機憶顕出都市 新宿   作:タングラム

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8節 廃都‐Ⅱ

 

《各員警戒を、何かの反応が急速発生しています!》

 

 

 

モニタリングしていたカナの警戒を呼び掛ける声に、少女たちは即座にスリーマンセルの隊形を整え、二騎のサーヴァントがその合間を埋める位置をとる。

一拍遅れ、虚空に雷光が走った。

 

 

「さぁて、何が来る?量産型ピグマリオンなら一捻りに──」

 

機械製の鉄槌を構えたヤマダが舌なめずりをするかのように気を吐くが、そこに現れた姿は彼女たちが見慣れている敵のものではなかった。

 

「──は?」

 

 

 

 

 

 

現れた姿は、これまで確認されていたピグマリオンとは明らかに違う。

ニンゲンの姿をした「何者か」。

 

そうとしか形容できないものだった。

いずれも、体を覆うようにネオングリーンの直線の光が走っている姿だけは共通している。

 

 

そのうちの一体──痩身に二刀流のダガーを構えた影が走り出す予備動作すら見せず彼女に迫る!

 

「行かせない!!」

 

とっさの反応に一拍遅れたヤマダをかばう様に、アヤが虚空から純白の剣を抜きはらい、その一撃を食い止める。

 

 

「っ、リーダー、助かったっす…」

「感謝は後!けどこいつら一体何者よ?!」

 

 

そのやり取りを交わす間にも、人影は増えていく。

 

『大剣を掲げる騎士の影』

『牛頭に大斧を構えた狂戦士の影』

『三角帽子に槍を構えた影』

 

 

 

…そしてそれらの姿は、カルデアの魔術師だった陸斗には馴染みがありすぎるものだった。

 

 

「(こいつら、サーヴァントピースの姿を模しているのか…だとしたらDOLLSだと反応が追い付かない危険がある!)ロボ、自由判断で構わないからDOLLSの連中を守ってやってくれ!」

 

『(我ガ子ノ願イナラバ。続ケヨ、騎手)』

『(オーケー、合わせるさ)』

 

 

うなり声をあげ、ヘシアン・ロボが隊形から離れた距離をとる。

 

「燕青も前線を頼む、シャドウサーヴァント相手にDOLLSの力がどこまで通じるか未知数だからな!」

「はいよ!!」

 

そう指示を交わす間にも前線では激しい激突音が響き渡っていた。

 

 

牛頭に斧を携えた影と、白銀のハルバードを構えたサクラが鍔迫り合いに入る。

だが、そのバランスは少しずつ押され、崩れていた。

 

「なんて力、けど下がれない!」

 

気合一声、彼女はその場から持ち直し長柄を滑らせてその力を受け流す。

バランスを崩した影に鎖をあしらった長銃を構えたミサキが滑り込み──

 

「逃がさない!!」

 

虚空から全く同じ銃を呼び出し、双銃の一撃を撃ちこむ。

 

「助かりました!」

「─当然よ」

 

だが、たたらを踏んだ狂戦士の影は態勢を戻し、反射的な動きそのままに二人へ斬りかかる。

先ほどの一連の動きを繰り返すように、今度はサクラの側から迎え撃つ。

 

「速いけど、ただ突っ込んでくるだけならっ!!やああ!!!」

 

ヒトを超えた身体能力から突き出される銀の穂先。

何も対策を考えていないような直線的な動きならば、そのまま突き刺されて終わるはず、だった。

 

だが、影が纏っていたネオングリーンのラインがカメラのフラッシュの様に瞬く。

その有り様にミサキが奇妙な引っ掛かりを覚えた刹那、穂先と影が激突し──あまりに軽すぎる手ごたえだけが残った。

 

「あ、あれ?手ごたえが」

 

まるで滑ったかのような感触。

その影は明らかに穂先の一撃を逃れていた。

 

動きをくじかれ、今度はサクラがたたらを踏む。

もう終わりか、とでも言うかのように影が斧を構え─唐竹割りのように振りかぶる!!

 

 

「(ダメ、間に合わな)」

「させっかぁ!!」

 

大喝一声、燕青が飛び蹴りの一撃で割り込む。

その直撃を受け、今度こそ影は消滅した。

 

 

一方のチームBは…

 

 

「未知の相手だからと引き下がるのは…あり得ないわね」

 

まだ冷静さを保ったセリフとともに、左右対称の鹿角のようなシルエットをした剣を構えをとったレイナが影の槍を携えたモノに打ちかかる。

その戦況は一進一退、時間をかければどうなるかわからない状況。

 

だがそれは、「一人だけだった場合」だ。

 

「よそ見しててー……」

 

その声に槍士の影が視線を左右させる。

 

「いいのかなぁ!!」

 

 

その頭上から弾丸の雨が降り注ぎ、周囲に土ぼこりが舞う。

 

「ヒヨ、Nice work!」

「へへ、これくらいへっちゃらだよ!」

 

軽くハイタッチを交わす二人。

ナナミが周囲を警戒し──鋭く警告を発した。

 

 

「っダメです、まだ相手は生きてます!!」

 

 

 

その声に振り向く二人。

得物を構えなおすよりも先に影の槍が迫る!

 

『(サセヌゾ!!)』

 

だが、その槍に嚙みついて食い止めた存在が一つ。

 

「オオカミ君?!」

 

ヒヨが驚きの声をかける間にも、ロボは槍を咥えたまま首を勢いよく振り上げる。

勢いと共に解放された影は空中で動く事すらできず、まさしく虚ろに空を舞う。

 

『(騎手ヨ!)』

『(引き受けた、相棒!)』

 

それを追い飛翔したロボを足場に、ヘシアンがさらに高く飛ぶ。

いつの間にかその両手には首狩り剣が顕現しており─そのまま閃撃を交差させ、影を引き裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「掃討完了ですね……けど、あの影は一体?」

 

最後にもう一度周囲確認を行い、シオリが戦闘終了を宣言する。

その問いにミサキも同調し、口を開いた。

 

「やけに目立った緑の光、あれが明らかに怪しいわ──サーヴァントが居なかったらどうなっていたか」

「はい……まさか途中で攻撃がそらされるなんて」

 

脳裏に走った走馬灯を思い出し、サクラも身震いする。

 

「ねえ、ちょっといい?」

 

 

そこへさらに、アヤも割り込む──チームAの三人とはまた違った、いぶかしむ表情で。

 

 

「私たちの方はナイフを構えた影を一度止めたんだけれど、そんな素振りは見せなかったわよ?」

「戦わずに一当てして逃げたって事か?」

 

その話に反応したのは陸斗だった。

 

「ええ。私が一撃を食い止めた次の瞬間にはもういなかったわ」

 

「ナイフを構えた姿に一当てして逃げる…威力偵察だな、アサシンの仕事ではあるか…」

「会議室で聞いていた話ね、暗殺の為のサーヴァントって」

 

彼女の言葉に陸斗が頷く。

 

「ああ。アサシンは読んで字のごとく暗殺者の逸話をもって英霊に成ったサーヴァントだ」

 

その言葉に一行が注目し、視線を集中させる。

それを意に介さないように彼は続きを話し出した。

 

「サーヴァントとの戦闘については非力だが、マスターを狙うことで一発逆転をする。大抵はそんな立ち回りだが……

それに、あの影はどれも覚えがある」

 

「見覚え?どういう事よ」

 

わずかに険しさを増したアヤの声にうなずき、陸斗は続きを話し出す。

 

「見覚え…というか形そのものだな。名前を得るところまでいかなかったサーヴァントの概念、その集合体…シャドウサーヴァント。

だがそれだけの要素で組まれた存在でもなかった」

 

「体中に走っていた緑の光ですね?」

 

そう答えたのはシオリ。

それにうなずくと陸斗は話を続ける。

 

「ああ。俺…違うな、俺たちはああいう手合いとも戦ってきてはいたがあんな派手な姿じゃなかった」

 

 

 

 

いくら話をしていても埒はあかず、結論も出ない。

煮え切らない感情を抱えたまま、一行は先へと進む。

 

進もうとしたが─

 

 

『巨大な霊的反応を確認!このパターンは──』

 

カナの答えが示されるよりも先に、「それ」は姿を現した。

 

くすんだようにも見える銀髪に、ガーネットレッドの瞳。

簡略化した燕尾服のようなシルエットとズボンをまとう姿。

 

その姿を目視した瞬間、颯が声を荒げた。

 

「─デウス?!このタイミングで─」

 

「全員そろっているのは実に都合がいい」

 

彼の言葉にかぶせるかのように、中性的な声をした者…デウスが口を開く。

 

 

「今の僕はメッセンジャーでね。君たちと戦うつもりはない」

「ハ、どの口が─」

 

ヤマダが打ちかかろうとするが、彼─否、彼女は両手をひらひらと広げ話を続ける。

その視線は陸斗のほうを向いていた。

 

 

「人の話は最後まで聞くものだよ?──結論だけ伝えようか。異界の魔術師クン、君の探し物はこの先にはない」

「…?!、お前は俺を知っているのか、それに「神」とは大きく出たな」

 

 

その口調に、衝動的に叫ぼうとするセリフを抑え込み陸斗が口を開く。

 

「そうだとも、神はすべてを見通しているのさ。君の手掛かりは君自身が持っている──思い当たる場所を思い出したのなら向かってみる事だね」

 

 

そこまで伝えると、彼女は有無を言わず消え去ってしまった。

 

 

 

 

 

増えた謎だけを持ち帰り、一行は魔都から帰還することになる。

その帰路の途中、陸斗の胸元に下げられたペンダント、その虹の宝玉がわずかに色味を変えていたことに誰も気づくことはなかった。

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