このルートは煙羅ママと煙羅パパが別れずに関係を続けた結果のルートです。
最強のヒーローとは誰か。
この問いには決まった答えがある。
例えば、算数の問題で一+一=二である様に、紙に火を点ければ燃えるという風に、至極当然にお決まりの答えがある。
最強のヒーローとはオールマイト。それ以外にはあり得ない。
たった一人で日本の犯罪率を著しく減少させ、かつヒーローらしいスマイルとサービスを忘れない。
最強、最高のヒーロー。それがオールマイトだ。
では、その彼に次ぐ者は居ないのか?
否、居る。
超高熱の炎を操るエンデヴァー
ありとあらゆる繊維を操るベストジーニスト
その身を針の如く鋭く細くするエッジショット
体を竜の様に変えるリューキュー
地域密着型なら関西のファットガムや、デステゴロといった確かな実力者も居る。
しかし、その最強のヒーローとはという問いに必ず名前の挙がるヒーローが一人居る。
ヴィランすれすれヒーロー
ヒーローやってなかったら間違いなくヴィラン
無駄かつ必要以上に顔が良いゴリラ
顔と体の対比で頭がバグる
顔はイケメン俳優、体はハリウッド俳優
おおよそヒーローの評価とは思えない言葉が並ぶが、誰もが口を揃えてこう言う。
「オールマイトと直接殴り合えるのは、〝黒腕〟だけだ」
「だりぃな」
そんなやる気の無い言葉と共に、喫煙所で紫煙を吐き出したのは見るからに堅気ではない雰囲気を放つ男だった。
男はTシャツにジーンズというシンプルな出で立ちながら、町行く人々の視線を集めている。
それもそうだ。男の顔は見る者が十人居れば十人振り返る程に整っている。しかし、その冷徹な視線を浴びれば十人は視線を逸らす。
そんな鋭く冷たい顔と、Tシャツを押し上げる鍛え抜かれた肉体が、男の異質さを物語っていた。
「はぁ……、なんで非番の日にむさ苦しい男の面見ながら煙草吹かしてんだろな?」
「貴様……、この俺にいい度胸だな」
そして、男以外にも人々が喫煙所から目を逸らす原因が、男の目の前に立つ偉丈夫だ。
男に勝るとも劣らない鍛え上げられた巨体、見る者全てを威圧する眼光、極めつけは全身から燃え上がる炎だ。
ヴィランと言っても通用しかねない容姿、No.2ヒーロー〝エンデヴァー〟。
彼は男が吐き出す紫煙を鬱陶しそうに手で払いながら、言葉を続けた。
「〝黒腕〟、俺の事務所に入れ」
「ああ? ヘルプなら入ってやってるだろ」
「正式に、だ」
「お前の下につけってか? はっ、嗤わすなよ」
冷俐な顔に嘲笑が浮かぶ。
彼、〝黒腕〟は実力はトップクラスだが事務所を持つ訳でも、何処かに所属する訳でもなくフリーのヒーローとして活動している。
何処にも属さない一匹狼、実力と人気から何処の事務所からも彼のスカウトは絶えない。
しかし、彼はその全てを断りフリーのままだ。
理由は様々なものが想像されているが、エンデヴァーだけはその理由を知っている。
「……フリーでは稼ぎが不安定だろう。〝スモーキー〟を少しは安心させてやれ」
「〝
黒腕は結婚している。それも学生時代からの恋愛結婚だ。
そしてその妻である〝スモーキー〟、煙堂火無はエンデヴァーの事務所に所属している。
ヒーローチャートの順位自体は高くないが、小柄で温和な容姿と人当たりの良い性格から、根強い人気のあるヒーローだ。
「貴様に言われたくない」
「へっ、そうかよ。んで、非番の俺にエリート様が何の用だよ?」
「……別に、見掛けたからスカウトをしたまでだ」
「嘘つけ。目が追ってんぞ」
言いながら黒腕は足下に置いてあったオールマイト柄の紙袋を持ち、これ見よがしにエンデヴァーの前に見せる。
「ぬぅ……」
「次男か三男の土産か? 上の二人はちょっと年齢ズレてるもんな」
「貴様、何故俺の家族の事を?!」
「火無から聞いた。長男の個性事故から気にかけんだぞ。ちゃんと見てやってんのか?」
「貴様に言われずとも! それに貴様はどうなのだ? 発現した個性は……」
「俺と火無の良いとこ取り。問題は火無の煙の個性だ」
〝煙〟という個性、それは自身を煙に酷似した物体に変化させる。
押せば消え、引けばまとわりつく。触れる事すら不可能に近い個性だ。
しかし、それ故に制御は至難の業となる。
「この前も風に吹かれて半分消えかけた。……流石に肝が冷えた」
「頼みは貴様の〝凝縮硬化〟か」
「ああ、この個性なら不安定な体も無理矢理安定させられる。それまで俺が見てやらんとな」
「貴様も人の親か」
「てめえもだろ。それじゃ、俺は帰る。煙羅が待ってるからな」
「おい、その前にその紙袋の中身は何処で買った?」
「ああ? 要予約のもんだ。てめえにゃ無理だよ」
「なに?!」
「じゃあなぁ」
わざとらしくねっとりとした言い方で、黒腕はエンデヴァーに背を向け、さっさと逃げ出す。
離れた場所で自身を呼ぶ声が聞こえるが、知らん顔で歩く。
DV一歩手前まで行った燃焼筋肉の事など、知った事ではない。この世で一番大事な妻が言うから、一応は気にかけているだけだ。
それより急がなくてはならない。
もうすぐ、最愛の娘が学校から帰り、妻も今日は早上がりだ
文字通り、目に入れても痛くない大事な娘と、世界一の良い女。
これまでもこれから先も、どれ程の絶世の美女に言い寄られても、黒腕が靡く事は無い。
「はっ、あの俺がこうなるか」
すれ違う人々が振り返る中、黒腕は実に見惚れる笑みで紙袋を掲げ見る。
中身はエンデヴァーに言った様な限定品ではない。
至極真っ当な革細工の裁縫セットと、店にある中で最高級の革材。
オールマイト柄なのは、買い物途中で見掛けたエンデヴァーへの嫌がらせだ。
「さて、待ってろよ。今パパが最高のプレゼントをくれてやるからよ」
ヴィランになるつもりだった。
理由なんて無い。ただ、ヒーローなんてものが好かず、ヴィランの方が面白味を感じたからだ。
だが、そうはならなかった。
――私が惚れた男がヴィランとか、最高にダサいのでヒーローになってください。さもなくば、今この場で貴方のブツを切り落として別れます。
妻、火無の言葉を思い出す。
あの瞬間、最高に痺れた。思えば、あの時に本気で心の底から欲したのだ。
この女を、この女との間の命を。
だから、黒腕はヴィランを止めてヒーローになった。
たった一人の女と、未来の子の為にヒーローになった。
「嗚呼、本当に最高の気分だよ」
家の扉を開けた黒腕は、プレゼントの紙袋を隠しながら、最愛の二人の帰りを待った。
「……親父、タバコくさい」
「なあ、煙羅。パパって言ってくんね?」
「やだ!」
「ちくしょう! なんで火無はママ呼びなのに、俺は親父なんだ……!?」
「アナタ、煙羅も恥ずかしいのよ」
「違うし! 親父は親父なだけだし!」
「煙羅ー! パパが欲しいもの買ってやるから恥ずかしがるなよ」
「そういうのがやだ!」
「煙羅ー……!」
煙羅コスチューム
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軍服風
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作業着風