「……む」
「おや」
休憩をしていた翼は、ついにトキと出会ってしまった。
ついに、というのもなんとなくこの男のことが苦手に思ったからである。
理由に関しては正直分かってないのだが、なんとなくだ。
「その拳に……」
「む……?」
「その拳に、何を映している?」
翼はトキに対して質問をした。
抽象的な問いであった。
しかし、彼女としてははっきりさせておきたいことだったのだ。
その拳は何を見て振るわれるのか。
その拳は何を考えて放たれるのか。
それが知りたかったのである。
「そうだな……」
「……」
その問いに、トキは悩む様子を示した。
返答がある。
つまりはあの拳には信念があるということである。
その信念とは何なのか。
翼はごくりと唾をのんだ。
「私の拳には……夢が乗っている」
「夢……?」
「ああ」
抽象的な問いに、抽象的な答えが返ってきた。
それだけなのだが、何故か翼はその答えに惹かれた。
「私の夢は、近くにいる人達が幸せに暮らせることだ」
「……」
「その割には遠回りしてしまったが、それも仕方のないことだ」
右手を握りしめるトキ。
翼はその腕が完全聖遺物であることを知っている。
そして、それに秘められた力は恐らく凄まじいもの。
「握りしめたままの拳では、打ち砕くことしかできない」
「……」
「しかしその拳を開けば、誰かと繋がることができる」
「……」
「誰かと繋がれば、きっとそれは幸せにつながる。そんな夢だ」
綺麗ごとだ。
それは彼にもわかっているのだろう。
だからこそ夢だと言っているのだろう。
だからこそ叶えたいと思っているのだろう。
「私の拳が何を映しているのか、分かってくれただろうか」
「……はい」
その笑顔に、翼は何かを思い出したような気がした。
しかしそれは即座に消えて行ってしまった。
まるで、何かを否定しているかのように。
「君は……」
「はい?」
「君のシンフォギアは剣なのだったな」
「……はい」
彼は剣である自分を何と言うのだろうか。
黒鉄のように冷たいと言うのだろうか。
刃のように鋭いと言うのだろうか。
「……剣は、綺麗だ」
「ふぁっ!?」
唐突な誉め言葉に混乱する翼。
初めて言われた言葉である。
いやまあ、容姿を褒められたことはあるが。
「槍があるだろう?」
「は、はあ……」
「あれは刃を先端にのみ付けた武器だ。剣とは趣が違う」
その通りだ。
剣と槍は得意な距離も違う、別種のものだ。
それがなんだというのか。
「大きな刃を作るのには技術がいる。そしてその技術の結集が剣だ」
「……」
「それが美しくないわけがない」
勿論槍が美しくないわけではないと言い、トキは立ち上がった。
それを見て、翼はトキを見送ることにした。
敵にはならないだろう。
そう判断したからである。
「今度は君が剣に乗せる思いを知りたいな」
そしてそのまま立ち去るトキ。
なんだあの男……。
翼はそう呟いて呆けてしまった。
「立花……あの男はやめておけ」
「なにが!?」