煙の少女のヒーローアカデミア   作:ジト民逆脚屋

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注意
拙作は登場人物に柔軟剤を大量投与しており、かっちゃんがやわらかかっちゃんとなっております。
なので、かっちゃんがクラスメイトをあだ名でなく、名字で呼んだりしてます。
また、今回の話ではモブヒーローの方々にヘイトを向けてみました。ご注意くださいませ。


トーナメント切島鋭児朗

『さあ、目ん玉おっぴろげて見さらせリスナー! 次の試合は目玉だぜ!』

 

靴と靴下を脱ぎ、丁寧に揃えてから廊下の脇に置く。

集中した視界には明るいステージがあった。

 

『同じクラス同士、そして同じ個性の持ち主同士の熱いぶつかり合い! これで燃えねえのはナシだろ!』

『人によるだろ』

『こいつぁシヴィー! それじゃあまずは、来いよ! ハードストロングボーイ! 切島鋭児朗!』

 

素足の感覚を確かめていると、歓声が聞こえる。

ストックはあまりないが、無いなら無いなりにやりようはある。

煙羅はゆっくりと息を吐き、その時を待つ。

 

『ヒーローは何時だって命懸け! なら、こいつが居るだろ! カモン! デンジャラススモーキンガール! 煙堂煙羅……!』

 

薄暗い廊下から出れば、異様な熱気と歓声の圧が体を叩いた。

 

「よう、煙堂。あれ、靴は?」

「邪魔だから脱いだ」

「素足、大丈夫か?」

「お前がアタシに触れるならな」

 

口の端から煙を吐きながら煙羅がそう言えば、切島は不敵な笑みを見せる。

だが、切島はなにか違和感に気付いた。

 

「……なあ、煙堂」

「なんだよ?」

「いや、なんでもねえ。始めようぜ!」

「ああ」

 

煙羅の顔は普段と変わらない様に見えて、しかし何時か見た色をしていた。

 

「……それでは試合を始めます。切島鋭児朗対煙堂煙羅!」

 

ミッドナイトの号令と同時に、切島が硬化する。

 

 

――煙堂の一番ヤバいのは、あの凝縮硬化からの打撃より絞め技。なら硬化すれば絞めれねえ!

 

 

切島が警戒したのは、煙羅が得意とする組み付きからの絞め技。打撃も脅威だが、煙羅の打撃力では切島の硬化は抜けない。

故に、切島の硬化は表皮と筋肉を硬化させる。

それが意味するのは、絞めにより窒息や拘束を無効とする。

切島は岩肌の様に凹凸を発生させた体で、煙羅に肉薄した。

狙いは近接での煙羅の消耗。

煙羅のもう一つの個性である煙化は、煙羅が貯めたストック頼り。つまりは残機制の回復技。

近接で煙羅のストックを削り、一気に押し込む。

それが切島の作戦だった。

だが、その作戦は煙羅の行動により綻んだ。

 

「んなっ!?」

「っ……!!」

 

硬質な肉が打つ音、誰もが目を逸らしたくなる様な生々しい打撃音が、ステージの集音マイクを通して会場の全員の耳に届く。

 

「煙堂、お前……」

「あ、ああああああ!!」

 

呆気に取られる切島の顎に、煙羅は打ち下ろし気味の右フックを叩き込むが、硬化した切島の顎は硬く、固まった首も動かない。

常人なら一撃で脳を揺らし、顎にもダメージを与えるだろう威力の拳も、ただ煙羅の皮膚を裂いて血を流すだけだ。

 

「くっそ! 煙堂!」

「戦えよ切島、アタシはその為にここに居るんだ」

「煙堂……っ!!」

 

煙羅のアッパーが切島の顎を打ち、言葉を遮る。

傷は治るが、痛みが無い訳ではない。

その証拠に、硬化した切島を打つ煙羅の顔は苦痛に歪んでいた。

 

「ちょ、ちょちょちょっ! デクくん、爆豪くん。煙羅ちゃんどないしたん?!」

「明らかに普通ではないぞ?!」

「デク……」

「うん、何かあったんだ。でも、なんで……」

 

控え室からステージまで、人に会うタイミングというのは限られ、会える人も限られる。

煙羅はSNSの類いはやっておらず、ネットにも疎い。

なら、出せる答えは……

 

「切島! 引っ掴んで押し出せ! 煙堂止めろ!」

「ダメだ、砂藤。煙堂は煙になれるから掴みは効かねえ」

「エンエンちゃーん! 腕固めてー!」

 

砂藤、瀬呂、葉隠の三人が声を挙げるが、煙羅はお構い無しに硬化した切島を生身で殴り続ける。

皮と肉が裂け、骨が折れても瞬時に煙化し、傷を治してはまた再開する。

業を煮やした爆豪が動きを見せた時、ヒーロー側の観客席からの野次が耳に届いた。

 

「〝黒腕〟の娘がヒーローになれるかよ」

「ヴィランはヴィランらしく退治されちまえよ」

「あんのゴミカスモブがっ……!!」

「かっちゃん! ダメだって!」

 

爆豪が怒りに任せて駆け出そうとするが、緑谷が寸でのところで止める。

答えは出た。

煙羅は聞いてしまったのだ。一番耳を塞ぎ、目を逸らしていた事実。受け入れた筈の現実。

自分がヴィランの娘であるという事を、面白可笑しく茶化し馬鹿にする声を。

 

「離せやデクゥ!!」

「ダメだってば! ここで動いたら、煙羅さんが更に悪く言われるよ!」

「瀬呂! 爆豪縛れ! 緑谷離すなよ!」

 

砂藤と緑谷が爆豪を押さえつけ、瀬呂が個性のテープでがんじがらめに縛り付ける。

 

「離せやぁっ……!!」

「かっちゃん! 煙羅さんは乗り越えたんだ。煙羅さんを信じようよ……」

「んぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!」

「うわっ、テープ切れそう! 轟、氷準備ー!」

「お、おう」

 

暴れる爆豪を押さえつける為に、轟が個性を発動しようとした瞬間、打撃音が変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イレイザー、こいつはマズイぜ」

「煙堂……」

 

相澤は迷った。今の煙羅は普通ではない。

止めるべきか、それとも続行させるか。ミッドナイトもこちらに視線を向けている。

 

 

――煙堂、お前は〝黒腕〟の娘じゃない。ヒーロー〝スモーキー〟の娘なんだ

 

 

あの野次馬は後でそれ相応の目に会わせる。

恐らく、今の煙羅の原因はあの連中だ。

直に言ったとは考えられない。あの手の連中は陰口が関の山だ。

となると、あの連中の話を聞いてしまったのだろう。

 

「ショータ!」

「分かってる。これ以上は……」

 

相澤が試合の中止を宣言しようとした瞬間、打撃音が変わった。

切島が個性を解いたのだ。

顔で煙羅の拳を受け止めた切島は、一度頭を降ると煙羅に向き直る。

 

「煙堂」

「なんだよ」

「ちょっと待ってろ」

 

そう言うと、切島はミッドナイトに近付き、彼女が持つマイクを受け取った。

そして、

 

「うぅぅぅるっっっせえぇぇぇぇっ……!!」

 

スタジアムを揺らす大音声で叫んだ。

 

「ヴィランがここに居る訳ねえだろ! ここに居るのはヒーロー志望の煙堂煙羅だ! あんたらヒーローなんだろ?! そのヒーローが寄って集って、頑張って戦ってる女の子に何言ってやがんだ……!!」

「切、島……?」

「煙堂……!!」

「な、なに?」

「全力で来いよ! 俺は倒れねえ! 俺が、俺達がお前の全部を受け止めてやる!」

 

だから、

 

「あの日、あのヴィランに立ち向かったお前を見せろ! お前はヴィランじゃねえ! ヒーローだろ!」

 

煙羅は動けなかった。

ヴィランの娘、一度は受け入れ乗り越えた筈の傷を、偶然聞いてしまった世間話で抉られ、そして自分の中に巣食う父を否定するかの様に、あの個性を使わなかった。

あの個性を見せたら、もしかしたら皆から否定されるかもしれない。

そんな有りもしない最悪の想像が、煙羅にそうさせた。

だが、切島が真っ向からそれを否定した。

そして、切島の声は確かに煙羅に届いた。

 

煙羅の意思はまだ父を否定している。

だが、それでもこの声に応えたい。

 

「……煙堂さん、まだやれる?」

「はい。……切島」

「おう」

「有難う」

 

煙羅の両腕が黒曜石の如く染め上がる。

 

「ひっ!」

「〝黒腕〟だ……!!」

「やっぱりあの化け物の娘かよ!」

 

もう大丈夫、どれだけ言われようと、蔑まれようと、ブレる事は無い。

恐れも、罵倒も、憎しみも、全て煙の如く飲み込み、この腕で砕く。

 

「じゃあ、改めて」

「ああ!」

 

切島が再び硬化する。

もう迷いは無い。

さあ、行こう。

小さく優しい手と、大きく強い手に背を押され、煙羅は一瞬で肉薄する。

今度の打撃は違う。

硬く響き渡る快音。

 

「かったいな切島!」

「お、おおぉぉ、マジで堅いな。煙堂!」

 

言うなり、肝臓打ちを叩き込むが、これも通らない。

やはり、煙羅の打撃力では切島を抜けない。

切島は己の防御に確信を持ち、一気に煙羅に迫る。

 

「……かっちゃん」

「ちっ、切島に感謝だなぁ」

「うん、でもこれって……」

「ああ、あのバカ煙は狙ってる」

「む? 狙っているとは何をだ? 爆豪君」

「あぁ!? なぁんでテメェに教えなきゃなんねぇんだ?!」

「うわっ! 本当に君は狂暴だな!」

「かっちゃん、ステイステイ。どうどうどう」

「んだそりゃぁっ!!」

 

テープと氷にがんじがらめになりながら、暴れる爆豪を落ち着けようとする緑谷。

 

「緑谷ちゃん。煙羅ちゃんは何を狙ってるのかしら?」

「つっ、ゆ……、蛙吹さん。えっと、煙羅さんが一番得意なのは、あの煙になれる体での組み付きなんだけど……」

「そうね。煙羅ちゃんはそれで絞めたり極めたりするわ。でも、切島ちゃん相手だと厳しくないかしら?」

「そうそう、切島相手だと関節も固まってるから、技が極らねえだろ」

 

硬化した切島相手に、関節技は無意味と言ってもいい。

それに加えて、硬度はほぼ同等だが、煙羅の打撃力では切島にダメージを通せない。

 

「砂藤君、煙羅さんが一番得意なのは絞めでも極めでもないよ」

「え?」

「煙羅さん相手で一番怖いのは……」

 

緑谷がそこまで言って、爆豪の再拘束が終了したところで、試合に動きがあった。

 

「まあ器用さんだな!」

「練習したからな!」

 

煙羅の足首から先、否、膝から下が煙となり滑る様にして切島を翻弄している。

 

『ヘイヘイ、イレイザー。まるでスケートだぜ』

『煙堂は個性で浮遊出来る。あれはその応用だな。まったく、一瞬目を離したらこれだ』

『嬉しそうだな!』

『うるさいよ』

 

 

――いや、本当に器用だな?!

 

 

切島は防御に手一杯だった。

とにかく、通常あり得ない角度から打撃が飛んでくる。

体を曲げたと思ったら、そのまま踵が落ちてきたり、かと思ったら次は拳。

足だけではなく、ジャージの下の胴までも煙化し、可動域を人外のそれとした煙羅の動きは、最早見切れるものではなかった。

 

 

――関節が関係無いってのは、本当に厄介だな

 

 

しかし、現状切島には疲労以外のダメージは無い。

対する煙羅は先程までの自傷によるダメージ補修によるストック消費と、一気にペースを上げた事による疲労。

切島は待った。それは本当に一瞬の綻び。

凝縮硬化部分の切り替えの瞬間、一瞬だけ動きが止まった瞬間、切島は煙羅の鳩尾に拳を叩き込んだ。

 

それが罠だと知らずに。

 

「なっ?!」

「……切島、頭守れよ」

 

切島の拳は命中した。命中したのだが、それは煙羅がわざと見せた隙だった。

切島渾身の拳は煙羅のジャージを打つだけで終わり、リンボーダンスの如く身を反らした煙羅は、浮遊の勢いで切島の背後に周り、彼の胴を抱える。

 

「ふっ!」

 

瞬間、切島が知覚したのは凄まじい勢いで反転する世界と、己の硬化を突き抜け揺らす衝撃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ジャーマンスープレックス?」

「うん、煙羅さんの一番怖いのは、あの不規則な動きからの組み付きと投げなんだ」

 

ステージに打ち込まれ、そのまま動きを止めた切島を見ながら、緑谷は解説する。

 

「なんというか、天性のセンスで相手の重心を崩すのが異様に上手いんだ」

「センスでそれやられちゃ堪らんぜ……」

 

砂藤が引いた顔で言う。

シンプルな増強系で近接主体の砂藤達にとって、煙羅は天敵中の天敵と言える。

その天敵がただのセンスで、こちらを投げてくる。

 

「でも、エンエンちゃんの勝ちだよ!」

「やったぜ煙羅ー! ドンマイ切島ー!」

 

葉隠と芦戸が身を乗り出して手を振ると、煙羅もそれに気付いて手を振り返す。

 

「けっ」

「もう、かっちゃんも嬉しいくせに」

「あぁ!? 煙羅が勝つ事なんざお見通しだボケぇっ!!」

 

だが、

 

「目ぇ覚ますのがおせぇんだよ」

 

緑谷にしか見えない角度で、爆豪は安堵の表情を見せた。




「ねえ、煙羅ちゃん」
「はい……」
「嫌な事があったのは理解してるわ。でもね、あんな風に自分を傷付けるのはダメよ」
「ごめん、梅雨ちゃん……」
「でもね、煙羅ちゃん。頑張ったわね」
「うん!」

「……なんやろ、煙羅ちゃんがちっさい子になっとる」
「うん、煙羅さんは面倒見てくれる人に弱いから……」





















あ? んだよ、あん時の雑魚共かよ。
はっ、俺を見てションベン漏らして泣きわめいてたのが、随分調子乗ってんなぁ?
……次、このガキ嗤ったら捻るだけじゃ済まさねえ。

煙羅コスチューム

  • 軍服風
  • 作業着風
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