「はっ……はっ……」
寝る少し前。
ルイズは軽くランニングをしていた。
「肉体は健康で良好だが、北斗神拳を伝授するならば少々足りない」
とのことなので、体を鍛えているのだった。
当然ではあるがトキには内緒である。
知られたら恥ずかしいし……と思っていたりする。
「はぁっ……はぁー……」
それと一緒に、魔法の練習もする。
未だに魔法が上達する気配はない。
ただちょっとずつ身体が健康になっていく気がするだけだ。
「―――――っ」
詠唱、そして放つ。
ファイヤーボールの呪文を呟き、杖を振る。
しかし、何も起こらない。
……否、宝物庫の壁が爆発した。
「あ……」
どうしよう。
こんなところを見つかったら退学かもしれない。
そうなれば、本当に家族に顔向けできない。
「……っ何!?」
そうやって悩んでいると、轟音とともに大きな揺れが彼女を襲った。
そして目の前には巨大なゴーレム。
それが宝物庫を攻撃していた。
「やばっ……!」
まさか。
自分が空けた穴を狙っているのではないか。
見れば完全にそこを目掛けて拳を振り下ろしているではないか。
止めなくては。
なりふり構わずファイヤーボールの呪文を唱え、ゴーレムの腕を破壊しようとする。
爆発し、ゴーレムの腕が崩れ落ちるが、しかし即座に再生してしまう。
どうする。
どうしたらいい。
逃げる?
いや、そんなことはできない。
何故ならそう、貴族はそのような無様を晒せないからだ。
「ファイヤーボール! ファイヤーボール!!」
何度でも、何度でも破壊すればいい。
殴りつける腕を破壊すれば、宝物庫の壁を破壊することはできないのだ。
そして、当然と言えば当然だが、邪魔をしてくる存在を見逃すことはない。
ゴーレムは振り返り、ルイズを見た。
否、見たのは恐らく上にいる誰かであり、ゴーレム自体は振り返っただけだろうが。
「……っ」
だが、逃げるわけにはいかなかった。
ゴーレムが何だ、こちとらメイジだ。
負けてたまるもんですか。
杖を構える。
しかし震える。
どうしても、震えを抑えることができなかった。
これは武者震いだろうか、いやただの恐怖か。
ルイズにはもはや判断できなかった。
「北斗砕破拳!」
そして、そこに割り込んできたトキをみて、急にへたり込んでしまった。
「済まない、遅れた」
「お、遅いわよぉ!」
トキの台詞に若干震えながらも応えるルイズ。
弱い所は見せたくないのだ。
ルイズは懸命に立とうとした。
とはいえ、それは無理であった。
何故ならルイズが立ち上がろうとした瞬間、ゴーレムが地面にたたきつけられたからである。
そう、先程の一撃でゴーレムは宙に浮いていたのである。
当然ゴーレムの上に登っていた誰かは地面に落ちていた。
「ゆくぞっ!」
トキはその人物目掛けて見えない速度で疾走する。
いや本当に見えない。
というか上に飛んだり下に落ちたりと頭おかしい挙動をしている。
本当に魔法使ってないの???
ルイズの疑問はもっともであった。
「くっ!」
「ふっ」
空中で両手で挟み込むような一撃を謎の人物は壁を作ることで防ぎ、爆発させて目くらましをした。
まあその衝撃を完全に受け止めて反射しちゃうのがトキであるが。
「ぐえっ!?」
「激流では勝てぬ……」
激流ってなんだよ。
ルイズの脳裏に一瞬そんな言葉が浮かんだが、スルー。
もう常識は通じないのだ。
そのまま壁コンに続くかと思ったところで、ゴーレムに飲み込まれて消えていく謎の人物。
それはそうだ。
あのゴーレムを作ったのはあの人物。
どんな風に動かすか、変形させるかは当人次第なのである。
このままでは逃げられてしまう。
ルイズはそう思って叫ぼうとした。
「我が兄の剛の拳」
すぐにビームが放たれてアゴが外れてしまったが。
「ちょ、今の魔法でしょ!? 何?! 何なの!?」
「あれは我が兄の拳、北斗剛掌波」
「拳って言っておきながらどう見ても魔法だったでしょ!?」
ちなみに放たれた先の森は十数メイルは消し飛んでいる。
やはり剛の拳よりストロングな柔の拳。
いや元々そんな感じだったが。
ゴーレムもこれで砕け散ったはず、そう思ったルイズだった。
しかし、ルイズの手の中に謎の紙片が。
『秘蔵の破壊の杖、確かに領収いたしました 土くれのフーケ』
「ちょっと……どうしてこんなに人が集まるわけ?」
「いいじゃない別に」
「……興味がある」
襲撃の翌日。
彼らは土くれのフーケ追撃隊を結成して動き出したのだった。
メンバーはルイズ、キュルケ、タバサ。
そしてトキであった。
そしてその従者的な扱いとして、ミスロングビル
この5人が、フーケが潜伏しているという小屋へと向かっているのだった。
「けれど、どうしてこのような場所にとどまっているのかしら?」
キュルケはそう呟く。
確かにそうだ、とルイズは同意する。
本来ならあの爆撃(ルイズはそう思っている)に乗じて逃げてしまえばいいのに、それをしないとは。
何か理由があるのだろうか。
「使い方が分からないとかかしら……?」
「まさか」
適当にルイズが考えた答えを、即座にタバサが否定する。
そんな行き当たりばったりなことを有名な土くれのフーケがするはずはない、ということだった。
「むぅ……」
「意見を言うのは自由さ」
ルイズの頭をポンとするトキ。
若干頬を赤らめるルイズだが、即座にそれを振り払う。
嫌と言うわけではないが、なんというかこう、恥ずかしい。
そんな感じである。
「それにだ」
ちらりと、トキが馬車の前の方を見る。
そこにはミスロングビルと馬しかいない。
ルイズは首を傾げる。
意図がつかめなかったのであった。
「……まあ、今は困るな」
そう言って、トキは喋るのをやめてしまった。
そこから始まるのは少女たちのガールズトーク。
ミスロングビルを巻き込んでのおしゃべり大会であった。
小さな小屋へと辿り着いたメンバーは、警戒しながらもゆっくりとその小屋へと近づいていく。
しんがりはトキとミスロングビルである。
火力面で優秀なキュルケと(爆発的な意味で)強力なルイズが前面に立っている。
ふたりがかって出た形である。
「ところで……」
トキはミスロングビルに語り掛ける。
距離は1メイルもない。
至近距離だ。
一撃で首を刎ねることすら可能だ。
「何でしょうか?」
ミスロングビルの額には汗。
呼吸も乱れている。
緊張しているのだ。
トキはそれほどの殺気を出しているのである。
「昨日の賊と呼吸、体格、歩幅、気配が似通った人物に心当たりがある」
ジリジリと近寄るトキ。
それと同じ距離を離すミスロングビル。
一触即発である。
「見つけたわ!」
ルイズが大きく声を上げる。
破壊の杖が見つかったようだ。
そして、それと同時にトキがミスロングビルに攻撃を仕掛けた。
「そう、貴女だ」
「チィッ!」
手刀の先端がミスロングビルの髪の毛を削り、吹き飛ばす。
超高速の振り下ろしであった。
それをミスロングビル――否、土くれのフーケは寸前のところで回避した。
回避しなければ、袈裟に斬られていた。
素手でそれをこなせる相手だということに、フーケは恐怖を抱きつつも即座に逃げ出すことにした。
「ゴーレム!」
周辺の地面を媒介にゴーレムを作り上げる。
サイズは極大。
わざとトキの足元の地面を使って足場を崩した。
「むっ」
トキは即座に追いかけようとしたが、ゴーレムの動きに気付き、即座に転身した。
そう、ゴーレムはルイズ達を狙ったのである。
いくらメイジでも、強大な質量を持った土を叩きつけられては死んでしまう。
トキはそう判断してルイズ達に迫る腕を斬り裂いたのだった。
「フン……甘いねぇ」
「生憎だが、これが性分だ」
十分に距離をとったフーケは、トキの動きを見ながらゴーレムで牽制する。
油断すれば死ぬ。
しかし、今攻撃をされてもルイズ達を道連れにはできる。
この状況で拮抗していた。
「ファイヤーボール!」
開幕はルイズのファイヤーボールだった。
爆発によって片足が爆発したゴーレムは倒れ、崩れた。
そこにキュルケとタバサの魔法が立て続けに襲い掛かる。
火炎に焼かれ、吹き飛んだゴーレムを盾にしながら、フーケはトキに狙いを定めて岩塊を繰り出す。
「激流を制するは静水……」
それを流れるようにはじき返すトキ。
どうやってるんだこれ。
謎である。
「くそっ! でたらめな動きしやがって……!」
はじき返された岩塊を土くれに還し、今度はルイズたちの足元をゴーレムに作り替える。
トキを相手にするのは分が悪いと判断したのだろう。
足手まといになるであろうルイズたちに攻撃したのだ。
「タバサ!」
「乗って」
「ありがと!」
しかし、ゴーレムの腕が完成し、彼女たちを拘束する直前に、風竜に乗り込まれてしまった。
これでは手が出せない。
トキとの一騎打ちになった。
なってしまった。
「……」
「……」
距離は10メイル。
この距離であればメイジが超有利なのだが、トキはその動きだけで優位を凌駕してくる。
というか青銅のゴーレム相手に手刀で首飛ばすとか化け物じゃないっすか。
フーケは自分の首も飛ぶのではないかと冷や汗が止まらない。
しかし、フーケに悠長にしている時間はない。
空中に飛び出した風竜が旋回して戻ってくるまであとわずか。
それまでに決着をつけなければ数的不利によって完全に負けてしまうだろう。
「ふっ!」
故に動いたのはフーケ。
ナイフを投擲し、トキへと肉薄する。
トキは目を見開くが、即座に対応する。
二指真空把で受け止め即座に投げ返したのだ。
「んなアホな!?」
驚き、しかしそれでも接近をやめないフーケ。
ギリギリのところでナイフを避け、そのまま沈むように倒れる。
すると、フーケの背後からゴーレムの拳が現れた。
トキの視界を遮りながら攻撃を加えるための一手だった。
「見事……!」
トキは賛辞し、跳躍した。
まるで見えないその軌道は、ゴーレムの腕の中心へと飛び込む形だった。
まさか自滅か、と一瞬だけ思ったフーケだが、即座に考えを改めた。
トキがそのような容赦をするはずがないからである。
「天翔百裂拳……!」
そう、トキは真正面からそのゴーレムの拳をぶっ壊したのだった。
目にも止まらぬ連撃。
その一発一発がゴーレムの拳を砕き、破壊したのだ。
「む、無理! 降参!」
そしてその勢いのまま秘孔と突く直前でフーケが両手を上げて降伏した。
フーケ討伐隊は、無事にフーケを捕縛することに成功したのだった。
「……ところで、破壊の杖ってどうやって使うんだい?」
「火炎放射器だな。燃料が切れている。もう使えない」
「そ、そんなぁ……」