ガラスごしのVisions   作:ホワイト・ラム

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タイトルがシンプルになってしまった。
正直、全話に関連性を持たせつつちゃんと面白いタイトル考えれる人、すごいって思いますね。
名前ミスを修正


襲来

ジーワ!ジーワ!ジーワ!ジーワ!ジジッ!

 

灼熱の熱波の踊る午後、熱さの中でセミたちが賢明に一週間の命を燃やしている。

恐ろしい事に夏休みに入った小学生たちが、遊びに行くニュースを見てタキオンが新聞を閉じる。

数かい折って、扇の形にして自らを仰ぐ。

 

「……暑いねぇ……暑いねぇ……」

タキオンが半場、勝手に占拠している理解準備室にて机に顔を突っ伏し、ぐでぇんと効果音が付きそうなだらけ切った顔で力なく呟く。

額の流れる汗が不快で、汗を吸ってほんのり湿った制服もそれまた不快だった。

 

手元の新聞には、真夏日の温度、日時の同時連続更新の記事が並んでいる。

 

「暑いねぇ……」

 

「うるさい……です……」

部屋の隅、コーヒーカップを置いたカフェがタキオンに悪態をつく。

手に持ったカップからは、湯気が立ち上っていた。

その姿は、だらけたタキオンとは対照的に背筋がキレイにのび、凛とさえしていた。

 

「おいおいおいおい、この灼熱地獄でホットコーヒーかい?」

呆れたと言わんばかりの態度をタキオンがとる。

 

「この豆を最もおいしく淹れるのが、この温度なので」

 

「……あー、もう、駄目だ!

カフェは見ているだけで、暑くなる!

黒い髪に黒い勝負服に黒いコーヒーに、黒は光を集める色だって知らないのかい?」

 

「そんなに、文句を言うのならトレーナーさんの部屋に行けば良いのでは?

個室ですし、クーラー位あるでしょうに」

 

「この前、少し鳴らしただけで凄まじい音がしたんだよ。

次、スイッチを入れたら確実に壊れるねぇ。

しかぁし!この部屋で、君の暑そうな恰好を見るよりは遥かにマシな気がしてきたよ!

少々癪だが、今回はその助言に従ってみようかねぇ!

君はせいぜい熱中症に気を付けて、暑い部屋で暑いコーヒーでも飲んでいるといいよ!」

タキオンが言いたい事を言うだけ言って、部屋を出て行く。

 

「うえ、あっつ……い」

タキオンが出て行った瞬間、カフェもコーヒーを置いてだらしなくソファーに横になった。

だらしない姿を見せまいと必死に我慢していたのだった。

 

 

 

 

 

「トレーナーくーん」

 

「タキオンか」

窓際の机、何時もの様にトレーナーがパソコンで作業をしている。

いや、何時もは開いているカーテンが閉まっている時点で、彼も多少、熱さにうんざりしている様だった。

 

「エアコン、回さないのかい?」

タキオンの指摘の通り、部屋は窓こそ開いている物の件のエアコンは止まったままだ。

 

「エアコンか」

 

「前回はたまたま調子が悪かっただけかもしれないよ?」

僅かに苦い顔を見せたトレーナーにタキオンが進言する。

 

「時には勇気を持つことも必要か」

トレーナーが机の角のリモコンを掴みスイッチを入れる。

 

「行くぞ!勇気と共に!」

 

ぴぴっ!

 

ウィーン

 

「動いたね」

動作し始めるエアコンを見てタキオンが漏らす。

 

『ガガガッ!!ガガガッ!!ガガガイガー!!

ガガガッ!!ガガガガ!!ガガガイガー!!』

 

「動け!!鋼のエアーコンプレッサー!!

赤いランプ、黄ばんだボディー!!」

 

『ガガガ!!ガガガ!!ガガガ!!ガガガイガー!!』

 

ががっ……

 

景気の良い音を出していたが、遂に停止した。

僅かにファンの間から、煙が出ているが気のせいだろう。

 

「勇気が足りなかったか」

 

「いや、機械は勇気じゃどうにもならないよ……」

はぁ、とタキオンがため息を着く。

 

「暑いか?」

 

「暑いねぇ、けど教室よりはマシだよ……

人口密集率が低いし、なによりここは日陰になってるから多少は温度が低いみたいだねぇ」

それでもパタパタとタキオンが手で首元に風を送る。

 

「一応だが、暑さ対策の道具を持って来た。

机の上に有る、自由に使ってくれ」

椅子に座ったまま、視線をソファー前の机に向ける。

その視線を同じくタキオンが視線で追う。

 

「暑さ対策って、コレかい……?」

そう言って机の上の物を持ち上げる。

 

「うちわに、ハッカ味の飴、絵本?」

 

「怖い奴だ」

 

「はぁー、もっと科学的なヤツに頼った方が良いと思うよ」

タキオンがため息交じりにバカにしたように話す。

ごろんとソファに寝転がり手早く飴を口の中に投げ込んだ。

 

「暑いよー、扇風機でも買いに行かないかい?

スポットクーラーでも良いよー」

ぐでぇんとソファで横になり、タキオンが制服のボタンを開けてうちわであおぐ。

 

「どちらにせよ、つぎの給料日だ。

それに、今は出かけるより先に急ぎの仕事を片付けたい。

だが、休みも入れたい。

お茶の時間にする。冷蔵庫に紅茶が冷やしてある」

 

ザバッ!

 

「なんだい、今の音は?」

水の揺れる音に、タキオンが反応しトレーナーの方を向く。

Yシャツに身を包んだトレーナーの下半身は下着一枚だけだった。

そして、その両足は水に濡れていた。

 

「その珍妙な恰好は何だい……?

なんで、脚が濡れてるんだい……?」

トレーナーのさっきまで座っていた、机の下を覗くと水の入ったタライに大きな氷が沈んでいた。

ひんやりーとした空気が見るだけで伝わってくる。

 

「そんな物が有るなら、なんで言わないんだい!?」

ズルいじゃないか!と抗議の声を漏らす。

 

「これは一つしか用意していない」

 

「これこそ担当バに譲るべきじゃないかい?」

 

「そんな事は業務内容に含まれていない」

やんややんやと二人が暑いなか揉める。

 

「おーくーれーよー、氷とタライを私に譲っておくれよー!」

 

「タライは無いが、バケツならある。

氷はコンビニでブロックの物を買え」

 

「自分で作れって言うのかい!?

この暑い中を外出して、氷を自分で買ってこいっていうのかい!?

なんて、非情なトレーナー君なんだい!!」

タキオンの怒りに呼応する様に、尻尾がピぃんと立ち上がる。

 

「仕方ない」

小さくトレーナーがため息を吐く。

 

 

 

 

 

3分後……

「トレーナー君、狭い。もう少し、寄ってくれたまえよ」

 

「体制的に無理だ」

古ぼけたソファーにズボンと靴下を脱いだトレーナーと学園指定のソックスを脱いだタキオンが二人並んで座る。

そこまで大きくないタライの中に2人の足が付けられている。

 

「足元は涼しいけど、身体がくっつくのが不快だねぇ。

トレーナー君が微妙に汗でしっとりしてるのがヤダねぇ……」

 

「タキオンも同じだ」

タライに足を入れ、上半身はデスクの上に置いたノートPCに向かうトレーナー。

こんな体制でも仕事は忘れないらしい。

 

「おいおいおいおい、これは一体何だい?」

横に居たタキオンがパソコンの画面を指さす。

そのには、カラフルな色合いでデフォルメされたウマ娘のイラストが躍っていた。

 

「明後日の子供たちのトレセン見学の資料だ」

 

「君、そんな面倒ごとを押し付けられていたのかい?」

呆れた様にタキオンが話す。

 

「はす向かいの同僚が本来担当する予定だったが、その担当バからNGが掛かったらしくてな。

こちらにその役目が回って来た。

9割以上は完成していた資料を譲って貰った、その確認と手直しと言った所だ」

トレーナーは資料をもらう際、担当からNGを出された同期が血の涙を流しながら小柄な担当バに引きずられていったのを思い出す。

 

「言っておくが私は手伝わないよ。

子供は嫌いなんだ」

 

「予想していたが、そうか。

心配は不要だ。対策はする予定だ」

無表情のまま、資料のレイアウトに手を加えて行く。

 

「今更だけど君、子供の対応は出来るのかい?

無表情で怖がられるんじゃないか?」

 

「俺の元々大学の専攻分野は、教育学部の小学部学科だ。

問題などない」

 

「ふーん、意外だね」

タキオンが話半分に生返事を返す。

 

「印刷してくる。しばらく自由に使え」

資料が完成したのか、パソコンを閉じて部屋を出て行く。

 

「ふぅ、ようやく楽になったよ……」

足を氷水に付けたままタキオンが横になる。

暑さでぼぉっとする頭でトレーナーが出て行った扉を見る。

 

「待てよ?小学部の教育学科からトレーニング科へ?」

教育系であることは間違いないが、それでもずいぶん急な路線変更であるのは分かる。

なぜそんな事を?とタキオンが思ったが、視界の端にトレーナーの脱いだズボンが掛かっているのを見つけ、慌てて走り出した。

 

 

 

 

 

次の日の土曜日――

 

「はーい、では今からお兄さんがトレセン学園を案内するよ!」

集まった未来の強豪ウマ娘たちの前で、タキオンのトレーナーが挨拶をする。

 

「みんなに、パンフレッドを最初に配るよ。

まずはこの探検ルートをたどって、学園のいろんな施設を体験出来ます。

凡そみたら、今度は自由時間だよ」

今まで見た事の無い笑顔でトレーナーが説明する。

 

「自由時間は学園の設備は使い放題です。

カフェテラスも特別に開いているので、好きにお昼をたべてください。

で、デジたんと一緒にお昼が食べられますよぉ!」

腕にスタッフの腕章をつけたデジタルが少し興奮気味にはなす。

 

「学園のチェックポイント毎に、他のトレーナーさんや先輩ウマ娘さんたちがいます。

トレーナーさんとの模擬トレーニングに、先輩ウマ娘さんとの模擬レースが出来ます。

参加する度に、スタンプが貰えて1個以上なら参加賞、5個以上で頑張ったで賞、7個以上でスゴイで賞が貰えて、10個全部もらえたら賞状がプレゼントされるよ。

じゃ、施設案内、始めるよー」

 

「みなさん、トレーナーさんとデジたんに、キチンと付いてきてくださいね」

トレーナーが『トレセン学園探検ツアー』の旗を手にして歩き出す。

 

「………………え?」

にこやか、爽やかに笑い子供たちを引率する自身のトレーナーをタキオンが物影から見送る。

興味ない振りをしたが、結局気になって見に来てしまったのだ。

 

「いや、え?彼あんな、顔するのかい?え、いや、だって、キャラ違わないかい?」

初めて見る表情と声色、それとアテがデジタルの事だったのかと、様々な言葉が脳内で綯交ぜになって降りかかる。

 

「けど、なんだか、私といるよりイキイキしてる気がするねぇ……

こんな事なら、手伝うべきだったか?」

なんだか、やるせなく成ってタキオンがため息を吐く。

尻尾も耳もしゅんと力なく項垂れる。

 

 

 

 

 

「やれやれ、なんだか物寂しよ……」

前もって渡されていた、合鍵でトレーナー室を開け今日の分の弁当をタキオンが食べる。

忙しいと言いつつもキチンと用意してくれるのが、彼らしい所だ。

 

がチャリ

 

「!?」

開くハズの無いドアが開かれ、トレーナーが顔を見せる。

 

「トレーナー君!?ずいぶん早いじゃないか?

時間的にレクリエーションが終わったばかりだろう?」

会いたかった顔にタキオンがぱぁっと明るくなる。

 

「タキオンか、すまないが少し部屋を」

 

「部屋を空けなさいよね!」

トレーナーの後ろから、気の強良そうな声が聞こえる。

背後から現れるのはマゼンタの髪と翡翠の瞳をしたウマ娘。

スカートから靴下、リボンまで全身に黒いラインが均等に入ったデザインをしている。

 

「うわー、本物のトレーナー室って初めてだなぁ」

のんびりした口調で部屋に入ってくるのは、金色の髪のウマ娘。

赤いラフな服に、青、緑、紫の刺し色がされ淵は黄金色で纏められている。

 

「お、おじゃま、します……」

最後に入って来たのは、おどおどしたウマ娘。

栗毛の頭に、ステンドガラスを思わせる飾りをつけて、高貴さを感じさせる赤いワンピースにはゴシック調のデザインが施され、気弱そうに見える外見とは裏腹に片足に鎖がアクセサリーとして巻き付けられていた。

 

 

 

「うっわー、アグネスタキオンじゃん!幻の三冠馬!」

 

「三冠確実って言われて、本当にあっさり取っちゃったって有名な人!」

 

「はわわ、そんなスゴイ人なの……?」

三者三様のリアクションを見せる。

 

「私の名前はディキャンディ!覚えておきなさい、全てのレースを破壊し、全てのレースを私の名の元に繋げる者よ。大体わかったかしら?」

気の強そうな子がタキオンに指を突き付ける。

 

「僕はビートゴウラ。距離とか適正とかあんまり気にしてないけど、世界中のウマ娘とレースして友達に成れたらって思ってるよ」

穏やかそうな子は笑いかける。

 

「わ、私はマ、マシーンギヴァーです……えっと、その、レースが好きで、と、とにかくがんばります!!」

最後の子が緊張しながら話す。

 

「彼女たちは、10個全てのスタンプを揃えた3人だ。

ここまでの速さで、そろえるとは完全に想定外だった」

感心した様にトレーナーが話す。

 

「私達は、スタンプ蒐集っていうレースのトップ3ってことよ!」

 

「お昼抜きで、だけどね」

 

「あ、あとで、食べに行けばいいよ!」

仲良く話す3人の様子からして、お互いに知った仲なのだろう。

 

「さ、賞状を貰わなきゃ。

呼んで無い、部外者は出てって」

しっしっと手でディキャンディがタキオンを追い出す。

 

「ここは、私のトレーナー君の部屋なんだがねぇ?」

 

「トレーナーだから何よ?今は、私達の表彰の為の場所よ!」

ディキャンディがタキオンに視線を投げる。

 

「タキオン、すまないが部屋を開けてくれるか?

彼女たちに賞状を渡す約束だ」

 

「な、に……?」

トレーナーの言葉にタキオンが茫然とする。

自身の味方のハズのトレーナーから渡された言葉に、タキオンの力が膝から抜ける感覚がした。

気が付けばタキオンは部屋の外にいた。

 

「ぐぬぬぬ……」

タキオンが忌々し気に、閉じられた扉を睨む。

時折、中から聞こえてくる楽しそうな声をきき、やがて力なく項垂れた。

そして、とぼとぼとその部屋を後にする。

 

 

 

 

 

その後、賞状を渡し3人と昼食を取った後、再度トレーナー室に戻ってくる3人。

他の参加者が疎らに、賞状を取りに来るのを眺め、夕方になるまで部屋の中でたむろしていた。

 

「そろそろ、だな」

トレーナーが時計をみて、凡その参加者が帰った事を確認する。

3人にも帰るようにと声をかけようとした時。

逆にあちらから、声をかけられる。

 

「アンタ、気に入ったわ!名前、憶えて置いてあげる」

 

「キャンディちゃん、そんな上から目線で……」

キャンディが指を突き付け、その様をマシーンギヴァーがたしなめる。

 

「良い人ってのは、本当だよね。

私も担当してくれるなら、トレーナーさんが良いな」

 

「ぐ、グウラちゃんまで!?

た、確かに私も、トレーナーさんが担当してくれたら素敵だなって思ってるけど……」

ビートグウラの言葉に感化されたのか、マシーンギヴァーまでもが僅かに顔を背けながら話す。

 

「決まりの様ね!アナタ!

今から数年後、私達は世界を変える3バになるわ。

その足掛かりに成れる事を光栄に思いなさい」

ディキャンディが腰に手を当て、胸を張る。

 

「そうか」

トレーナーはいつもの様に、静かに返す。

しかし、そのある種冷めた様なリアクションがディキャンディには気に障った様だった。

 

「大体分かったわ。私たちが子どもだからって、ナメてるのね?

なら、考えがあるわ」

ディキャンディがが右腕を恭しく差し出し、トレーナーに向け掌を開く。

 

「ん!」

 

「ん?」

突き出された何もない掌の上を見て、トレーナーが首を捻る。

 

「んー!!」

ディキャンディが更に自らの右手を突き出す。

 

「どういう意味だ?」

 

「名刺を寄越しなさいって意味よ!

社会人のじょーしきでしょ!?」

その場でぴょんぴょんと跳ねる。

 

「お前はまだ、社会人ではない」

 

「五月蝿いわね!さっさと名刺を寄越しなさいよ。

私がここの合格通知貰ったその日にアンタに連絡してあげるから。

そしたら、絶対に忘れないでしょ?」

 

「理解した」

その言葉と共に、内ポケットから名刺入れを取り出し3人に自身の名刺を渡す。

 

「おー、名刺って初めて貰ったかも」

ビートゴウラが目を輝かせる。

 

「わ、私も作った方が良いかな?」

マシーンギヴァーの方は少し困惑している様だった。

 

「フン!これから、嫌でも貰うんだからコレ位、ドーって事無いんだから!」

ディキャンディが貰った名刺に目を投げた時、言葉を失った。

 

牛頭(うしのと) (ともす)

ちょっと、待ってアンタ、もしかして牛頭家の――」

ディキャンディが口を開こうとした時、ピピピと電子音が鳴った。

 

「む、これは」

トレーナーが壁かけ時計を見て、小さく声を漏らす。

 

「ディキャンディ、マシーンギヴァー、ビートグウラ。

お前たちの家は、駅からどの位の時間が掛かる?」

 

「私もギヴァーもグウラも20分も有れば家よ。

本格化してないとは言え、ウマ娘の体力、ナメないでよね」

 

「ならば、帰る準備をしろ。

校門前のバスに乗って、駅までの時間を考えると余裕はあまり無い」

壁掛け時計を指さしながら、3人に話す。

 

「終業時間まで、まだあるでょ?

せっかく来て上げたんだし、もっと面倒みなさいよ」

相も変わらず生意気な態度で、キャンディが話す。

だが、トレーナーは譲らない。

 

「5時のチャイムは家で聞くのが約束だ」

 

「はぁ?5時のチャイムぅ?」

 

「ああ、昔はそんな事も有ったらしいね」

 

「今は、学校でもそんなルール無く成ったんですよ?」

3人が程度の違いはあれど、その言葉を笑う。

その態度は暗に『まだ帰る気は無い』という現れだった。

その事をトレーナーはすぐに理解した。

 

「ならば、仕方ない。家に帰りたくしてやるか」

トレーナーがゆっくりと3人に近づいていく。

 

「な、なによ?私達に何かする気?

未来の担当トレーナーだって、無礼は許さないわよ?」

ディキャンディの横を通り、机の上の対暑グッズに手を伸ばす。

それは一冊の絵本だった。

 

「怖い絵本の朗読を始める」

3人の眼が点に成り、再度大きな声で笑い始めた。

 

 

 

数分後――――

 

 

「うわぁーん!おばけ怖いよぉ……」

 

「やだぁ、連れて行かないで」

 

「なに、よぉ!そんな、子供だまし怖く無いんだから!!」

笑みを浮かべていた3人は皆すっかり、眼に涙を溜めている。

 

「夕暮れ時が近い。バス停まで送ってやる。

今を逃せば、一人で帰る事に成るぞ。

()()()()

最後の部分に皆がビクリと震える。

今は3人、しかし家路につくときはどうしても1人になる。

その様を想像したのだろう。

 

「帰るか?」

 

「うん……帰る……」

差し出された手を3人のウマ娘たちが掴む。

 

 

 

 

 

「疲れた」

子ども達の相手を終え、トレーナーが自身の部屋へと戻ってくる。

無限とも思えるウマ娘3人相手に、彼の体力は限界に近かった。

今スグにでも、横になって眠ってしまいたかった。

だが

 

「タキオン」

 

「トレーナーくーん……」

部屋の前、体操座りをしたタキオンが力なく声を上げる。

 

「暑いだろう、なぜ部屋自分の部屋に行かない?」

疑問を呈するトレーナーにタキオンが抱き着く。

 

「今まで、ごめんよぉ!最近の私は我儘すぎた……

お願いだから、私の事を見捨てないでおくれよ!!」

懇願する様に、トレーナーに頭をこすり付けて希う。

 

「これからは、あまり我儘も言わないから……」

 

「何を言っているんだ?俺はタキオンの専属トレーナーだ。

今回その仕事を一日放棄し、別の仕事をしたのは俺の我儘だ。

お前が謝る必要は無い」

宥める様にトレーナーが頭を撫でようとして止める。

以前、頭を撫でるなと言われた事を思い出したのだろう。

 

「私を見捨てないのかい?」

 

「タキオンが走りたいと願う限り、俺はお前から離れはしない」

何時もの無表情な顔でトレーナーが話す。

その言葉を聴いて、しおれていたタキオンがたちまち回復する。

 

「そ、そうかいそうかい!そうだね!

今思えば、君は私のトレーナーにして、モルモットだったね!!

何故、私が君に遠慮しなくちゃいけないか、不思議な位だったよ!!

さぁ!早速、実験を始めようじゃないか?

君が一日休んだせいで、試したいクスリが幾つか――」

 

「終業時間だ。帰るか」

腕時計の時間を確認するとトレーナーはすっと、踵を返すと来た道を帰り始めた。

 

「ちょ、ちょっと待ちたまえよ!?

実験は!?データは!?モルモット君!!」

 

「今日の俺は、トレセン案内のお兄さんだ。

それに、この後はデジたんと打ち上げの約束がある」

 

「ま、待ちたまえよ!!バ鹿モルモット!!」

 

「すまない、デジたんを待たせる訳にはいかない」

タキオンの言葉空しく、トレーナーはやり切った顔をして背伸びをしながら階段を下りて行く。

 

「今夜は、気分良く眠れそうだ」




生意気メスガキ3人娘に、実馬でのモデルはいません。
別の所から取って来てはいますが、分かったらニヤリとしていてください。
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