「どう! 凄いでしょう! これがこのトリステインの城下町よ!」
むふーとでも形容するべきか、ルイズは自慢げだ。
確かにそうだ。
この時代の背景から考えればかなりの大きさである。
トキもなんとなくそれが理解できた。
「……む」
「ぐああああああ!?」
「ちょ、何!?」
辺りを見渡していたところで、スリにあいそうになったトキは、つい秘孔をついてしまった。
つい、で秘孔を。
やべー奴だ。
「な、なるほど。流石わたしの使い魔ね!」
軽く説明するとルイズはふんすと意気込んだ。
こいつを手放すわけにはいかない。
先程は失態を晒したが、ここで挽回してみせるのだ。
というわけでルイズはきょろきょろと見渡して武器屋を見つけ、入るのだった。
寂れている、というのが一目でわかる具合だった。
とはいえルイズは気にしない。
平民の使える武器くらい売っているだろうという判断だ。
「武器か」
「そうよ。貴方は強いけれど、武器を持っていればそれだけで威嚇になるでしょう?」
「道理だ。中々考えている」
よし、ポイントアップだ。
ルイズは内心でガッツポーズ。
その勢いのまま店主と話し始めるのだった。
「おや、貴族様がどうしてこのような寂れた武器屋に」
「客よ。わたしの従者に武器を持たせるの」
「はあ、でしたらこちらなんてどうでしょう」
取り出したのは綺麗な装飾が施された華美な大剣だった。
確かに質はいいのかもしれないが、それでもやはり武器としてはあまり使いたくない代物であった。
派手だし、中々いいんじゃないとルイズは考えたが、その前にトキの様子をうかがうことにした。
若干の苦手意識だ。
「確かにいい出来だ。多少重いが戦闘に足り得る性能は持っているように見える。だが戦いに使うには少々華美ではないか?」
「へぇ……」
店主の顔色が変わる。
先程までのどこかやる気のない様子から、いかつい職人の顔へと。
「あんた、そこそこ見る目があるみたいだな」
「主が優秀なのでね」
「そ、そうなのよ!」
わーこっちを立ててくれた!
ルイズは内心ちょっと嬉しかった。
店主が奥へ引っ込んで武器を探しに行く。
先程のはやはり見せるための武器なのだろう。
それでいてある程度の性能を持っていた。
「ルイズは中々やるんだな」
「そ、そうよ! わたしは凄いんだから!」
褒められて満更でもないどころか嬉しい気持ちが溢れそうなルイズ。
目上の人に褒められることがそうそうないルイズである。
本人は否定するだろうが。
その感覚は推して知るべし。
「これが、あんたに合う武器だろうさ。確かめてみてくれ」
暫く待つと、店主がなにやらじゃらじゃらと持ってきた。
ルイズには何が何やらわからなかったが、トキには分かったようだった。
「暗器の類、になるな?」
「ほう、やっぱり分かるか」
「あんき?」
「人の目につきにくい武器のことだ」
ざっくりとした説明だが、そういうものもあるんだとルイズは納得した。
しかし、それでは困るのだ。
何故ならルイズは派手で格好いい武器を買ってあげて褒めてもらいたいからだ。
本人は否定するだろうが。
「……むむむ」
しかし、それでも何か言える空気ではない。
ふわふわとした気持ちでその辺を見渡すと、何故か惹かれる気配があった。
なんだろう、これかな。
ルイズが雑に束にしてある剣の入れ物に手を伸ばすと、そこから声が聞こえた。
「―――――おでれーた。『使い手』にそのご主人様か」
「っ!?」
突然、目の前から声がしたのだ。
驚いて飛び退いたが、その視線の先には誰もいない。
……いや、ルイズは気付いた。
ガシャンガシャンと音を鳴らす剣が一振り、そこにあった。
「筋肉の質から体のキレまで一流じゃねぇか。おい店主」
「わかってるよ。ちゃんとお客様だ」
「ちゃんとって……」
何やら値踏みされていたらしい。
ルイズはちょっと怒りそうになったが、今はそこそこ気分がいい。
許すことにした。
「剣を握ることもできるがぁ、真価は格闘か? いや少し違ぇな」
「そこまで分かるのか」
「へっ。こちとら何年も生きてんだ。舐めてもらったら困る!」
何やら嬉しそうなトキ。
それに気付いたルイズは何だかもやっとした気持ちになった。
なったが、それが何なのかわからなかったのでそのままスルーした。
「店主。この剣はいくらになる?」
「新金貨で100! この暗器セットも付けて200でどうだ!」
なんだかとんとん拍子ね……。
ルイズは若干不満だったが、それも仕方ないと思う気持ちもあった。
インテリジェンスソードが、汚いとはいえ新金貨で100。
更にたくさん武器が貰えて200。
考えてみればお得だと思う。
「買ったわ!」
「まいど!」
というわけで即決購入。
ふふん、これで決断力のあるところを見せて好感度アップよ!
……好感度アップって何!?
セルフツッコミができるようになったルイズであった。
「さあ帰るわよ……む」
「あらルイズ。こんなところで奇遇ね」
「ん」
はぁい、とでも言いそうな気軽さで声をかけてきたのはキュルケである。
不本意ながら、ルイズの級友である。
そしてその横にいる小さいのもタバサという同級生であった。
「な、何の用かしら?」
ルイズは何となく嫌な予感がしていた。
まあ数日前にトキに夜這いをかけた相手である。
あんまりいい感情は持っていないが。
「あなたが城下町に行くと聞いて、飛んできたのよ」
「奇遇って言ったじゃないの」
「気のせいよ」
悪びれもなく言うキュルケ。
隣のタバサは若干眠そうだ。
あくびを隠す様子もない。
「……で、あなたが買ったのはその剣? ボロボロじゃない」
「いいのよ。インテリジェンスソードだし」
「へぇ……」
ルイズの台詞に興味ありげに呟くキュルケ。
それはそうだ。
今回は金貨100枚で買えたが、本来であればかなりの金額を吹っ掛けられてもおかしくない代物である。
それをルイズが買ったのである。
気にならないと言ったら嘘になるのだった。
「……ツェルプストー、何か変なこと考えてるんじゃないでしょうね?」
「別に? だけどあたしも気になるわね、そのインテリジェンスソード」
トキはあまりに戦闘力が高過ぎて色々と危ない橋だ。
そこに惚れこんではいるものの、積極的になりすぎるのもいけないことだと諭されたので、今はちょっと引き気味で接しているのだった。
キュルケを知る周囲の人間からしてみればすわ天変地異かとでも言いたいようなそれであった。
実際ルイズは叫んだし。
「へっ! 見た目はボロだが俺はそうそう壊れたりしねぇ」
「本当に喋るのね」
「興味深い」
そして、先程まであくびをしていたタバサまで寄ってきた。
インテリジェンスソード、いい買い物だったわね。
ルイズはちょっと優越感に浸っていた。
それに、とルイズは暗器について喋るか悩んだ。
折角隠しやすい武器だ。
隠しておく方がいい気がした。
なので喋るのをやめた。
すると、トキが頭をポンととしてくれた。
なんだろう、父親にされた気分だ。
ほんわかしてしまう。
「というわけで、我らの拳が来てくれた!」
「おおー!」
帰還後、平民たちの控え室へと向かうトキをつけていたルイズ。
トキの歓迎され具合を見て驚いていたのだった。
「……凄いわね」
「ええ」
「……」
「……なんでいるの?」
そこには何故かキュルケまでいた。
ついでにその友人のタバサまで。
なんだか執心ね、とでも言いたかったが、黙った。
何か藪から蛇を出しそうだったからだ。
「そうなんですよ。今では英雄ですよ」
「あら」
少しすると、背後からトキが助けた少女が現れた。
確かシエスタだったか。
ルイズたちは彼女が持ってきた飲み物を受け取り、話を聞くことにした。
「先日助けてくれたのもありますし、毎日薪割などもやってくれています。本当に助かっているんですよ」
「いつの間に……」
トキの友好関係に驚きながらも、ルイズは納得もしていた。
やはり年上で、頭がいいのだろう。
自分ではできないようなことをやってのける。
少し羨ましい、と思ったところで頭を振って思考を散らした。
そうじゃないのだ。
自分はもっと上に向かいたい。
だって、そうしなくちゃ家族のみんなに顔向けできないからだ。
「まあ、わたしの使い魔がちゃんとやってるようでよかったわ」
それっぽく言い、ルイズはその場を去る。
明日も授業、でも最近周囲の視線がつらくない。
ルイズはそう思いながら自分の部屋へと帰るのだった。