時間軸やイベント前後については、拙作の独自設定ということで一つ。
また、アンケートは本日21時を締め切りとします。
「以上で、カウンセリングは終了ですが、無理はしないようにね?」
「うーす」
肩が凝る。数日に渡って続いた
「本当に無理はしないようにね。いや、本当に」
「あのさ、念押しし過ぎじゃね?」
「心配症は治療に携わる者の職業病さ」
「そっすか」
煙羅は手を降るカウンセラーに頭を下げ、退室すると凝りきった肩と首を回した。
関節の鳴る独特な音を自分の中に聞きながら、煙羅は自身の髪の毛先を見る。
「ストックが少ないな」
煙羅の個性である煙は、自身を煙に変えるだけではなく、外部から煙を摂取して溜め込む事で、自身の質量以上の大きさや形に変化する事が出来、欠損箇所の再構築も可能な個性だ。
しかし、それらを行うには自身の内に、予め煙を貯蔵しておかなければならず、欠損や損耗が続けばストックは当然減る。
そして、ストックが無くなれば、自身だけとなり、それも無くなれば死ぬ。
ストック残量は、煙となっている髪の毛先で分かる。
煙羅の現在の最大ストック量は、煙羅四人分。大体、煙草
しかし、今の煙羅のストック量は一人分も無く、ストックの補充も難しい。
「さて、どうしたもんか」
弱々しい揺らめきの毛先を見ながら、煙羅は廊下に備え付けてあるベンチに腰を下ろす。
弱い自身の揺らめきに釣られて、思わずポケットを探るが、そこには禁煙用のガムしかない。
「ヘイリスナー、校内は基本飲食禁止だぜ?」
「おう、プレマイ先生じゃん。今日もトサカキマッてんな」
英語教師のプレゼントマイクが、逆立てた某南国の鳥を思わせる髪を撫で付けながら、煙羅の隣に座る。
「この俺のトレードマークだからな。煙堂リスナーはどうしたよ? トレードマークがVery weakじゃねえか」
「ストック切れ、からっけつのガス欠状態な訳よ。どっかで補充しねえと、何も出来ないからマジでまずい。最悪除籍コース」
「イレイザーも流石にそこまではしねえって」
確かに、相澤ことイレイザーヘッドは、ヒーローに足る資格と覚悟が無いと判断すれば、容赦無く除籍処分するが、個性の都合上の事であれば、何らかの方策を指導する。
教師として、ヒーローの先達として当然の事だが、煙羅は違った。
「……どうにもなぁ、最初のイレ澤先生の目がアタシを攻撃してきた連中と、一緒の目しててさ。分かってんだけど、やっぱりさ……」
「Oops……、何やってんだイレイザー……」
相澤にその意思が有ったのか、マイクはそうではないと知っているが、煙羅達は違う。
相澤が初期に向けていた品定めの視線を、煙羅達は嘗て向けられてきた敵意の目と受け取ってしまった。
「いや、信じてんだよ? USJでアタシ庇ってくれたし、そんな事してくれた大人は出久と勝己の両親とうちのババアと、
「うぅん、リスナーの闇がVery deep! しかし、それはヒーロー以前に人として当たり前の事だぜ? 煙堂リスナー」
「だよなぁ……」
マイクも、事前に煙羅の受けた迫害と、それらから守ってきた爆豪と緑谷達の話は聞いていた。
本来、そういった事から子供を守るのが、大人の役割の筈だ。しかし、煙羅はそうではなかった。
学校や地域、果ては一部のヒーローまでもが、彼女に対して害意と敵意を与えてきた。
そんな劣悪な環境の中で、よく歪まず間違えずにここまで来てくれたと、マイクは煙羅を守ってきた二人と家族達に、感謝と尊敬を感じた。
「あ、あと、鳴羽田に居た頃にヴィジランテの人が助けてくれたな」
「Oh! マジかよ」
「そうそう、いきなり〝黒腕〟の娘は死ぬべきだって、ヒーローが家に突っ込んできてさ。そん時に刀背負ったあの人が助けてくれた」
「んんん! The darkness is deep!」
本当にマイクは頭を抱えたくなった。
ヴィジランテはヒーローの先祖と言える存在だが、現行制度が整備された今では、仮想敵とも言える存在になってしまっている。
しかも鳴羽田は、ヒーロー、ヴィラン、ヴィジランテが入り交じれて一つの大事件に発展した街で、相澤の縄張りでもあった。
人を助けるヒーローに襲われ、ヒーローではないヴィジランテに助けられた。
今の社会の闇の部分、煙羅の口からはそれが簡単に湧いて出てくる。
「なあ、プレマイ先生」
「どうした? 煙堂リスナー」
「アタシさ、その人にお礼も何も言ってないんだ。その人が今、何処に居るのかも分かんないんだ」
「OK、リスナー。俺も探してやるさ」
ヴィジランテが拠点や活動範囲を変える事は、あまり無い。これはヴィジランテが正規のヒーローの様な、バックアップが無い一般人であり、資金や装備、能力的にも慣れ親しんだ拠点の方が安全かつ、確実な成果を挙げられるからでもある。
――鳴羽田はイレイザーの縄張りだったから、あとで聞いてみるか――
「バカ煙」
そんな事をマイクが考える横、普段通りのしかめっ面で、爆豪が保健室から顔を出した。
「バカって言った方がバカなんだぞ? バ勝己」
「だったら、テメーもだろうが!」
「アタシ、お前よりテストの点良いもーん」
「ンダトゴルアアアア!」
「ああ、もう。かっちゃんも治ったばっかりなんだから、大人しくしなよ。煙羅さんもかっちゃん挑発しないの」
「出久が言うならやめるー」
爆豪の怒鳴り声に飛び出してきた緑谷が、爆豪と煙羅を諌める。二人と合流した煙羅からは、先程までのしんみりした雰囲気は消えていた。
「HEY、爆豪緑谷ダブルリスナー」
「あ?」
「あ、マイク先生」
「……大事にしろよ?」
「……わかっとるわ。おら、帰んぞ」
「わ! 待ってよかっちゃん」
「んじゃ、プレマイ先生もイレ澤先生によろしくー」
「OK!」
手を振る煙羅に、マイクも手を振り返す。
寮への帰り道を行く三人の後ろ姿に、マイクは嘗ての自分達を幻視した。
自分が騒ぎ、相澤が嫌そうな顔をして、そして……
――頼むぜ、イレイザー――
自分達はもう、一人が居ない。
願わくば、あの三人が欠ける事無く、ヒーローになる姿を見たい。
「その為には、少しでも不安を減らさねえとな」
まずは、そろそろ目を覚ましただろう相澤に、例のヴィジランテについて問うてみよう。
そして、大人を信じても大丈夫なのだと、あの三人に教えてやらねば。
マイクはサングラスの位置を正し、一つ笑みを作ると、目的の為に立ち上がった。
しかしマイクは、このヴィジランテが見付からない可能性を、この時点では考えていなかった。
ヴィジランテという非合法の存在、そんな危険極まりない行為、きっともう止めていて真っ当に生きているか、もしかすると自分達と同業になっているかもしれない。
そう思ってしまった。
最悪の、道を踏み外しているという可能性を、マイクは除外してしまった。
その結果、煙羅は恩人との再会を果たす事になる。
最悪の再会を。
煙羅に関わったまともな大人一覧
煙羅母
煙羅祖母
爆豪夫妻
緑谷母
兵頭先生
ステ…………、スタ…………、とあるヴィジランテ
約十五年程の人生で、まともな大人はこれだけ
煙羅コスチューム
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軍服風
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作業着風