気付けば異世界へと飛ばされていたトキ!
その眼前には少女の唇!
つまりはリバサセッカツである。
「いったあああああああああい!?」
カウンターが入って吹き飛ばされる少女。
痛いだけで済んでる辺り何かおかしい。
おかしいが、友人にキリトがいるトキにとってそれは日常だった。
「ふむ……」
辺りを見渡したトキは、自身の置かれている状況を把握した。
え?
マジで?
とりあえず把握したトキは、即座に先程吹き飛ばした少女を追い越して壁に衝突する前に受け止めた。
「え? あれ? 今さっきあっちに……?」
「馬鹿な、あれは魔法……?!」
辺りがざわざわし始めたが、トキは無視した。
そして即座に抱き抱えた少女の方を見る。
すると激痛が左手に。
見れば少女がそこに噛みついているではないか。
「もがもがもが」
しかもなんか喋ってる。
呆気に取られている間に、その少女は何かを完成させたのだった。
「わたしの物になれー!」
「ふむ」
「あのー」
暫く経って。
トキは更に現状を把握した。
なんか知らないが召喚されたこと。
なんか知らないが少女がそれを行ったこと。
そして、今のところ少女が自身をこの場につないでいるということを。
「なにかお困りかなーとか、なんとか……思ったりなんだリしちゃったりなんだけど……?」
あははーなどと言っているのは、木に逆さ吊りにされている少女、ルイズであった。
スカートの中身は出ないように必死で抑えている。
「いや、心配はいらない。この世界でも私は生きていけるだろう」
「え?」
「故にここを発つ」
「ちょ、それは困るわ!」
ルイズはスカートの中身が見えるのも構わずにトキの頭を掴んだ。
必死であった。
「ちょっとだけでいいの! ここにいて! わたしの言うこと聞きなさいよー!!!」
「……」
「聞いてください!!」
ルイズがここまで必死なのは理由があった。
この平民らしき男の能力だ。
それがもう凄まじい。
あの一瞬で自分を吹き飛ばし、更に吹っ飛んだ先で拾われ、更に激痛に苛まれる自分を救ってくれた。
まあ、激痛はトキがやったことだったのでトントンかもしれないとか思ったが。
それはともかく。
この男の力は使えるのだ。
魔法じゃないかもしれない。
しかし、魔法に見えなくはない。
もしかしたら。
もしかしたらゼロのルイズじゃなくなるかもしれない。
そう思ったら、藁にもすがりたくなったのである。
「わたしにその、ホクトシンケンを教えてください!!!」
「駄目だ」
「うわーん!!!」
逆さ吊りのルイズは泣いた。
~~
「ハァン!」
「ひえ」
手刀で一閃。
青銅の像の首が消し飛んだ。
いや、正確には遥か上空へと吹き飛んだのだが、些細な違いだ。
その光景に、術者は気絶してしまい、青銅の像は消えてしまったのだから。
沸き立つ平民。
震えあがる貴族。
それもそうだ。
平民たちにとってメイジを倒せる存在は同じメイジだけだと思っていたからだ。
それは、メイジたる貴族も一緒だ。
それが覆された。
しかも圧倒的差である。
そしてそれは、その男を呼び出したルイズの評価にもつながったのであった。
まあ簡単に言うと痴話喧嘩であった。
それに巻き込まれた平民のシエスタを庇ったトキが、その痴話喧嘩のギーシュ(違います)をやっつけたというだけのことである。
トキを使役しているルイズも同じ力が使えるのかもしれない。
そういう噂が立つのも仕方のないことだ。
そして、その噂を聞いて、黙って居られなかったのは当の本人だった。
そう、もしかしたら。
もしかしたらゼロのルイズを脱却できるかもしれない。
そう思い、渋々ながらトキに教えを乞うことにしたのだった……。
~~
それが先程までの事。
そして逆さ吊りのルイズが泣き出したのが今である。
ちなみにトキは既にこの学園の中で生活圏を獲得している。
平民のみんなに話を聞いてもらい、いくらかの仕事を回してもらうことで生活できるようになっているのである。
そして今では英雄扱いである。
もはや生活に不安はなかった。
「……」
ルイズも気付いている。
自身がトキを縛るのは、既にルーンだけであることに。
だからこそ、どうにかして自分と一緒にいてもらわないと困るのだ。
だって、そうじゃなければ使い魔にすら逃げられたメイジとして後世に名を残しかねない。
それは嫌だ。
嫌というか、無理だ。
泣いちゃう。
というか泣いた。
というわけで、もはやなりふり構っていられなかった。
どうせゼロだ。
何かを失うわけじゃない。
いや失いきった結果がゼロなので、かなり悲しい現実を直視してしまったが。
とにかく。
ルイズは頑張って彼女なりに譲歩しようとしていたのである。
うまくいっていないが。
「! そ、そうだ! この学園の近くに町があるわ! そこに案内してあげる!」
「ふむ」
「そこで色々買ってあげるわ! 服でも装飾品でもなんでも!」
「……」
「だから……」
色々と話していたら、なんだか悲しくなってきた。
平民に、それもついこの間知り合ったばかりの奴に媚びている。
そんなみじめな自分が、心底嫌になりそうだった。
いや、最初から嫌だったのだ。
魔法が使えない、残念なルイズ。
魔法が使えない、ゼロのルイズ。
それが自分なのだ。
「う……うぅ……」
涙があふれる。
違う、そうじゃない。
今は泣いている場合じゃないのだ。
そんなことをしているくらいなら、トキを逃さない手を考えなくてはならない。
何かないのか。
あの力を逃さない方法は。
考えて考えて、結局わからないまま涙だけがあふれてくる。
「お願いします……助けてください……」
もう駄目だった。
ルイズはもう折れてしまいそうだった。
だけど、それでも。
ルイズは完全に折れてはいなかった。
折れることだけはなかったのだ。
まだ、ルイズのプライドは砕け切っていなかった。
信念は砕けていなかった。
それはきっと、彼女を優しく育ててくれた家族がいるからだ。
彼らを裏切ることだけは、したくなかったのである。
「……済まなかった」
「え……?」
そして、折れたのはトキだ。
ここまで言われて、ここまで乞われて、ここまで心情を吐露したルイズに絆されたとも言える。
トキも冷血漢ではない。
しかし、ルイズの感情を読み切れていなかったのだ。
どれだけ余裕があるのかもわからなかった故に、トキはルイズを試していたのだった。
その結果が逆さ吊りのまま号泣する少女である。
ルイズのギリギリ具合を把握し切れなかったトキの失態である。
「北斗神拳を教えるのはまだ無理だが、使い魔として暫くは生活しよう」
「あ……!」
ぱぁ、とルイズの顔が明るくなる。
まだ、というのはいずれはということだ。
ルイズはそう解釈した。
それに自分から離れるのも先送りになった。
ルイズは決意した。
その間に自分を主として、仕えるに値する主だと認めさせてやるのだと。
なんだかんだ自分が上にならないと気が済まないのだった。
「あと一言いいたいことがあるの」
「何だ?」
「下ろしてください」