副の神(副生徒会長の神田)   作:若気のItaly

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1話 副生徒会

「副」という言葉から、何を思い浮かべるだろうか。

例えば、戦隊モノの副リーダー。どんな危険な場所でも突き進んでいく勇敢なリーダーを、冷静な判断と落ち着いた行動でサポートするアシスト副リーダー。

例えば、ショップの副店長。責任感があって店の運営を一括する店長に対し、店の売り上げを作るエリート副店長。

いずれも(しゅ)となる人の傍らにつき、欠点を補うパートナー。

 

しかし、世の中そんな立派な「副」ばかりではない。

 

 

<<副生徒会室>>

 

「だりいいい...」

明らかに一番仕事をしていないやつが、ついに机の上で組んだ腕に頭を据え、寝る体制に入った。

 

「おい、起きろ〜。てか、お前音をあげるほど働いてねえじゃねえか」

スラッとした男子が作業の手を止めて突っ込む。口では作業を促しているが「本当はこんな作業放り投げたい!」という気持ちが表情から滲み出ている。

 

この2人は我らが副生徒会のメンバー。

一応作業を続けているイケメン君は、副生徒会長の神田航一(かみたこういち)。元々は「生徒会室」で副生徒会長をやっていたが、生徒会長の「なんか合わない」という理不尽な理由によって、今は生徒会室のある第一校舎から2つとんだ第三校舎の「副生徒会室」に左遷されている。実にかわいそうだ、帰りに肉まんを買ってあげたくなる。てか、説明に「生徒会」っていう単語が多すぎる。何だこれは早口言葉か?

 

そしてもう1人、完全にやる気を無くし、ついにはスマホを触り始めたこの野郎は、副風紀委員長の三浦涼(みうらりょう)。その肩書きでスマホ触ってんじゃねえよ。誰かが肩書きに騙されないよう、鎖骨のあたりに(仮)って書き加えてやろうか。

三浦は、以前は風紀委員長だった。が、まあご察しの通り委員長をするような性格じゃない(よりによって風紀だし)。ということで生徒会長から「相応しくない」と解雇された。三浦に関してはあまり可哀想とは思わないが、それはおそらく俺が薄情であるためではないだろう。

 

 

お待たせしました。

そしてこの場にいる3人目、俺こと安藤颯太(あんどうそうた)です。

両親がメジャーな漢字で名前をつけてくれたおかげで変換機能では一番最初に出てきます。趣味は被弾です。よろしく。

かなり滑った気がするけど、気にしない気にしない。

肩書きは「副メンバー」。うん、意味がわからない。

正常な思考回路の持ち主なら「副?w」って思うはずなので説明しておこう。

それは1ヶ月前のこと。

 

廊下を歩いていた俺は、高校1年生の時には見かけなかった「副生徒会」という謎の看板を見つけた。好奇心に負けて、ドアを少しだけ開けて覗いてみたのだが...ちょうどそこに三浦が後ろから歩いてきた。こいつは俺を見つけるや否や、部屋の中の神田に「お〜い、入会希望者だぞ〜」

?!である。言葉が出なかった。

入るとか言ってねえけど!?

てか副生徒会ってなんだよ!

てかここ途中から入会とかあるんだね!へえ!

と、思っただけで言えなかった。なぜか嬉しそうな神田に「どの役職がいい?」と聞かれ、「え、そういうの大丈夫」と答えた俺は、こんな肩書きに。

 

自己紹介に戻るが、俺は部活でもなければ共通の趣味でもないこの謎の集団にこういう経緯で所属することになってしまった。興味本位による不本意な結果だ。

 

そう言えば、作業がめんどくさいとかそういう話をしていたんだった。ここは腐っても生徒会、部費の拡大の申請や学校予算の管理など、様々なデスクワークが..............ない。

驚くほど無い。ぶっちゃけ暇な時の方が多い。と言うよりほとんど暇である。

じゃあ、今日に限って何をしているのかというと、文化祭で門を飾り付けるためのちっちゃいポンポンみたいなやつを作っている。なんて言うんだこれ。とりあえず机を囲んで、そのミニポンポンを作っているところだ。机で作業してるから一応デスクワークなのだろうか。

 

ここ、副生徒会室に回される仕事は、基本「生徒会長がめんどくさいと思った手作業」である。扱い酷すぎない?

雇われてねえけど!って叫びたいが、それでお金を出されても困るので、とりあえず無視できる程度の不満を垂れ流しておくこととしよう。環境基本法に触れないくらいに。

 

「そういや、大トロは?」

「あ〜、さっきもう来るって言ってたよ。」

そうだった、この副生徒会のメンバーはもう1人いる。肩書きが副書記の...

 ガラガラガラ

「ごめん、ちょっと遅れた」

こいつ、松寿司(まつことつかさ)。なんて縁起の良さそうな名前だろう。フルネームを言うたびに思う。

こんなに幸せそうな名前のやつは笑福亭鶴瓶くらいだ。

しかし見て分かる通り、姓と名を跨いで美味しそうな感じになっている。あだ名は「大トロ」から「アナゴ」、また「握り」や「軍艦」など多岐に渡り、次々と新しい呼び方も開拓されている。ちなみに、副生徒会内では大トロで統一されている、わかりにくいからね。

性格は、簡単に言うとまともだ。

頭はいいけどたまに壊れる神田、クズで怠け者な三浦に対し、いつもツッコミを入れる感じの役回りだ。

神田と三浦が2人で左遷された時、神田が2人じゃなんか足りないと言うことで親友の大トロに頼んで入ってもらった、らしい。

 

メンバー紹介はこれで終わり。

この副生徒会、統率は取れていないが、ある意味バランスは取れている気がする。

 

「お、今日は珍しく仕事来てんだ。」

大トロが荷物を置いて神田の作業を覗き込む。

「どういう仕事?」

「なんか文化祭で門を飾り付けるくしゃくしゃのやつを作ってるらしいー」

「なんで他人事なんだよ。お前もやれよ。」

寝たまま返答をする三浦に、大トロがチョップする。

「いやだ。俺は今晩御飯の献立を考えるのに忙しいんだ。」

「それくらいのことなら脳みそ並列に使えよ。てか、晩飯作るのお前じゃなくて母親だろ」

「だから、リクエストするんだよ」

「今17時半ですけど?!せめて前日とかにしろよリクエストは」

三浦は大トロがくると、ボケのスイッチが入るみたいだ。

ちゃんと全部拾う大トロも尊敬に値する。なんか拾い食いみたいな文になってしまった。

まあ、実際3秒ルールと言わんばかりのスピードで突っ込んでいるが。

「いやうち、食卓囲んでから何食べたいか1人ずつ言って、それから作るって感じなんだよね」

「嘘つけ、どこの料理店だよ」

「これが本当の『ファミリー』レストラン」

「うるせえ、仕事しろ」

そんな会話を神田は楽しそうに聞いていた。

 

♦︎♦︎♦︎

 

結局、この日は大トロの加勢から作業が3倍くらいのスピードで進み、ノルマはすぐに終わった。

今日は珍しく仕事があったが、いつもは放課後駄弁っているだけ。4人全員、生徒会であるという自覚は全くと言って良いほどない、実際生徒会じゃないし。

だが、それでいい。「副生徒会」という謎の看板で守られた空間があり、部活や同好会と違ってメインの活動すらない。

ほぼ無理矢理入れられたグループだけど、いつの間にか居場所になってしまっている。

高校男子4人のちょっと変わった青春の形。




メンバー紹介

神田 航一(副生徒会長)
頭がよくてしっかりしているが、たまにトンチンカンなことを言ったりする我らがリーダー。
「かんだ」じゃなくて「かみた」、よく間違えられる。
生徒会長に「なんか合わない」という理不尽な理由で、生徒会室から別の校舎に左遷された。
身内での絡みではニコニコしながら聞き手に回ることが多い。

松寿 司 (副書記)
メガネくん。
神田に誘われてここに入った。
真面目な性格でみんな(主に三浦)のボケにツッコミを入れる役回り。
甘いものが好きで、チョコとかをいつも持ち歩いている。
そのため、バレンタインにチョコもらったと毎年勘違いされる(毎年もらってない)。

三浦 涼 (副風紀委員長)
元風紀委員長。
風紀委員だが、自分が必要ないと思う校則は守らないため、生徒会長から解雇された。例えば「頭髪は眉毛にかかってはいけない」という校則があるが、必要性がわからないので、髪は長め。
面倒臭がり屋。
大トロがいる時はかなりボケる。

安藤 颯太 (副メンバー)
今作の語り手。
成り行きで副生徒会のメンバーになり、最初の「役職何がいい?」という質問に「濁した返答をしたところ、こんな肩書きになってしまった。
偏頭痛に悩んでいる。

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