ゲーム舐めんな現実世界! 作:かりん
「主席の挨拶ですか?」
執務室で俺は、親父から、学院からの手紙を受け取っていた。
15歳になると、貴族は5年制の貴族学院へと通い、石の名を受け取る。
国への帰属意識を身に着け、人脈を作り、貴族の資格を得るのだ。
何人たりともこの手順を踏まないと貴族当主になれない。貴族としての権利もない。なので、飛び級措置はあるものの、貴族の嫡男は必ず、手柄を立てた商人や武人や職人なども入ってくる。エリート中のエリートの学校だ。
特に、今年は王族がご入学される。
俺含む筆頭貴族の子供達はそれに合わせて子作りされ、厳密に言えば1歳違いだが、同じ学年へと配属されることとなる。
つまり、俺達は14歳で学校に通うのだ。
事前に学力テストや論文、魔法、剣技の実技のテストも行い、協議の上に順位付けがされる。学院とはいうものの、勉強する者ではなく、勉強した者が行く場所である。
「ホープ・パープルやソード・レッドは? あと、平民の始祖ロイは?」
かなりの神童と噂されていたはずだが。ちなみに、平民で突如魔力を発現するものは始祖と言われ、例外なく魔力が高く遺伝性が強い。めったになく、隔世遺伝とは完全に別なので、慎重に調査される。
「お前がフルコンプリート(全科目で主席)だ。プライド殿下の魔力量を除いてはな。特にお前の氷剣は大いに評価された。将来的に大変意味のある無駄だと。それに、殿下は魔力があまりに高いゆえ、表に出るのは避けておられる」
プライド・サクラ・グノスパトリダ殿下。真ん中のサクラの名は、王妃様のご実家、隣国の公爵家の家名。グノスパトリダは国名で、古い言葉で知識の故郷という意味らしい。
凄い国名をつけたもんだと思う。まあ、平民でも8割が魔法が使えて、他国による国民の誘拐が悩みなくらいすげー魔法国家なんだけどさ。
殿下なんて、新しい血が混ざったのが良かったのか、すでに王族なのに始祖でもある。
つまり、王族の高い魔力と始祖の高い魔力の相乗効果でとても凄いということだ。
おかげで、下手に言葉を話すだけでも魔法になるという。なので主席挨拶は出来ない。
ちなみに、氷剣は魔法剣を諦めきれずに研究したものだ。本当は炎が良かったんだけど、延焼が怖かったので氷にした。
人の背ほどもある剣で、剣を冷やす魔法を中に仕込んであるので大変に脆い。
あと、手が凍らないように柄は温めるようにしてある。
保って3分、五回使えばもうだめになる。
費用はめちゃくちゃ掛かったが、まあ侯爵家だし。
領地経営の勉強はすこぶるうまくいっている。
商売は夢の中で沢山したからな。ギルド戦争したり締め上げられるほどにしたからな。
夢と現実はそりゃ違うが、親父が満足する程度の成果は出せた。
俺が新しく立ち上げた携帯食部門は軍需物資に指定されて大変な売上を出している。
これを成果として出しても良かったのだが、食いしん坊みたいに思われるのが嫌だったのだ。
うん、俺も神童だな。神童ですわ。
世間様では戦えない出来損ないの無能とこぞって噂されているが。
「謹んで拝命します」
「変な事はするなよ。普通でいいんだからな」
そう言われて、俺は頷いた。
学校といえば虐めだ。俺は虐められたくはない。
なので、目立たないようにするつもりだ。
当たり障りのない無難な言葉を、相談しながら書いていく。
しっかりと短めの挨拶を練って、練習して、カンペももちろん用意した。
これで主席挨拶は問題ないな。
入学式当日。
講堂で、錚々たる貴族が並ぶ中、俺は緊張しながら壇上を上がっていた。
俺はどうも、自分が侯爵令息だという自覚がないし、なんなら男爵程度の高貴オーラで気後れしてしまう。自分が平民だという意識があるのだ。
産まれたときから上から数えたほうが早い爵位だというのに。解せぬ。
そんな高貴な方々が、俺を見てる。
失敗はできない。
頭が真っ白になって、カンペを用意していてよかったと開く。
『このチーター』
は?
え? もう虐められている? 入学式の最中ですよ!?
俺は真っ白になって、口を開いた。
「貴族の義務は戦うことですが、俺は戦えません。度胸がなくて、今も頭が真っ白で、何を言っていいかわかりません」
どよどよどよ
「なので、今まで聞いた中で一番心に残った演説をこの場で披露したいと思います」
そして、ええい、ままよと真っ白な頭のまま、思いっきり拳を振り上げる。
「諸君、私は戦争が好きだ!」
どよどよどよどよ
「諸君 私は戦争が好きだ
諸君 私は戦争が好きだ
諸君 私は戦争が大好きだ
殲滅戦が好きだ
電撃戦が好きだ
打撃戦が好きだ
防衛戦が好きだ
包囲戦が好きだ
突破戦が好きだ
退却戦が好きだ
掃討戦が好きだ
撤退戦が好きだ
平原で 街道で
塹壕で 草原で
凍土で 砂漠で
海上で 空中で
泥中で 湿原で
この地上で行われるありとあらゆる戦争行動が大好きだ
戦列をならべた魔導兵の一斉発射が轟音と共に敵陣を吹き飛ばすのが好きだ
空中高く放り上げられた敵兵が魔力弾でばらばらになった時など心がおどる
騎兵の操る槍が敵騎兵を撃破するのが好きだ
悲鳴を上げて暴れる馬から投げ出された騎士をなぎ倒した時など胸がすくような気持ちだった
剣先をそろえた歩兵の横隊が敵の戦列を蹂躙するのが好きだ
恐慌状態の新兵が既に息絶えた敵兵を何度も何度も刺突している様など感動すら覚える
敗北主義の逃亡兵達を街灯上に吊るし上げていく様などはもうたまらない
泣き叫ぶ捕虜達が私の振り下ろした手の平とともに金切り声を上げる鏃にばたばたと薙ぎ倒されるのも最高だ
哀れな抵抗者達が雑多な農具で健気にも立ち上がってきたのを殲滅魔法で都市区画ごと木端微塵に粉砕した時など絶頂すら覚える
敵国のゴーレム兵団に滅茶苦茶にされるのが好きだ
必死に守るはずだった村々が蹂躙され女子供が犯され殺されていく様はとてもとても悲しいものだ
敵兵の物量に押し潰されて殲滅されるのが好きだ
竜騎士に追いまわされ害虫の様に地べたを這い回るのは屈辱の極みだ
諸君 私は戦争を地獄の様な戦争を望んでいる
諸君 私に付き従う大隊戦友諸君
君達は一体何を望んでいる?
更なる戦争を望むか?
情け容赦のない糞の様な戦争を望むか?
鉄風雷火の限りを尽くし三千世界の鴉を殺す嵐の様な闘争を望むか?
戦争! 戦争! 戦争!
よろしい ならば戦争だ
我々は満身の力をこめて今まさに振り降ろさんとする握り拳だ
だがこの暗い闇の底で半世紀もの間堪え続けてきた我々にただの戦争ではもはや足りない!!
大戦争を!!
一心不乱の大戦争を!!
我らはわずかに一個大隊 千人に満たぬ敗残兵に過ぎない
だが諸君は一騎当千の古強者だと私は信仰している
ならば我らは諸君と私で総力100万と1人の軍集団となる
我々を忘却の彼方へと追いやり眠りこけている連中を叩き起こそう
髪の毛をつかんで引きずり降ろし眼を開けさせ思い出させよう
連中に恐怖の味を思い出させてやる
連中に我々の軍靴の音を思い出させてやる
天と地のはざまには奴らの哲学では思いもよらない事があることを思い出させてやる
一千人の吸血鬼の戦闘団で世界を燃やし尽くしてやる
そうだ あれが待ちに望んだ我らの光だ
私は諸君らを約束通り連れて帰ったぞ あの懐かしの戦場へ あの懐かしの戦争へ
大隊各員に伝達 大隊長命令である
さぁ 諸君
地 獄 を 創 る ぞ!」
やべっと思ったが、もう吸血鬼の部分はペロッと言ってしまったので、慌てて付け足した。
「吸血鬼はよくない存在ですが、俺もこれぐらい強くなれたらと思います。あっ ありがとうございました」
どよどよどよどよ。
入学式の最中、俺は顔を挙げられず、下をずっと向いていた。
どうして、俺ってこうなんだろ。
式が終わってすぐ、逃げるように寮の部屋に行って閉じこもった。
その後、勉強して時間を潰し、そっと夕食会と朝食をブッチした。
でも、当然だが授業は行かねばならない。
磨き上げられて、チリ一つない校内を時間ギリギリに走り、教室に入る。
やはりジロジロ見られた。
「!?」
あれが殿下だろうか。呪文の書かれた布を全身に巻いたミイラがいた。
後、護衛なのか、めちゃくちゃゴツくて怖いフル装備の騎士がいる。
こっ怖い。怖すぎる。
「来たか。グリーディ君。ちょっとお話があります」
「は、はい……」
初日に職員室か……。
俺は肩を落としてしまった。
「君はあの演説を、どこで聞いたのかね?」
「あ、あの。職員室とかじゃないんですか? ここで聞くんですか?」
「もちろん。吸血鬼が1000匹もいたとなれば、最前線で戦うのはこのメンバーだからね」
確かに、このクラスはエリート中のエリートのクラス。
国の要人であり、防衛装置であることが決められた貴族のクラスだ。
俺は軽率な行動を恥じた。吸血鬼の部分はどうして言い換えられなかったんだ……。
「あ、あの。夢の中で聞きました」
「そうか。では、吸血鬼ではないという証明に、判定魔法を受けるか?」
「はい、受けます。夢の中で聞いたって神様に宣誓しても構いません」
そんな話になってたのか。ガチで疑われてるやつじゃん。
「あの、紛らわしいことをしてごめんなさい……」
ぽろぽろと涙が出てくる。情けないブラック家に泥を塗る。もう塗ってる。
「なにか悩み事や吸血鬼への憧れでもあるのかい?」
「うう……ごめんなさい。ごめんなさい。挨拶文がすり替えられてて。頭真っ白になって、つい夢で聞いた演説を……」
「そうか。でも、吸血鬼は恐ろしい存在だ。誘いがあっても、絶対に乗ってはいけないんだよ」
「はい。もちろんです」
そして、俺は検査を受けた。結果はもちろん陰性である。
それに、クラス一同、胸をなでおろしていた。でも、卒業までは月イチでチェックされるらしい。
本当にごめんなさい。