彼が答える間に、颯も踵を返し戻ってきていた。

 

「Dolls Destinyだね、僕も同じように気になっていたんだ」

「そうなのか?離れがたい引力っていうんかな、そんなのを感じる」

 

「そうですよねっ?!」

 

 

率直な彼の感想にサクラが身を乗り出すかのような勢いで反応を返した。

 

「お、おう…?」

 

「落ち込んでいるとき、つらい時、哀しい時、その輝きに何度も救われて!

その中に今私が居ること、マスターや皆と会えたこと!世界が変わるってこういう事なんだなってずっと思っているんです!

──藤丸さんはそんな経験ってありますか!?」

 

身を乗り出し、いわゆる食い気味の雰囲気そのままに陸斗の顔の至近距離で目線を微動だにしていない。

その上、顔立ちと熱に浮かされた表情に彼は圧倒され微動だにすることもできなかった。

 

「サクラ、リクト君が止まってるから」

「は、はい…ごめんなさい」

 

颯に止められたその表情に、陸斗はどことなく犬の耳のようなものを感じ取る。

落ち着きを取り戻した彼女の姿を見て取り、彼は口を開いた。

 

「世界…世界か、それなら正に感じてるかな」

「そうですか?!」

 

「──ああ。記憶喪失になってしまった俺を助けてくれたドールハウスの皆がいる世界が、優しい世界だって事を気づかされたよ」

 

 

そういう彼の蒼眼はどこか虚ろげさを宿すようだった。

 

「(でも、世界は優しいだけじゃない。リクト君、それはわかってるのかな)」

 

 

彼の答えを聞いた颯は一抹の不安を考えつつも、帰路についたのだった。

 

 

 

 

 

*     *     *    *

 

 

 

 

 

ドールハウス、とある一室。

モニターが暗闇を照らす一室で、少女が…部屋の主であるヤマダがキーボードを叩いていた。

 

よく見れば所狭しと機械やモニターが並ぶその部屋は、一般的なアイドルのイメージとはまるで違う。

電脳世界を生業に生きるもの、ハッカー、クラッカー。

 

そのような形容が似合う部屋だった。

 

「ん、んん??」

 

 

その彼女は、普段のルーチンワークであるインターネットの海を気ままに動いていたが…

とあるニュースサイトの記述に目を止める。

普段なら絶対に気にしない類の与太話を集めた、いわば「まとめサイト」という物だが─

 

 

「何かに噛み千切られそうになったと思ったら、また別の何かに助けられた?場所は…」

 

機器を操作し、地図を呼び出す。

だがその地図は、彼女らの巡回していたルートではない裏道の一つだった。

 

「パンピーには何も見えず、けどギア持ち以外にピグマリオンとがっぷり四つやれるのがいるって?にわかに信じがたいですなー……待て、そういや」

 

 

そこで数日前の映像が彼女の脳裏によみがえる。

それは人外の領域に見えた動きをした拳士と、それに指示を出していた要救助者の姿。

 

「………」

 

 

資料としてそれらの画像を保存し、印刷をすると彼女は自室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

*     *     *    *

 

 

 

 

 

夜にしてはけたたましいチャイムに陸斗は身を起こす。

 

「誰だよ、こんな夜更けに─」

「夜更けで悪かったっすね、電脳戦士に昼も夜も無いっすよ~」

 

 

扉を開けた彼の目の前にいたのは、水色の髪に紅い目をした少女。

 

「えと…ヤマダちゃん……?」

「えー、ヤマダでいいっすよぉ。ユキさんも呼び捨てで呼んだんでしょ~?」

 

 

そうへらへらとした顔でやり取りをするが、一瞬後に彼女はその気配をかき消す。

 

「藤丸氏の記憶のカギになるかもしれないブツを見つけたんで、お届けにあがったんすよ」

 

 

そういうと、彼女はホチキス止めされた手製の紙束を彼に押し付けるように渡す。

 

「…?その、ありがとう…?」

「いいっすよ~、代価は巡回の交代ってことで」

 

 

んじゃ、と言い残し彼女は有無を言わさずというかのようにその場を後にした。

 

 

渡された写真に彼は目を通す。

一見、ただゴミなどが散乱した裏路地だが…それに目を通した瞬間、左手の甲が熱を発した。

 

 

「っ…なんだこの熱さ……?!」

 

いや、異変が起きたのは手だけではない。

その写真にも、滲むかのように「何か」が現れる。

 

龍と牡丹の刺青をしたいかにもな無頼漢、巨狼に跨る首無しの騎士……

 

 

「───ッッッ!!!」

 

脳天を叩かれた様な衝撃とともに、彼は即座に意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

唐突に、彼の意識は現実に引き戻される。

だが、その目の前に広がる光景はそれまでとは一変していた。

 

空には無数の星が煌き、滝を落とす浮島すら浮いている。

また幾何学模様の結界がそこに停止しているかのように広がっていた。

 

風は暖かく、どこか甘い匂いすら感じ取ることができた。

 

そして地面に目を向ければ青々とした草原と色とりどりの花が咲いている。

 

 

「なんだ、ここ……」

「起きたのね?」

 

彼の訝しがる声に重なるように、足音と共に聞こえたのは涼やかな女性の声。

振り向くと一人の女性がこちらへと近づいてきていた。

 

そうしている間にも彼女は陸斗の目の前まで近づき、足を止めた。

 

まばゆいほどの銀髪を黒百合の飾りが施されたヘアバンドでまとめ、純白のローブのような、またはドレスのようにも見える装束をまとっている。

装束の下に隠された胸元もまた大きく、並大抵の男であれば即座に虜にしてしまうほどの清楚さと色気を同時にまとっていた。

 

その瞳はまるでアルマンディンガーネットの様な深い赤紫色、どこか人間離れした気配しか感じられないものだ。

その視線とぶつかった瞬間、陸斗は質問を投げかける。

 

 

「ここはどこなんだ?俺はドールハウスの地下にいたはず」

「─発言は許さない」

 

 

赤紫色の瞳にひし形の文様が見えた、と思った瞬間、彼の声音が掻き消える。

 

「(なっ……)」

「本当は王さま以外をこの果ての庭園に招きたくはなかったのだけれど、致し方なく招き入れることにしたの。余計な質問は受け付けない」

 

そう話し終えると、続けて話題を切り出す。

 

「貴方、あの新宿にピグマリオンとも違う霊的存在を持ち込んだわね」

「(──何でそれを)」

 

「私にはすべてお見通しよ。事故のようなものとは思うけれど、それによって想定外の進化がピグマリオンに起きている。貴方にはその後始末をしてもらうわ」

 

その話に、彼は記憶の彼方に残っていた『青く淀んだ魔都』の光景を思い出す。

 

「それにしても無茶をしたものね、その服の異能かもしれないけれど魔都の空気を、霊子を変換して霊的存在と一緒にピグマリオンへ立ち向かっただなんて。

──その無謀さと諦めの悪さに敬意を表して、一つ贈り物をあげる」

 

 

そう言い終えると、彼女は指を軽く鳴らす。

すると、どこからか光が集まり……

 

「(これは─ペンダント?)」

「それがあれば、その服の異能よりも安全に魔都の霊子を変換できるわ。さ、渡すものは渡したから出ていってちょうだい」

 

 

その言葉は、まるで強制力そのもの。

言葉が最後まで紡がれると同時に彼の意識は体もろとも『果ての庭園』から消し飛ばされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*     *     *    *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び陸斗が目を覚まし、壁掛けの時計を見ると朝の六時半を指していた。

 

「あの物凄い美人、何者だったんだ……ん?」

 

夢現だった記憶はおぼろげになっていたのだが、簡易ベッドをまさぐっていた手が何か硬い感触をつかむ。

持ち上げると、まず銀の鎖が現れ─

 

「──こいつは」

 

最後まで持ち上げると、夢現だった『庭』で押し付けられるように渡されたペンダントが出てきた。

 

正方形を回転させ重ねたようなフレームに、涙滴型…涙の形をした、虹を表面にまとった小石が揺れる。

少し迷った挙句に彼はそれを首へと架け、洗濯されていた黒と灰の上下に袖を通した──

 

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