デフォでこれか……。
雪音クリスは敵対するとある男と相対していた。
彼はそもそもギアを装着していない、言うなれば一般人ではないかと最初は思っていた。
しかし、見てみれば右腕が聖遺物。
つまりは敵であった。
「その腕、どこで拾ってきたんだぁ?」
語り掛け、同時に攻撃を投げつける。
牽制だ。
距離は離れている。
相手は素手。
殴られる心配はない。
「とある極寒の地さ。あまり人のいないな……」
しかし男はその攻撃を逸らすと同時に肉薄してきた。
あまりにも早い。
防御が追いつかない。
「ふん!」
「かはっ!」
一撃、腹に直撃した。
放たれた突きが雪音クリスの脇腹を貫いた。
痛みが走り、それと同時に破壊音が響く。
あの一撃でネフシュタンの鎧が砕けたのだ。
そして追撃が来る。
流石にそれを受けるわけにはいかない。
蹴りを繰り出して距離をとる。
男はわざと受けて跳び、ダメージを減らしたようだ。
「少女よ……」
「なんだよおっさん」
投げやりに返事をすると、男は目を見開いたかと思うと笑いだした。
なにが面白いのか分からない。
「ふふ、君はコミュニケーション能力が乏しいと言われたことはないか?」
「はっ! 生憎、そういうことを言うような相手と会った事がなくてね!」
攻撃を放つ。
今度は直線的なものではなく、波打つような一撃だ。
回避などさせるものか。
しかし、男はそれを見抜いていたかのように距離をとり、波打つそれの先端を蹴り上げた。
勢いが横から縦へと変換された。
「ちぃ!」
体勢を立て直す余裕はない。
先程の速度を考えるに、そんなことをしている間に攻撃が来る。
雪音クリスはわざとその勢いに乗り、上空へと跳ね上がり、そこから2発目を放った。
不意打ちに近いそれ、どう避ける。
「勝機!」
「なんだとぉ!?」
男は2発目のそれに乗り、駆け出した。
刃であり鞭のようでもあるそれを足場に、雪音クリスへと駆け出したのだ。
ありえないという思考と、まずいという思考が頭一杯に広がり、かき消そうとしたところで男の拳が雪音クリスに届いた。
「天翔……百裂拳!」
連打だ。
何発もの突きが雪音クリスを貫いた。
まるで全身を鉄杭で貫かれたかのような痛みに、一瞬意識を失いかける。
が、それで屈する雪音クリスではない。
最後の力を溜めた突きを放たれる直前に、蹴りを繰り出した。
男は予想外の反撃を受けて吹き飛び、上空を舞う。
そこに、手元まで戻った1発目の刃であり鞭であるそれを放った。
獲った……!
「北斗翔輪脚!」
しかし、それを男はサマーソルトキックを放つように回転、弾き飛ばした。
まさかの反撃に何もできないまま、雪音クリスは着地せざるを得なかった。
着地を狙う暇もなかったのである。
「……というかあんた」
「何か、聞きたいことでも?」
雪音クリスは構えをとったまま、男へと問いかける。
ただ何となく、聞いてみたいと思ったからだ。
「剣もなにもない、素手のお前が握る物は何だ?」
恐らくは最後になるだろう。
これ以上はただの戦が始まる。
「私は大切な物を守るという夢を握りしめて戦っている。故に命を懸けているということだ」
男も同じ気持ちのようだ。
拳を握り、構えをとっていた。
「へっ、そうかい。んじゃまあ、その命とやらを握りしめたまま死んでいけえ!」
暫く後。
雪音クリスは立花響や風鳴翼と一緒に戦うことを選んだ。
そしてついでにトキとも一緒に戦うことになったわけだ。
「……」
「……む、どうした?」
そして、一緒に戦うことになって初の顔合わせである。
殺し合いになったことを何とも思っていないような顔であった。
なんだかもやっとした。
「あんたは……敵だった人間と肩を並べて戦うことに異論はないのか?」
面倒臭い性格なのは自覚しているが、一応聞いてみる。
この男がどう思っているか、気になっているのも事実だからだ。
「ない」
即答だった。
何故か。
そう思っていたが、その台詞にすぐに言葉が続く。
「ともに肩を並べた以上、それは友であり同志だからだ」
「友……」
「ああ、友だ」
勝手に友達にされていたらしい。
年齢的には男の方が一回りは上だろうか。
そんな相手に唐突に友人宣言されるのはなんだかむずかゆい。
「そ、そういえばあいつがお前に執心らしいじゃねぇか」
そこんとこどう思ってるんだ、と話題を逸らす。
嘘ではない、風鳴翼に聞いたからだ。
なんだか困ったような顔をしていたが、その機敏を感じられるほど雪音クリスは人間関係に聡くはなかった。
「で、どうなんだよ。立花響のこと、どう思ってるんだ?」
普通聞かねえだろこんなこと、というところまで聞いてしまうのが彼女であった。
というかそういうのに疎いにもほどがあった。
「大切な妹のように思っているよ」
当たり障りのない返事。
それが不満なのか、雪音クリスはむっとした。
「そんなもんかぁ? もっとこう、ないのか?」
何がどうとか考えてはいないが、雪音クリスは質問を続ける。
本当に考え無しであった。
「そうだな……」
トキは考え込む。
どうしたらこの質問娘が納得するような答えを出せるのか。
「可愛い女の子だと思うよ。君も同じようにね」
そう言ってすたすたと歩いて行ってしまうトキ。
雪音クリスは追いかけることなく、その台詞を脳内で繰り返していた。
「……?」
繰り返した結果、よくわからなかった。
雪音クリスに人間関係の話題は早すぎたのであった。