はあ、はあ、はあ、はぁー。荒い息をなんとか整え、この廃墟に放置されているロッカーの中に隠れる。あれはなんなのか、僕は吐き気を抑えながら先ほど見たあの化け物のことを思い出してみる。
僕がこの廃病院にやって来たのは、まあ肝試しのためである。僕一人だけでっていうのがそこはかとなく寂しさを感じさせるが、僕の通う小学校の男子の中では、最近こういう度胸試しが流行っているのだ。で、僕はこの廃病院に潜ることで度胸を示そうと、意気揚々とここへ突撃してきた。……昼間にだけど。まあここら辺は言わなきゃばれないのでご愛嬌。
それはともかく、最初は良かったんだ。なんだかいろんな落書きが書いてあって、幽霊とかよりもこれらを書いた人に会う方が怖いんじゃないかな、とか、でも幽霊の方がやっぱり怖いんじゃないかな、とかいい感じに、まるで冒険家になった見たいなスリルを味わっていた。それと同時になにか突撃した証拠もって帰らなきゃなあ、なにがいいかなあ、なんかも考えながら、元病室と思われる部屋の扉を開けた。すると、そこにいたのは非常識な化け物。虎の胴体に人の顔、手足は骨みたいなその化け物は、寝息を立てながら眠っていた。
ひっ、と声を出そうとするのを手で口を抑えることによってなんとか飲み込む。そして深呼吸、ひっひっふーだかすぅぅぅはぁぁぁだかやって、なんとか気持ちを少しばかし落ち着かせることができた。
とにかくあの化け物が眠っているのは運がいい。大きな音を立てない様に、速く逃げよう。と、慎重にそろりそろりと歩き去ろうとしたのだけれど、やっぱり冷静では無かったみたいで、なぜか転がっていた空き缶に足をとられて、派手な音をたててすっころんだ。
どんがらがっしゃーん!!って漫画みたいな大きな音を立てて転んだ僕の存在に気付かぬ訳もなく、仮称虎は勢いよく音のした原因、つまり僕を見てきた。
『あ、えさだ』
虎からその見た目に似つかわしく無い高い声が聞こえる。ひぎ、っと悲鳴のなり損ないが漏れ出るとともに、全速力で駆け出した。
『おにごっこ、おにごっこ♪』
後方から虎の楽しげな、歌う様な声が聞こえて来た。そんなこの廃病院に似つかわしく無い間延びした声が恐怖を増長させる。今にも泣いてしまいたいけれど、ここで泣いていたら確実に追いつかれる。僕はただただ前すら碌に見ずひた走った。
そして、今のこの状態である。
『におうよ、におうよ』
————!あの虎が近づいて来ている。なんで、匂いを嗅ぎ分けられるんだよ。顔の部分人間だったくせに!!くそ、僕じゃあ背が低くて、ロッカーのあの穴から外が見えない。これはもう絶体絶命という奴じゃないのか!っと頭の中が真っ白になりかけた、その時。
「とぉぉおおう!!」
ドゴォォォンというなにかが爆発したような、そんな轟音がロッカーの中に潜む僕の耳に乱暴に浸食してきた。あまりに唐突な事だったので無論耳を抑えることなんてできず、あまんじて乱暴な訪問者を受け入れる事になった僕の耳は、一時的にだろうけど機能が低下していた。
……ここで僕はどうするべきなんだろうか。さっきの音を確かめるためにロッカーの戸を開けるか、それとも貝の様にここで引きこもっているか。僕は逡巡迷ったけど、ロッカーの戸を開けることにした。
本当は怖くて、出来る事ならここでずっと籠っていたい位なんだけど、そんなことしてても、最後には虎に捕まっちゃうし、もしかしたらさっきの音に虎もびっくりしていて、逃げ出せる隙があるかもしれない。恐る恐る戸をちょっとだけ開ける。
そこに居たのは紅い闘士だった。
背後しか見えない彼は、全身を紅の衣類で包みこみ、服と同じ様に紅く綺麗な髪を腰の辺りまで伸ばしていた。露出されている腕は逞しく、それがそのまま頼もしさを人々に与えてくれる。そんな人だった。
紅い人は虎に対し指を指し、なにやら言っている様だが、いかんせんこちらは一時的にとは言え耳が聞こえづらい状況にいるのだ。ぼんやりは聞こえはするが、それでもなにか言ってるな、程度しか分からなかった。
突然、紅い人は虎に向かい突き出していた腕を下ろした。そして虚空を掴むと、そこから生み出されたのは安っぽい、縁日とかで見かけるような紅いヒーローのお面だった。けど、あんなヒーローいたかな、これでも結構ヒーローものは見てるんだけど、あれは見た事が無い。……ってそこじゃない!!あの人なにもないとこからお面を持って来たぞ!?どどどどう、どうなってるんだ!本日二度目の非現実だった。もう頭がどうにかなりそうだ。
そんな僕をよそに、なにやら格好付けなのか、腕を大仰に動かしながらお面を顔に装着し、なにやらポーズを決める。耳が問題なく機能していたのなら、かけ声の一つや二つは聞こえていただろう。
……そんな、普段ならダサいとか、ガキっぽ、とかいって吐き捨てるような事を、大マジであの紅い人はやってのけた。やっぱり、僕は恐怖で頭がオカシクなっていたんだろう。僕にはあの男の人が、物凄くカッコいい、本物のヒーローに見えた。背中しか見えないんだけど、その背中が本当に逞しくて、ああヒーローの、皆を背負う背中って、こう言うものを言うんだ、なんて、ぼんやりと考えていた。
その後どんなやり取りがあったかは分からないが、虎が紅い人に向かい、己の骨の様な手を掲げながら躍りかかった。しかし、その掲げた手が届く前に、紅い人の神速の蹴りが虎の側面を打ちつける。本当に速かった。なんとか体勢から蹴ったんだろうな、ってことが想像できるだけで、脚自体は見えなかった。
ここら辺で漸く耳が回復して来た。先ほどまではぼんやりとしか聞こえなかった音が、すこしばかりしっかりとした輪郭を表してくる。
『ひ……いな。べつ……いじ……、こど……ひと……らい。キ……たべて……よ。……しいよ』
「……が、……は食人趣……ない。そ……、命と……つく……で、なんて理……まかり通……う……物では無……だ……。貴……、……すぎた。……悪魔……しみだ。楽に逝……て……」
なんて言っているか途切れとれにしか分からない。これじゃあ味方なのかどうなのかも、判別つかないけれど、それでも不思議と紅い人は味方のような、そんな気がした。
そして両者は再び激突する。虎の体当たりを拳一つで止めて見せた紅い人は、そのまま動きを止めた虎を蹴り飛ばす。虎は壁すら突き抜け吹っ飛んだ。その姿が見えなくなった所で、紅い人は虎が吹っ飛んで行った方向に、右手を突き出した。その右手に紅いオーラみたいなものを纏わす。そして、そのオーラが貯まった所でそいつを虎に向かって放った。
虎の姿が見えないけれど、紅い人がふう、と一息吐いた所を見ると、倒してしまったのだろう。僕は安堵のため息と共に、腰を抜かしてしまった。あ、って言葉もむなしく。
立っていられなかった僕は当然の様にロッカーから飛び出して、べちゃりと地面に倒れ込む。
「いててて……」
「大丈夫かい?」
ああ耳も問題なく働いているな、よかったよかった、と、少しばかりの現実逃避。だって得体のしれない人の前に転がっているんだもの。さっきはあんなヒーローみたいなんて思ったりもしたけれど、得体が知れないことには変わりなく、彼の存在はグレーゾーンにあるのだから。とりあえず、心配そうな声音で声をかけてくれたのだから、有効的ではあるのだろうと一縷の望みにかけて、できるだけ親しげな声で返事をする。
「……だ、大丈夫です」
声を震わせない様にするだけで精一杯だった。
「そっか、それならよかった。とにかく、こんなとこに居たら危ないぞ。速く帰りなさい」
変わらず優しげな声音で語りかけてくる紅い人の顔を見る。いつの間にかお面を脱いでいて、彼の素顔を晒していた。彼の顔はまあ、美形さんだった。ハリウッド映画とか、そんなもので主役をやっていそうな位に。精悍でありながらも優しさも感じさせる、そんな顔立ちだった。おもわずぽけーと眺めてしまう。そんな僕に困った笑い顔を紅い人は浮かべる。
「……どうしたんだい?やっぱり怪我でもしたのか?だったら遠慮はいらないぞ」
紅い人は僕の頭をぽんぽんと叩きながら言う。うう、さっきまで疑っていた自分に対しての罪悪感がすごいことになっている。暫く笑っていた男の人だが、突然眉根を寄せ難しそうな顔をする。もも、もしかして僕の心を読まれたとか!あり得ない話じゃなく感じるから怖い。
「……キミ、少し頼まれてくれないかな」
「は、はひ!?なななな、なんでもどうぞ!」
声が上ずる。失礼な事を考えていた事がわかったから、とんでもない事を要求されたりするのだろうか。さっきまで優しかったこの人がそこまでするとは思わないけど、それでもいやな考えが止まらない。
「なに、そんな緊張しなくてもいいよ。ただちょっと、キミが思う一番強い人の物まねをしてくれるだけでいいんだ。あ、アニメキャラクターでもいいんだよ。頼めるかな」
「そそれくらいなら」
彼の口から出て来たお願いは、呆気ないほどに簡単な事だった。いやものすごく恥ずかしいけれど、恥ずかしいだけだし。命の恩人がなぜこんな意味不明のお願いをするのか疑問符だらけだけど、少しでも恩を返せるなら幾らでもやらせていただく。で、強いと思う人か。そんなもの決まっている。
「それじゃあ、目を閉じてくれ。それから、強く心の中で、その人が一番強く、格好良く見える姿を想像するんだ。いいね?よし、やってごらん」
一番カッコいい姿か。僕はさっき見た腕の動きをまねする。左手は腰だめに、右手は高く上げる。そしてゆっくり顔の辺りまで下ろす。この時にお面を装着していたみたいだけど、今はお面を持っていないので割愛。そこから右手も腰の位置までまで持って行き、その後顔の前でクロス。そして、
「変身!!」
自然とこの言葉が出て来た。はは、と目の前に居るであろう紅い人が少し笑った。……やっぱり目の前で本人のモノマネは止めた方が良かったかな。でも今の僕には、この姿が一番強くてカッコいいものの象徴だったんだからしょうがない。
「よーし、じゃあ目をゆっくり上げるんだ。……オレの魔力をこの空間に満たした。読みが正しければ」
促されるままに、ゆっくりと目を開ける。
「へ、えええええええええええええ!?」
すると、カッと僕の右手が光り出したのだ。なんだこれ!爆発したりしないよね!?光輝く右腕をぶんぶん振り回しながら、光が止まらない!なんて怖がっていたら、今度はその光がだんだん形を成して行った。そして現れたのは。
「これ、あ、赤いえ、えと、こて、っていうん、だっけ?」
すごくカッコいいなこれ!僕は不安がっていた心から一点、あらわれた右手のものを眺める。今の僕は多分目をきらめかしていることだろう。
「やっぱりか……まさかとは思ったんだが」
「あ、あのこれなんですか?」
なんだか頭を抱えだした紅い人に、右手のものを顔の前に持っていきながら尋ねる。
「それは神器セイクリッド・ギア、『龍の手トゥワイスクリティカル』って代物でね。まあちょっとした特別なものだ。……しっかし、龍の手とは言っても神器には変わりないからなぁ」
「せ、せい?とわ、なに?」
紅い人は難しい顔でぶつぶつ呟いている。うー、これになにか問題あるのかな。そしてこれかっこいいと言っても、いつまでこれ出ているんだろう。さすがにこのままじゃあ困るんだけど……。
「……見殺しにするのは忍びないし、でも、なあ。む!そうだ!」
ちょっと困り顔で右手をじっと見つめていた僕の横で、なにか良い考えでも思いついたのか、紅い人がぽんと手を叩き、少し大きい声を上げる。
「キミ、オレの弟子にならないか?」
「へ?…………へ?」
ちょっとなにを言っているのか、僕には分からなかった。
これが悪魔の名門 グレモリー家の次兄、ジンハイト・グレモリーと 、ただの一般人である所の僕、厚句正志の出会いであり、僕の今後の 人生を決めた、運命の出会いである。
俺tueeeeee!!もハーレムもありませんが、好き勝手やっちゃう作品です。
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