TSクズ娘は百人の男を誑かしたい   作:げれげれ

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8話「あ~~困ります、あ~~~~~」

 彼の話は、アマネから何度も聞かされていた。

 

 殺人鬼に襲われて絶体絶命の窮地、あわや殺されるという場面で玄関を蹴り破って助けに来てくれた王子様。

 

 格闘技の経験なんて無いと言っていた割に、セイさんの殺人犯を制圧する動きはプロのそれ。

 

 出前用の箱とお盆を鮮やかに利用して、見事に男の握っていた凶器(ノコギリ)を弾き飛ばしたのだとか。

 

 

 その口から語られた話は、多分に妄想が入っていそうで。

 

 危ないところを助けられたという乙女フィルターが見せた、誇張も入っているのだろうと思っていた。

 

 

「ハアあああああぁっ!!」

 

 

 突然にセイさんは屈んだ姿勢をとり、大声で咆哮した。

 

 その声量に思わず、ビクっと私は硬直した。

 

 後ろにいた私ですら、驚いたのだ。いきなりそんな怒声を向けられたケイリーは、もっと驚いただろう。

 

「まずは、その手の!」

「Shit!?」

 

 そのせいで、ケイリーの反応が遅れた。

 

 その隙を逃さず、セイさんはいつの間にか取り出したレンゲを、振りぬくようにケイリーに投擲していた。

 

 

「ヤベーもん渡してもらおうかっ!!」

 

 突然に顔面にモノが飛んで来たら、人間はどんな反応を示すだろうか。

 

 そう、とっさに両手をクロスして顔を守ろうとする。

 

 ほとんどの人間は何も考えず、反射的にそうしてしまう。

 

 それが、致命的な隙だった。

 

 

 銃を持った相手を、素手で取り押さえねばならない時のセオリーとなる方法。それは、不意を突いての顔面への投擲だ。

 

 何故なら、敵が顔を庇ってくれると、銃口が明後日な方向を向いた状態で自分に差し出される形になるからだ。

 

「ハイ没収!」

 

 かくして差し出されたケイリーの手銃(ハンドガン)は、すかさずセイさんの手で叩き落とされてしまう。

 

 大事な銃を失って、ケイリーは混乱の極致に叩き落され、

 

What the devil happend(何が起きた)!?」

「こう見えてもそれなりに修羅場を潜っててな」

 

 既に死角に入り込んでいたセイさんからの肘鉄を食らい、一撃でアスファルトに沈んでいった。

 

 

「こないだ出会った特殊部隊のねーちゃんから、暴徒鎮圧の基礎講習受けてきたんだわ」

 

 

 

 

 

 そこからのセイさんの活躍は、まさに鎧袖一触だった。

 

 彼は早送りのような速度でケイリーの仲間に突撃し、舞うように仕留めていった。

 

 迎撃しようとしたケイリーの仲間を、頭突き、回し蹴り、膝打ち、肘鉄とテンポ良く迎撃していく。

 

 まるで特殊な引力に吸い込まれているように、チンピラどもはセイさんの一撃を食らい気絶していった。

 

 

「……と、こんなもんか」

 

 

 こうして、彼が到着してものの数分で、ケイリー達は完全に伸されてしまった。

 

 ああ、今ならアマネの言っていたセイさんの活躍が誇張でも何でもなかったとわかる。

 

 私はその、まるでアクション映画の主人公のような凄まじい活躍ぶりをみて、唖然とため息を吐くことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、警察と救急車呼んどいたぞ。これでもう安心だ」

「あ、ありがとうございます」

 

 セイさんが周囲を制圧したあと。

 

 彼に声を掛けられて我に返った私は、慌てて路上に倒れているアマネの下へと駆け寄った。

 

「お、おい大丈夫かアマネ」

「……うーん。私はただ……転売で、皆に笑顔を……」

「大丈夫っぽいな」

 

 アマネはどうやら、脳震盪か何かで目を回しているだけの様子だ。

 

 彼女は最低な寝言を呟きながら、すぅすぅと静かな寝息を立てていた。

 

「さてと、次は君の止血だな。ほら、包帯巻いてやるからこっち来てくれ」

「う、すみません。お手数かけます」

 

 セイさんは当たり前のように、出前用の箱から救急道具一式を取り出した。

 

 包帯を手に取り、慣れた手つきで私の腕を処置していく。

 

 ……何で出前に行くのに、救急箱持ち歩いてんだろうこの人。

 

「俺は医学は素人だから、病院で巻き直してもらってくれ。応急処置だけだ」

「わかりました」

「これでよし。後は、そっちの気絶した娘だな」

 

 しかし助けてもらった手前、そんな無粋なツッコミが出来るはずもなく。

 

 私はニコリと笑みを作って、お礼を述べるに留まった。

 

「うわ、斬ったのか。女の子の顔に酷いことしやがる。ちょっと待ってな……、見ろ! これがキズパ●ーパッド絆創膏だ!」

「お、おお?」

「このキズ●ワーパッド絆創膏はすごいぜ。普通の絆創膏より割高なのが玉に瑕だが、保湿作用もばっちりで耐水性も高く、さらに綺麗な切創ならほとんど傷跡を残さず治すことができるんだ。皮膚との一体感もよく、まるでケガをしてるのを忘れてしまうよう完璧なフィット感!」

「……」

「幸いにもジャンボタイプで、完全に傷が覆えるな。よしよし、これできっと綺麗に治るぞぉ!」

 

 そのキズパワー●ッドへの信頼感は何なんだ。

 

「にしても、災難だなこの娘。こんな短期間に2度もでかい事件に巻き込まれるとは」

「そ、そうッスね」

「まったく、いつから日本はこんなに治安が悪くなったんだ? この娘は一度お祓いに行った方がいいな」

 

 いや、治安が悪いのは貴方の周りだけです。

 

 そしてお祓いに行くべきは、間違いなく貴方です。

 

「ま、君もツイてなかったにしろ。どういう経緯かは知らんが、若い女の子がこんな路地裏に入っちゃいかんよ」

「は、はい。気を付けます」

「この娘にも、言っといてあげてくれ。君はとにかく、えっと、アマネちゃんだっけ? この娘、びっくりするほど無防備だから」

「……。いえ、ソイツは、私が危ないのを見て首を突っ込んできてくれたという感じです」

 

 私の答えに、セイさんは意外そうに眼を細めた。

 

「そうなのか? へぇ、友達想いの良い娘なんだな」

「はい、部分的にそうです」

「部分的?」

 

 アマネが“友達想い”まではギリギリ認めるけど、良い娘かと言われたら断固として否定する。

 

「そこの銃持った男が日本に来て、大暴れしたのは……私への恨みが原因なんです。だから、悪いのは全て私で」

「ふぅん? 君が、人から恨まれるような人間には見えないがなぁ。逆恨みか何かだろ?」

「……そんなこと、ないですよ。私は、私だって最低な人間で、殺されても文句なんか言えない」

 

 私は吐き出すように、そんな言葉を零してしまった。

 

 その言葉を聞いたセイさんは、ピクリと耳を動かした。

 

「そいつは、聞き捨てならねぇな。この世に殺されてもいい人間なんて、存在しない」

「……」

「どんなクズでも、腐ったヤツでも。産んでくれた親が居て、大事な家族が居る筈さ」

 

 セイさんは、真っすぐな目でそういった。

 

 どんなクズにも親が居る。家族が居る。

 

「一度失われた命ってのは、どうあがいても取り返しがつかねぇんだ」

 

 私が、怒りのままにブチ殺してしまったケイリーの兄。

 

 彼にも、彼を大切に思っていた親が居て、慕っていた家族(ケイリー)が居た。

 

「だから、人間は生きることを諦めちゃダメなんだ。ガキみてぇな綺麗ごと言ってる自覚はあるが、それでも……人の命ってのは、そんなに安いもんじゃない」

「……そうですよ、ね」

「だから、えっと、増田さんだっけか? だからよ、そう簡単に殺されても仕方ないなんて言っちゃいかん」

「じゃあ、どうすればいいんでしょうか」

 

 彼の、言っている通りだ。人の命は、決して軽いものなんかじゃない。

 

 自分本位な、怒りに任せて殺していい人なんていない。

 

 その、重くて大切でかけがえのないものを、私は奪ってしまった。

 

「私は、罪を犯したんです。その、何より大切な、奪っちゃいけないものを奪ってしまったんです!」

「……」

「でも、裁かれなかった。裁いてもらえなかった、その時は捕まるのが怖くて、それで」

 

 ケイリーの兄の命奪った私は、この国まで逃げ出して。

 

 家族を奪われたケイリーは、自分の破滅をも覚悟の上で、私に復讐しに来た。

 

「だから私は、殺されて裁かれないと、いけなかったのかもしれなくて」

「落ち着け、落ち着きなよ嬢ちゃん」

「本当は私が悪くて、それなのにケイリーの復讐にこの国でできた友達まで巻き込んじゃって。いろんな人に迷惑かけて、私は、私は」

「良いから、良いから。一回深呼吸しろ」

 

 何が言いたいのかもまとまらない。

 

 私は、私の事情でアマネを命の危機に曝した。

 

 彼女の配下? の不良さんにも、たくさんケガをさせてしまった。

 

「セイさん、私、私……」

「ま、事情は察したよ。そっか、割と重いもん背負ってんのね君」

 

 今からでも全てブチまけて、楽になりたい。アメリカに戻って自首して、殺人犯として捕まって法に裁いてもらいたい。

 

 でも、それは出来ない。私のために嘘の証言をしてくれた、友人を裏切ることになる。

 

 彼らまで、偽証罪で逮捕に巻き込んでしまう。

 

 だから、私はこの罪を告白して、裁いてもらうわけにはいかない。

 

「それで、殺されるくらいしか、もう」

「だからさっきも言ったろ。殺されていい命なんかねーっての」

 

 いつの間にか泣きじゃくっていた私の髪を、セイさんはクシャクシャと撫でてくれた。

 

 涙がポロポロと頬を伝い、血と混じって地面に零れ落ちた。

 

「でも、確かにそれはアンタの罪だ」

「……」

「そう簡単に裁かれて楽になっちゃイカン。そりゃあ、お前さんが背負い続けていくしかない」

 

 セイさんの言葉は厳しかったが、声色は優しかった。

 

 私は何も言えず、彼の言葉に聞き入るのみだった。

 

「楽をしちゃいかん、嬢ちゃん。殺されて楽になるなんて、もっての外だぜ」

「セイ、さん」

「アンタが殺されたら、今度はアンタを大切に思っている誰かが復讐心に駆られるだけだ。例えば、君の手の中で眠っているお友達とかさ」

 

 言う程アマネは、真面目に復讐してくれるだろうか。

 

「実は俺にも、スネにでかい傷があるんよ。思い出すたびにゲロ吐きそうになるくらいの、重い重い『罪』を背負って生きてる」

 

 セイさんは酷く悲しく、寂しそうな顔でそんな告白をした。

 

 私の窮地を救ってくれたヒーローが、そんな事を言い出したのが意外で仕方なかった。

 

「だからな。俺ぁ、困ってる誰かには絶対に手を差し伸べるって決めてんだ」

「……え?」

「取り返しのつかねぇ罪を、贖う方法はない。だから、俺の目の前で困ってる誰かに手を差し伸べることで、気を紛らわせてるんだ」

 

 私は、そう言ったセイさんの顔を見上げた。

 

 セイさんは悲しいような、困ったような、そんな不思議な表情をしていた。

 

「きっと誰かの役に立つことをし続けていれば、神様も見ていてくれるだろう」

「それ、で?」

「俺の目玉は2つしかない。これでも、手の届く範囲の人には精一杯手を差し出してるつもりだが、まだまだ世の中には困ってる人間であふれてる」

「そりゃあ、そう、でしょうけど」

「そんな目玉が4つになったら、より世界は良くなると思わねぇか? どうだ、嬢ちゃん」

 

 そこまで言い終わると、セイさんはエヘンと咳払いをして、

 

「それが、俺が俺自身に課した罰だ。誰にも裁いてもらえないなら、自分でやるしかないだろう。自分で自分を裁くんだ」

「あ、う」

「殺されていい、なんて楽な方に逃げるな。苦しんで、あがいて、背負った罪を贖うんだ」

 

 説教臭いことを語ったのを恥じるように、そっぽを向いてしまった。

 

「いつか、自分で自分を許せる日が来る。そんなあり得ない妄想を信じてな」

 

 

 

 その、セイさんの言葉は。

 

 どこか私の深い所に、ストンと落ちてくれたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、またセイさんに命を救われてしまいました……。こ、これはもう、責任取って結納するしかないんでしょうか……?」

「落ち着けクズ」

 

 しばらくすると、アマネが目を覚まして奇声(意味の分からない言葉のこと)を発し始めた。

 

 警察が既に到着していて、セイさんが事情を説明してくれている光景を見て、自分が気絶中に何が起きたかを察したらしい。

 

「目を覚ましてから開口一番、どうしたよ」

「だって世界中の男性の憧れでありアイドルである私はみんなの共通財産です。しかし、ここまで一人の男性から恩を受けてしまったのなら、観念してセイさんと結納してやるのもやぶさかでは無くもない様な」

「上から目線過ぎて、失礼過ぎる」

 

 やはりアマネの思考回路は、理解できない。

 

 自分がモテない事、こないだ自覚してなかったかお前。

 

「おお、目が覚めたかアマネちゃん」

「ひゃ、ひゃいっ!」

「どうだ、頬痛くないか? またこんな事件に巻き込まれて怖かったろ」

「え、えっとええ、はい! そんな、でもセイさんと会えて、えへへ」

 

 そして、とうのセイさんから声を掛けられると、アマネは顔を真っ赤にしてはにかんだ。

 

 どうした、超上から目線で求婚するんじゃなかったのか。

 

「……セイさん。この度は本当にありがとうございました」

「お、良いよそんな畏まらなくても」

「貴方のお陰で、こうして無事に生き延びれました。また、皆でお礼に行かせていただきます」

 

 これ以上アマネが変な事を言う前に、真面目にお礼を言っておく。

 

 奇跡的に、まだアマネはセイさんの前でボロを出していないのだ。

 

 今回助けに来てくれたお礼がてら、少しでも彼女の恋路の助けになる様に動いてやろう。

 

「ほら、アマネ。このまま私達は病院行くぞ」

「え、あ、でもまだセイさんとお話が」

「お前も頭殴られて気絶したわけで、病院で精査してもらわねーと。また、ゆっくり時間をかけてお礼言おうな」

 

 私が指さした先では、パトカーと一緒に到着した救急車の人が、私とアマネを手招きしている。

 

 これ以上、彼等を待たせるのは忍びない。

 

「あ、ありがとうございましたセイさん! 私もまたお礼行きますね!」

「おう、お大事になアマネちゃん」

「えへ、えへへ。じゃあ行ってきまーす」

「怪我人にしては元気だな、この娘」

 

 比較的軽症なアマネはそのままスタスタ歩いて救急車に乗って行った。

 

 あの様子では、きっと怪我は大したことないだろう。

 

「ああ、君はまだ腕から出血してるな。あんまり動かない方がいい、そのままじっとしていなさい」

「はい」

 

 そして、腕がそれなりに重傷な私は、あまり動かさず担架で運ばれることになった。

 

 救急隊の人が、エッホエッホと担架を担いで持って来てくれることになった。

 

「……あ、そうだ。セイさん、その、少しお願いが」

「ん、どうした」

 

 その、僅かな間。

 

 私はほんの少しだけ、勇気を出してみた。

 

「その。お礼に行くにしろ、セイさんのシフトとか聞きたいので、連絡先の交換をしていただけませんか?」

「ああ、良いよ。また、是非食いに来てくれ。店長も喜ぶ」

 

 そして私が差し出したスマートフォンは、セイさんのと短い通信を行い。

 

「気楽に連絡してくれ。くだらない用事でも、大歓迎だ」

 

 私の連絡先に『宮司間清太』の名前が加わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~~~~~~」

 

 さて、どうするべきだろう。

 

「大丈夫ですか、腕が傷むんですか」

「そうじゃないです、大丈夫です……。あ~~~~~~!」

「いかんな、レート(心拍数のこと)が上がってきている。早く病院に行って鎮痛してあげないと」

 

 私は、一体どうするべきだろう。

 

 やっと彼の前から離れることが出来て、私は必死で取り繕っていた平静が崩れてしまった。

 

「あ~~~~~~。もう、くそ、最悪だ」

 

 タイミングが悪すぎる。だって私はアマネから、恩を受けた直後で。

 

 セイさんを好きになったのはアマネが先だし、私はしっかりそれに気付いているし。

 

 だから、

 

「今モーションかけたら、それこそ裏切りじゃんかよぉ……」

 

 増田モンゴメリー、17歳。

 

 私の久しぶりの────、いや人生初めての『本気の恋』は、友人の想い人への横恋慕でした。

 

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