ゲーム舐めんな現実世界! 作:かりん
できるだけ小さくなって授業を受ける。
でも先生はバンバン当ててくる。ひぃぃ。問題解くのはどうということはないけど……。
コレ以上目立ったら、絶対いじめられる。
お昼。
ちょっと息を切らせて、フラウが迎えに来た。
「一緒に食べよ、グリーディ! お弁当作ってきたんだ」
「フラウ……」
地獄の中に光を見た。
二人で中庭に向かい、ベンチに座ってお弁当を開ける。
うわ、キャラ弁だ! しかも、夢で出てくるレイドボスのドラゴンだ! こいつ好きなんだよな。経験値とドロップが美味しいんだ。
フラウの優しさと女子力に涙出てきた。
「フラウ、お前って本当最高の相方」
「ふふふ。リーンに勝てた?」
「リーンは別格だから」
「ちぇ。まあ、そのうち勝つから」
笑うフラウは本当に凛々しくて、可愛くて、頼りになって、胸がキュウンとなる。
ちっちゃくてふわふわだったフラウは、大きくなって変わった。背も伸びたし、きれいになった。その美しさは、夢の中に勝るとも劣らない。
いや、どこか人形的だった夢の中の美貌の戦士達に、人間的でイキイキしたフラウは買っているとさえ言えた。
俺はそっとフラウに寄り添った。
さて、午後は鍛錬である。嫌だけど。嫌だけど。
「グリーディ。私と勝負しろ」
「いや、俺だ」
ホープとソードが俺に詰め寄ってきた。更には、ロイもチラチラ見ている。
ホープは紫の髪と目、ソードは赤い髪に赤い目なので派手で迫力があって怖い。
「いや、俺、打ち合いが怖いから見学で……」
「はあ? 主席だろうが。それとも、やっぱりなにかズルをしたのか。女に泣きついてたもんな」
そこで、殿下が間に入ってくださる。
「殿下!? そいつをかばわれるのですか!?」
殿下は、何も言わない。言えない。ついでに筆記も魔力が籠もるから駄目らしい。なんと。あんたどうやってコミュニケーション取るねん。そんな殿下にお手数掛けちゃ駄目だ!
「お、俺、本当に打ち合いが怖いんだ。寸止めなら出来るけど」
「ちっ じゃあいい。その寸止めで相手しろ」
渋々相手をする。
ホープの剣は早いけれど、読みやすかった。
ソードは流石武門の出だけあって、ちゃんとフェイントとか入れてる。
ロイは、フェイントとかじゃなくて単に我流だな。
俺は、ロイに木剣を突きつけて寸止めする。
その木剣を掴んで、ロイは蹴り技を加えてきた。
「まだ負けてません!」
は? 俺寸止めしか出来ないって言ったろ!
蹴りは俺の頭にクリーンヒットして、俺は気を失った。
「ここ、は……」
どこだろう。病院? そうだ。ゲーム中に心臓が痛くなって、あの時……
「大丈夫ですか!? すみません、その、あんなに綺麗に決まると思わなくて……!」
ロイが必死で謝る。ロイ? なんでゲームの中のキャラが……いや違う。
俺、ゲームの中に転生したのか……? いや、こんなゲームも小説も漫画も知らない。
大体、創作物の中に転生なんてそれこそ創作物の中だけのことだ。
ならこれは……
「現実!?」
俺はガバっと起き上がった。
「やはりまだ混乱していらっしゃるようね。ロイ君。もう大丈夫だから、貴方は帰りなさい」
「はい……」
保健室の先生が、ロイに優しく声を掛けている。
「俺は……死んだのか」
「生きてますからね?」
「死んだんだな」
うずくまる。
「生きているでしょ! ああもう、本当変わった子なんだから。検査は陰性だったし、吸血鬼が検査を乗り越えるなんて話は……いえ、一応他の検査も試してみようかしら?」
そうか、俺はあの時死んだのか。
おとなしく検査を受けながら、俺は自分の状況を咀嚼する。
確かに、ネットもゲームもできなくなった。でも。
「ビバ! 剣と魔法のファンタジー!」
俺には魔法がある!!
鍛えててよかった、ありがとう今までの自分!!!
そこで保健室のドアが空いた。
「グリーディ!」
「フラウ! 超美人の俺の婚約者!!!」
「ふわ!?」
まじかよ、人生勝ち組じゃん!!!
「神よ、感謝します……」
神に祈った後、怪訝な顔をしたフラウに告げた。
「聞いてくれよフラウ、俺、生まれ変わったんだ!!」
俺はもっかい検査を受けた。
夕方、俺は新鮮な気持ちでキッチンに立っていた。
当たり前と思っていた野菜や肉が、異世界産とわかっただけでこんなにも愛おしい……。
キッチン付きの部屋をお願いしていてよかった。
なにせ、とてもじゃないが食堂を使える雰囲気じゃないからな!
「じゃあ、夢の中のことは生まれる前の記憶だったの? 夢の中だから、痛いのとかないって話だったけど」
「そう。ちょっと特殊な世界でさ。物理法則が違ったんだよ」
「ううん……そうなの?」
「そうなの」
俺は手際よく料理を作り、並べていく。フラウも俺も、料理はできる。
むしろ、フラウに料理を教えたのは俺だ。
「明日の昼食は俺が作るから、楽しみにしてて」
「うん、楽しみにしてる」
交互にお弁当を作ろうと約束をする。
ハートの愛夫弁当作っちゃろ。
「明日からさ。俺、もっかい頑張ってみようと思うんだ。戦闘」
「でも……」
「だって、戦えないのってやっぱすげーもったいないじゃん? 応援してて」
「うん、応援してる」
優しくフラウは微笑んでくれる。女神だ……。
あ、そうだ。忘れないうちにあれも作っておかないとな。
その後、もちろん何もなく部屋へ送り、翌朝早起きした俺はお弁当を頑張って作った。
教室に行くとロイに謝られ、もちろん許し、そして殿下のところに行く。
「……?」
「殿下、昨日は仲裁してくれようとしてありがとうございます。その、これ、よければ使ってください!」
ボタン式で9つの文字が表示される杖である。
文字は「愛友同喜悩怒冷悲無」。そう、超有名ゲームシステムのパクリである。。
あのシステムは素晴らしい。9文字でもコミュニケーションはできるのだ。
「愛はこれです! ラブラブビーム!」
俺は全身で愛情を表現する。ドン引きされる。
「友はコレです! 友情パワー!」
俺は全身で友情を表現する。ドン引きされる。
「同はこれです」
俺はこくりと頷いてみせる。
「喜びはコレです。めっちゃ嬉しい!」
俺は全身で喜びを表現する。ドン引きされる。
「悩はコレです。うーん……」
俺は悩んだ様子を見せる。
「怒はコレです。怒ってますよ!」
俺はプンプンする様子を見せる。
「冷はこれです。あ、いいっす」
俺はあっさり手をふる。
「哀はコレです! 泣いちゃう!」
俺は泣き真似をする。心配される。いや、フリだから大丈夫です。
「あ、無は無視です。こんなニュアンスが込められた文字です。使ってください」
俺はぐぐいと殿下の手に杖を押し付ける。
殿下は俺がした通りのボディ・ランゲージしつつ、喜のボタンを押してくれた。
「ニュアンスの説明をしただけで、文字だけでも十分ですよ」
「怒」
「ごめんなさい」
先生は、入ってくるなり事情を聞いて複雑そうな顔をした。
「まあ、いいでしょう」
それ以降、殿下への先生の問いかけが増えた。先生もコミュニケーション取れなくて困ってたのね。
そして、休憩時間にトイレに行って戻ってくると、ソードが泣きながら俺の弁当を食っていた。な、何が起こった!?