TSクズ娘は百人の男を誑かしたい 作:げれげれ
「そう。シャーマンとは、あの世とこの世を結ぶ者」
「何を言い出しとるんじゃ母様」
その日。少女は思い出した。
自分の母親の、お花畑過ぎる脳内を。
どう考えても騙されているとしか思えないような話に、全力で乗っかってしまう母の愚かしさを。
「シャーマンというのは太古より霊能力を用いて、人々の暮らしに寄り添い悩みを解決してきた由緒ある職業なの」
「母様、一旦落ち着くんじゃ。この世に霊能力なんて、存在せんから」
「そんなことは無いわ。私は、この目で見たんだもの! 本物の霊能力を!」
宗教。それは、誰しもが抱えている心の闇の隙間にスルリと入り込み、その人間の財産を食い潰す代わりに『救済』する悪魔のシステム。
そして意外な事に、高収入や高学歴な家庭であれば逆にハマりやすいとも言われる。
例えばそれは、少女の実家のような『医者の家系』であったとしても。
「貴方も一度、教祖様の話を聞きに行きなさい。そしたら、きっと目が覚める筈よ」
「目を覚ますのは母様の方じゃ」
「リンも集会に顔を出して、楽しかったと言ってくれたわ。次は貴方の番よ」
「小学生を宗教の集会に連れて行ったんけぇ!?」
既に少女の小学生の妹は、無邪気な笑みを浮かべて『陰陽道』と書かれた怪しいTシャツを着て遊んでいる。
恐らく妹は、まだ宗教とかがよく分かってないのだろう。
だが、このまま洗脳されたらドップリ宗教に嵌ってしまうかもしれない。
「や、やめるんじゃ。リンの成長に悪影響じゃ、そんな怪しい集会に行っちゃいかん」
「駄目よ、よく知らずに否定なんかしちゃ」
「どう聞いても怪しいじゃろう!」
「だから、そんなんじゃないってば。本当に怪しいかどうか、一度その目で確かめに行けばいいじゃない」
母は、もう手遅れだった。
自分が怪しい宗教に嵌りかかっていることに、全く気が付いていない。
「私が偽物の、詐欺師なんかに騙される訳ないじゃない。あの方は『本物』よ」
「……と、父様は何と言うとる?」
「お金を浪費しないなら好きにせえって」
「駄目じゃ、頼りにならん」
少女は母に手渡されたパンフレットを見る。
そこには、明らかに目がイってる連中が満面の笑みを浮かべ、教祖様らしき女性を胴上げしている写真が掲載されていた。
「じゃあ、今週末に一緒に集会に行きましょうね」
「……」
「ああ、週末が楽しみだわ。ねぇ、リン」
「おー!」
自分の家庭が崩壊してしまう、と。
「その、昼飯時にスマン。実は、相談したい事があるんじゃ……」
「どうしたネギネギ。私で良ければ話聞くぜ」
皆様、どうもこんにちは。私の名前は
ただでさえ私は尋常じゃなく可愛いのに、こんな素敵なヒロイン属性まで付いてしまって、どこまで人気が高まるのか想像もつかないのが最近の悩みです。
「うむ。いや、怪我して大変な時期のマス子に相談するのは気が引けるんじゃが、本当にスマンのう」
「良いって、気にすんな。むしろ、怪我のせいで部活出来ないから丁度いい」
つい先日、私とマス子はアメリカンギャングに絡まれて重傷を負いました。
なので私は、この1か月で2度も殺人(未遂)事件の被害者になってしまった訳です。まさに世界のヒロインと言えなくもないですね。
「もちろん、ネギネギの悩みなら喜んで力になりますよ。何せ、取りっぱぐれがない」
「ううむ。コイツに頼んで本当に良いのか謎じゃが……、確かめたい事もあるし」
そんなスーパーヒロインアマネちゃんに、ネギネギはどうやら相談したい事があるようです。
悩みがあるATMなんて珍しいですね。
「のう、アマネよ」
「何ですか」
「最近、宗教団体とか立ち上げておらんよな?」
「げっ。なんでネギネギがその計画を知って……」
……。
「痛い、痛い、痛いです! 何で、どうして、私が何かしましたか!?」
「なぁネギネギ、このままコイツの腕をへし折れば良いのか?」
「うーん、どうせなら苦しめながらゆっくり折ってやりたいのう」
「何でェー!? 今回は本当に、何で怒られているのか分からないんですケド!?」
私の壮大な資金計画の一つ、宗教団体で頭の弱い老人や主婦共から金を巻き上げるプランが明るみになった瞬間。
豹変したマス子とネギネギは、即座に私を拘束しました。
「いますぐその宗教団体を解散させぇ。私の家庭の、崩壊の危機なんじゃ」
「え、何ですか、聞こえない、痛たたたたたた!!」
「私はセイさんの言う通り、少しずつ人の為になる事をしていこう。まずはこの社会のクズの粛清だな」
「やめてください! 折れる、腕が折れて何かが出てしまいます! アマネちゃんの口から、アマネちゃん汁とも言うべき神聖な液体がリバースしてしまいます!」
意味が分かりません。どうして私がこんな目に。
社会的弱者を騙して金を巻き上げる事の、何が悪いというのでしょうか。
「分かった、分かりました、ならその計画は凍結します! 諦めます、宗教団体を立ち上げません!」
「よし。これで、悩みは解決かネギネギ」
「その通りじゃ。助かった、ありがとうマス子」
「気にすんな、良いって事よ」
「ふぇぇえええん、酷いです……」
人の夢を否定するなんて、この二人は鬼です。
これは、所謂イジメという奴でしょうか。この学校にはイジメが存在していたのですね。
今度からボイスレコーダーを持ち歩きましょう。そして、いざという時は法廷で突き出してやるのです。
「ちゃんと、今の集会も解散するんじゃぞ。一週間以内じゃ」
「え、何をです?」
「だから、今お前が運営しとる詐欺団体をじゃな。うちの母親が騙されて、引っかかっとるんじゃ」
「……? いえ、私の『宗教団体立ち上げ』はまだ計画段階なので、何も運営なんてしていませんよ?」
「へ?」
その言葉に、ネギネギは意表を突かれた顔になりました。
そうです、今の計画はネギネギから多額の資金提供を受けることが出来た際に実行に移す予定だったモノです。
中華料理店に通う金すらない今の私に、そんな大掛かりな組織を運営できるはずないでしょう。
「もしかして。ネギネギ、貴女何か勘違いして私の腕を折りにかかりませんでしたか?」
「そ、それは、その」
「酷いです! 勘違いで暴力をふるうなんて許せません! 慰謝料を要求します、精神的苦痛を受けました、法廷で合いましょう! それが嫌なら示談金を」
「あう、あう、すまん、私は、」
ネギネギは焦った顔で、あたふたと言い訳を始めました。
クケケケケケ。よくもやってくれましたねぇネギネギ、しっかりこの代償はお金で支払っていただきますよ。
そして、受け取った慰謝料を資金源にして、今度こそ宗教団体を……
「落ち着けネギネギ。このゴミが詐欺団体立ち上げようとしたことは事実だから、お前が謝る必要は一切ない」
「それもそうじゃな」
「何ですと!?」
謝罪と誠意ある賠償を要求すべくネギネギに詰め寄った私は、速攻でマス子に関節を極められたのでした。
ぐすん、酷すぎます。
「……そうですか、成程。つまり、私以外にも宗教団体で詐欺を行おうとしているグループが居た訳ですね」
「そう言う事になるのう」
私の冤罪が晴れたので、ネギネギはポツポツと今の自分の家庭状況について語り始めました。
聞けばどうやら、ネギネギの母親は怪しい宗教にド嵌りしてしまっていて、妹(リンちゃんと言うらしい)も巻き込まれて怪しい集会に通わされているそうです。
確かに、それは由々しき事態です。
「どうか助けてくれ2人とも! 私は、どうしたら良いか」
「酷ぇ事しやがる。人の心の弱みに付け込んで金を毟るとは……、許せん!」
「まったくです、私の狩場でなんてことを。貴重なカモを先に食いつぶすなんて許せません!」
「今、私の大事な家族の事をカモって言うた?」
つまり将来的に私の財産となるべき資金が、謎の宗教団体に接収されているという事。
そんな外道を許すわけにはいきません。ネギネギは大事な私の
「任せてくださいネギネギ、そういう分野なら私の得意とする所です。ネギネギの母を嵌めた詐欺団体を、逆に詐欺って破滅に追いやればいいのですね?」
「違う。うちの母親の目を覚まさせてくれりゃあそれでええ」
「そして、その詐欺団体を嵌める為の資金はネギネギが負担してくれると。そう言っている訳ですね?」
「どんどん都合のよい方向に解釈していくな」
これは燃えてきましたよ。本格的な詐欺行為を働くのは、生まれて初めてです。
うまくやれば、その宗教団体から大量の資金を調達できます。そして上手く騙し取れれば、その宗教団体を丸ごと乗っ取ることも不可能ではありません。
もしバレてしまっても、2人も
「余計なことはせんでくれ、ただアマネ達にはその宗教団体の嘘を暴いてほしいだけじゃ」
「嘘、ですか」
「蛇の道は蛇という。アマネならば、その宗教団体が信者を増やしとる手口が分かるかなと思うて相談しただけじゃ」
「えー。その宗教団体ぶっ潰した方が話が早くないですか」
「この愚かモン、ああいう組織は大体ヤクザが絡んどるじゃろうが。そういう怖い人たちを敵に回しとうない、ただ母様の目を覚ましてくれればそれでええんじゃ」
最近お前も、ガラの悪い連中に襲われて怖い思いをしたじゃろう。
ネギネギはそう言って、不安そうに頭を下げました。
「正直、そういう分野でアマネは頼りになると思うとる。謝礼も用意するけぇ、力を貸してくれ」
「むぅ。ヤクザなんて怖くありませんが、依頼主がそう言うならソレで勘弁してやりますか。私だって反社会的な連中を束ねてるんですけどねぇ」
「本当にこの女の力を借りてよかったんじゃろうか……」
まぁ、大した後ろ盾もないネギネギがヤクザさんを怖がるのも仕方ありません。
ここは彼女の言う通り宗教団体の闇を暴いて、ネギネギの母親の目を覚ますだけにしておきましょう。
「ちなみに謝礼は期待していいんですよね?」
「……成功報酬じゃ、出来高じゃ。この私の名誉に誓って、きちんと成果を出したなら相応に礼をする」
「クケケケケケケ。では、貴女のご要望に沿って最高の結果を見せて差し上げますよ、ネギネギ」
「あー、大丈夫かなコイツ」
これでも私は、いつかは宗教団体を開設しようと色々調べていたのです。
宗教団体の手口や手法は、ある程度想像がつきます。
「ではまず、その団体の集会とやらに私も連れて行ってください。信者であるネギネギの母親からの紹介なら、疑われることなく入れてくれるでしょう」
「む。分かった、母様に掛け合ってみる」
「ふぅん、なら私もついてくよ。腕を怪我してるが、用心棒にはなるだろう」
「ありがとう、マス子」
こうして私達3人組は、ネギネギの親が騙されているという宗教団体の集会にお邪魔することになりました。
「潜入出来た際に、色々と仕掛けたいですねぇ。連中の拠点に、最低でも盗聴器や隠しカメラを仕込まないと」
「……」
「というわけでネギネギ、資金プリーズ。そういうのも経費ですよね」
「いやそれ、盗撮じゃろ」
「こっそり撮られても、気づかれなけりゃ被害はないんですよ。隠し撮りされる方が悪いんです、一周して合法です」
「お前それ、江良先輩の前で同じセリフ吐けんの?」
何を言いますか。詐欺集団が、人前で怪しい行動をとるわけないでしょう。
ああいう連中は集会が終わった後の会場とか、人目に付かないところで怪しいことをし始めるものです。
「別に犯罪的な映像を取ろうっていうんじゃないです。むしろ逆で、その宗教団体の詐欺の証拠を撮りたいだけです」
「む……」
「探偵だって、浮気調査相手を隠し撮りするでしょう。そういうのと一緒ですよ」
「まあ、そうか。そうなのか……?」
私の戯言にネギネギは戸惑いながらも、
「……。いや、母様の目を覚ますにはそれくらいせんといかんのかもしれんな。頼んだぞ、アマネ」
「へっへっへ、毎度あり。給料分の仕事はしますぜ、ネギネギ」
最終的には納得して、私にそれなりの資金を融通してくれることになったのでした。
「おお、そうじゃ。備品購入の際は領収書を忘れずにな」
「あ、その辺キッチリやるんですね」
「当り前じゃ、そうせんと絶対抜くじゃろお前」
そして存外に、ネギネギは抜け目がありませんでした。
ち、安いカメラを買ってちょろまかすつもりだったのに。
「おお、こんにちは! お姉さん達が、ねーちゃんの友達ですか!」
「お、元気な子だな」
そして週末。
私は予定通りマス子と共に根岸邸にお邪魔することになりました。
「オレは根岸リンです、お姉さんこんにちは! 小学校5年生です!」
「貴女が噂のネギネギ妹ですか。初めまして、私はアマネと言います」
「……わ! すっごく奇麗な人」
「そうです、私は綺麗な人です」
小学生であるネギ妹は、私の顔を見るなり褒め称えました。
礼儀のなった、良い子のようですね。
「おう、来たか二人とも。じゃあ、母親に引き合わせるけぇこっち来てくれ」
「あら、おはようございますネギネギ」
「それとリン。そのお姉ちゃんは確かに見た目は良いが、死ぬほど心が汚いから近寄っちゃいかんぞ」
「ええ? そんなこと言っちゃ、失礼だよねーちゃん」
ネギ妹に続いて、本体であるネギネギも玄関から顔を見せました。
いつも通りの地味な私服姿です。
「ふふーん、そうです。私は見た目が良いんですよ」
「大丈夫じゃリン。不思議なことにこの女、自分への悪口は一切耳を通らんのじゃ」
「アマネは人の事は煽り散らかす癖に、自分はいくら煽られてもノーダメージ。無敵の煽りカスと言えるな」
「そうです、私は無敵なんです。へっへーん」
「何この人、怖い」
なんか今日は妙に褒められますね。日頃の行いが良いからでしょうか。
「あら、いらっしゃい」
そして、そんなこんなでいつも通りに騒いでいると。
最後に、
「いつも幸乃(ネギネギの本名)がお世話になっています」
「おお。本日はお招きありがとうございます、ネギネギのお母さん」
今回のコトの元凶にして、ネギネギ曰く脳みそお花畑の人。
「いえいえ。若いのに、集会に興味があるなんて感心な子ですね」
「そうなんです、私は不思議パワーとかに目がないんです。まさか身近に、そんな素敵な集会があったなんて私は幸せ者です!」
「まあ、教祖様も喜ぶと思います」
ネギネギの母親が、おっとりとした笑みを浮かべて私たちを出迎えてくれました。
「それでな、教祖様は何でも見破っちゃうんだ。トランプの柄とかだけじゃなく、失くしたものの場所を当ててくれたり、運命の相手に出会わせてくれたり! 凄いんだぜ」
「おうおう、そうなのか」
そして私たちは挨拶を済ませた後、ネギネギの母親に運転してもらって集会場へと連れて行ってもらう事になりました。
「そうなの。アマネちゃんは信心深いんですね」
「教祖様に、お会いできるのが楽しみで仕方ありません」
その移動の車の中で、私たちはネギ妹から、その教祖様とやらがどんな人物かを聞くことができました。
話をまとめると、
「教祖様はイタコと呼ばれる霊能力者で、人の運命を見通す力がある。守護霊ってのと会話してその人の運命を予測し、助言をくれるんだ」
「イタコっていや、恐山とかで修行してるっていう?」
「そうそう! 教祖様も恐山で修行した本物のイタコで、その力でオレ達にアドバイスしてくれるんだ」
「へぇー」
という事らしいです。
教祖様は比較的若い女性で、なんなら私たちと同年代なのだとか。
ふむ、なかなかにやるようですね。私たちの歳で宗教組織を牛耳っているとか、それなりの傑物であるといえましょう。
お飾りかもしれませんが。
「……イタコかぁ。死んだ人と話ができるってヤツだよな。よくもそんな胡散臭い人に騙されるもんだ」
ウキウキで集会に向かっているネギネギ妹と母に聞こえないよう、マス子がこっそり耳打ちしてきました。
まあ、胡散臭いのは同意ですね。
「でも私が宗教詐欺を行う際に演じるなら、イタコは筆頭候補になりますよ。何せ、簡単ですから」
「そうなのか?」
「サクラを用意しとけば好き放題出来ますし、コールドリーディングと言われる手法を用いれば霊能力まがいの事ができます。話を聞いただけで、それなりに手口は読めてきました」
「おお、本当かの」
そう、イタコほど簡単に出来る霊能力も珍しいのです。
そしておそらく今回のケースでは、
「相談者の守護霊に語り掛ける、って動作がキモですね。おそらく守護霊に語り掛けるふりをして、相談者本人の反応を見てるんでしょう」
「ほう?」
「おそらく。相談者が悩んでいる部分を当て勘で幾つか守護霊に問う形で口に出して、反応を見てるのでしょう。そして相談者が動揺したのを感じ取れれば、深く掘り下げていけば良いんです」
人間の悩みなんて、そんなに種類は多くないです。
対人関係や仕事のストレス、誰にも言えない隠し事がある、自分の容姿や能力に自信がない、この辺を適当にローテーションすれば8割がた当たるでしょう。
「私も軽く練習したことありますし、多分出来ますよ」
「ふーむ。ではそれをどうやって証明するかの」
「ま、それは実際の教祖様とやらの動きを見てからですね。実は、他にもイカサマ仕掛けてるかもしれませんし」
「ほうじゃのう」
これで、敵の戦略は目星がつきました。
あとは、それを実戦で見抜いて証拠として突きつけるだけです。
「ほんに、アマネはこういう分野で頼りになるのう」
「末は詐欺師か、留置所かだな」
「がっはっは、まあ大船に乗った気持ちでいなさい」
さて、今回の依頼人はネギネギ。そりゃあもう、バラ色の報酬が期待できます。
ここは一丁、完ぺきな仕事で大金を毟って差し上げますか。
「ここが集会場よ。じゃあ受付して、3人のご新規さんが来てることを伝えてくるわ」
「よろしくお願いします、ネギネギのお母さん」
連れてこられた先は、何処にでもありそうなオフィスビルでした。
周囲に神社みたいな宗教的な建物は、目に入りません。
しかしビルの中の『回帰懺悔教』と札された部屋に入ると、そこには小さな祭壇やら社やらが所狭しと並んでいました。
うわぁ、怪しすぎます。
「ご新規さんは、教祖様とお話しする機会が与えられるの。失礼がないようにね」
「了解でーす」
おお、それはありがたい。いきなり、敵の親玉と話をする機会が貰えるとは。
どんな手練手管を使ってくるのか、見せていただきましょう。
「最初は幸乃からよ。教祖様、ずっと貴女と話をするのを楽しみにしてらっしゃったんだから」
「う、私からか。いや、分かったわ」
しかも個人面談みたいな形の様ですね。
おそらく、詐欺の手口は客観的に見るとボロが出やすいからでしょう。
タイマンで面談することで雰囲気を作り、コールドリーディング等の違和感を感じにくく出来るのです。
「ネギネギ。先ほど車の中でした話は覚えていますね?」
「あ、ああ」
私は然り気無く、ネギネギに耳打ちしました。
「ではお願いがあります。先に教祖とやらの手口を偵察して、私に怪しいところを教えてください。上手くいけば、今日証拠を掴めるかもしれませんので」
「おお、了解じゃ」
いくら相手のコールドリーディングが上手かろうと、詐欺師と分かっていれば話は別。
しかも先ほど、ネギネギとマス子には基本的な詐欺の手口を教えておきました。
なので、ここはネギネギには斥候を勤めてもらいましょう。
「ただし、教祖様の言葉や行動の違和感に気付いても、今日はスルーして乗っかってください。今後、何度かここに通う予定ですので」
「そうなのか?」
「ええ、最低でも今日仕掛けたカメラの回収の日が必要です。なので、今は教祖様を信用した振りをして欲しいんです」
「よし、あい分かった。うまいことやって見せようかの」
そこまで言うとネギネギは意気揚々、母親に連れられ教祖部屋とか言う怪しい場所に入っていきました。
さて、監視の目が無くなった今のうちにカメラを設置しときましょう。
「カメラ設置と通信確認で、私はもう少し時間がかかります。なので次はマス子に行って貰いますよ、心の準備をしておいてくださいね」
「ああ。なんかワクワクするな、こう言うの。スパイみたいで」
「詐欺の手口を暴く、正義のスパイです。一丁、気合い入れてやりましょう」
何やらマス子は、少し楽しそうな顔になっていました。
彼女は少し、
マス子は成績優秀で観察力があり、ネギネギも地頭は良いので、私抜きでもそれなりに手口を看破してくれるかもしれません。
さて、敵はどう出るでしょうか? 私抜きで、解決出来たら楽なのですが……。
────そんな私の甘い考えは、すぐに吹き飛ぶことになりました。
「おお、二人とも。ただいま戻った」
「おかえりなさい、ネギネギ」
その日。私達は思い出した。
「面談、終わったぞ」
「お疲れさまでした」
自分の友人の、お花畑過ぎる脳内を。
「どうだ、何か分かったか?」
「いや、それがじゃな二人とも」
どう考えても騙されているとしか思えないような話に、
「どうやら教祖様は本物みたいじゃった」
「……」
「……」
全力で乗っかってしまうネギネギの愚かしさを。
「いや、本当に霊能力というのはあるんじゃな。私も初めて見てビックリしたわ」
「いえ、あの」
「お前たちも教祖様に早く会ってみるとええ。常識が覆されるぞ」
「えっと、ネギネギ?」
そう言ったネギネギの目はぐるぐる回転しています。洗脳完了、と言った感じです。
すっかり忘れていました。
ネギネギは地頭は良いですが、こういう詐欺などに非常に騙されやすいアレな性格をしているのでした。
「マス子、どうしますコレ」
「……はぁ。よし、友達として、とっとと目を覚ましてやろう。ネギネギは純粋すぎるんだよなぁ、誰かと違って」
「そうですね。……ん? 誰かって?」
ネギネギが、一人で集会に連れていかれる前に私を頼ってくれて助かりました。
まさか秒で騙されるとは。もし私たちに悩みを打ち明けてくれなかったら、この一家は本気で破滅してました。
「次は私が、とりあえず偵察してくるよ。本命はお前だから、詳しいことは任せるぞ」
「はい。頼むので貴女まで騙されないでくださいよ」
「はっはっは、私が霊能力詐欺なんかにひっかかる訳ないだろう」
マス子は自信満々に、面談室へ入っていきます。
何か、そこはかとなく不安です。彼女は成績自体は良いのですが、短絡的でスポーツ馬鹿の一面もあります。
ネギネギよりかは騙されにくいかもしれませんが……
「教祖様は、すごく神秘的な人じゃった。私しか知らんはずの事も言い当ててきよるし、私の悩みも全部理解してくれたし、間違いなく本物の霊能力者じゃ」
「あーはいはい」
大丈夫ですよね? マス子まで信者入りしたら、流石に面倒くさくなって逃げ出しますよ私は。
数分後。
「……戻ってきたぞ」
「おかえりマス子」
マス子は、死ぬほど疲れた顔で部屋から出てきました。
一体、何があったのでしょうか。
「あれ何だ? 本当に霊能力なのか? トリックとかそんなちゃちなモンじゃねぇぞ」
「そらそうじゃ、あの方は本物の霊能力者じゃ」
「……貴女もですか、マス子」
どうやらマス子も、騙されかかっている様子です。顔面を蒼白にして、憔悴すらしていました。
あのマス子をここまで追い詰めるとは。かなりのやり手みたいですね、ここの教祖様とやらは。
「カセットの声なのか? でも、確かにアイツの声だったし」
「落ち着いてください、何があったのですかマス子」
「死んだはずの、友人の声が聞こえた。私と奴しか知らない、秘密の合言葉も知ってた」
マス子に話を聞くと、どうやら教祖様はイタコの名に違わず『死者と話をさせてあげる』と言われたそうで。
それならと彼女はアメリカで失った親友の名前を出してみたら、本当に会話ができたそうです。
「あれは、アイツの声なのか? 本当に、アイツの声を聴くことができたのか……?」
「騙されてはいけませんよ、マス子。やれやれ、仕方ありませんね」
ま、どんな手を使ったかは知りませんが死者と生者が会話できることなんてありえません。
おそらくは、前もって何かしらの音源を用意していたのでしょう。手段はいくらでもあります。
「でも、アイツの声が本当に聞こえたんだ」
「落ち着いてください、ソレ自体は簡単なトリックですよ」
騙されかかっているマス子を引き戻すため、私は彼女にトリックの予想を話しておきます。
おそらくですが、
「私たちは今日、ネギネギの母を通じてこの集会に顔を出すことを予告していましたからね。前もってマス子の事情を調べておけば、簡単に死んだアメリカの友人の情報に突き当たるでしょう。何せアメリカでは、新聞沙汰になってましたから」
「む……」
「車の中で話したコールドリーディングの逆で、これはホットリーディングと呼ばれる手口です。マス子の過去を知っていれば、貴女の友人を呼び戻すことになるのは自明の理ですからね」
手品の種はこんなところでしょうか。私の面談時には、スピーカーらしきものを探すことにしましょう。
「じゃあ最後に、アマネちゃん入ってきてね」
「はい、分かりましたネギネギのお母さん」
そしていよいよ、私の番のようです。
どんな奴が出てくるのか、そしてどんな手法を使って私を騙そうとしてくるのか。
高校でも屈指の頭脳派であるアマネちゃんと化かし合いをしようなどと百年早い。さて、完膚無きままに見破ってやりましょう。
私は教祖部屋の前に案内されると、軽くノックして扉を開けてもらいます。
その部屋は広くなく、外と違ってむしろ殺風景で、ポツンと四角いテーブルが置かれているだけの空間でした。
そしてテーブルの中心には、
「……」
真っ白な、髪の毛。赤く光る、不思議な瞳。
巫女装束をまとった私と同じくらいの年齢の────、真冬のように透明な少女がそこに座っていました。
これはアルビノ、というヤツでしょうか。確か、皮膚の色素が作られないという体質の人の事です。
「教祖様、三人目をお連れしました」
「ご苦労様」
なるほど、ネギネギが神秘的と言ったのが理解できました。
これは確かに、神秘的。まるで妖精のような、不思議な存在感があります。
顔立ちは和風、おそらくは日本人でしょう。
しかし彼女の真っ白な髪の毛とワインレッドの瞳は、身に着けている巫女服とマッチしており、まるでファンタジーの世界に来たかのような錯覚を受けます。
「デハ、お名前を聞いても?」
「え、あ、はい。私は、傘子美音と申します」
その異様な雰囲気に飲まれて、少しどもってしまいました。
危ない、気圧されてはいけません。私は今日、彼女の詐欺の手口を暴きにここに来たのです。
「そう、傘子美音さん……」
彼女の瞳が、かすかに揺れた気がしました。
そして、その赤い瞳でジッと顔を見つめてきます。まるで、私の心の奥底まで覗いているかのように。
「……」
さて、彼女はどう出てくるのでしょう? 私を、どのように丸め込んで信者にするつもりですか────
「ナイストゥミーチュー、お会いできて光栄デース!」
「ほへ?」
彼女はテクテク歩いてきた後、私にガバっと抱き着いてきました。
え、あれ? 何ですかコレ。
「非常に可愛らしい方デース。紅茶はお好きデスか」
「え、あの、その。あれ? 海外の方ですか?」
彼女は片言の日本語を話しながら、あいさつ代わりにハグをして微笑んでいます。
なんというか、立ち振る舞いがアメリカンです。
「イエイエ、私は日本生まれの日本育ち、恐山で修行した巫女デース」
「いや日本生まれ日本育ちが、そんな喋りにはならないでしょう」
「キャラ付けデース」
……。
「カサコ……、カサコ……。よし、ユーは
「人の名前を勝手に英訳しないでください。カサコで良いでしょうが」
「私の事は、そうですね。Ms……シャドウマウンテンとでも、呼んでくだサーイ」
「ただの影山さんじゃないですか」
これは、何という胡散臭さでしょうか。
露骨に怪しすぎて、逆に怪しくないような錯覚すら覚えてしまいます。
それを狙ってやっているのだとしたら、この女はただモノではありません。
「それではカサコボーイ。貴女との出会いを祝して、乾杯と行きまショー」
「ガールです」
いけません、完ぺきにヤツのリズムの乗せられています。
どこかでペースを取り戻さないと。
「さて、本題に行きまショー。この私の前に顔を見せる方は、大抵何かしらの悩みを抱えているケースが多いデース」
「え? ああ、えっと、まぁそんな感じです」
「フフフ、怖がることはありまセーン。私が貴女の抱えている悩みを、ズバっと解決して差し上げまショー」
お、来ましたよ。詐欺師お得意、お悩み相談のターンです。
この場合、私に何も悩みがないと話が進まないので、男子にモテたいという悩みを持ってることにするつもりです。
それに対する彼女のアプローチの仕方、とくと見せてもらいましょう。
「えっと、実は……」
「フフフ、何も言う必要はありまセーン。私のこの
「え、本当ですか」
私から聞き出すでもなく、悩みを見通すと? もしかして、私の身辺も調べていたのでしょうか。
そういや私も最近、新聞に載るような大事件に巻き込まれてますからね。
「
「え、その技名大丈夫ですか?」
やがて影山さんの目が赤く光ると、私は全身を嘗め回されるような感覚に襲われました。
何ですかコレ。本気で背筋が、寒くなってきましたよ?
「見える、見えマース!」
「え、何ですか、コレ!?」
錯覚ではなく、彼女の瞳が紅く輝いていました。
これは、演出でしょうか? だとしたら、これは相当な技術が必要なヤツでは?
「フーン。そうですか、貴女は悩みがあったわけではなく『詐欺』を暴きに来たわけデスね」
「なっ」
やがて、巫女はため息をつくと。ゾクリ、と冷たい声で巫女は私を睨みつけました。
「え、何を言って」
「言い訳は無用デース」
その目は決して、カマをかけたりハッタリを効かせているという訳ではなく。
明らかに、何かしらの確信をもって問いただしている人間の目をしていました。
「実にビューティホー、トモダチ想いの素晴らしい行動デス、カサコボーイ」
「いえガールです」
「ですが、私は決して詐欺などを行う団体ではありまセーン。この霊能力を使って、少しでも世の中の人の悩みの力になれればと、そう考えているだけデース」
「……そんな事、考えていませんよ?」
「ですが……」
私は一応『心外だ』という顔を作ってみましたが、暖簾に腕押し。
もう完全に見破られてますねコレ。
「隠しカメラはいただけませんネー。帰りに回収していただけない場合、押収して売りに出させてもらいマース」
くそ、何故バレたのでしょう? まさか、ネギネギあたりが丸め込まれてもうゲロっていましたか?
あの女使えませんね。
「私には、霊の声を聴くことができマース。つまり見える娘ちゃんデース」
「へ、へー凄いですね」
「私は先ほど、周りの霊に聞いたのデース。貴女がカメラを仕掛けたこと、私達を詐欺師と勘違いしているコト、全てお見通しデース」
「で、ですから、そんなこと思っていませんって」
流石にこれは分が悪い、一度撤退するとしましょう。
この女。すっとぼけた態度のふりをして、ここまで頭が切れるとは思いませんでした。
少なくともかなりの情報収集能力をお持ちのようです、このアマネちゃんと互角かもしれません。
今日は負けを認めますが、この借りはいつか返してやりますよ。
「しかし、そんな風に思われるなら仕方ありません。残念ですが、私はもう帰らせていただきますね」
「私も残念デース。貴女の守護霊も悲しんでいますよ、もっと人の事を信じれる人間になってはどうデース」
「はぁ、私に守護霊ですか。それは一体、どんな人なんです?」
せめて、何かこの女を言い負かしたい。
そんな感情から、私は自身の守護霊について聞き返しました。
「ほう、興味がありマスか?」
「ええ」
「では、ご自身で確認してくだサーイ」
それが、運の尽きだったのでしょうか。
はたまた、一発逆転の目だったのでしょうか。
私が守護霊について聞き返すと、その真っ白な女は気味の悪い笑みを浮かべて、
「
「えっ────」
そう叫び、私に向けてかめはめ波のような構えで何かを打ち出しました。
その手からは気のせいか、微かな赤い閃光が走ったかのような感覚があり、
「……へ?」
「これで、貴女も死者の声が聞こえる様になった筈デース」
世界が、眩しく光り輝き始めました。
……こんな筈はありません、これは嘘です。
これは高度な、3D映像の投影装置でも設置してあるのでしょうか?
でなければ、
「声だけでなく、霊能力の才能があるならばうっすらと姿も見える筈デス」
「……」
「これで、私の能力が詐欺でも何でもないとわかっていただけまシタか?」
こんな、半透明の人間がこの世に存在するわけがありません。
私の目の前には、黒く煙のようなもので形成された人型のような、うすぼけた何かがひどく悲しそうな顔で私を見下ろしていたのですから。
「それが、貴女の守護霊デース」
「こんな、嘘、です。こんなものが存在するはず、が」
常識があやふやになってきます。
幽霊なんて存在しない。霊能力なんて詐欺師の手段でしかない。
そんな、私の中の確固たる常識がグラグラと揺れ動いています。
「さあ、反省しなサーイ。貴女をずっと見守ってくれていた守護霊の方の言葉を聞くのデース」
「う、う、う」
ああ、そうでした。
幽霊なんて存在しないと思っていましたが。
私は知っているのです。少なくとも、神様などと呼ばれる非現実的で超常の存在が存在することを。
確かにアイツは、毎日のように私の夢枕に立って予言をし続けていました。
ならば、本当に幽霊が存在しても不思議ではないのでしょうか?
「そして、貴女も信仰の道に入ると良いデース」
「あ、あ、あ────」
────惑うな、小娘よ。
その時、私の脳に響くように。
重厚で威厳のある、不思議な声が響いてきました。
「この、声は……」
「ほう、守護霊が話しかけてきたようデース」
その声は低く、重く、そしてどこか安心感のある不思議な音色でした。
私の守護霊は悲しそうに、そして同時に叱りつけるように、私にそう語り掛けました。
惑うな、とはどういう事でしょう。
「えっと、貴方は守護霊さん、ですか?」
────違う。
その大きな幽霊は、私に寄り添うように。
こう、語り掛けてきました。
────我は汝。汝は、我。
と。
ハッ、と。私は、その守護霊の正体に気づきます。
私の顔色が変わったのを察知して、守護霊?は満足げな笑みを浮かべました。
「そうか……そういう事ですか。何が守護霊ですか、騙されるところでしたよ危ない!」
「え?」
私は再び詐欺師に向き直り、ビシっと指を指して立ち向かいます。
この幽霊の正体には、もう気づきました。
これは守護霊なんかではありません。
「嘘デース、私の霊能力に間違いがある筈がありまセーン」
「は、それはどうですかね!」
まだ、このエセ霊能力者は気付いていない様子です。
ですが、私には確信がありました。
────我が社会に適応できなかったのは、ソイツみたいな才能で食ってるゴミのせいだ。めっちゃ妬ましい。
そう、この全ての責任を周りに押し付けて私を見守っていた魂の正体は、
「
「ワッツ!?」
神様とやらの言っていた、正真正銘のゴミ。これが、この守護霊もどきの正体です。
「こいつが私を守るわけがないでしょう! ボロを出しましたね詐欺師!」
「えええ!?」
さて、反撃開始です。
この偽霊能力者に、鉄槌を下してやりましょう!