煙の少女のヒーローアカデミア   作:ジト民逆脚屋

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またゲームに負けたので罰ゲームです


本編
非行少女


目を覚ます。

ただそれだけの事が、酷く億劫だった。

のそり、と布団を引き剥がして身を起こせば、部屋に煙が漂っている。

 

「あ゛~」

 

嗄れた声、誰が聞いてるという訳でもないが、それを誤魔化す様にして、僅かに掠れた輪郭の腕を振れば、漂う煙は腕を追う様にして一纏まりになり消えていく。

 

「また解けてたか。いい加減、この癖直さねえと……」

 

二、三回腕を回して、手を動かすと、部屋に漂っていた煙は消え、僅かに掠れていた腕は元通りになっていた。

 

「……さて、誰も居ないな、と」

 

手早く着替えを済まし、まだ眠気の残る頭を動かしながら、廊下を素早く見渡し誰も居ない事を確認する。

そして、音を出さない様にそろりそろりと廊下を進み、階段を降りて外に出る。

キョロキョロと曲がり角を確認して、勝手口へ向かう。

よし、いい調子だと、少女はほくそ笑み、勝手口のある台所へと足を踏み入れ、ポケットに忍ばせた紙の包みに手を伸ばした。

 

「……何をやってんだい? バカ娘」

「うげ! ババア……」

 

と、そこまで辿り着いた所で、少女にそう声がかけられ、その声の主に顔を顰め悪態を吐く。

 

「〝煙羅〟、朝飯ならまだだし、そのポケットの中身を渡しな」

「な、何も持ってねえし」

「すぐバレる嘘を吐くんじゃないよ。……いいから、寄越しな」

「ちっ、……ほらよ」

 

少女、煙羅がポケットから取り出して、老婆に手渡したのは紙巻きの煙草だった。

 

「またお前は……、一体どこから仕入れてくるんだか」

「どこだっていいだろ」

「喧しい。ほら、さっさと制服に着替えてきな。学校サボるんじゃないよ」

「へいへい」

「返事は一回だ、バカ娘」

 

超常社会、中国で光輝く赤子が産まれた事から始まり、今となっては世界人口のおよそ八割が、生まれながらに何らかの超能力を持つ様になった。

そして、それら超能力は〝個性〟と呼ばれる様になり、はっきりとしつつも不明瞭な光と影に分かれる事になる。

ヒーローとヴィラン、個性を使い人を助ける者と個性を使い人を脅かす者。

今やこの超常社会は、それらに二分されていると言っても過言ではない程に、ヒーローとヴィランが溢れており、超常(ヒーロー)飽和社会とも言われている。

 

「おうおう、朝っぱらからお盛んな事で」

 

少女、煙堂煙羅が気怠そうに眺める怪獣映画もかくやという巨体と、体から樹木を生やす男が争う光景は、もはや慣れきった日常でしかない。

365日24時間四六時中、世界のあちこちでこの光景は見られる。

 

「〝シンリンカムイ〟だってさ」

「ああ、あの新人か」

 

朝のラッシュを騒がす大捕物を他所に、煙羅は興味を失い自販機で買った缶コーヒーを口に傾ける。

馬鹿みたいに全身が燃えている男がラベルになったそれを、一口飲むと煙羅は顔を顰めた。

不味い。驚く不味さ。ただ苦いだけの黒い水に、無理矢理甘さを付け加えただけの砂糖水。

中途半端にミルクが入っているのが、更にいただけない。

煙羅は顔を顰めながらも、捨てるのは勿体無いと一息に飲み干し、自販機の側のゴミ箱に八つ当たりの様に叩き込んだ。

 

「……だるい。サボるか」

 

ポケットを探るが、目当ての紙の包みは無い。

ああ、そうだった。家を出る前に没収されたのだった。

煙の代わりに盛大な溜め息を吐き、学校をサボる事を決めた。

中学二年、進路を気にする頃だが、煙羅にはどうでもよかった。

 

 

――気にした所で、どうにもならねえ――

 

 

飲酒喫煙は当たり前、補導歴も当然一度や二度ではない。学校に来れば周りからは煙たがれ、教師からは厄介者扱い。調子に乗っていると上級生や、他の不良から喧嘩を売られ、倍にして返す事もあった。

煙堂煙羅は俗に腐ったみかんと揶揄される不良であり、本人もそれを認めている。

だから、周囲の望み通りに不良として今日も過ごそうかと、学校とは逆の方向へ足を向ける。

 

「あ、煙羅さん」

「出久……!」

 

巨人のドロップキックを背景に、同級生の緑谷・出久の声と姿を確認した煙羅は、颯爽と踵を返し緑谷の方へと向かった。

 

「またサボり? ダメだよ」

「いやいやいや、サボりだなんてこの超絶マジメなアタシ様がする訳ねえじゃん。つーか、むしろ出久が居る学校をサボる理由が無いな」

「またそんな事言って、昨日もサボったのに」

「昨日は朝来てたからノーカン。んで、出久。ノート何冊目?」

「今日で十三冊目かな」

 

緑谷出久、癖のある緑髪のヒーロー志望の真面目な同級生であり幼馴染みで、煙羅と円滑なコミュニケーションが取れる数少ない人間であり、学内では煙堂係と呼ばれている。

 

「つかさ、出久。ちょっと背伸びてない? 体格も良くなってきてるし、バ勝己のトレーニングの影響?」

「バ勝己って、かっちゃんをそう言えるの、煙羅さんだけだよ。というか、煙羅さんも手伝ってくれるよね」

「アタシは出来る女だからな。惚れた男の為なら、身を惜しまねえのさ」

 

超常社会、世界人口の八割が個性を持つ社会。それは平等な社会ではない。八割が個性を持つという事は、残り二割はそうではない。

残り二割は、超常社会以前の何の個性も持たない所謂無個性と呼ばれる人々であり、ヒーロー志望である緑谷はその無個性だ。

 

「ねえ、煙羅さん」

「ん、どうした?」

「僕、ヒーローになれるかな?」

 

この社会の花方であるヒーローには、一人として無個性の者は居ない。

全員が何らかの個性を持ち、それを使い日夜ヴィランと戦っているのだ。

そう、ヒーローには一人として無個性は存在しない。

だが、緑谷出久は無個性でヒーローになろうとしている。

それが何を意味しているのか。本人も馬鹿でも愚か者でもない。気付いている。

 

無個性はヒーローになれない。

 

「なれるだろ。つーか、アタシからしたら、出久。お前はオールマイトなんか目じゃないヒーローだ」

「え?」

「出久、アタシはあんたに救われた。アタシにとって、ヒーローってのは緑谷出久なんだ」

 

不安に揺れる目を真っ直ぐに見つめ、煙羅は緑谷の頬にそっと触れる。

嘗て、煙堂煙羅は緑谷出久に救われた。あの日見た彼の背中は、確かに画面の向こう側で見たヒーローの背中だった。

 

「それに、ヒーローってのはさ。個性なんて超能力を持った集団じゃなくて、誰かを助けられる人の事だと、アタシは思ってる。なら、出久はヒーローだよ」

「煙羅さん……」

「いや、天下の往来で何やっとんだ? デク、煙女」

「かっちゃん!!」

 

爆豪勝己、その個性を示すかの様な髪型と、吊り上がった目付きが特徴の二人の同級生であり幼馴染みでもある。

 

「おーう、バ勝己。アタシらの仲に割って入ろうなんざ、いい度胸してんな」

「喧しい! 朝のラッシュにイチャイチャしてんな! つか、お前サボりじゃねえのか? 今日の一限ヅラハゲの授業だぞ」

「うげ、ヅラハゲかよ。……一限だけサボるか」

「サボりはダメだよ、煙羅さん」

「サボらなーい、アタシサボらないよ」

「だー! くっそうぜえからやめろ。行くならさっさと行くぞ!」

 

吊り上がった目を更に吊り上げて爆豪が叫び、緑谷がその背中に急いでついていく。煙羅は、二人の様子に笑みを溢し、そして二人の後ろをついて歩いていく。

 

緑谷 出久、爆豪 勝己。そして、煙堂 煙羅。

これは折寺中学の三羽烏と呼ばれる三人が、ヒーローを目指す物語であり、煙堂・煙羅という全てを諦めた少女がヒーローになる物語。

煙羅コスチューム

  • 軍服風
  • 作業着風
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