ほどなくして床に降りてきた一行。そこは巨大な広間となっており、床には色とりどりの魔石が転がっている。
ユリアはうれしそうに魔石を集め、ジェイドはそんな様子を微笑んで見守る。
するとユリアは向こうの柱の陰になにかを見つけた。
ユリアはポケットに魔石をしまうとゆっくりと深呼吸をし始める。
スゥ――――、……、フゥ――――。
マスターがその視線の先を見ると、盛り上がる筋肉に覆われた赤い巨躯、禍々しい角の魔物が鼻息荒くこちらに歩き出した。一瞬、グレーターオーガかと思ったが、それよりも一回り大きく、伝わってくる圧倒的な魔力を考えると……、もしかしたらジェネラルオーガかも知れない。
ひ、ひぃ……。
マスターはタラリと冷や汗を流し、思わず後ずさる。
ジェネラルオーガはオーガの最終進化系と伝えられているが実際に見たことなど無いし、見たことがある人など聞いた事が無い超レアモンスターだった。その強さは想像を絶する。
すると、ユリアが両手をオーガにかざし、ハッ! と気合を入れた。直後、激しい閃光が走り、強烈なエネルギー弾がオーガへと放たれた。
ズン!
激しい爆発が巻き起こり、ダンジョン内は閃光に埋め尽くされる。
きゃぁぁ!
マスターは思わず倒れ込む。こんな魔法見たこともなかったのだ。その圧倒的な魔力量、爆発の規模、それは今まで見てきた魔法のどれとも似つかず、かつ圧倒的な威力だった。
そして、マスターは魔力測定の水晶玉が割れた理由を理解する。たしかにこの威力なら割れてしまうだろう。人間離れした魔力量、一体この少女は何者なのだろう。
直後、爆発の衝撃波が一行を襲ったが、それはマスターたちには届かなかった。
「へっ!?」
見ると、ジェイドがシールドを張って一行を守っていた。
「近い敵に撃つときはシールドが要るんだ」
ジェイドはニコッとしながらそうユリアに説明する。
「あ、ありがとう」
ユリアは恥ずかしそうにジェイドに頭を下げた。
すると、爆煙から何かが飛び出し、目にも止まらぬ速さでジェイドのシールドを砕いた。それは体表が焦げたオーガだった。
ひゃぁ!
思わず両手で頭をかばうマスター。
しかし、ジェイドは顔色一つ変えることなくオーガの胸元に瞬歩で迫ると、青白く光らせたこぶしでオーガの胸を打ち抜いた。
ゴフッ!
オーガの体が宙に浮く。そしてそこにジェイドは青白い衝撃波を放った。
ズン!
衝撃波はオーガの身体をメチャクチャに潰す。直後、オーガは鮮やかな朱色の魔石となって落ちてくる。
コン、コン、コロコロ……。
マスターは転がる魔石の音を聞いてそっと顔を上げ、ハイタッチして喜んでいる二人を今にも泣きそうな目で見上げた。そして、二人の底知れない強さに言葉を失い、試そうとした自分の浅はかさを呪った。
◇
ジェイドが急に険しい顔をして大きな通路の向こうをにらんだ。
ズーン、ズーン!
地響きが近づいてくる。
とんでもない魔物の気配にマスターは青ざめ、思わず後ずさった。
曲がり角からニョキっと巨大な恐竜のような頭が二つ現れる。そのウロコに覆われた頭には鋭い角が生え、口には大きな牙が光っていた。
「そ、双頭のワイバーンだわ! Sランクモンスターよ! だから嫌だったのよぉ!」
マスターが悲鳴に似た叫びを上げる。ジェネラルオーガも相当な難敵だが、双頭のワイバーンは破格だ。街すら焼き尽くすその圧倒的な攻撃力は伝説にもなっているのだ。
しかし、ジェイドは表情を一つも変えることなくワイバーンをにらむ。
ワイバーンは、ギュァァァ! と重低音の叫びを上げ、ドスドスと迫ってくる。
「いやぁぁぁ!」
マスターは真っ青な顔で叫び、急いで柱の陰に隠れた。
ところが……、近くまで来たワイバーンはジェイドを見つめると急に歩みを止めた……。
そして、なんと後ずさりし始める。
「え?」
何が起こったのか分からないマスター。
次の瞬間、ワイバーンは急いで逃げ始めた。
Sランクモンスターが逃げるなんてこと、聞いたこともない。マスターは唖然とする。
「逃がさんよ」
ジェイドはそうつぶやくと手のひらに気合を込め、真紅のレーザービーム状のエネルギー弾を放つ。
ドン!
衝撃音を放ちながら、エネルギー弾はワイバーンの厳ついウロコを貫いた。