煙の少女のヒーローアカデミア   作:ジト民逆脚屋

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黒腕の外見イメージは伏黒パパだったりします


黒腕の長い一日

その日、エンデヴァーの事務所は一人を除いて緊迫に包まれていた。

トップ中のトップ、No.2ヒーローであるエンデヴァーが率いる事務所がだ。

それは何故か。

 

「…………」

「……おい、無言で煙草を吹かすな。というか貴様、ここは禁煙だ」

 

エンデヴァーの咎めも聞かず、黒腕は短くなった煙草を携帯灰皿に押し付けると、新しい煙草に火を点けた。

 

「……おい」

「なあ、エンデヴァー……。お前、大切な者が奪われる気持ちが分かるか?」

「ぬ? ……一体どうしたというのだ」

 

ただならぬ雰囲気の黒腕に、エンデヴァーは内心で冷や汗を流した。

この男はヒーローとして壊れている。

否、ある意味では人として壊れている。

この男はこの世でただ二人だけしか愛していない。

単純にそれ以外を有象無象として切り捨ててしまっている。

そんな男がヒーローで居られるのは、その唯一愛している二人の存在が楔となっているからだ。

 

 

――エンデヴァー、私は黒腕を本当のヒーローにしたい

 

 

忌々しいNo.1ヒーローであるオールマイトの言葉が、エンデヴァーの脳裏によぎった。

この男の強さは本物だ。一度でも本気で暴れ出せば、甚大な被害は免れない。

その男の楔に何かがあった。

この男を繋ぎ止める鎖が切れかかっている。

エンデヴァーは下手に刺激しない様に目配せでサイドキック達に警戒を促した。

 

「なあ、エンデヴァー。俺は二人の幸せだけが生き甲斐だ」

「知っている。お前はスモーキーと娘を溺愛している事はな」

「煙羅がなってほしいと言えば、俺はあの筋肉達磨を殴り倒してNo.1にだってなってやる。火無が欲しいと言えば何だって手に入れる。それが二人の為になるならな」

「ああ、お前ならそうするだろう」

「だがな、こればっかりは納得出来ん。エンデヴァー、お前なら理解出来る話だ」

 

黒腕の手がそのヒーロー名通りに漆黒に染まる。

それだけで、辺りの空気が一変する。

黒腕の個性〝凝縮硬化〟は読んで字の如く、対象を凝縮して硬化させる能力だとされている。

だが、その本質は違う。というより、本人も何を凝縮させているのか理解しきれていない。

凝縮すれば体積は縮む。しかし、黒化している彼の手は縮んでいる様には見えない。

エンデヴァーは彼の個性は〝凝縮硬化〟ではなく、〝変質硬化〟ではないかと見ているが、それでも説明しきれない個性でもある。

黒腕の個性は彼が視認、もしくは認識している物体や空間にまで影響する。

彼が認識すれば空間すら支配して、その空間ごと殴り付ける事が出来る。

理不尽、それが黒腕だ。

 

「ちくしょう……。なんでだ? どうしてこんな事が起きちまったんだ……」

「黒腕、一体何があったというのだ? まさか二人、……娘に何かあったのか?」

 

妻であるスモーキーは普段と変わらぬ様子でパトロールに出ている。

異性の機微に疎いエンデヴァーでも、スモーキーに何かあった様には見えない。

だとすれば、黒腕をここまで追い詰める事象は、溺愛している娘に何かあったという事だ。

 

「……エンデヴァー、お前も娘が居るなら解るだろ」

「……まさか!」

 

最悪の想像が脳裏を走った。

黒腕の娘の煙羅には、エンデヴァーも何度か会った事がある。

スモーキーと黒腕によく似た生意気盛りの娘だった。

そう、優れた容姿を持つ二人によく似た娘。

良からぬ事を企む不埒者には、格好の獲物と言える。

しかし、エンデヴァーには疑問がある。

この男の性格なら、ここには来ずにその不埒者を迷い無く殺している筈だ。

それが何故、この事務所に来ているのか。

その疑問がエンデヴァーの想像に、更に最悪の事態を浮かび上がらせる。

 

 

――……まさか、俺の部下の中に……

 

 

最悪中の最悪の想像だ。

サイドキック達も数人がその可能性に行き着いたのか、更に緊迫した様子で黒腕を見ている。

 

「何でだ? 煙羅にゃまだ早いだろうが……」

「黒腕……、冷静になれ。今大変なのは貴様ではなく、娘の方だろう」

「ああ、解ってる。……煙羅があんなに楽しそうにしてるのは初めてだった」

「そうか。楽しそうだったか……。……うん?」

 

話がなにやら予想外の方向へ舵を取った。

暴行的な話かと思っていたが、黒腕の言葉からそうではなさそうだ。

というより、これは……

 

「お前なら理解出来る。娘が好きな男連れて帰ってきた父親の気持ちが……!!」

「貴様、そんな事の為に俺の事務所を混乱させたのかー!!」

 

巨漢二人が立ち上がり叫ぶと、周りのサイドキックや事務員達は溜め息を吐いて、各々の仕事に戻っていく。

とりあえず、黒腕をここまで思い詰めさせた原因は、溺愛している娘の煙羅が好きな男の子を家に連れて帰ってきた事らしい。

 

「そんな事ってのはどういう意味だゴルァァァァァッッ!!」

「そのままの意味だ! 大体、年頃の子供ならそういった事も有り得るだろうが!」

「煙羅はまだ小学生だぞ!」

「小学生でも女子の成長は早い!」

「嫌だ! まだパパが一番で居たい!」

「喧しい! とっとと現実を受け入れて、さっさと帰れ!!」

 

2m近い巨漢二人が叫び、殴り合いに発展しそうな雰囲気になるが、それを止める小さな影が黒腕の尻を思い切り蹴りあげた。

 

「いっ!!」

「……アナタ? 人の職場に来て、何をバカな事言ってるの?」

「火、火無、でもよ……」

「デモも大正もありません。ほら、さっさと帰る。それに緑谷君は良い子よ。爆豪君はちょっとやんちゃだけど」

「うぅ……、分かった」

「はいはい、ほらさっさと帰るの」

 

自分よりも30cmは大きい黒腕の背を押して、スモーキーこと煙堂火無は仕方ないと笑う。

 

「エンデヴァーもごめんなさいね。この人、娘の事になると見境無くすから」

「ああ、いや、うむ」

 

にこやかで柔らかい雰囲気のスモーキーだが、エンデヴァーや事務所の者達は知っている。

有事となれは苛烈な方法を取る事に迷いのない女傑だと。

エンデヴァーがその性格故に暴走しかけた時など、容赦なく絞め落としにきた。

というか、落とす方のジャーマンスープレックスで落とされた。

 

「ほら、さっさと帰った帰った」

「エンデヴァー、お前も娘が男連れてきたら解るぞ」

「余計な事言わないの」

 

最後に黒腕の尻を蹴り飛ばし、扉を閉めた。

 

「あー、スモーキー?」

「うちの人がごめんなさいね」

「いや、それについては構わん。だが……」

「大丈夫ですよ。あの人、ああは言ってますけど、娘に友達が出来たのが嬉しいんですから」

「そ、そうか」

「では、私今日は早上がりなので」

「ああ、うむ。ご苦労」

 

スモーキーが事務所から去った後、とりあえずエンデヴァーは自宅に電話した。

 

「ああ、冷か? その、なんだ? 冬美の交遊について、ちょっと聞きたくてな。帰った後話せるか?」

 

自宅に帰ったエンデヴァーが叫ぶまで、後数時間の事だった。




「煙羅、ちょっと来い」
「やだ!」
「何故だ?!」
「親父、いずくんの事ばかにするもん!」
「いや、それはだな……」
「いずくんはヒーローなんだ! オールマイトや親父よりカッコいいもん!」
「えっぶぁ!!」
「あらあら、ぞっこんね」
「ちくしょう!」

煙羅コスチューム

  • 軍服風
  • 作業着風
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