TSクズ娘は百人の男を誑かしたい 作:げれげれ
「本当に買ってくれるの!? ねーちゃん」
「今日だけじゃ、特別じゃ」
「よっしゃあああ!」
週末、日曜日。
影山さんという霊能力者と出会った、次の日。
私は妹を連れて、町の商店街に繰り出していた。
「ありがと! 新しいライダー仮面カード、欲しかったんだ!」
「ま、たまにはええじゃろ」
霊能力者と聞くと、やはり嘘臭い印象を持つ。
私も最初は『霊能詐欺』ではないかと怪しんでいたが、その人の話を聞けばかなり信用のおける感じで。
教祖であるイタコさんも、恐らく本物の霊能力者じゃった。
『ウチの霊能グッズ、よければ買っていってくだサーイ。開運のお守りに破魔矢など、色々ありマース』
『そんなのもあるのか』
『一応、ちゃんと祈祷して私の加護を授けてあるアイテムデース。お値段はお得に、今ならサンキュッパ!』
『貴女がそう言うからには本物なんだろうけど、客観的に見たら死ぬほど胡散臭いなぁ』
『アマネが、こういうグッズで稼ぐべきだと小学校の頃に助言してくれマシタ』
『あー……』
私とマス子は、そこで除霊によるアマネの人格共生矯正を試みたが、失敗に終わってしまい。
『うーん、私は買ってみようかの。効き目を試してみたい』
『私はパス、流石に四千円は手が出ないなぁ』
『ワッツ? 何を言っているデース』
その日は結局、イタコさん手作りのお守りを購入するだけにとどまった。
『ソレ、398円デース』
『わぁ、お手頃価格』
『金運のお守りを買えば、大体元は取れマース』
『……じゃ、試しに買ってみるか』
聞けば、このお守りはそれなりに霊験のある代物だとかで、よほどの事がないと効果を発揮してくれるのじゃとか。
ただし、使いすぎると揺り戻しがあるので、月に1度程度に留めて置いた方がいいらしい。
『この金運のお守りは損無いヨ。値段以上のご利益は、約束しマース』
『話だけ聞くと、本当に詐欺の手口にしか聞こえない』
『嘘じゃないデース……』
私もマス子も本物の霊能力者だと思ったので、勧められた御守りを買ってみた。
するとマス子は帰り道、道端で高価っぽい財布の忘れ物を拾って。
それを交番に届けたら、交番で財布の持ち主ばったり出くわし、謝礼としてその場で数千円渡されたそうだ。
『……本物だよこの御守り。絶対、来月も買おう』
『そうじゃな』
あの人も、アマネなんかのアドバイスを聞いていなければ、もう少し胡散臭くない霊能力者になっとったのだろうか。
因みに。
『このお守りは、使い捨てデース。一度効果を発揮したら、後はただのアクセサリーになりマース』
『ほう』
『そして、買ってから3日以内が消費期限デース。それまでに、何かしら行動を起こしまショー』
彼女が言うには、お守りを買ったからにはそれなりにアクションを起こさないといけんらしい。
例えば恋愛成就のお守りを買った後、消費期限である3日間、家に引きこもって何もせずいたら意味がないそうじゃ。
恋愛成就のお守りを買った後、意中の相手をデートに誘うとか行動を起こすと、その成功率を上げる効果があるらしい。
「にしてもねーちゃん、何ソワソワしてんだ?」
「べ、別に何もソワソワしとらんが。周囲を警戒してるだけじゃ」
つまりこっそり「良縁」のお守りを買った私は、意識して外を出歩かないと、良い出会いに恵まれない訳で。
だから私は、暇そうにしていた妹を『何かを買ってあげる』と誘って、商店街に遊びに出たのじゃった。
「まー最近、物騒な事件が多いからなぁ。ねーちゃんの友達も巻き込まれたんだっけ?」
「おお、そうじゃ。私は直接関わっとらんが」
「怖いよなぁ。ま、悪い奴が出てきたらオレのキックでぶっ飛ばしてやる」
妹は天真爛漫な笑顔で、トテトテ走り回っている。
彼女────根岸リンは、内気な自分と違ってスポーツ少女だった。タイプとしたら、マス子に近いかもしれない。
クラスでも中心人物で、人気があり、サッカークラブでレギュラーを張っとるという。
そんな妹の高い運動能力やコミニュケーション能力が、少し妬ましかったりする。
「だから安心して、ねーちゃんはナンパしてこい」
「は? な、ナン……っ!?」
「昨日から大事に、教祖様ん所で買ったお守り握りしめてるの知ってるから。上手く行きそうなら空気を呼んで、一人で帰ってやるさ」
ケラケラ、と妹は生意気に笑った。
まだ小学生だというのに、妹は随分とマセていた。
「違うわい、今日は何となく出歩きたくなっただけで!」
「はいはい、その代わりちゃんとカード買ってくれよな。クラスの男子に自慢するんだから」
「本当にお前は……!」
全部お見通しですよ、といった表情で姉に微笑む妹。
私はそんな
「確かに買うてみたが、まぁお試し半分じゃ。別にそこまで、出会いに飢えとるわけじゃない。その気になれば、マス子が紹介してくれるというとるしな」
「じゃあ紹介して貰いなよ」
「そういうのは、まぁ、恋人がほしくなってからでいいじゃろ」
事実、私は恋に飢えているわけじゃない。
良縁のお守りを買ってみたのも、どんなものか試してみたかっただけじゃ。
もし本当に良い縁なら、入れ込んでみてもいいかもと思ってはいるが。
「ねーちゃん、結構ドリーマーだからなぁ。ドラマみたいな劇的な出会いに夢見すぎなんだよ」
「どういう意味じゃ」
「普通に紹介してもらって、適当に彼氏作ってさ。恋したいなら良縁のお守り買う前に、そっちが先じゃない?」
「じゃから、あれは試しで買うただけ。そこまで本気じゃないんじゃって」
良縁のお守りは、別に恋愛に限定されない。
新しい知り合いが増えるかもしれない、そんな程度の軽い気持ちで買ってみた。
「でもねーちゃん、もし本当に劇的な運命の出会いとかあればどーするの?」
「そりゃ……まぁ」
それに、ドラマみたいな劇的な出会いに夢を見て、何が悪い。
確かにそんなの非現実的だし、滅多にない。
だからこそ、感情も盛り上がるんじゃないか。
「こりゃねーちゃん、一生独身かな」
「勝手なことを言うな。カード買ってやらんぞ」
「ゲッ。嘘嘘、いざとなったらオレが適当なの見繕ってやるから」
「妹に男を紹介されるほど落ちぶれておらんわ!」
そもそもリンも彼氏いないじゃろうが。
そう、私が突っ込もうとした時。
「やめてくれ! いかないでくれえええ!!」
突然、物凄い野太い男の泣き声が、路上に木霊した。
「えっ?」
「何だ今の」
その方向をつられて見ると、
「水蓮! 俺は、本気で君の事が!」
「ふふ、さっきも言ったでしょう。全部全部、嘘だったって」
それはまさに劇的で、ドラマみたいな展開が現実に繰り広げられている最中だった。
「私は、組織の人間なの。貴方に近づいたのも、告白したのも、全て演技だったワケ」
「知ってるさ。知ってたさ。でも、もうあの組織はなくなったじゃないか!」
「そうね。セイ、貴方の功績でね」
そのドラマの男の方に、私は見覚えがあった。
彼はつい最近、友人たちと共に出かけた餃子店のバイトさんで。
「だからもう、私に演技する理由はなくなったの。私はただの、貴方を騙して利用しようとしたクズ女よ」
「う、嘘だ。水蓮、君は」
「話はもうこれで終わり。まだ何か文句があるなら、殴り掛かってきたら? 貴方の殴打なら、甘んじて受け入れるつもりだから」
「君を、傷つけられるはずがないじゃないか……」
「でしょうね。貴方って、優しいもの」
アマネやマス子を救った命の恩人であり、かつ物凄い頻度で重大犯罪に巻き込まれ続けているという何かに呪われた男。
宮司間清太、その人であった。
「それじゃあバイバイ、セイ。もう会うことはないでしょう」
「ああ、やめてくれ、行かないでくれ」
「最後に。……今まで、ごめんなさい」
セイさんの手を振り払うと、水蓮と呼ばれた長髪の女は悲しげな顔で、
「貴方とのデートが、楽しかったのは本当よ。でも、私には貴方の隣に立つ資格がないの」
そういって、立ち去ったのであった。
「えぇ……?」
……明らかに空気感が違った。
こっちは妹とまったり休日お出かけをしているのに、セイさん達は映画のラストシーンばりの空気感を道端で形成していた。
「ねーちゃん、あれ何かの撮影?」
「にしてはカメラがないのう」
私以外にも、めっちゃたくさんの人がヒソヒソ言いながら彼らを見つめていた。
あんな寸劇を、路上で大真面目に繰り広げられたらそうなるわ。
「うおおお、うぐおおおぉ!」
セイさんは、地面に突っ伏したまま大泣きしている。
あの感じを見るに、多分ご本人たちは大まじめにやってたのじゃろう。
さっきまでのトレンディドラマを。
「……いざドラマみたいな展開を目の前にすると、思ったより引くなぁ。目を合わさず立ち去ろうぜ、ねーちゃん」
「のう、リン。すまんけどあの男の方、一応知り合いなんじゃ。声かけてきてもいいかのう」
「すげぇよねーちゃん。あんな、路上で大泣きする男に話しかける勇気があるなんて」
「私も、正直戸惑っとるけど。一応、友人の命の恩人なんじゃ」
まあ本音を言えば、私も関わりとうない。
しかし、彼は私の親友────マス子(と、ついでにアマネ)の命の恩人である。
そんな人物が、路上で大声をあげて泣いていたからには放っておくわけにもいかん。
「義理は立てにゃ、それがウチの家訓じゃき」
「……あー。そッスね」
私は、重たい足をなんとかセイさんの方へ向け、ゆっくりと歩き出した。
「セイさん、セイさん。大丈夫ですかの」
「ああ、申し訳ない。みっともない所、見せちまったな」
路上で突っ伏していたセイさんは、私の顔を見ると何とか平静を取り戻そうとした。
しかしまだ眉はヒクヒクしてるし、鼻水もタラタラ垂れ流しており、どう見てもカラ元気である。
「えっと、君は、うちのお客様だっけ……?」
「まぁ何じゃ。これ、使ってください」
「お、おお。申し訳ない……」
「返さんでええけえ」
私はポケットに入れていた安物のハンカチを手渡して、顔を拭くように促した。
友達の命に比べれば安いモノじゃ。
「げ、元気出せよにーちゃん」
「私で良ければ話くらい聞きますけえ。あんな天下の往来で大号泣するのはやめときましょう……」
「うぅ……、面目ない。面目ないけど……うぅぅぅぅ。水蓮……っ!!」
ダメだこりゃ。
手渡したハンカチを握りしめたまま、再び呻き声をあげたセイさんを前に私はため息を吐いた。
「つまり、あの女性はセイさんから情報を抜くために恋人の振りをしとった訳やね」
「そんなことには気づいてたさ……」
号泣する大の男を放っておくわけにもいかん。
私は妹を連れて適当なファミレスへ入り、セイさんを慰めつつ話を聞くことにした。
「彼女は、水蓮はとある闇企業に雇われたエージェントだったんだ」
「その時点で色々突っ込みたいが、まあ話を続けて」
「俺は過去にその企業と敵対し、いくつもの拠点を潰していた。目の上のたん瘤だったんだろうな。だから企業は彼女を送り込んで、俺を暗殺しようとしたんだ」
「もう突っ込み切れんから話を続けて」
やっぱり話の規模が、一介の女子高生の手に届くスケールじゃない。
「俺だって馬鹿じゃない。最初から彼女の正体には気付いていたが、思惑に乗ったふりして利用し、逆に企業を潰すつもりだった」
「セイさんは流石じゃのう(思考放棄)」
「でも、いつの間にか情が沸いちまってた。本気で、アイツの事が好きになってたんだ」
これがありふれた失恋話なら、適当に相槌をうって慰めておけば済む話なのに。
セイさんの深刻な口調といい、話の規模と言い、どう返せばいいのか全く分からん。
「しかも彼女の過去を洗っていくうちに、知ってしまったんだ。アイツも、企業の被害者だった」
「……」
「それで。途中からアイツを救いたい、その一心で企業と戦って……、やっとあの連中に引導を渡した、のに!」
「あそこで、フラれたんじゃの」
「うぐぉおおお、うおおおおおおん!!」
この人、マジでドラマの世界に生きとらん?
そんな劇的なイベント、私の人生で一度も起こった事ないが。
「ま、まあゆっくり泣いていいけえ。ここは私が奢っちゃるから」
「い、いや。年下の女の子に、奢られるわけには……」
「大事な友達の命の借りじゃ。ま、随分と辛い思いをしたようじゃのう」
よしよし、と自分より年上の男性の頭を撫でてやる。
最初はセイさんもギョっとしていたが、やがて観念したのか大人しく撫でられるようになった。
「よしよし、じゃ」
「情けねぇ……。でも、ありがてぇ、癒される……」
「ねーちゃんが男を手玉に取ってる姿とか初めて見た」
妹が何か言ってるが、ぶっちゃけ今、セイさんを男と思って接しとらん。
手のかかる子供を相手するテンションで、接している。
「女なんて幾らでもいるけえ、な。また新たな恋を探せばいいんじゃ」
「でも、俺なんか……。いつもフラれるし。今まで付き合っても、一か月もった事ないし」
「おー、それは……。そりゃあ、ちょっと何かセイさんにも問題があるかもしれんのう」
いつも1ヶ月もたないなら、多分セイさんにも何か問題がありそうだ。
この人は、凄い修羅場をいくつも乗り越えてきた凄い人なんだろうけど、女性関係はまだまだらしい。
「なあにーちゃん、過去のフラれた理由話してみてよ。それ聞けたら、何かアドバイスできるかもしれないぜ!」
「こら、小学生になんのアドバイスが出来るんじゃ。すまんのうセイさん、妹が」
「い、いや。うん、俺のつまんねー話でよければ話すよ」
まだ鼻声のままではあるが、セイさんは少し顔色が良くなった。
失恋は、泣いて乗り切るもの。
これも、また必要な儀式なのじゃろう。私に恋愛経験はないから、分からんけど。
「俺が今まで、フラれた際に言われた台詞は……」
「貴方と付き合っていたら命が幾つ有っても足りない」(24歳OL)
「劇場版ヒロインのノリで、次から次へと新しい女を落とすな」(20歳女子大生)
「彼がグッとガッツポーズしたら、広域暴力団が解散した」(26歳、婦警)
「彼とのデートは大体凶悪犯と戦う羽目になるので、防弾チョッキが必須」(18歳アルバイト)
「王子様補正か無くなって冷静になったら、言うほど格好良くなかった」(21歳フリーター)
「経済力が無さすぎて、結婚を考えるとキツイ」(28歳無職)
「……って感じで、よくフラれる」
「やっぱお祓いに行くのが一番ええんじゃないかのう」
セイさんのフラれる要因は、ほとんどが自身の謎の巻き込まれ体質によるものだった。
一生に一度くらいなら劇的なドラマ展開を味わってみたい気はするが、恋人になって日常的に暴露されるとしんどいのだろう。
「腕の良い霊能力者、知っとるよ。紹介しようか?」
「いや、結構。実は過去に、お祓いしろって霊能力者の前に連れていかれた事があるんだけどなー。全く効かなかったよ」
「そ、そうなんけ。いえ、信じられんかもしれないが、私が紹介するのは恐らく本物の霊能力者で……」
セイさんは、霊能力者と聞いて怪訝な顔をした。まあ、それが普通の反応かもしれない。
霊能力者といえば、ほとんどがインチキ詐欺師だろうから。
しかし本物のイタコである影山さんなら、何かしら出来そうな気がする。
「別に、霊能力者が全部いんちきとは思ってないさ。本物の霊能力も見たことあるよ」
「そうなんか?」
「半年前、平安時代に封印された鬼が復活しそうになるという騒動に巻き込まれてな……。ちなみにその騒動は、エセ外人っぽいアルビノの巫女さんと一緒に駆けまわって、何とか鬼の復活は阻止した」
「紹介しようと思った人が、話に出てきた……」
この人の密着取材するだけで、何本もノンフィクション映画撮れるんじゃないか。
「その娘に祓ってもらったんだが、何やら神クラスの力が働いてるとか何とかで。無理デースって謝られた」
「そ、それは御愁傷様じゃ……」
「その娘が今、日本最強の対魔師らしい。彼女で無理なら、他の霊能力者でも無理だってさ」
「そんな、凄い霊能力者じゃったのか教祖様……」
確かに教祖様の御守り、凄まじい効果だったが。
……これも、御守りの力なのかのう。
良縁。思い描いていた出会いとは異なったが、これも1つの良縁なのかもしれない。
「つまりにーちゃんは、一生フラれ虫なのな……」
「ううううぅぅぅ……」
「こら、リン! あーもう、よしよし。私でよければ愚痴聞くけぇ、泣き止んでください」
セイさんという人物は、決して悪い人ではないだろう。
色々と要領は悪いし、呪われてるってレベルで運が悪いけど、性根は真っ直ぐな良い人だ。
この人と親交を深めておけば、もし何か事件に巻き込まれたときに助けてもらえるかもしれない。
「しょーがないな。よし、ねーちゃんが付き合ってあげなよ!」
「え。あっと、それはじゃな。ちっと歳の差、とかで難しいかのう? 別にセイさんが駄目とかじゃなくて、私の体力的な問題で、な」
「変に遠回しに言わないで良いから。その優しさが辛いから」
「えっと、セイさんは悪い人じゃないんよ。ただ、その星の巡りはちょっと一般人には荷が重くてのう」
「その言葉死ぬほど聞いた! フラレるときにいつも言われた! うおおおおん!」
「お、おーよしよし! セイさんは悪くないけぇ、そう言うのなければ喜んで付き合いたいけぇ!」
「……本当?」
「……あっと、その。ほ、本当じゃよ?」
正直、セイさんは好みの異性ではない。
どちらかと言えばひょうきんな顔つきで、少し優男で威厳に乏しい。
私の好みは武骨で筋骨粒々な日本男児である。
が、それを突き付けてやるほど私は残酷ではない。
そもそも泣きべそ掻いて凹んでいる男を、異性として認識するのは難しいのもある。
「危険を省みず、見知らぬ他人のために助けに入る事が出来るのは立派じゃ。貴方のそういう部分はとても好ましいし、尊敬しておる」
「あ、ありがとう」
「女にフラれるくらいなんじゃ、その程度の苦難は全国のそこら中で色んな人が乗り越えておる。セイさん、貴方が今までに乗り越えてきた苦難はもっと凄まじかったじゃろう」
「まあ、それなりに……」
ちょうど、隣にいる妹が泣いているのを慰める感じで、私はセイさんに声をかけ頭を撫でてみた。
リンが小さなころは、こうやってよく頭を撫でてやったもの。懐かしいのう。
「セイさんは偉い子じゃ。それは、セイさんの活躍を聞いた私が良く知っとる」
「う、うぅ……」
「ほら、また鼻水が出てきとるよ。拭いたげるから、こっち向き」
「ああ何だこれ。なんで年下の娘に、こんなに癒されてんだ俺……」
「セイさんはもう大きくなっちゃったからのう。こうやって、誰かに甘えることが出来んかったんじゃろ」
どうやら効果は有るらしく、彼は私のされるがままになっている。
この人には、私の友人を助けたもらった恩がある。少しでも力になれるなら、こうして甘やかしてやろう。
実を言うと、目の前で呆れた顔をしている妹含め、周囲から生暖かい視線を感じ顔から火が出るほど恥ずかしいが。
「ほれ、よしよし……」
大人の男の人だって、たまには休息も必要だろうから。
しかし、彼女は致命的な事実に気づかなかった。
「……あの女」
「え、え? ネギネギが、何で?」
そう。
彼女が青年を連れて入ったファミレスの外を、たまたま親友二人が通りかかってしまっていて。
そして、今まさに半ば『抱き合うに近い形で、セイの頭を撫でている瞬間』を目撃されてしまった事に。
「ほう、年下属性を生かしたバブみオギャりですか……。たいしたものですね」
「え、そんなこと私一言も聞いてないぞ。ネギネギも、そうだったのか? じゃあ、一言くらい……」
「バブみは年上の女性の特権と思われがちですが、ネギネギの様な一見小学生に見える貧相娘がやることにより背徳感と安心感が高まり、愛用する変態紳士も多いと聞きます」
普段なら
この日、この事情に関しては少女の方も冷静さを失ってしまっていた。
「待て、この場合、私はどうしたら……」
「本物のロリであるネギ妹も添えてバランスが良い。一人抜け駆けしてセイさんを落としにいく手管といい、超人的な卑しさとしか言いようがありません」
片や、光のない瞳を見開いて窓ガラス外から凝視するクズ。
片や、顔面を蒼白にして苦しそうに胸を押さえる少女。
「よし……、と。殺りますか」
「う、うう。ネギネギ……」
深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている。
セイと関わった時点で、彼女もまたドラマみたいなドロドロ展開に巻き込まれることを予見するべき立ったのかもしれない。
かくして、二人のしっと仮面がファミレスのドアを開いたことに、まだ彼女は気付けなかった。