機憶顕出都市 新宿   作:タングラム

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7節 廃都-Ⅰ

 

その翌日、DOLLSの一同は普段通りのミーティングを終える。

それまでと違うところは、巡回チームの中に陸斗を正式に加えたことだった。

 

 

「藤丸君が異世界の住人だったのなら、何か関係がある場所にシュードメモリアが出ているはず。カナさん、反応はどうでしょうか?」

 

シオリの声にこたえ、カナが機器を操作する。

少し後に首を横に振り…

 

「メモリアの反応はありませんね…これまでの傾向とは違ってきているようです」

「話に割り込んで悪いんだが、シュードメモリアって何だ?初めて聞くんだが─」

 

 

たまらずと言った声音で陸斗が説明を求める。

 

そんな彼へシオリが振り向き、静かにうなずくと説明を始めた。

 

「私たちが扱うメモリア結晶は実体化した感情のもの、それに対してシュードメモリアというものはある場所に対する強力な記憶が具現化したモノなんです。

例えば、思い出の土地や場所のような」

 

「これまでも、貴方と同じような事件は幾度かあったのよ」

 

シオリの説明を引き継ぐように、今度はミサキが話し出す。

 

「例えば、ある劇場に現れたシュードメモリアは舞台女優の卵だという少女を引き連れてきていたわね…これで説明になるかしら」

 

「思い出の土地、場所──何かをつかめそうな気はするんだがな……」

 

小さく礼を言い、陸斗は口を閉ざした。

沈黙した場に、セツナが次の議題を加える。

 

 

「話は済んだな?では、DOLLSは新宿の定期偵察へ向かってもらう」

 

 

 

 

 

それから数十分後。

陸斗と二騎のサーヴァントを加えた一行は異界と化した新宿に降り立っていた。

 

 

「助けられたときは無我夢中だったからと思うんだが」

 

そこで言葉を切り、陸斗は周囲を見回す。

そして再び口を開いた。

 

 

「なんて言うんだろうな、引き込まれるような感覚がある」

「…むしろ、こんな異世界に慣れている貴方のほうが異常よ」

 

 

どこかさめた視線でミサキが一瞥を投げかける。

だが、とうの彼はそんな刺すような視線を物ともしていない素振りだった。

 

「─まぁ、異世界に慣れてるってのは当たってるさ」

「異世界に慣れてる?どういう事かしら」

 

わずかに興味をにじませた視線を向け、ミサキが問いかける。

他のDOLLS一行も足を止め、二人の近くへ近づいてきた。

 

それを見回し、陸斗は小さくうなずくと口を開く。

 

「前に"何だかんだあって今に至る"って話をして締めただろ?これから話すのはその部分だ」

 

 

一呼吸の後、彼は自身の今までの経緯を語り始めた。

 

 

「カルデアを脱出した俺たちは、その襲撃者の首魁であるキリシュタリア・ヴォーダイムから宣戦布告を受けた。ヤツが言うには、

 

《君たちの歴史は前提から間違っていた。その為に、あってはならない『もしも』が続いた世界、異聞帯を上書きするための戦いを始める。その場に、古き歴史の住人である君たちの居場所はない》

 

…だそうでな」

 

 

「あってはならない『もしも』……」

 

話を聞いていたサクラが小首をかしげ、考え込む。

 

「例えば、私自身がDOLLSのファンでなかったら…とかですか?」

 

その答えに、陸斗が小さくうなずいた。

 

「まぁ個人的な範囲でならそうなるか。現世にとって致命的なイフを…滅んでいるはずの文明が生き残っていたりするとかだな。

そんなもんが続いてしまった世界が俺のいるカルデアでは七つ確認されている。これを魔術師たちは異聞帯、ロストベルトと名付けているのさ」

 

「ろすとべると…うーん…想像できないよぉ」

 

ヒヨが困惑の表情を見せる。

それも見て取り、陸斗は蘇ってきた光景の記憶を話し出した。

 

「そうだな……北欧神話のラグナロクは分かるか?」

「あ、それなら分かる。北欧神話の最終戦争で、世界はレーヴァテインに焼き払われ生まれ変わったっていうのだよね?」

 

 

それに反応したのは颯だった。

 

「"正しい歴史"だとそうなってるな。だがここにさっき話した【あってはならないもしも】が続いてしまった世界がある…あった、だな」

「あってはならない?それこそ──」

 

話を聞いていたナナミが言葉をはさむ。

一拍の後、彼女は思い立った言葉を口にしていた。

 

「それこそ、ラグナロクのなかった北欧神話という事でしょうか」

「そうだ。俺は……そんなあってはならなかった北欧神話の姿を見てきた」

 

 

陸斗の話は続く。

 

「熱を出さない炎に覆われた山脈と、作り物のような銀世界がせめぎあう平野。俺が旅してきたイフの北欧神話の世界の在り方がこれだ。

その世界は、辛うじて存在は出来てもそれ以上発展は出来ない。

土地が限られた世界だったからな。

進化も発展もできず、無尽蔵の様に延命処置がされている。そんな世界があったのさ」

 

「─待ってください」

「シオリ?どうしたんだ?」

 

静かに聞いていたシオリが声を上げる。

声をかけてきた颯と目線を合わせ、アイコンタクトをとると彼女は続きの言葉を話し出した。

 

「発展ができなくても、人間はいたんですよね?それなら…何かしかの対策を生み出せたのではないでしょうか?」

 

 

彼女の疑問に、陸斗はゆっくりと、だがしっかりとした動きで首を横に振る。

 

「いや、それもできなかった世界だ。土地は限られたって言っただろ?その限られた土地に暮らせる人口の数は一万、それにむやみやたらと延命させることも許されない──」

 

 

そこまで言い、彼は口をつぐむ。

 

「藤丸氏、続きは無いんすか?」

 

唐突に語りを止めた彼を訝しみ、ヤマダが先を急かす。

それでもなお、彼は目線を左右させていた─迷いそのものの表情で。

 

「…大丈夫です、聞かせてください──貴方の歩いてきた世界を」

 

サクラの促す声に息をつき、彼は意を決したように小さくうなずくと続きを語り始めた。

 

 

「…分かった。30歳を過ぎた人間は、有無を言わさず粛清されていった。巨人と…機械の様な戦乙女の手でな」

 

 

その響きは一同に重くのしかかる。

いちはやく立ち直り、口を開いたのはシオリだった。

 

「機械の様な・・・ですか、まるでかつての私達?」

「─そうだな、人間らしい感情の動きも一切なく魂を狩り集めるヴァルキュリア。その在り方に待ったをかけ、最後はただ一柱残されてしまった女神とも決着をつけないといけなくなった」

 

 

 

「決着はどうなった…なんて、改めて語る必要はなさそうだね」

「ああ。北欧異聞帯から旅立って、俺が今この地にいる。それが全てだ」

 

颯とそう言葉を交わすと、陸斗は視線をひときわ目立つ摩天楼へと向ける。

 

 

DOLLSの一行もそれぞれに歩き出した、否歩き出そうとしたが、そこに一つの通信が割り込む。

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