佐城沙知はまだ恋を知らない   作:タトバリンクス

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二十五話 『そんな彼女と僕は恋を知りたい』

 翌朝、僕は沙知の家の前で一人悶えていた。

 

「あぁ~……」

 

 そんな声にならない声を上げながら、昨日の自分のことを思い返す。

 

 昨日すっごく恥ずかしいこと言ったなぁ……。勢いであんな事言っちゃったけど大丈夫かな……? 

 

 いや……大丈夫なはずない!! 何あの歯の浮くような台詞の数々!? 傍から見たらめっちゃ恥ずかしいこと言っていたよね!? ああもう! めっちゃ恥ずかしい!!

 

「人の家の前でなに悶えてるんだ……」

 

「ぬわぁ!?」

 

 そんな恥ずかしいことを考えながら悶えていると、いきなり背後から話しかけられて僕は奇声を上げた。

 

 後ろを振り返ると沙々さんがジト目で僕のことを見ていた。

 

「さ、沙々さん!?」

 

「なにそんなに動揺しているんだ」

 

「い、いや……気にしないで……」

 

 僕は彼女にそう言いながら苦笑いを浮かべた。そしてとりあえず平静を装うと咳払いをする。

 

「沙知から聞いた、どうやら無事に恋人同士になれたようだな」

 

「うん、その節は本当にお世話になりました……」

 

 色々と迷惑を掛けたこともあり、僕は彼女にお礼の意味も込めて頭を下げた。

 

 そんな僕の行動を見た後、沙々さんは僕の耳元まで近付いてきてそっと耳打ちした。

 

「結婚しても良いとまで言ったそうだな」

 

「っ!? ごほっ……けほ……!!」

 

 沙々さんのまさかの一言に僕は咳き込み、動揺から大量の汗をかいてしまう。それを見て彼女はニヤリと笑う。

 

「それはまた面白いことを言ったな」

 

 そう言いながら彼女はとても愉快そうに笑みを浮かべた。まるで新しいおもちゃをもらったかのような子供のような顔で笑っている。

 

 そんな沙々さんに僕は動揺した様子で聞き返してしまう。

 

「ど、どこでそれを……」

 

「沙知から聞いた……というよりも惚気られた」

 

「なっ!?」

 

 沙々さんの返答を聞いて僕は言葉を詰まらせた。沙知が昨日のことをまさか沙々さんに言うとは思わなかったから。

 

 恥ずかしさに悶えそうになるけど、それより何より沙知が僕について惚気たことの方が衝撃的だった。

 

 そんな様子の僕に彼女はニヤニヤと笑みを浮かべながらずっと見つめている。

 

「まさか、島田がそんなことまでを言うなんてな……」

 

「やめてください恥ずかしいので……」

 

 思い出すだけでも悶絶しそうになる。こんな気持ちでこれから沙知と会わないといけないと思うと恥ずかしくて死にそうになる。

 

「それはそうと、沙知を迎えに来たのだろう、今呼んでやるから待っていろ」

 

「あっ……うん……」

 

 沙々さんがそう言うと、彼女は家の中に入っていく。それから少し待っていると、沙々さんと一緒に沙知が家から出てきて僕の目の前に来た。

 

「おはよう、頼那くん!!」

 

 いつも通りの元気な様子で挨拶をしてくる沙知。そんないつも通りの様子に僕は戸惑いながらも挨拶を返した。

 

「お、おはよう……」

 

「ん? どうしたの、頼那くん?」

 

 そう言って沙知は首を傾げて僕の顔を見上げる。彼女の上目遣いに僕は思わず視線を逸らしてしまう。

 

 そんな僕の様子に彼女は不思議そうな表情を浮かべた。

 

「島田は昨日、沙知に言ったことが恥ずかしくて、顔を合わせるのが恥ずかしいそうだ」

 

「さ、沙々さん……!!」

 

 沙知に対して僕が悶絶していると沙々さんがそんなことを暴露した。思わぬ暴露に僕は沙々さんのことを睨むが、彼女は愉しそうに僕の反応を見ているだけだった。

 

「昨日、言ったこと……イヤだった?」

 

 沙知が不安そうな表情を浮かべながら僕のことを見ている。そんな彼女の様子を見て僕は慌てて反論する。

 

「そ、そんなことない!! ただ……あんな台詞……恥ずかし過ぎて……」

 

 正直、思い出すだけで悶えそうになる。よくあんな恥ずかしい台詞を言えたもんだと自分で自分を褒めてあげたい気持ちになる。

 

「沙知が好きなのは本当だから……その……気持ちがいっぱいいっぱいで、あんな恥ずかしい台詞を言っちゃったけど……嘘じゃないから」

 

 顔を真っ赤にしながら僕は彼女に伝える。そんな僕の言葉に沙知は嬉しそうに笑ってくれた。

 

「うん、分かってるよ」

 

 そんな彼女の笑みに思わずドキッとしてしまう。好きな人の笑顔ってこんなに破壊力があるものなのか……!? 本当に凄いな……。

 

 そんな僕の様子に沙知はまた笑い声を上げていた。

 

 彼女の笑顔と声に僕はまたもや悶えそうになる。

 

「まったく、惚気るならオレのいないところでしてもらいたいのだがな」

 

 沙々さんはそう言って呆れながら先に歩き出した。

 

「お暑い二人の邪魔になりそうだからさっさと先に行ってるな」

 

「さ、沙々さん!?」

 

 僕の言葉も聞かずに先に行く彼女に僕は戸惑う。そんな彼女が見えなくなるまで見送った後、隣に立つ沙知が笑みを浮かべていた。

 

「えっと……とりあえず学校行こうか?」

 

 恥ずかしさを誤魔化すようにそう言った僕に彼女は頷いた。それから沙知はセグウェイを取り出して発進させる準備を始める。

 

「準備できたよ、それじゃあ行こ!」

 

 彼女がセグウェイに乗ると、スイッチを起動して発進させる。僕はそんな沙知の隣で並びながら通学路を進んでいった。

 

 沙知と一緒にセグウェイでの登下校は何度か経験しているが、端から見たらかなりシュールな絵面だと思う。だけど、あまり気にするようなことではなかったから僕らに学校へと向かった。

 

「そういえば本当に朝から迎えに来てくれたんだね」

 

「当然、昨日約束したから……」

 

 沙知の言葉に僕は頷く。昨日、沙知と恋人同士になった放課後に彼女と色んなことを話し合った。

 

 その一つに登下校は一緒にしようと言う話になった。そんな昨日のことを思い出した後、僕は沙知に尋ねる。

 

「今日は体調どう? まだ吐き気とかしてない?」

 

「うん!! 今日は元気だよ!!」

 

 元気よく返事をしながら、沙知は僕にそう言ってくる。その笑顔はとても輝いて見えて、見ているこっちも自然と笑顔になってしまう。

 

「そっか、それは良かった……」

 

 心の底からホッとして僕はホッと息を吐いた。

 

 登下校を一緒にする理由は彼女を一人にさせないため。彼女の体質上、いつどこで症状が酷くなるのか分からない。だから登下校中は極力、側にいるようにした方が良いと思ったからだ。

 

 元々は沙々さんがやっていたことだけど、彼女の恋人になった以上、僕も彼女が少しでも過ごしやすくなるように協力する義務があると思い一緒に登下校することを提案した。

 

「けど、あたしの体質が心配だからって、これから毎日早起きするのは大変でしょ?」

 

 沙知は心配そうな様子で僕に聞き返してくる。僕はそんな沙知に笑みを見せながら答えた。

 

「いや、大丈夫これから早寝早起きの習慣をつくれば、別に大変じゃないよ」

 

 これからは僕も早起きして沙知と一緒に登下校をしようと決めた。好きな人のために何か出来るならそれが一番だ。それに……。

 

「沙知と一緒に居れる時間が長くなるのは嬉しいから……」

 

 自然と出た言葉だった。沙知と過ごす時間が増えると思うと凄く嬉しくなってくるんだ。それくらい、僕の中で彼女の存在が大きくなってるんだ。

 

「……やっぱり頼那くんは変わってるね」

 

「そうかな……?」

 

「そうだよ、こんな面倒な変わっているあたしなんかに構ってるんだもん……」

 

 彼女がそう言って苦笑いを浮かべた。その言葉に僕は思わずムッとしてしまう。そんな僕の様子を見て彼女は首を傾げた。

 

「どうしたの?」

 

「沙知……そんなこと言わないで欲しい」

 

 そんな僕のことを不思議そうに見ている沙知に僕ははっきりと告げた。今、ここで言わないと駄目だと思ったから。

 

「別に沙知のことは面倒なんて思ってない、僕は沙知が好きだから、君を支えていきたい」

 

 自分の本心を僕は彼女に言った。

 

 沙知は自分の体質のせいで卑屈に考えている節がある。だけど、彼女にそんな卑下するようなことを言わないで欲しかった。だからこうして素直に気持ちを伝えたんだ。

 

「頼那くん……うん、ありがとう」

 

 そんな僕の言葉を聞いた沙知は嬉しそうな笑みを浮かべて応えてくれた。

 

「まあ、でも……変わっている女の子とは常々思っているけど」

 

「そこは否定してくれないんだね」

 

 そんな僕の付け足しに沙知がジト目で僕のことを見てくる。そんな様子に僕は思わず笑ってしまった。

 

「そういうところが好きだからね」

 

「それは喜んでいいのか複雑だな~」

 

 沙知はそう言って苦笑いをして肩を竦める。だけど、彼女の横顔を見るとほんの少しだけ嬉しそうにしている気がした。

 

「けど、やっぱりまだあたしには分からないかな、人を好きになるってこと」

 

 沙知はポツリと呟き始める。その言葉に僕はあえて何も聞き返すようなことはしなかった。

 

 今、彼女が恋というものに向き合おうとしていることを知っているから。だからそんな彼女と一緒に時間を過ごしていくことにした。

 

「すぐに分からなくても大丈夫だよ、いつか、僕のことを好きにさせてみせるから」

 

 今はそれでいい。焦らず、ゆっくりと恋を知れば良い。僕だってまだまだ沙知に対しては知らないことだらけだから。

 

「そう、ならこれからどうしよっか? あたし、恋に対して知らないことばかりだから、色々教えて欲しいな」

 

 沙知はそう言いながらチラッと僕のことを見る。そんな彼女の様子を見て僕は思わずドキドキとしてしまう。

 

「と、とりあえず、一緒に登下校して、一緒にお昼食べて、放課後もこうして一緒にいるようにしよっか」

 

「前と同じことするの?」

 

「もちろん、前できなかったことも一緒にしていくし、沙知がやりたいこともやるから色々と言って」

 

 僕がそう伝えると沙知は少し考え始めた。そしてしばらくした後、納得した様子で頷く。

 

「そっか……うん!! それも良いかも!! じゃあ……さっそく……」

 

「あっ、変な実験に巻き込むのは止めて」

 

「そんなぁ~」

 

 僕の言葉に沙知は残念そうに声を上げる。そんな彼女の様子に僕は苦笑いをしてしまう。だけど、そんなところも彼女らしいから困らされたけど不快だとは思わなかった。

 

 そんな会話をしながら僕たちは学校へと向かっていった。

 

 これから色んなことを知っていくと思う。

 

 僕の知らない彼女の秘密。

 

 彼女の知らない彼女たちの事実。

 

 そんなたくさんのことを僕たちは知っていかないといけない。

 

 これは僕が愛した彼女との出会いの物語。

 

 だけど、彼女はまだ恋を知らない。

 

 そんな彼女と僕は恋を知りたい。

 

 それが僕の願いだから……。




如何だったでしょうか。

今回にて『佐城沙知はまだ恋を知らない』編は終了です。

二人の出会いの物語を経て、二人が本当の恋人同士になれるのか見守っていただけると嬉しいです。

ここで一旦、報告です。

一先ずの区切りが付いたので、次の更新はしばらく先になります。

理由は次の話の構成ともう一本連載している小説を優先したいためです。

そのため、しばらくは更新の予定はありません。

ただ、もう一本のほうが区切りがつき次第、また連載を再開するので、それまで待っていただけると幸いです。

お気に入り登録や感想、評価などいただければ、もしかしたらこっちのほうがモチベ上がるかもしれませんが……。

誤字、脱字ありましたらご報告していただけると有り難いです。

それでは次回『佐城沙知はデートをしてみたい』編をお楽しみに。
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