煙の少女のヒーローアカデミア   作:ジト民逆脚屋

6 / 22
お気に入りと評価が予想を遥かに超えていて、マジでビビり散らしてる。
もっと死ねやカスが!
みたいなの来ると思ってた。

あと、一応はヘドロ事件辺りを区切りに、拙作は完結とします。



煙堂・煙羅 オリジン

煙堂煙羅はヴィランの娘である。

これはどうしようもなく、覆しようがなく、そして消えない現実である。

煙堂煙羅の父親はヴィランで、しかもその悪名の高さは子供でも知っている程だ。

 

煙羅の父親は〝黒腕〟と呼ばれたヴィランだった。

〝凝縮硬化〟という、非常に単純な強化系の個性を持ち、性格は非常に残忍かつ狡猾で計算高い。

故に、彼はその強さに驕る事はしなかった。彼はその個性を徹底的に磨き上げ、身体を鍛え上げ、知性を積み上げた。

周到に、徹底して、彼は自らに仮面を被せた。

仮面は善人、掃いて捨てる程居るただの善人の仮面を被り、彼は大学を卒業するまで、己を隠し続けた。

 

そして、ある平和な晴れの日に動いた。

大学の卒業式、その日彼は共に社会飛び立つ同期生、全てを殺害した。

これが〝黒腕〟の始まりであり、後に続く惨劇の幕開けであった。

殺人、強盗、器物破損、誘拐、脅迫etc.

〝黒腕〟は隠し続けた凶暴性を解放するかの如く、数年間で思い付く限りの悪行に手を染め、しかし生来の計算高さと慎重さは全く失わず、悪名を確実に積み上げ、襲い来るヒーローを確実に仕留め、近現代に於ける最悪のヴィランの一人となった。

 

彼が何故、その様な凶暴性を孕んでいたのか。今も犯罪学や心理学等に携わる者達は、その事実の探求を続けている。

だが、彼はそれを見越していたと言わんばかりに、交遊関係は希薄で、近親者すらはるか昔に死んでいた。

生まれから狂っていた。

何か分岐点となるものが、彼を狂わせた。

この二つが有力な説だが、真実はもう分からない。

 

〝黒腕〟は死んだ。

ヒーローの手でも、司法によってでもなく、最期は自らの手で命を絶った。

エンデヴァー、ベストジーニスト、エッジショット、そして他ヒーローに追い詰められ、最後はオールマイトとの二時間近くに及ぶ死闘の末、彼は自らの個性を用いて、自分の脳と心臓を破壊し、炎の中に消え去った。

 

「流石だよ、ヒーロー。だが、〝俺〟を〝あいつ〟にはくれてやる訳にはいかない」

 

これが〝黒腕〟の最期の言葉で〝黒腕〟の終わり。もう彼はこの世には居ない。近現代最悪のヴィラン〝黒腕〟は、あの日この世から消え去った。

だが、彼女の話はここから始まる。

 

煙堂煙羅の母親はマイナーヒーローの一人だった。

強力な個性だが、あまり表立った活躍の無い一山幾らのヒーロー。

彼女は一年近く行方不明となっていた。そして、〝黒腕〟の最期の日、彼女は彼のアジトから救出された。

命を宿し、膨れた胎を抱えて。

彼女の状態を見た者は、あまりの事態に目を覆った。

ある者は胎の子は堕ろすべきだと言った。

だが、彼女はそれら全ての声を突っぱねた。

 

「確かに、この子の父親はあの男です。しかし、この子になんの罪があると言うのですか? あの男の罪は、この子に産まれてくる事すら許さないものなのですか? この子は産まれてくる事すら許されない罪を犯したのですか? あの男の罪は、この子の罪ではありません! ……この子は私の子です。私が守り育てます」

 

煙堂煙羅は、無名のヒーローと最悪のヴィランの娘である。

だから彼女の母親はヒーローの職を辞し、自分の事を誰も知らない町に、唯一の肉親である自分の母と移り住み、その町で煙羅を産んだ。

 

初めの数年間は平和な日々が続いた。

だが、世の常として善意は途絶えるが、悪意は途絶えない。それも積もり積もったそれであるなら、その強さは尋常のそれではない。

ある日の保育園の帰り道、突然の悪意は襲い掛かる。

犯人〝黒腕〟の被害者遺族で、その中にはヒーローも数人含まれた。

目的は復讐と語られた事件は、駆け付けたヒーローにより早くに治まったが、煙羅の母親は体の半分以上を失いながらも、まだ幼い彼女を庇い死んだ。

 

煙羅の個性の中に眠っていた、あの男の個性が目覚めたのは、この日だった。

 

「…………」

 

その日から煙羅は祖母に連れられ、町を転々とし、最後に二人の居る折寺に辿り着いた。

暫くは平和だった。だが、平和とは長く続かないと、煙羅は幼いながら理解していた。

当時の同級生の中に、親が記者の子が居た。

その父親の言葉に悪意は無かったかもしれない。ただ、悲劇の元に産まれてしまった子供が居て、自分の子供にその子の手助けをしてほしかった。それだけだったのかもしれない。

しかし、現実とは理想とは程遠いから現実なのだ。

 

犯罪者の子供

ヴィランの子供

裏切り者の娘

 

悪意はしっかりとその役目を果たした。

振りかざされた悪意の刃は、確かに煙羅の心を傷つけ荒ませた。

煙羅は荒れた。心に深々と突き刺さった悪意の刃を引く抜き、引き抜いた刃を以て、自らを守る為に戦った。

だが、その中で煙羅は一度も自分の個性を使わなかった。

 

「煙羅、私達の個性はすごく強い個性なの。だけどね、強い力っていうのは、簡単に誰かの大切なものを奪える。……今は分からなくても、お母さんのこの言葉は覚えていて」

 

煙羅は覚えていた。だから、母の言葉通りに個性を一度も使わなかった。

どれだけ傷つけられても、必ず生身の力だけで正面からやり返してきた。

だがそれには限界がある。一人では複数の悪意には勝てない。

ある日、煙羅は負けた。

そして、彼女は出会った。

No.1ヒーローのオールマイト以上のヒーローに。

 

「や、やめろぉ! 女の子をいじめるなんて、ぼくがゆ、ゆるさないぞ!」

 

彼は震えていた。武者震いではなく、恐怖で涙を流し、歯を打ち鳴らし、膝も笑っていた。

だがそれでも、彼、緑谷出久は煙堂煙羅に向けられた悪意に、たった一人で立ち向かった。

この日、煙羅は知った。

この世界には、悪意だけではないと。

真っ暗で真っ黒な世界の中にも、光となる者が居るのだと。

そしてその光は、決して一人ではないのだと。

 

「なにやってんだデクコラァ!」

「かっちゃん?!」

「きょうは山にカブトムシとりにいくっつったろうが!」

「うげ! ばくごうだ! にげろ!」

「なんだあいつら? おい、デク」

「まってよかっちゃん。あ、あのだいじょうぶ?」

「……うん」

「デク、だれだそいつ?」

「ほら、となりのクラスの子だよ。なんだかわかんないけど、いじめられてたから」

「むこせーのお前が何ができんだよ。おれをよべよ」

「う、うん。あの、ぼくは緑谷出久っていうんだ。こっちはかっちゃん」

「爆豪勝己だ! んで、テメーはだれだよ?」

「……煙堂煙羅」

 

緑谷出久と爆豪勝己、二人のヒーローとの出会いが、煙羅を少しずつ変えていった。

ほんの少し、ほんの少しずつ、それは微々たるものでも、確かな変化だった。

 

「おい、バカけむり! きょうババアがクッキーやくからこいよ」

「かっちゃん、バカけむりじゃなくて、煙羅ちゃんだよ。あ、煙羅ちゃんもいこう」

「でも、アタシは……」

「クソモブなんざだまらしゃいいんだよ! どうせ、あいつら弱いもんいじめしかできねえ、ダセエやつらだ!」

「かっちゃんはもう。いこうよ、煙羅ちゃん。だいじょうぶ、煙羅ちゃんをいじめるやつらは、ぼくとかっちゃんでやっつけるよ!」

「……うん!」

 

ほんの少しずつ、煙羅は変わっていった。二人のヒーローだけでなく、二人の家族とも触れ合い、少しずつ変わり、二人と同じヒーローになりたいと、明るくなった世界で思える様になった。

しかしだからこそ、悪意というものは光の中で牙を剥く。

 

「煙堂! おばあちゃんが!」

「え?」

 

祖母が襲われた。

犯人は愉快犯、理由はヴィランの家族はヴィランだから、ストレスの捌け口にしてもよかったという身勝手なもの。

 

幸い、祖母に怪我は無かったものの、向けられた悪意に煙羅は再び荒れた。

今度はもう、容赦はしない。

中学に上がる頃には、煙羅は周囲の手がつけられない不良少女として有名になった。

だが、それでも喧嘩で母の個性は使わなかった。

 

「……煙羅ちゃん?」

「……引子おばさん」

「どうしたの? 大丈夫? ああ、目が真っ赤じゃないの。もしかして、また誰かに何か言われたの?」

「ち、がう……、ちがうの」

「大丈夫、大丈夫だからね。おばさん達は煙羅ちゃんの味方だから」

 

ハンカチで煙羅の目元を優しく拭い、まだ黒く染まった右手を、緑谷の母である緑谷引子はそっと周りから見えない様に両手で包む。

この温かい人達と一緒に居たい。

だが、それは叶わない。

煙堂煙羅がどれだけ望んで願っても、周囲はそうは見ない。見る気がない。

自分が一緒に居れば、この人達にまで悪意は牙を剥く。

 

「……アタシが一緒に居たら、いずくんもかっちゃんも、おばさん達も……」

「煙羅ちゃん、出久も勝己君も光己さんも勝さんも、貴女のおばあちゃんも、貴女を一人になんてしない。大丈夫、ほら一緒に帰りましょう」

 

だから、あと少しだけ、ほんの少しの間だけ、この温かな場所に居る。

 

「出久も勝己君も心配してたわよ? 煙羅ちゃんがまた学校に来てないって」

「……うん」

 

この一時が最後だ。

煙堂煙羅は決めていた。

 

「あ、あれ出久じゃない? 勝己君も一緒ね。おーい、出久ー、勝己くーん」

「え、あれ母さん? あ、煙羅さん!」

「ああ?! おいこらぁ! バカ煙! どこほっつき歩いてやがった!?」

「かっちゃん、落ち着いてってば! ……煙羅さん、どうしたの?」

「あ゛? おい、何があった? またクソ野郎が出てきたのか?」

「大丈夫よ。ちょっと嫌な事があっただけみたいだから。……そうね、煙羅ちゃん。今日、家に泊まっていきなさい。おばあちゃんには、おばさんから言っておくから」

「か、母さん!?」

「勝己君もどう? ちょっと昨日作ったカレーが余り過ぎちゃってて、おばさん困ってるのよ」

「あぁ? ……分かったよ、ババアに伝えとく」

 

この温かな場所から、緑谷出久に抱いた淡い気持ちを抱えたまま、中学を卒業したら姿を消そうと、煙堂煙羅は決めていた。











〝黒腕〟、彼は奪う事しか知らなかった。
だから、そうした。
自分の満足のいくように
自分を満たせるように
だが、彼は満たされなかった。
だから奪い続けた。
だが、その中でも強姦だけはしなかった。
何故だろう。
分からない。
分からない。
分からない。

奪い続ける日々の中で、一度だけ何かを残そうと思った。
たった一度、たった一人だけ、顔も知らない相手に
だから自分は消えなくてはならない。
絶対の悪意に、自分の力を渡す訳にはいかないから

煙羅コスチューム

  • 軍服風
  • 作業着風
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