文化祭のテーマが決まった後のこと。
俺たちは全員で力を合わせて準備をし、互いを知り、友情が深まり、チームが一つになっていった...みたいな感動の物語は当然なく、お馴染みの単純作業によって当日用のレモネードを一気に作り上げ、当日を迎えた。
ちなみに、僕らの楽しいレモネード作りの手順はこうだ。
1〜!レモンを絞る。
2〜!砂糖と水を加える。
3〜!加熱。
以上。
なんて楽しい作業なんだ!こんなに楽しい作業なら一日中やってられそうだぜ!なんて冗談を言っているように聞こえるかもしれないが、ガチで一日中これをやった。
調理室にて、レモンを絞り続ける俺、砂糖と水を測って加え続ける神田、加熱し続ける大トロと三浦。そこには汗はあっても笑いも感動もない。
製作中の回想シーンに入ってもいいが、サボりたい三浦とサボらせない大トロの闘いがあっただけだ。言わずとも想像していただけるだろうと期待を込め、準備の過程は節略させていただくこととしよう。
ということで、今日はもう文化祭当日。
交代制で、午前中は俺と大トロ、午後は三浦と神田が働くことになった。
今は午前中、レモネードスタンドと言うよりかは、迷子センターみたいな飾り気のない売り場に、大トロと仲良く座って店番をしている。店番と言っても商品を取った人からお金を受け取るだけだ。駅前とかの交通量調査のバイトくらい暇な仕事である。まあ、したことないからイメージだけど。
想像していたよりも反響はよく、レモネードはそこそこのペースで購入されて旅立って行く。これも隣で真面目に客寄せをしている大トロのおかげだろう。
「レモネードどうですか?酸っぱすぎず、甘すぎない!こだわりの味ですよ〜」
大トロ先輩お疲れ様で〜す。ありがたやありがたや。とか思いつつ、俺は椅子に座って代金受け取り係に励む。励んでいるということにしておく。
俺たちは順調に売り上げを出していった。目の前にお金がどんどん積まれていく。いやあ、100円玉とはいえ頬が緩む。
おっと、これは寄付金なんだった、危ねえ危ねえ。
ここはこの学校の端の第3校舎、通行人は比較的少ない。退屈な仕事ではあるが、俺はそれなりに販売を楽しんでいた。たまたま通りかかったクラスメイトに絡んだり、可愛い子にちょっと割引したり(これは大トロには内緒)。
それだったのに、その空気をぶち壊すタイプの野郎が訪れた。
「あれ?副生徒会の出し物はダンスにしなかったのかい?神田くんにはそう言ったんだけどな〜」
爽やか笑顔のこの男子。
生徒会長の桐谷賢治だ。
一応同級生だが、毎度毎度見下したような態度で副生徒会に接してくる。
漫画とかで「いいのかい?僕にそんなこと言って。僕のパパはIT会社の社長で、この学校の校長とも仲がいいんだぜ?」とか言ってくる金持ちのウザイ奴。桐谷のイメージはあんな感じだ(コイツは特別金持ちという訳ではない)。
「流石にダンスはな、うちにはダンス部もいるわけだし間に合ってるでしょ」
と愛想笑いで流す大トロ。
「いやあ、やっぱりダンスもできないか〜。やっぱ『副』だしな〜」
うわあ...うっざ。笑えてくるレベルだ。毎度毎度思うが、こういう明らかな嫌味を吐く人間というのは、人に嫌われることを苦に思わないのだろうか。俺にはできない。
「ダンスもって言い方はダンス部に失礼でしょ、桐谷〜」
大トロは笑っているが、目が笑っていない。もうガツンと言い返しちゃってくれよ〜。まあ、これを口に出すと「他人任せだな、おい」って突っ込まれそうだから言わないでおくけども。
とりあえず、早く帰って欲しいから、雑に売っとくか。
「桐谷、お前もちろんレモネード買うだろ?」
「え?あー、じゃあもらうか。あんまり好きじゃないんだけどね」
余計な一言がついてきた気がするが無視しよう。
レモネードを一杯渡して、200円を受け取る。
「じゃあ、僕はそろそろ行くとするよ。美味しいレモンジュース、売るの頑張ってね。まあまだ飲んでないから美味しいかわかんないんだけど」
そう言い残して桐谷は笑顔で帰っていった。
「レモンジュースじゃなくてレモネードだよ、ばーか」
「いや、そこかよ」
去っていく桐谷の背中に大トロが毒を吐き、俺は何と、あの大トロに突っ込むことができた!
なんか今日いいことありそう。
と思っているのも束の間、桐谷が眉間にシワを寄せて帰ってきた。
「ねえ、このレモンジュース、虫が入ってたんだけど」
そう言って桐谷は蚊みたいな虫が一匹浮いたレモネードを見せてきた。
「あれ、おかしいな。ちゃんとチェックはしたんだけど...」
「それはそっちの都合だ。まさか無視しろなんて言わないよな?これはそっちの過失だろ?」
受け渡す前に虫が入ってしまったのかな、これは参った......とはならない。
なぜなら、俺らにはこれが絶対に受け渡し後に混入した、もしくは混入させられたものだという確信があった。
うちの副生徒会には天性のクレーマーがいる。そう三浦だ。
以前、クレープ屋の店員が三浦の注文を間違えたことがある。中のクリームが、注文した生クリームではなく、カスタードクリームだったのだ。
その時三浦は、それはもう怪訝そうな顔で
「すみません。これ、中カスタードクリームですよね?僕、カスタードって頼みましたっけ。勘違いだったら申し訳ないんですけど、僕、生クリームで頼みませんでした?」
レシートを確認しながらそんなことを言っていた。
店員はというと
「すみません。本当にすみません、すぐに作り直します」
そう言って、すごい慌てながら生クリームが入ったクレープを作ってきた。渡す際にも「本当に申し訳ありませんでした、ご注文の品です。今後このようなことはないようにしますので...」と謝っていた。しかし、三浦はこんなことじゃ許さない。
「クレープ作り直すのにかかった時間、5分です。この時間のロスはあなたの謝罪で取り消されるものではありません。それに、生クリームとカスタードクリームを間違える、これもどうなんですか。もし僕が卵アレルギーがあったら?もし食べた後気づいていたら?それが原因で客が死んでも、あなたはただ平謝りするだけなんですか?こっちは金銭を渡して、品物を購入しています。販売のミスに責任を持つのなら、謝罪は目に見えるカタチでするのが筋ですよね」
そして、クレープ代の630円を丸々返してもらった三浦は、美味しそうに生クリームのクレープを食べていた。
俺たち副生徒会はこんな光景をそばで見てきた。見てきたからこそ、自分たちがレモネードを販売すると決まったときから、万が一にもミスが起こらないようにしようと全員(三浦は知らんが)が固く誓った。徹底した作業工程を経て作り、作り終わったレモネードも、蓋をした後に改めて異物が混入していないか全て確認した。
よって、今目の前にいる桐谷のクレームは言いがかりだと断言できる。だからこそ大トロの対応は冷静で冷淡だった。
「販売しているレモネードの安全面に関しては、間違いの無いようにしているので、その虫が入ったのは購入後ですね」
「異物混入してる事実はここにあるんだ。『虫が入ったのは購入後だ』なんて虫が良すぎるんじゃないか?」
虫だけにってか、やかましいわ。そのちょっとドヤ顔みたいなのもやめろよ、コイツもう喧嘩売ってるよな。
「おい、桐谷。いくら虫が好かないからって、言いがかりはやめてくれ」
意外な『虫』に被せた反論に桐谷は唖然とした。大トロは畳み掛ける。
「こっちが客として、虫を殺して対応してるのをいいことに、嫌味ばっか吐きやがって。流石に腹の虫が治らないわ」
三浦とは違い普段は割と大人しい大トロに責められて、桐谷は「いや、でも...」としか言えないでいる。それと渾身の『虫がいい(ドヤア)』をひっくり返されたのがよほど悔しいのだろう。苦虫を噛み潰したような顔をしている。ざまあw
「とりあえず、早く帰ってくれ。謝罪とかはもういいから」
めっっっちゃ悔しそうな顔で、桐谷は去っていった。桐谷が角を曲がり見えなくなったところで、大トロは
「虫唾が走るな」
と一言。かっこよ。
「大トロ、や〜る〜。桐谷の顔も超ウケたわ〜」
どこからともなく、三浦が出てきた。後ろにいつにも増してニッコニコの神田もいる。
「お前ら、居たなら出てきてなんかフォロー入れろよ」
と大トロがため息をつくと、神田が
「でもほら、俺がいたら大トロもやりづらかったかもよ?」
「いや、どういうことだよ」
変わらない笑顔で答える神田に大トロはまたため息をついた。
♦︎♦︎♦︎
午後はいろんな出し物を見て回った。
1年4組のたこ焼きがめちゃくちゃ美味かった。
途中、副生徒会のレモネードスタンドの前を通り過ぎた。
その時チラッと見たが、三浦は居眠りをしていて、神田はただただ座って代金を受け取っていた。コイツらに客寄せという概念は無いのか。まあ、俺もさっきまで神田と同じポジだったけど。
でも、(羨ましいことに)神田はイケメンなので、客寄せをしなくても女子の客集まっていた。畜生が。
♦︎♦︎♦︎
文化祭の閉会式が終わり、俺らは副生徒会室に集まった。
レモネードは完売し、机の上には100円玉の山があった(ケースに入れていたが、三浦が100円玉の山見たいと言ってひっくり返した)。
「いやあ、やっぱり今回のMVPは大トロだよなあ」
「まあ、桐谷がウザかったからな」
俺のヨイショに、大トロが笑って返事をする。
「てか、わざわざ文句言うために虫入れて帰ってくる桐谷もやばいよな」
「いやホントにそれだよ。てか、桐谷って虫触れたっけ?」
三浦が首を傾げると、神田が
「桐谷なら虫触れないよ〜。レモネードの虫も俺が入れたし」
「「「え?!」」」
いやおいおいおい。
このあと、桐谷の件で4人で大爆笑し、今年の文化祭は幕を閉じた。ああ、楽しかった。
性格悪すぎだろ...俺ら。