煙の少女のヒーローアカデミア   作:ジト民逆脚屋

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どうしよう。ここで終わらせるべきか。入試で終わらせるべきか


三人のこれから

「んで、もう吹っ切れたのかよ」

「おう、いや、実はまだちょっと引っ掛かってる……」

「うん、急には無理だよね」

 

オールマイトがヘドロヴィランを倒してから、勝手に動いた事を、ヒーロー達に怒られた緑谷と煙羅だったが、予想よりその時間は短かった。

飛び散ったヘドロの片付ける必要もあったのと、恐らく動かなかった自分達の、後ろめたさがあったのかもしれない。

そして、駆け付けていたヒーローの中で、年長者だろう数人は、煙羅の黒腕を見て何とも言えない表情をしていた。

しかし、

 

〝黒腕〟の娘が他人を助けた。

 

三人の関係性はどうあれ、事実、煙羅は奪う事しかしてこなかった父親を否定した形となった。

これをオールマイトだけは、どこか嬉しそうに見ていた事を、三人は知らない。

 

「つーか、あんのクソモブとモブヒーロー共! オールマイトが来た途端にイキりやがって!!」

「かっちゃん、そこは触れないでおこうよ……」

「あ゛あ゛?! デク、テメー、あれを許すのかよ!」

「いや、煙羅さんに対する態度は僕も許せないけど、やっちゃいけない事をしたのは事実なんだからさ」

「けっ!」

 

緑谷の言う通り、ヒーローを含む個性使用許可を得ていない者が、公共の場で個性を使う事は法で禁じられている。

今回、爆豪と煙羅は緊急事態であった事や、現場の状況、そしてオールマイトと他数人のヒーローの口添えもあって、特別に恩赦という形に終わった。

しかし、それとは別に、爆豪が憤っているのはヒーロー達の煙羅に対する態度。

 

「ま、アタシもヒーローに期待しちゃいないから、出久も気にすんなって」

 

あからさまに、煙羅を避ける様な、文字通り腫れ物に触るかの様な態度に、爆豪は掌から火花を散らし、緑谷は若干ふらつきながらも、ヒーローと野次馬の煙羅の間に入り彼女を庇った。オールマイトが急いで仲裁に入らなければ、爆豪は確実に辺りに爆破を叩き付けていた。

 

「……出久、勝己。ありがとな、庇ってくれて」

「え、あ、うん。当たり前の事をしただけだし、僕も腹が立ったのは本当で、煙羅さんは煙羅さんなのにお父さんの事であんな風な態度を取るのは、ヒーロー以前に人としてどうかと思うし……」

「だあーっ! うっせえ! その早口ブツブツやめろやあ!! てか、テメーもなにニヤニヤしてんだ!」

「いや、なんか、嬉しくてさ」

「けっ、たりめえの事でニヤニヤすんなや」

 

爆豪はそれ以上何も言わなかった。緑谷も、二人の一歩後ろを歩く煙羅も何も言わない。ただ三人で夜が近付きだした夕暮れの帰り道を歩く。

そして、三人がそれぞれの家路に着く十字路の辺りで、突然緑谷の携帯が鳴った。

 

「あ、八木さんからだ」

「出久、なんて?」

「んー、今日時間を取れないかって。僕に凄く大事な話があるみたい」

「あ? んだそりゃ」

「なーんか、あやしー。そういや、八木さん。妙に出久に構ってたよな、勝己」

「ん? ああ、そう言われりゃそんな気もすんが、いやまさか、あのヒョロガリ骸骨だぞ」

「出久、出久。時間と場所は?」

「僕一人で夜に、いつもの海岸でって話みたいだけど、二人も来るの?」

 

緑谷のその台詞に、爆豪と煙羅は怪訝な顔を見合せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、緑谷少年」

「八木さん、一体どうしたんですか?」

「うん。緑谷少年、変な事を聞くようだけど、君は今もヒーローになりたいかい?」

「はい!!」

「そうか……。やはり、君しか居ないな。であるならば、これからとても大事な話をする。そして、これから見るのは真実だ」

「八木さん……っ?!」

 

驚愕する緑谷の目の前で、痩せ細り骨と皮だけの八木の体が膨れ上がり、眼窩の落ち窪んだ、しかし力強い目が更にその力を増していき、特徴的な金の髪が聳え立つ。

この個性社会、体を変形変質させる者は珍しくない。

親しい煙羅も、体を煙に変え腕を黒く硬く出来る。

故に、緑谷の驚いている点は八木の変身ではなく、その変身した姿だ。

 

「オ、オオォオ、オールマイトッ……!!?」

「済まない、騙すつもりは無かった。だが、この秘密は簡単に明かす訳にはいかなかったんだ」

 

その姿とは、No.1ヒーローであるオールマイト。緑谷、いや、全てのヒーロー志望憧れの存在だった。

八木、否、オールマイトが自身の秘密を語ろうと、驚愕し震える緑谷に再び口を開く。

そんな時だった。

その二つの声が、海岸にある茂みから聞こえてきたのは。

 

「嘘だろお前……、オールマイト? は?」

「おい、勝己? 勝己! しっかりしろって!?」

「いや、でも、は? は??」

「かっちゃん! 煙羅さんまで!?」

 

突然聞こえてきた声に止まるオールマイトを他所に、まさかの珍客の名前を緑谷が呼ぶ。

八木の、オールマイトの、あまりの真実に驚いた二人が、茂みから飛び出してきた。

実は二人共に、突然の八木の呼び出しを不審に思い、緑谷の後をこっそりと追跡していたのだ。

 

「いや待て、変身系の個性か?」

「かっちゃん、間違いなくオールマイトだよ。ほら見てよ、口の角度はナイトモードのオールマイトだし、顔の陰影は最新版で、ポーズもファビュラスパレード事件の時のモストマスキュラーポーズで……」

「もういい分かったわ! んで! デクに何の用なんだ?!」

「あ! うん、ちょっと待ってね。流石に今の状況は想定外が過ぎるというか……。というか、緑谷少年喋っちゃったの?」

「め、メールが来た時に……。す、すみません!」

「あ、いや、もっとちゃんと指定しなかった私も悪かったから、いいんだけどね。しかし、二人も知っちゃったかー……」

 

オールマイトは頭を掻いて、十数秒の間思案する。

そして、一つの問いかけを三人にする。

 

「緑谷少年、爆豪少年、そして煙堂少女。これから話す内容は間違いなく真実で、聞けば後戻りは出来ないものだ」

「それをデクに聞かせて、何やらせる気だったんだ?」

「かっちゃん」

「デク、テメーは黙ってろ」

 

オールマイトの問いかけに、爆豪が二人の前に出て問い返す。背後では煙羅が緑谷の両肩に手を置いて、オールマイトに眇を向けている。

嫌な予感があった。

このままでは、緑谷が何処か遠くへ、それこそ二人の手すら届かない、何処か遠くへ行ってしまうのではないか。

そんな嫌な予感があった。

 

「……爆豪少年」

「あのさー、オールマイト? 八木さん? 出久は渡さねえよ。例えあんたでもさ」

「煙堂少女。……そうだね。隠し事は良くない。これを見てくれ」

 

言うと、オールマイトが萎み、三人がよく知る八木の姿になり、徐にシャツを捲り上げる。

そして、そこにあったものに三人は瞠目し、言葉を失った。

 

「……これは、五年前にあるヴィランとの決戦で負った傷だ」

 

五年前、あるヴィランと戦い、オールマイトはその戦いに勝利したものの、胃全摘呼吸器半壊その他大小含め、とてもではないがヒーローを続けられる様な状態ではなかった。

だが、平和の象徴として姿を消す訳にはいかない。極々短期間の治療と療養のみで、彼はNo.1ヒーローとして、平和の象徴として在り続けた。

 

「その結果、度重なる手術とその後遺症も相俟って、ご覧の有り様さ」

 

だが、それも限界が近付いていた。

現在のオールマイトの力は、全盛期の半分もあればいいだろうという所にまで衰え、一日の活動時間も六時間を切り始めた。

彼はそれを理解していた。だから探していた。

己の後継となりうる心の持ち主を。

 

「緑谷少年、爆豪少年、煙堂少女。私の個性は一人が力を培い、その力を一人渡し、また培いその次へ…そうやって救いを求める声と義勇の心が紡いできた力の結晶だ」

「……個性を受け継がせる個性」

「その通りだ、煙堂少女。そしてこの力は、もう無個性の者にしか受け継げない。だから……」

「だから、デクにってか?」

 

そうだ。と、オールマイトが頷く。

三人は知った。オールマイトの真実を、オールマイトの限界を、だから三人は答えを出さなくてはならない。

卑怯者、オールマイトは内心で己を罵った。

 

 

――この様なやり方で答えを迫るとは……――

 

 

緑谷は無個性、そのままヒーローになるのは不可能に近い。そして、自分は代々受け継いできたこの個性を、彼に受け継いでほしいと迫っている。

自身の考えがどうであれ、これでは選択の余地など無いと言っている様なものだ。

だが、オールマイトは探しに探して、漸く見付けたのだ。

己が理想とするヒーローの在り方を、実行できる彼を。

 

「答えは今日でなくとも構わない」

「……出久、出久はどうしたいの?」

「煙羅さん。僕は……」

「出久がさ、もしオールマイトの個性を受け継ぐって言うなら、アタシは出久の答えを尊重する」

「おい、バカ煙!」

「分かってんだろ、勝己も」

 

何をとも、何がとも、問わない。

爆豪も理解している。緑谷は無個性でもヒーローになろうとする。そして、その結果として訪れる結末も。

必ず守る。だが、それにだって限界はある。

きっと彼は、爆豪と煙羅が目を離した瞬間、その矜持に従って、知らない誰かの為に命を落とす。

 

「……デク!」

 

爆豪は、緑谷の胸に拳を置く。殴り付ける様なそれに、緑谷は一瞬噎せるが、真っ直ぐに爆豪に視線を返す。

 

 

――ああ、クソッタレ――

 

 

この目はもう、覚悟を決めた目だ。こうなった彼は、何があっても曲がらず折れない。

だから、

 

「いいか、デク。オールマイトを受け継いだら、もう俺の後ろにゃ居られねえ。分かってんだろうな」

「……うん!」

「そうかよ。なら言えや! テメーが決めた答えをよ!」

 

もう、緑谷と煙羅は自分の後ろには居させられない。

緑谷の答えがどうあれ、緑谷は爆豪の背から離れていく。

これからは完全に対等な立場になる。

 

「オールマイト、僕は無個性です。煙羅さんはあの〝黒腕〟の娘で、かっちゃんは凄く口が悪いです。そんな僕達でもヒーローになれますか」

「おい」

 

オールマイトは三人の真っ直ぐな視線を受け止め、真摯に真心を籠めて、この言葉を紡ぐ。

どうか、この子達により良い未来が訪れる様に、ほんの少しでも明るい未来が待っている様に。

 

「君は、いや君達は、ヒーローになれる……!」

 

この言葉に嘘は無い。

それは涙を流す緑谷が一番よく分かっている。

そして、

 

「泣くなデク! テメー、こっからスタートだって分かってんだろうな! オールマイトを受け継ぐってんなら、今までじゃ足りねえ、鍛え殺してやるから覚悟しろや……!!」

「出久、なろう。アタシ達三人でヒーローに」

「うん……!」

 

二人も同じだ。

もう誰も誰かの後ろには居ない。

三人は三人共に肩を並べて歩む。

緑谷出久、爆豪勝己、煙堂煙羅。三人はこの日から、ヒーローになるべく共に歩んでいく。

 




煙羅の秘密¦寝る時はぬいぐるみを抱いて寝る

煙羅コスチューム

  • 軍服風
  • 作業着風
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