万人受けする作品など、書けない。小説家を一時期目指していたからわかる。私には、誰もが見るような作品は書けない。どんなに知恵を絞っても、どんなに場面を細かく描写しても、結局は自己満足でご都合主義にしかならなかったんだ……。
応援してくれた人もいた。でも、それ以上に、批判が私の心を抉った。その傷は思いの外深く、私は創作意欲を喪いつつある。企画していた二次創作も、オリジナル作品も、泡と消え、今ではもう、そのデータさえ見ることもなくなった。
読んでくれていた友人も家族も、私の作品を忘れていき、次第に話にすら出さなくなった。ともに活動していた友人とは、今では連絡すらとっていない。それどころかLINEですら名前を見ない。いや、見ようともしなかった。
万人受けするような作品を作る作家の皆さんや、同じようにサイトで投稿している人の文章は幾度も私を引き付けていく。真似ようにも私とは文面が違いすぎて真似できず、無理に真似ると続かない。…………これをどうしろというのか。
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「はぁ…今日も書けなかったぁ」
ここ数ヶ月、まともに作品の更新をしていない。チラッと書いて終わり、そんな日々だ。毎度、数文字書くか書かないか程度にしかならない。読むことは好きだからかなり読むのだが、書くとなるとあまり…といったところだ。書かないとな、と思いつつも書く内容が出てこない。
ピコン。スマホの通知音がなり、メッセージが表示される。
LINE
来栖
[先生、調子はいかがですか?休載してから久しいので、ご連絡ください]
来栖さんか。私の担当編集者だ。ここ一ヶ月、執筆などロクに出来ていない。連載していた小説も、今や名も聞かなくなった。本屋にも並ばない。誰も読まないからだ。誰も探さないからだ。誰も、見ようともしないからだ。
………私自身も含めて、誰も。
「はやく、なにか書かないと。これ以上は迷惑を掛けられない…」
今書いているのは連載していた異世界物ではなく、学園モノだ。恋愛要素もある、いわゆるラブコメだ。さえない主人公が、美少女と隣の席になったことから物語は始まる。主人公はあまりにも無関心なので、美少女は主人公にちょっかいを掛けていき……といった内容だ。
しかしながら今の所登場人物は主人公と美少女の他は名前のないキャラだ。あっても名字だけで、深く関わることはない。初めて書く、短編ものだ。まだ学生だった頃、ネットで二次創作を読み漁っていたときに思いついたものだ。
今更世に出るかもわからないが、かけるしかない。あとはないのだから。