機憶顕出都市 新宿   作:タングラム

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6節 交路

 

チームAとチームC、そして二人のマスターが帰還して数時間後。

最後に帰還してきたチームBを加え、緊急会議が開かれた。

 

その議題はもちろん、記憶を取り戻した陸斗についての事だった。

 

 

「正しく続いたヒトの歴史を観測する天文台、カルデア。そしてお前が…藤丸陸斗がそのマスターとして最後の生き残りという事なんだな?」

 

セツナの驚きや戸惑いなどを押し殺した問いかけに陸斗は深々と頷く。

 

「ええ。正しく続いていく歴史、"人理"を観測し、そこに異常があれば調査を行う天文台。そこが人理保障機関カルデア、でした」

「でしたってどうゆう事?リクト君はそのカルデアの人なんだよね?」

 

彼の説明にヒヨが反応し、更なる解説を求める。

 

その声にわずかに彼は顔をゆがめ、説明を続けた。

 

「ああ。…けどな、俺が最初に来たカルデアは氷漬けだ」

「……ほえ?」

 

「待ってください、話が繋がらない!」

 

硬直したヒヨと入れ替わり、ナナミが声を荒げる。

 

「もう少し踏み込んだ説明をさせて欲しい、まずは落ち着いてくれ」

「む─」

 

多少憮然とした顔で彼女が襟を正したところを確認し、陸斗は話を続ける。

 

「ヒトの歴史を…今現在まで続いてきた歴史のターニングポイント、特異点を巡る戦いが終わってから、いわゆるお偉方からの事情聴取があった訳だ」

 

「嫌なモンっすね」

「あら、珍しいじゃないの」

 

どこか呆れを乗せた口調でヤマダが答えれば、アヤが更に口をはさむ。

 

「これまでの話を聞いてりゃ、藤丸氏やカルデア連中って無理して人類のために戦ってた。けど、そんなんじゃ責められてるみたいじゃないっすか」

「そうね……決して表には出ない戦いを続けていたって所は私達に通じるところはあるわね、っとごめん、話を続けて」

 

「分かった─このまま行けば、俺はすべての職務を解かれて家に帰っているはずだった」

 

 

そういう彼の蒼眼は、ふっと遠くを見やるような色を見せた。

だがそれを振り払うように首を振ると、言葉を続ける。

 

「けど、ある大富豪がカルデアそのものを丸ごと買い取った直後、正体不明の勢力から襲撃を受けてな」

「正体不明?それって?」

 

颯の先を急かす言葉にうなずき、彼は話を進めていく。

 

「その時は逃げるので精いっぱいだったからな、これは後で知った単語だ──オプリチニキ、ってわかるか」

「オプリチニキ…確かロシアの特権を持った憲兵、でしたか。それに襲われたと」

 

「ナナミの話通りだ。つい先ほど話した大富豪でありカルデア新所長になったゴルドルフ・ムジーク氏や俺にとっての後輩のマシュ、生き残った職員と脱出してきて…何だかんだあって今に至る」

 

 

そこまで話し終えると、彼は深く息をつく。

それと入れ替わるようにサクラが質問を投げかけた。

 

「そうだ、陸斗さんを最初に見かけたときに一緒に連れていた男の人と巨大な生き物はどこにいるんですか?」

「そいつは─」

 

『おっと、オレを呼んだかい』

 

虚空に声が響いた、と思った瞬間まるでそこに最初からいたかのように現れる一つの姿。

 

つややかな黒髪と切れ長の瞳に、牡丹をあしらった漢服の上下。

そして日の当たる世界ではまず見ないような、凄みを漂わせる顔立ちだった。

 

「サーヴァント・アサシン。天巧星の燕青、ここに推参だ」

「わわ?!お話全部聞いていたんですか?!」

 

 

驚くサクラの顔とは対照的に、陸斗は多少苦みを感じたような表情を見せる。

 

『趣味悪いな、これまでの話全部聞いてたのか?』

『おうさ。護衛としては当然だろーがよ、なかなか面白い話だったぜ。ちなみにアヴェンジャーは外で待ってるってよ』

 

それは、サーヴァント契約による念話を知らないDOLLSからするとアイコンタクトの様にしか見えない。

だがそれでも何かはある、と感じとることができた者もいた。

 

 

「つい先ほどの話そのままなのね、歴史上の人物と共に戦う、だなんて考えすらしなかったわ」

「それに、水滸伝の燕青といえばあくまで創作上の存在ですよ?なのになんでここに存在できているんですか?」

 

どこか呆けたように感想を話すアヤと、ナナミの指摘の声に燕青が視線を向ける。

 

「そうさな…」

 

一度そこで彼は言葉を切り、陸斗に視線を向ける。

彼は多少迷った様子を見せたが、小さく、だがしっかりと頷いた。

 

その意図を受け取り、燕青は口を開く─

 

 

「俺たちは確かに歴史そのものに謳われた存在そのものじゃねぇ。サーヴァントとしての形が確定している状態を100とすると、素の状態じゃ30か40そこらって所だ」

「どこかの魔神がそんな存在に目を付けた。ここで質問だ、サーヴァントとして成立するパーツはどこから持ってくればいいと思う?」

 

彼の言葉に、場が静まり返る。

その中で答えたのはユキだった。

 

「歴史上そのものではないとするなら、伝承そのものでしょうか?」

「お、銀髪の。アンタいい線を突いたぜ──そうさ、陸斗の時代で知る人ぞ知る都市伝説やオカルト。その要素をパーツとして組み立てられたのが幻霊。英霊ならざる何者か、って訳よ」

 

「ほーん…燕青氏、昼間の戦いで見た首無しと青い狼もそんな類?狼の方は何となくアテがついてるんすけど」

 

頭の後ろ手に腕を組みつつ、問いかけたヤマダにも、指を鳴らし彼は答える。

 

「へぇ…じゃあ思い当たる名前言ってみ、青いの」

「───狼王ロボ」

 

 

ヤマダの口に出した名前に、カルデア所属の二人の表情が固まる。

 

数秒して、燕青が破顔一笑した。

 

「はっはっは、ほとんどノーヒントで当てるかよ!?ってもパーツの一つだがな」

「──まぁ?狼の伝承って言ったらこいつでしょ。首無しは全く当てがないんすけどね」

 

すぐに表情を引き締め、燕青が残りの解説をはじめた。

 

「まぁ首なしのほうは分からなくても仕方ないさね、無名の傭兵をパーツとして合体しただけの存在だからな。総称してヘシアンという傭兵さ」

「つまり、ヘシアン・ロボって呼び名になるんすか」

 

「─ご明察。ついさっきの話の通り、オカルトを寄せ集めた姿がこうなるって訳」

 

 

 

「そう言えば」

 

話が落ち着いたところを見て取り、これまで静観していたミサキが口を開く。

 

「あの大蛇型のピグマリオン、これまでのデータベースには登録されているのかしら?全くの新顔ならそれだけで脅威そのものよ」

 

 

 

「それについては、EsGも脅威度を更新しているようなんです」

 

ミサキの問いにはカナが答えた。

そう答えている間にも機器を操作し、何枚かのスライドを呼び出す。

 

「データベースには一切既存のデータがありませんでした、またモノリスかそれ以上のピグマリオン展開能力を持っていることだけは確かです」

 

ある画像には「詳細及び既存情報なし、解析優先度:高と断定」という文字。

またもう一枚の画像には、虚空に浮いた雷球から一気に現れる無数のイーターやウォッチャーの姿が映し出されていた。

 

 

「この展開能力は脅威以外の何物でもないですね」

「シオリ?……けどそうか、これまでのDOLLSの戦いで遭遇してきたピグマリオンは小規模な範囲がほとんどだったね」

 

「その通りです、数は力という言葉がありますが、このピグマリオンはそれに特化しているのでしょうね…モノリスの類とはけた違いに」

 

 

顎に手を当て語るシオリに、これまでの経験を思い出した颯が答える。

そこに、話を聞いていて気がかりに思い至った陸斗が質問を投げかけた。

 

「そうだ、ピグマリオンっていややけに六角形の板の塊のヤツを多く見かけた気がしたんだが、あれは今の俺の状態と何か関係あるのか?」

「あら、鋭いじゃない──」

 

レイナが答えたのを感じ取ったのか、画像が一つ切り替わり浮遊している六角形の板の塊を映し出す。

 

「これはセルブロッカー、記憶だけを奪われた被害者が発見されたときに見かけられる種別よ。

─思えば、藤丸くんはこのパターンだったわね?」

 

「記憶だけ…か、確かに状態そのものだな。ピグマリオンの種類って何か出現する傾向とかあったりするのか?」

「ええ。何かに喰われるというトラウマの具現のイーター、息をひそめていたのに見つかったという恐怖の具現、ウォッチャー…という具合にね」

 

 

彼女の答えに、陸斗は顎に手を当て考え込む。

 

「トラウマの具現化って事か…じゃああの大蛇はどんなトラウマなんだろうな?」

 

 

 

そう発言が終わるかどうかのタイミングで、壁掛け時計が鳴る。

 

 

 

「もう10時?!時間過ぎるの早すぎるよ!」

「─情報共有の時間はここまでのようだな…一度解散だ、各チーム、マスター、および藤丸陸斗は明日の2000からもう一度会議を行う。各自休息をしっかりと取るように」

 

 

 

 

 

ヒヨの驚きの声とセツナの取り仕切りで、一度この場は解散となった。

 

 

 




女性陣が出ていき閑散としたミーティング室に残ったのは、陸斗と颯、それにユキだった。




「颯、一つ確認したいことがある」
「まだ他に確認したいことがあるんだ?」

「ああ─」

そこまで言い、陸斗は首元をまさぐると─鎖につながれたペンダントを取り出した。

銀色の四角いフレームを二つ角度を変えて重ねた外枠に、電灯の光を受けて鈍く輝くフローライトの様な「何か」


それを見た颯の後ろから見ていたユキが、わずかに表情をこわばらせる。
彼女の直感は、そのペンダントから猛烈な感情の渦を感じ取っていたからだ。


「……ユキ?どうしたんだ?」
「陸斗さん、これをどこで」

颯の言葉を無視し、ユキは…彼女にしては固い表情とペリドットグリーンの瞳をまっすぐ陸斗に向け、問いかける。

「夢で貰ったものがここにある、って言ったら二人とも信じるか……?」



結局、会議室の明かりが落ちたのは解散から30分後の事だった。
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