ガラスごしのVisions   作:ホワイト・ラム

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新年おめでとうございます。
今年もこの作品をヨロシクお願いします。


栄光の迷惑な立役者

タキオンの研究室にて、同室のマンハッタンカフェが成れた手つきで湯を沸かし

若干成れない手つきでカップにお湯を注いだ。

そして、彼女には非常に非常に珍しく、紅茶の缶を手に取ってティーポットに入れていく。

数分の後、茶葉が開ききった頃に、温めたティーカップに紅茶を注ぐ。

カフェの手には鮮やかな色の紅茶が完成していた。

 

「タキオンさん、紅茶がはいりました」

 

「おや、君が淹れてくれるなんて珍しい事も有るんだね」

この部屋の住人アグネスタキオンが、怪しく発光するバーナーで炙られた薬品から目を離しカップを受け取る。

 

「お祝いです、一応の」

 

「ああ、この前のメイクデビューの件かい?」

 

「3番人気から始まり、上がり3ハロン33秒台、3バ身差だとか」

初陣にして圧勝。

それは記録を見れば一発で分かる事。

普通ならば多くのウマ娘がその事実を、誇るだろう。

 

だが――

 

「カフェ……すまないが、この話題はやめにしないか?」

肝心のアグネスタキオンが何処か遠い目をして、輝かしいハズの話題から目を背けた。

 

「なぜです?誇りこそはすれ、避ける理由などないハズ……

やはり、『彼』が関係しているんですか?」

カフェの言葉にピクリとタキオンの耳が動く。

そして、全身がわなわなと震えだした。

 

「『彼』?ああ、彼か……

関係している、関係しているとも。

ああ!!大いに関係しているとも!

あの、バ鹿モルモットは!!」

 

バァン!と作業台を叩けば、その衝撃で機材が一瞬宙に浮いた。

カフェの淹れた紅茶が僅かに跳ねて、タキオンの白衣にシミを作った。

彼女らしく無い感情的な動作に、カフェもまた小さく震えた。

 

再度、視界を部屋の端に向ける。

 

そこには一人の男が正座の状態で座らされ、顔には布袋が被せられ『反省中』と書かれた紙が貼りつけてあった。

体格的に件のトレーナーその人であろう。

 

「私、特製の超遮音、超遮光布袋だ。

くくくくく……音も無く光も無い世界でしばらく一人、孤独に反省したまえ……」

黒い笑みをタキオンがトレーナーに向ける。

 

「また、なにかやらかしたんですね……」

この異様な光景を、半場自身が良く見知った日常の一部として受け入れつつあることに、カフェ本人が小さくショックを受けながらつぶやいた。

 

「今、思い出しても、何度思い出しても頭が痛くなるよ。

いいや、メイクデビューという大舞台で関連付けされた私にとっては、一生記憶に残り続ける事に成るだろうな……

悪い意味で」

ティーカップに口を付けてタキオンが、件の日を話し出す。

 

 

 

 

 

ウマ娘アグネスタキオンは、初の大舞台のレースという事で珍しく緊張をしていた。

個人に用意された控室で、レース用の服に着替え自身を落ち着かせるために意図して深呼吸を繰り返す。

 

「落ち着け、これは至近距離で他のウマ娘のデータをとる絶好のチャンスだ。

それに、トレーナー君曰く『私の敵は居ない』。

ならば、落ち着いて行動すればこのレースを落とすなんて事は無い」

自分に言い聞かせるように、なんども深呼吸をする。

 

コンコン

 

不意にノックの音がする。

出走準備かと、タキオンが身構える。

 

「タキオン、着替えは終わったか?」

聞こえてくるのは、よく聞いたトレーナーの声だった。

 

「終わっているよ、入って来たまえよ」

不思議な事に彼の声を聴いただけで、ほんの少しだけ安堵している自分がいる事に、タキオンが内心驚いた。

 

「前も言ったように、今回のレースはお前の実力なら十分勝利できる。

落ち着いていけ。

自身の持つスペックを生かし切れば、大差をつけての勝利も夢では――ん?」

こちらを指さし、口をパクパクさせるタキオンに気が付きトレーナーが口を閉じる。

 

「どうした?なぜ、そんなに――」

 

「一体その恰好はなんだい!?」

タキオンがトレーナーに指を突き付ける!

 

「応援用の衣装だ。

1週間ほど前から作り始め、昨日徹夜して完成させた」

トレーナーが自信ありげに誇るのは、赤と白で派手に縁どられた水色のハッピだった。

イメージとしては歴史ドラマなどの新選組などが着ている服のイメージだろうか?

だが、その額に巻かれたハチマキに『アグネスタキオン命』の文字が踊り、右手に持ったうちわにはデフォルメされたフラスコとビーカーがクロスし『Tachyon』と名がデザインされている。

背中に背負うのは『ILOVE♡タキオン』ののぼり。

ポケットからサイリウムが顔をのぞかせている。

 

「へ、へぇ……前の、ウイニングライブの衣装といい、君はずいぶん器用なんだねぇ」

タキオンが露骨なまでの引き顔を見せるが、トレーナーは気づいていない。

 

「背中の刺繍も自信作だ」

後ろを振り返り、タキオンに背中をみせると、何処かこっちをバ鹿にしたような笑みを浮かべるデフォルメされたタキオンの顔が刺繍されていた。

 

ひくっとタキオンの頬がひきつった。

 

「今日の応援。俺の今までのトレーナー人生で最も力を入れると約束しよう。

お前の勝利を願っているぞ」

真摯な態度とキリっとした表情。

トレーナーが片膝を着き、タキオンの手を取る。

仕草だけならかっこいいと言えなくもないが、残念な事にこの格好のせいで完全に台無しである。

 

「あ、ああ……がんばってくれ……」

タキオンが力なく声を漏らした。

トレーナーはそのオタクファッションのまま、トレーナーは控室を後にした。

 

「いや、いや確かに緊張はほぐれたけど……

トレーナー君さぁ……ほんっと、トレーナー君さぁ……

……うん……ああ。もう……がんばろ」

酷く、酷く釈然としないタキオンのつぶやきが空しく響いた。

 

 

 

 

 

「うわぁ……」

現在の教室で、カフェが気の毒そうに声を漏らす。

 

「正直言うと、ここからはあまり覚えていないんだ。

酷く記憶が曖昧かつ断片的でねぇ……

ゲートが開いた事、前もってトレーナー君と決めておいた走り方をした事、そして応援席で彼が件の恰好で私を激しく応援していた事、位さ。

あ、いや。トレーナー君の周囲の人間が彼を異様な物を見る様な目で見ていたのはヤケに覚えているよ……

一緒に走った他のウマ娘たちには悪いが、トレーナ君の方が印象に残っててね……」

再度、反省中のトレーナーをタキオンが見やる。

 

「挙句の果てにウイニングライブだ……

トレーナー君はその恰好のままライブの最前席に現れ、しかも私が姿を見せた瞬間過呼吸を起こして倒れてね……

緊急搬送で最早ライブどころじゃ無かったよ……」

何時もより暗い目でタキオンがため息を着く。

 

「分かるかいカフェ?私は自身のメイクデビューで、トレーナーに良く分からない恰好で応援され、尚且つウイニングライブで目の前で倒れられ舞台が騒然となったんだよ?

トレセン学園始まって以来、こんな事態に巻き込まれたウマ娘は私以外居ないと断言できるんだがね?」

何処か諦めた様な、眼でタキオンがため息を着く。

話して落ち着いたのか、その表情には怒りよりも諦めや疲れが見えていた。

 

「なんというかご愁傷様ですね……

けど、それは裏返せばその分トレーナーさんが一生懸命に、応援してくれたという事なのでは?」

 

「…………」

無言になるタキオン。

数秒の時間を置き、紅茶に口を付け再度口を開く。

 

「…………分かっては居るんだ。

本当さ、トレーナー君はなんというか、手先の器用さに反して不器用なんだよ。

私の応援をしたい気持ちは分かるんだけどね……

不器用で空回りしてしまって、今回はそこに密かにある熱くなりやすい彼の性格が悪い形で合わさってしまったんだよ。

困ったトレーナー君さ」

やれやれと手を上げる。

その顔はさっきの暗さが少し薄れていた。

 

「なんだ、相手の事、分かって来てるんですね」

 

「当り前じゃないか、彼は私のトレーナーで私は、その愛バさ。

おっと、こんなセリフ彼に遮音袋を被せて無いと言えはしないがね」

そして吹っ切れたように笑う。

 

「ふぅ、今回は私も熱くなり過ぎた様だ。

トレーナー君にはすまない事をしてしまったな。

彼を許してあげないとね?」

そう言って尚も正座を崩さないトレーナーに近づく。

そして頭に被せられた布袋を取る。

 

「さぁ、トレーナー君。

反省の時間は終わりだよ。

私の勝利を祝って、すこし副作用が強めの薬の実験に付き合って――」

布袋を取ったタキオンが固まる。

 

「ウソだろ?」

 

「どうしました?」

疑問符を浮かべたカフェがトレーナーの顔を覗き込むと……

 

「くふー……スピー……くふー……」

 

トレーナー熟睡中……

 

「こぉんのお!!バ鹿モルモットはぁ!!」

怒りに任せてタキオンが拳を振り上げる!

 

「タキオンさん、ダメです!!流石に暴力はNGです!!」

 

「離せ!カフェ!!この、このバ鹿モルには制裁が必要なんだ!!」

暴れるタキオンをカフェが背後から必死に止める。

ジタバタと暴れるタキオンが急に大人しくなる。

 

「タキオンさん?」

恐る恐ると言った様子でカフェがタキオンの様子を伺う。

 

「そうだね……トレーナー業は激務と聞くからね。

私の為とは言え、服の刺繍やのぼりの準備も大変だっただろうからね。

暗く音もない場所を用意すれば眠くなるのも仕方ない事だろうね」

菩薩の様な優しい笑みを浮かべてタキオンが話す。

その笑みを見たカフェは全身の毛が逆立つような感覚に襲われた。

優しい言葉と優しい笑みを浮かべているが、その内心は怒りで煮えたぎっているのが分かった。

それだけの『凄味』がタキオンからは感じられた。

 

「まったく、またパソコン用の眼鏡をかけっぱなしにして……

危ないじゃないか」

トレーナーのかけている眼鏡を外し自身のポケットへ入れる。

 

「枕に成りそうな物は無いな。

仕方ないからコレで良いか」

タキオンが自身の白衣を脱いで枕の様な形にたたみ、トレーナーを横にする。

 

「うんうん」

何度も頷いて、部屋の冷蔵庫から一本の試験管を取り出し、トレーナーの口に押し込んだ。

 

「むぐ!?ぬん!!」

トレーナーの体がビクリと跳ねる。

 

「お疲れのキミに私特製の睡眠薬をプレゼントだよ。

副作用は悪夢だ。

一時間は絶対に目覚めない量を、流し込んだが……

さて、目覚めは何時になるかな?」

笑顔、あくまで笑顔のままでタキオンがえげつない行為をいともたやすく行った!

 

「なぁ、カフェ?

実はちょっとした発明品で、夢を覗けるゴーグルを作ったんだ。

使用者に被せると、TV画面に電波として夢を飛ばせるのさ。

彼の悪夢を小一時間ほど……

見 て い な い か い?」

全く感情の感じさせない顔でタキオンが、ゴーグルを手に尋ねた。

その迫力に押され、カフェは無言で首を横に振る事しか出来なかった。

 

「あっはっはっは!!!いつも鉄面皮の彼のこんなに苦しそうな顔は見たことが無いよ!!!

さぁ!どんな悪夢を見ているのか、調査と行こうじゃないか!!!!

あっはっはっは!!!あっはははははははははは!!!」

狂ったように笑うタキオンを眺めながら、出来れば、出来れば彼の悪夢が少しでも早く終わる様に、カフェは祈る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

「ハッ!?」

トレーナーが跳び起きる。

時刻は既に夜に差し掛かっている。

此処がタキオンの研究室であることは分かるのだが、なぜか記憶が曖昧だ。

何となく、何となくだがとてつもなく恐ろしい物を見た気がするが思い出せない。

 

「そうだ、俺はあの安眠袋で眠ってしまったのか」

ゆっくりと記憶をたどり自身の状況を思い出す。

 

「あの袋は無いのか。

あれは良く眠れる」

キョロキョロと辺りを見回すが、袋は残っていない。

余談だが、あの遮光遮音袋はトレーナーにとっては安眠グッズの様な感覚だ。

探そうかとも思ったが、勝手に触るのは流石に不味いと諦める。

 

「帰るか」

床に四角く畳まれたタキオンの白衣を回収しながらつぶやく。

教室の扉に手を掛けた時、トレーナーの動きが止まる。

そして、無言のまま教室の端にある掃除用具入れへ近づき扉を開ける。

 

ガチャ――

 

「ふへぇ……尊い……カフェさんが勝利祝いに、わざわざ紅茶を淹れるなんて……

それに対するそっけない態度も……しゅき……」

頭にリボンを付けたピンク髪のウマ娘が涎を垂らして、半分ほど魂が抜けた状態で掃除用具入れの中でぐったりしている。

ウマ娘アグネスデジタルだった。

 

「起きろデジたん。下校時間だ」

 

パシパシと頬を優しく叩く。

 

「はっ!?ココは誰?私はドコ……確か堪え切れない尊みを感じて……」

 

「デジたん」

 

「ふぅあ!?タキオンしゃんのトレーナーさん!!

一体いつから!?」

トレーナーに掛けられた声によってアグネスデジタルが覚醒する。

 

「涎が垂れている。拭くぞ。

ハンカチは社会人のマナーだ」

トレーナーがハンカチを取り出し、デジタルの涎を拭う。

 

「わわわわ!?トレーナーさんにご迷惑を……!!

そして突然の紳士ムーヴにデジたん、不本意ながらドキリとしちゃいます……」

 

「この程度、気にするな。

お前には恩がある。

最も大切な相手への最上級の応援の仕方を教えてもらった。

おかげで俺の熱意は必ずタキオンに伝わったハズだ」

教えられた情報を基に作ったタキオンハッピを思い浮かべる。

会心の出来だったと、内心ほくそ笑む。

 

「ほほほぉ!この不肖デジたんの知恵がトレーナーさんの、ひいてはタキオンさんの力に成れたのなら至極恐悦です!」

アグネスデジタルが感極まった様子で話す。

 

「礼がしたい。寮の門限まで時間があるな?

何処かでお茶でもどうだ?

無論、代金は俺持ちだ」

 

「で、で、でで、デート……!?

私、攻略されてます?

担当ウマ娘を放置で、他人ウマ娘NTR?

あわわわわわ……

背徳感で……ああ、ごめんなさいタキオンさん……」

 

「攻略?NTR?ゲームか何かか?俺には良く分からないな」

首をかしげて一瞬だけ考えて、トレーナーは考えるのをやめて、アグネスデジタルを連れてその教室を後にした。

 

「デジたんのアドバイスのおかげでタキオンも喜んでいたぞ」

 

「本当ですか!?陰ながら力になれるとは、末代まで自慢できます!!」

興奮気味にデジタルが語る。

 

「そうか、トレーナ君にしては手が込んでると思ったがそう言う事か」

にこやかに話す二人の後ろ。

タキオンが同じくにこやかに、腕を組んで立っている。

 

「むっ、タキオンか」

 

「タキオンしゃん……」

 

「そうか、そうか、そうか……すまないが君たち。

私の実験に付き合って貰えないかな?

何時もなら、良心の呵責が邪魔をして投薬をためらう薬品を、君たちになら心置きなく使える気がするんだ。

非常に、非常に貴重なデータが取れる気がするよ。

勿論、受けてくれるだろう?君たちなら……」

タキオンがぼこぼことなぜか常温で沸き立ち、緑青赤とランダムに色の切り替わる2本を試験管をスカートの中から取り出した。

 

「さぁ、グイッと行きたまえよ」

タキオンのその顔を最後に、二人の記憶はしばらく飛ぶ事に成った。




トレーナー君の秘密③
アグネスデジタルの本名をデジたんだと思い込んでいる。
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