うーん、困った……
ザァ……
窓の外は梅雨の様相を示し、じめじめとした湿気と絶え間ない雨、そしてジワジワと染み込んでくる様な不快な暑さが部屋の中を満たしていた。
「…………」
ウマ娘マンハッタンカフェは、一人コーヒーカップを傾ける。
ぬるい。香りが悪い。美味しくない。
いや、そうではない。
「この部屋も、広くなりましたね……」
誰に聞かせるでもない言葉が、雨音の中に消えた。
パサッ
テーブルの上の新聞紙が風も無いのに一人でに捲れた。
『トレセン学園のトレーナーとその担当バ、行方不明』
『現場は海流の流れが速く、生存は絶望的か』
『両名と思わしき遺体発見、DNA鑑定急ぐ』
「…………ズルい人達」
カフェはもう二度と共に走る事の無くなった、知人を偲び新聞を閉じた。
時は5日前に遡る。
『天高く、ウマ肥ゆる秋』という諺がある。
夏の暑さに厳しく鍛えられたウマ娘たちは、秋の大会では大きな戦果を残すという意味。
また或いは暑さに耐え兼ね、サボり体を肥やしてしまうという真逆の意味をも持つ。
その2種は現在では混ざり合い、夏の過ごし方が如何に大切なのかを教える言葉として定着している。
夏の長期休暇は休息などでは無く、如何に自身を追い込めるかの期間でもあるのだ。
「カッフェ!聞いたよ!夏の長期休暇を利用して海外のレースに出場するんだろぉ?」
理科準備室の扉を開けてタキオンが開口一番に話す。
「……そうですが?」
何故知っているのか?と言いたげな表情をしながら渋々と言った様子でカフェが応える。
「いやはや、国内のレースはなるべくデータを取っているが海外のレースとなればまだまだだからね。
いや、しかし、私も長期休暇で時間が有るから、君の活躍をぜひ生で見てみたいと思う訳だよ!
なぁに、気にするな。同期のよしみさ。
応援に駆け付けるなんて当たり前の事だろ?なぁ、トレーナー君」
すぐ後ろに居るトレーナーに対してタキオンが声を投げる。
「今年の夏は、海外で練習をする。
遊びではない」
表情は何時もの無表情のまま。
しかし、その頭にはサングラスをひっかけ、青いアロハシャツを既に着こんでいる。
タキオンが研究する気満々ならば、こちらは遊ぶ気満々だ。
夏休み前のレースに参加したタキオン、当然の様にレースを制しトレーナー共々順調な様だった。
おかしなコンビだがその実力は間違いナシ、まさしく破竹の勢いである。
「全く、君という奴は!
私たちはあくまでカフェの応援に行くんだよ?
そのあまり時間でデータをとったり、息抜きをしたり――」
「来なくて、良いです……」
楽しそうに話すタキオンの言葉をカフェが遮った。
「まったまたぁ!遠慮なんて不要だよ。
もうすでに、海外旅行用のグッズを買いに行った後さ。
しかも、だ。
なんと偶然、くじ引きをしたら物の見事に特賞を引いてしまってねぇ。
いやぁ、温泉旅行なんて興味無いんだが、あーあー、困ったねぇ」
ワザとらしくタキオンが話題を投げてくる。
「そう、ですか」
ワザとらしくカフェが興味無さそうにする。
「ま、温泉旅行のチケットは好きにすれば良いと言って、トレーナー君に渡したが、今も持ってるかい?
カフェに見せてあげなよ」
タキオンがトレーナーを脇でつつく。
「無いぞ」
この時点でタキオンの中には確信染みた、嫌な予感が鎌首をもたげていた。
「トレーナー室にしまったのかい?」
「売った」
「はぁ!?」
トレーナーの言葉にタキオンが素っ頓狂な声を上げる。
「好きにしろと言ったから、売った」
「こ、この……!!この……男は……!!」
いつものが始まった。そう思ったカフェは渋い顔のまま自身の耳を両手で覆った。
ギャンギャンと騒ぐタキオンの声が幾分か、マシになる。
数分後
「――さて、話題が逸れたね。
私とトレーナー君は夏季休暇を利用し、海外でデータの収集をするよ。
君のレースも勿論応援するから、楽しみにしていてくれ」
散々喚いて気が晴れたタキオンが何時もの調子を取り戻す。
何らかの理由でタキオン喚き、しばし無言でそれを眺めていたトレーナーの様をみて、タキオン自身が冷静さを取り戻すというサイクルだ。
故に――
「…………」
タキオンに何を言っても無駄なのだなと、カフェが無言を貫く。
「今の内に航空券を取っておいてくれよ」
「飛行機は落ちそうで怖い」
無表情のままトレーナーが言い放つ。
「あー!もう!君は本当にしょうがないなぁ!
仕方ないから船を使って現地入りしようじゃないか」
「俺の同期の担当バが遠征支援委員会をやっている。
声をかけてみよう」
2人がワチャワチャと騒ぐ。
そして、トレーナーが「パスポートを所持していない」の言葉を吐いた瞬間、タキオンの笑顔が凍りついた。
「マンハッタンカフェ。応援しているぞ」
「ありがとうございます」
軽く言葉を交わし、急かすタキオンの後をトレーナーが遅れて追っていく。
5日後……
ヴォォォぉォ!!
船が蒸気を上げ、海の中を進んでいく。
遠征支援委員会に掛け合い、無事に船のチケットを入手した両名は用意された船の中を過ごしていた。
高速船で、隣国へ向かい、そこから更に船を乗り継ぎを繰り返している。
「…………」
「顔色が悪い様だね」
船のデッキの備え付けられた食事用のスペースで腰かけ、無言で小さく震えるトレーナーの顔をタキオンが覗き込む。
無表情であるが、顔色は青く血の気が引いている様に見える。
「気持ち悪い」
「船は船で、酔うんだね君。
酔い止めを持ってきておいて良かったよ」
タキオンがペットボトルのミネラルウォーターと錠剤のクスリを渡す。
「感謝する」
クスリを水で流し込むと多少気分が良くなった気がする。
「船の旅ってのはもっとロマンチックなモノを想像していたが、部屋は狭いし食事は微妙だねぇ」
テーブルの上の良く分からない魚料理をタキオンがフォークでつつく。
「観光では無く、移動の手段だ。
快適さは優先していない」
そうは言うがやはりトレーナーも不満そうだ。
タキオンとの狭い2人部屋、絶えず揺れる船内、対して美味しくないわりに高い食事、そして時間が掛かる割に娯楽が無く暇を持て余してしまう。
「帰りは飛行機にしないかい?
今日日、落ちたりなんかはしないからさ」
「タキオンがそう言うなら、そうだな」
うんうんと自身を納得させる様にトレーナーが頷く。
その時――
「
一発の乾いた音が聞こえ、周囲に居た客が皆、頭を抱えしゃがみ込む。
「なんだ?」
トレーナーが視線を送ると、船の手すりに梯子が掛かっておりそこから男が身を乗り出してきていた。
手には黒光りする道具が握られ、高く掲げられている。
「頭を下げるんだよ!!」
タキオンがトレーナーの頭を掴み、テーブルの下に押し込んだ。
この状況に混乱していたがようやく、理解を始める。
「海賊か」
「おいおいおい、一体どれだけ不運なんだい?
こんなこと、滅多に無いだろ」
「本物の銃を始めてみた、案外安っぽい音なんだな」
チラリとテーブルの下から男の方を見る。
船の手すりにかけられた梯子からは、2人目、3人目と海賊が上がってくる。
「流石に予想外だねぇ」
突如壊れた日常にタキオンの手が無意識に震える。
「相手の望みは金だ、俺達の命ではない」
「お金の為なら、命だって平然と奪う連中だよ?」
耳がしおれ、尻尾を自身の足に巻き付ける。
何時も自信に満ちたタキオンのそんな姿をトレーナーは初めて目にした。
「タキオン、問題は無い。
間違いない」
タキオンを安心させるように、トレーナーが彼女の両手を握る。
チャキ
小さな音がして、トレーナーが背後を見る。
潮風と垢で顔が真っ黒な、酷く汚れた容姿をした男が銃を2人に突き付けていた。
「手を上げておくぞ」
タキオンを背に隠す様に、トレーナーが両手を上げる。
「!!~~!!~~~~~、~~~~~!!」
「なんと、言ってるんだ?」
恐らくは英語、しかしネイティブな発音と波の音、そして叫ぶような話し方が言葉の理解を妨げていた。
「金目の物と財布をだせって言ってるよう、だね」
背後のタキオンの声を聴き、トレーナーがゆっくりとした動きで自身のズボンから財布を取り出し、足元に投げる。
同じく足元に、タキオンの財布も投げられる。
「~~!」
「腕時計も外せって」
タキオンの通訳に導かれ、トレーナーが自身の左腕の時計を外す。
「~~~?」
海賊がトレーナーが横に置いていたスーツケースに目を向ける。
ナニカを話すが凡そ、コレを開けろと言いたいのだろうと理解する。
「25万もしたスーツケースだぞ」
「ぼられてるじゃないか……」
スーツケースに手を掛ける為しゃがんだ時、海賊がタキオンの姿をようやくはっきりと見る。
頭の上にある耳と、腰の辺りから生える尻尾。
ウマ娘だ。
「!」
トレーナーは一瞬、海賊の顔が引きつったのが分かった。
そして、半場無意識に手にしているスーツケースをタキオンの方に転がしていた。
パァン!チュン!
発砲音、そして何かに当たる音。
「え、え、え?」
理解出来ないと言った表情で、タキオンが茫然とする。
数瞬の後、目の前の海賊が発砲したのだと理解する。
だが、身体の何処の部分にも当たっていない。
僅かに、目の前のスーツケースが揺れるのを見ただけだ。
「流石は25万するだけある、防弾性にしておいて良かった」
トレーナーが自身の足元にある、財布を蹴り飛ばし海賊の手に当て、銃を落とさせる。
「タキオン、ウマ娘の身体能力は海賊にも脅威の様だ。
お前の命、運が良ければ足を狙ってくるのは今ので分かった。
逃げるぞ。このスーツケースは水に浮く、持って海へ飛び降りるぞ」
トレーナーが押し付ける様にスーツケースを渡してくる。
「わ、分かった!」
タキオンは押し付けれたスーツケースを手に、海賊が来たほうと反対の柵に向かって走り出す。
柵に手を伸ばし、背後を振りかえりトレーナーを探す。
「俺はコッチだ!!」
トレーナーは椅子を振り回し、大声を上げていた。
オーバーな動きに、張り裂けんばかりの声。
その様は、他の海賊の視線を集めている様だった。
まるで、
思惑は通じた様だった。
パァン
再度乾いた音がして、トレーナーの胸に小さな穴が開く。
あれほど苛烈に動いていた彼が、途端に動きが鈍る。
ヨタヨタと歩き、柵に体を預けるとそのまま海に落ちた。
「と、トレーナー!?」
その様を見たタキオンが急いで海に飛び込む。
(撃たれた?まさか、そんな、そんな、そんないやだいやだいやだ)
最悪の想像をしながら、船の反対側を目指し泳ぎ始める。
「トレーナー君!!トレーナー君!!返事を!!返事をしておくれよ!!」
何度もやった水泳のトレーニングの何倍も必死になりながら、彼の事を呼ぶ。
「とれ、がぼッ!?がぼ、とれー、ながぼ」
声を上げるたび、海水がタキオンの鼻と口に飛び込んでくる。
息継ぎも呼吸も忘れ、ただひたすらに船の向うに落ちたハズの彼を探す。
だが、いくら体を鍛えたウマ娘であるタキオンにも限界は来る。
何度目かの大きな波がタキオンの体を飲み込み、意識を奪う。
海の深い青の中にタキオンの意識が消えていく。
薄れる意識の向う。誰かがこちらに向かってくるのが分かる。
そういえば、前にもこんな事が有ったな。とタキオンがぼんやりと思う。
「これで良いのか?」
「うむうむ、よくぞ連れてきてくれたね。
流石だよ」
「よせやい、照れるぜ」
なんだか、酷く聞き覚えのある声にタキオンが目を開ける。
そこは海の上では無かった。
「ここは、ドコだい……?」
ただひたすらに真っ白い空間が何処までも広がっていた。
そして目の前には2人分の人影が並んでた。
その姿は非常に良く見知った物だった。
「あ”やべ、起きた」
男が、どうする?と言わんばかりの表情を背後の女性に向ける。
栗毛の髪に2つのウマ耳、白衣の裾を押し上げるのも同じ栗毛の尻尾。
何処か暗い様な、それでいてその奥に確かなナニカが宿る瞳。
対になる2つの瞳が互いを射抜く。
「君は……わ、『私』……かい?」
その姿はタキオンに似ていた。
違いを上げるとしたら、目の前のタキオン(?)は現在のタキオンよりも年を重ねた様に見えた。
「おー、わかーい!肌のハリと艶が違う!」
隣の男がタキオンに寄ると、無遠慮に顔や肌を撫でる。
ぞわっとした感覚が、身体に走る。
「やめないか!!バ鹿モルモット!!
――モルモット?」
反射的に自身の口から出た言葉に、タキオンがハッとする。
「んー?」
眼を細めて見るが、目の前の男。
自身で言ってみれば、自分のトレーナーの様にも見える。
しかし、それにしては若干だが今の姿より若く見える。
それに何より――
「じっくり見るか?惚れちゃったか?はっはっはっは!」
シャツのボタンを外し、ポーズをとる。
「……キャラが違うねぇ」
カラカラと楽しそうに笑うトレーナー(?)に困惑する。
「けど、ごめんなぁ~?俺もうパートナーが居るんだよねー」
トレーナー(?)が背後のタキオン(?)に視線を投げる。
「まさ、か……」
「おうよ、俺達ラブラブカップルだぜ!」
トレーナーによく似た人物が親指を立てて見せる。
タキオン(?)も同調する様に、眼を伏せる。
「こ、恋人!?」
まさかの言葉にタキオンが動揺する。
自分の様な女と自身のトレーナーの様な男が、まさかの関係だと名乗り混乱する。
「わ、わ、私がトレーナー君と付き合うハズ無いねぇ!!
不愛想だし、基本バ鹿だし、空気も読めないし武骨すぎるんだよ!!
あと、年もちょっと離れてる!!」
「あー、そんな事で、悩んでいた時期も有った有った」
タキオン(?)がカラカラと笑って見せる。
「兎に角!!こ、恋人だと証明できない限り、わ、わ、私は信じないねぇ!!」
タキオンがトレーナー(?)に指を突き付ける。
その言葉に、僅かに言葉を詰まらせるのはタキオン(?)だった。
「ふぅン、ずいぶん無理難題を言ってくれるじゃないか?
そんな物を一体どうやって証明する――」
「タキオン」
一声、声をかけトレーナー(?)がタキオン(?)の後頭部の髪の中に手を滑り込ませる。
そして、一瞬視線を交わしタキオン(?)に自身の顔を近づける。
「おいおい、何をするつもりだい?」
タキオン(?)が右手で近づいているトレーナー(?)の顔を押える。
「恋人同士がするキスを見せれば、納得するだろ?」
「はぁ!?」
自身のトレーナーによく似た男から発される、絶対に言わないであろう言葉にタキオンが素っ頓狂な声を上げる。
「こらこら、ダメだろモルモットくーん?
幾ら過去の私とはいえ、彼女はまだ未成年じゃないか。
そんな物を見せる訳にはいかないだろう?」
タキオン(?)がまんざらでもない顔をして否定する。
二人が視線を交わし互いの掌で指を絡み合わせる。
「あ、もう!!いちゃつくんじゃない!!
やっぱりトレーナー君じゃないだろ?!
いや、今更だがトレーナー君にしては若すぎるねぇ!!」
指を突き付けるトレーナー(?)は現在タキオンの知るトレーナーと大差ない。
時が経つどころか、僅かだが若くなっている気さえする。
「ああ、これは……」
「実験の影響で年を取らなくなった……っぽい?」
気まずそうにするタキオン(?)の横で首を捻りながらトレーナー(?)が応える。
「はぁ!?」
「アンチエイジングしてたんだよ!!私が!!
30超えると色々と肌の艶とかが気になりだして……」
口を開けるタキオンと気まずそうに説明するタキオン(?)2人。
「いやー、身体が若いと心も若くなるんだよねー
過去のタキオンはやっぱりスベスベだったぞ?
けど、やっぱり今のお前が俺には一番だ」
はっはっはと軽快にトレーナー(?)が笑う。
「ちょっと、待ってくれよ……
さっきから未来だの過去だの、一体なんの事だい?」
「あー、そうだな……これは夢だ!
死にかけのタキオンが必死になって夢をみてるんだぞ?
俺達はお前の生み出した妄想の産物に過ぎないんだ。
だから気にする事は何一つ無い。
そうだろ?タキオン」
「うん、そうだね」
トレーナー(?)の言葉におざなりにタキオン(?)が答える
その言葉には露骨な誤魔化しが滲んでいた。
「んじゃ、起きる時間だから夢は消えるわ!」
トレーナー(?)が言葉を発すると途端にタキオンの意識が、薄れて行く。
背後でタキオン(?)が何かをスプレーしているがそのせいなのだろか?
「ま――」
タキオンが言葉を紡ごうとした時、その意識は急激に薄れて行った。
ザザ、ザザ、ザザザ……
何処か遠くから、波の様な音が聞こえる。
全身を焼く様な、ヒリヒリとした感覚にタキオンが目を覚ます。
ベタベタとする身体、キツイ潮の香り、未だにガンガンする頭。
それらすべてが不快感を主張している。
それらが意味する事は――
「いき、てる、ようだねぇ……」
波打ち際でタキオンが目を覚ます。
二度と目覚めないとい最悪は回避。
しかし、誰かが助けてくれるという最善も回避してしまった様だ。
「ここは……どこ、だい?」
人の手が入ったと思えない木々、というか人の痕跡自体がない。
「と、トレーナー君は?」
辺りを見回すが、近くに誰かが流れ着いた痕跡は無い。
いや、まだ浜辺の全てを見た訳ではない。
「まだ、海か?」
浜辺を走りトレーナーを探すべきか?
それとも彼はまだ海の上に居るのか?
浜の周りを走って探す?海を泳いで探す?
最早、海の底では?
まさかと思うが、その答えをくれる者は誰も居ない。
有るのは波の音と、葉が揺れる音――
そして
「タキオン。眼が覚めたか」
「と、トレーナー君、生きてたのかい!!」
背後から掛かる声に向き直る。
「電話を借りようとコンビニを探したが、この島には無い様だ。
だが、ココナツは有る。美味いぞ」
手に持っているのはココナッツの実。
どうやったのか、穴をあけ中身を啜っている。
「え?ええ?え?」
トレーナーの言葉にタキオンが耳を立てる。
生きていた衝撃よりも、新たに投げ込まれる情報の多さでタキオンがフリーズする。
「財布も無いし、これでは電子決済も出来ないな」
胸の穴が開いたアロハシャツから、砕けたスマートフォンを取り出して見せる。
「結局、人の気配も無いまま、島を一周回って来てしまった」
トレーナーが指さす先には海岸の砂場から続く足跡。
そしてそれはぐるっと一周回ってトレーナーの背後に続いていた。
「え、じゃあ、ここは――無人島かい?」
「よし、遊びに行くか」
「危機感、危機感を持ってくれよ!!
バ鹿モルモット!!」
ワクワクしているトレーナーを見て見た、タキオンの叫びが島にこだました。
「とりあえず、ココナツを飲め」
元気な様子でトレーナーがココナッツを差し出す。
さっきの妙な夢のせいか、彼の事を変に意識してしまう。
「ココナツは嫌いか?」
「す、好きじゃないねぇ!!君の事なんか、全然好きじゃないねぇ!!」
誤魔化すようにタキオンが叫んだ。
トレーナー(?)のヒミツ
実はもうすぐ60歳でおじいちゃんになる。