煙の少女のヒーローアカデミア   作:ジト民逆脚屋

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ラストスパート!!


煙堂煙羅¦ライジング

どうしたらいいのだろう。どうしたらよかったのだろう。

悩み悩んで、答えを探す様に夕暮れの近付き始めた町を歩く。

離れよう、そう思っても足はそう動いてくれず、普段徘徊している範囲を、ただぐるぐると巡っている。

自分という存在が、周りにとってどれ程迷惑な存在なのか。煙羅は嫌になる程分かっている。

 

ヴィランの娘

〝黒腕〟の娘

ヒーローの娘

裏切り者の娘

 

幼い頃から聞こえてきた声、耳に目にへばりついて離れない雑音。家への落書きや張り紙、投げ込まれる石入りの紙くず。

それらを見る度に、煙羅は煙羅は認識する。

 

 

――ああ、やっぱりアタシはヴィランの娘でしかないんだ――

 

 

二人がどう見て、どう接してくれても、世間からしてみれば煙羅は最悪のヴィランと、その男の子を産んだ女の娘でしかない。

二人にとって彼女はただの煙堂煙羅でも、世間は違う。

煙堂煙羅はヴィランの娘、世界から排斥すべき異物。

こうして人知れず、人めを避けて裏路地をさ迷っているのが証拠だ。

そんな煙羅に関わり続ける二人が、陰でどう言われているのか。知らない煙羅ではない。

 

「こんなアタシが、ヒーローになれるかよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「オールマイト!!?」

 

緑谷の驚愕の声、だがそれを掻き消す程の突風が狭い水路を探す吹き荒れる。

煙羅を探し、裏路地や狭い人目につかない場所を巡る内に、昔三人で探検に出た水路を調べていた緑谷だったが、そこで最悪の遭遇を果たしてしまった。

ヴィランだ。

全身がヘドロの様な半液体状の異形型のそいつは、緑谷を見付けるや否や、瞬時に彼に絡み付いてきた。

 

発言から察するに、他人に絡み付きその動きを支配して、犯行を行わせるタイプだった様だが、今は緑谷を助けに来たオールマイトの手によって倒され、本体であろう口と目の部分をペットボトルに詰め込まれている。

 

「HAHAHA、少年。こんな場所に来るなんて、もしかして廃墟マニアってやつかい?」

「あ、いえ、その実は大事な人を探してて……」

「ほう! 人探し! しかし、それは君だけで出きるのかい? もっと大人を頼るのも手だぜ」

「……駄目なんです。僕ともう一人の幼馴染みと家族以外を、その子は信用してなくて……、僕達がもっと、もっとちゃんとしてたら……!」

「……OK、少年。その子の特徴を教えてくれるかい? 私はヒーローだ。人助けが役目なのさ」

「は、はい! その子は女の子で、吊り目の黒髪で僕より背が高いです。あと、発動系の異形型個性の子で、髪の毛先が煙状に揺らめいています。もし見掛けたら、こ、この番号に連絡をください! 上が僕、下がもう一人の幼馴染みの番号です!」

「任せなさい。……もう一ついいかな? 少年、君は何故こんな場所を探していたんだ? 女の子を探しに来る場所じゃあない気がするんだが?」

 

オールマイトの問いは尤もだ。こんな下水道近くの水路に、中学生女子が来る訳も隠れる訳も無い。

だが、オールマイト〝は〟知らない。

緑谷が探している少女が何を抱えて、何を背負わされているのか。

 

「オールマイト、聞きたい事があるんです。無個性でも、……父親がヴィランでもヒーローになれますか」

「……少年、すまないが私はその問いに値する答えは一つしかない。難しいだろう。それこそ、不可能に近い程に」

「……っ!」

「私から言えるのは、これだけだ。だが、少年。……諦めた者には何も掴めない。これだけは覚えていてくれ。では、さらばだ。暗くなる前に帰るんだよ」

 

それだけ言うと、オールマイトは一瞬で空に飛び立つ。

八木俊典として言える事は言った。彼、緑谷達の心は正しくヒーローに足るものだ。それこそ、自分(オールマイト)を受け継ぐに値する程に。

だが、それでも無個性の緑谷がヒーローになるのは不可能に近い。そして彼女、煙羅はあの〝黒腕〟の娘。

オールマイトは覚えている。あの二時間以上に渡る死闘を、その最中に交わした言葉を。

 

 

――緑谷少年、気付くんだ。答えは君達の中にある――

 

 

選ぶのは何時だって、過去でも現在でもなく未来だ。

先を、未来を見ない者に光を掴み取る事は出来ない。

心の中で子供達の選択を祈り、そしてオールマイトはあるミスを犯す。

原因としては、自身に課された制限が迫る合図が体に走った事、緑谷の問に対する答えと願い。そして、煙羅の現状への焦り。

そして、

 

 

――もし、俺のガキに会う事があったら、まあ頼む――

 

 

あの日、憎むべきヴィランから投げ掛けられた言葉だろう。

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだ?」

 

やけに表の通りが騒がしい。いや、普段から賑やかではあるのだが、今のはそれとは違う。嫌に耳に届く悲鳴の様なそれだった。

自分には関係無い。そう思う煙羅だったが、何故か足はそちらに向いてしまう。

 

 

――はっ、野次馬根性丸出しかよ――

 

 

最後だ。最後にこの町の騒動を見て、この町から去ろう。そうすれば、もう二人が悪く言われる事は無い。

そう思い、煙羅は裏路地を抜けて、騒ぎの起きている表通りに出た。

 

「かっちゃん……!!」

 

そこで聞こえてきたものは、幼馴染みの渾名を叫ぶ大切な彼の声だった。

 

「出久! 勝己?!」

 

煙羅は走った。人だかりを掻き分け、無理矢理前に出た。そして見た。大切な幼馴染みがヘドロの様なものに飲まれ、その個性を使い抵抗する様を。そして、その幼馴染みを助けに、無個性の彼が渦中に飛び込む瞬間を。

 

どうすればいい。煙羅は迷った。

 

 

――アタシが行って何になる?――

 

 

勝己は強い。個性も人間も、煙羅とは違い強い。

出久は強い。無個性だが、人間の強さは煙羅とは違う。

煙羅は弱い。個性はあっても、人間が二人とは違う。

 

何にもならない。どうにもならない。

大丈夫、これだけの騒ぎ、ヒーローがすぐに来る。

すぐにヒーローが来て、二人は助かる。

そうだ。自分がどうする必要は無い。

煙羅がそう思い、人だかりの中に沈もうとした時、それは聞こえた。

 

「くそ、駄目だ。相性が悪い、早く誰か応援呼んで来い!」

「液体相手では自分では無理だ!」

 

駆け付けたヒーロー達何を言っているのか、煙羅は一瞬理解出来なかった。

こいつらは何を言っている。

 

応援?

相性?

無理?

 

ヒーローでない勝己があんなに苦しんで、出久があんなに頑張っているのに、二人の憧れのヒーローが何を言っている?

 

 

――アタシは……――

 

 

早く、何とかしないと二人が危ない。だが、自分に何が出来る。ヴィランの娘が、裏切り者の娘が、この場で一体何が出来る。

何も出来ない。何も救えやしない。だって、現に自分の足は他の野次馬と同じ様に動いていない。

お前には何も出来ない。何も救えやしない。何も掴めない。

ただの煙なら、さっさと風に巻かれて消えてしまえ。

 

自己否定、聞き覚えの無い筈の太い声が、脳内で煙羅を否定する。

 

 

――アタシは……!――

 

 

「デクッ……!?」

 

緑谷がヘドロヴィランに吹っ飛ばされ宙を舞い、強かに地面に打ち付けられる。

咄嗟に受け身を取った様だが、ヘドロは間髪いれずに、先程折れた標識を手にしていた。

 

「かっ……!」

「クソガキが、邪魔なんだよ!!」

 

振りかぶられる標識、あれが振り下ろされれば、緑谷は確実に死ぬ。

自分なら、煙羅なら何とか出来る。煙の自分なら彼に届く。あの男と同じ腕を持つ自分なら、あんな標識程度防げる。

だが、体が動かない。

駄目だ。そう思った時だった。

 

体が動いた。

 

それだけではない。

誰かに背中を押された。そんな気がした。

 

よく知る、懐かしい小さくて優しい手

知らない筈の、大きくてただ強い手

 

一瞬、後ろへ視線を向けるが、それらしい姿がある筈も無い。

だから、煙羅はもうさ迷わず、ただ前に出た。

 

「出久に! 何やってんだこの腐れヘドロ野郎が……!!」

 

破砕は一瞬、頭上に交差させた腕で、ヘドロが振り下ろす標識を受ける。

受けた腕に傷がある筈も無く、そこには黒曜石の如く艶のある黒い腕がヘドロを睨み付けていた。

 

「煙羅さん!?」

「ごっ? ぶはっ! おっせえぞ! バカ煙ぃ!!」

「うっせえ! テメエこそ、んなダサい奴に捕まってんじゃねえよバ勝己!」

 

叫び終わるかどうか、そのタイミングで煙羅は緑谷を抱え、足を煙と化し一気に伸び上がる様に、ヘドロの頭上を取る。

一瞬だけ驚く緑谷だったが、すぐにヘドロのある一点を指差し、煙羅と爆豪に指示を出す。

 

「煙羅さん! 本体はあの目玉と口の辺りだ! かっちゃん! 今ならぶっ飛ばせる……!」

「言われなくても分かってんだよ! デクゥ……!」

 

爆豪の反応は速かった。ヘドロの注意が二人へ向いた瞬間、拘束されていた腕を己の顔とヘドロの顔の隙間に差し込み、上へ向けて容赦なく爆破した。

 

「勝己、手ぇ!」

「おらよ!」

 

煙羅の個性である煙は、爆豪の様な爆発力も威力も無い。だが、人二人程度なら抱き抱え浮遊する事が出来、そして煙羅の体は煙故に、決まった型は無いに等しい。

ヘドロの頭上から、文字通り煙羅が手を伸ばし、勝己の手を掴む。そして、力任せにヘドロから引き抜く。

置き土産の爆破を追い風に、爆豪は一瞬でヘドロから抜け出し、煙羅と緑谷の元へ飛んだ。

 

「ボケが、マジでおせえんだよ」

「悪い」

「二人共! 前! 前!」

 

額から血を流す緑谷が叫ぶ先、そこには爆豪の爆破から立ち直ったヘドロが、商店街の看板を掴み振りかぶる姿があった。

 

「死ねや、ガキ共がぁ……!」

 

爆豪が火花の散る掌を、煙羅が黒腕を翳し、衝撃に備えたが、来るべき衝撃は来なかった。

何故なら、

 

「情けない。この私が少年少女にヒーローの何たるかを教えられるとは! ヒーローは何時だって命懸け……!!」

 

オールマイトのその言葉と共に打ち下ろされた一撃で、ヘドロは抵抗も出来ず飛散した。

そしてこの瞬間、煙堂煙羅と緑谷出久、爆豪勝己の一番長い一日が終わりを告げた。

だが、三人はこれからを決める大切な時間が来る事を、まだ知らなかった。




煙羅は全身を煙に出来ますが、やると戻った時全裸になるので、コスチュームが来るまで両手足だけ!

煙堂煙羅の秘密¦実は趣味がレザークラフトをメインとした裁縫全般だぞ

次回¦三人のこれから












「本当にいいの?」
「ああ」
「まだやり直しはきくかもしれないわ」
「ああ」
「それでも必要な事だ。あのくそ野郎に俺と、俺の個性を渡す訳にはいかない」
「分かったわ。さよなら」
「ああ、ガキによろしくな」

彼は、愛を知るのが遅すぎた。

煙羅コスチューム

  • 軍服風
  • 作業着風
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