急いで加筆します
今日は珍しい事に歩夢の部屋にお邪魔している。
今この部屋には俺、歩夢、侑の三人がいる。それでこの三人で何をしてるのかって言われたら何もしていない。
本当はシュウも誘っていたんだけど演劇部が相変わらず忙しいのと、シュウの方も色々と事情があるから今回は参加出来なかった。
ただ歩夢の部屋で三人でお茶をしながら会話をしてゆっくり過ごしているだけなのだ。そんな時間がかれこれ2時間ほど経っている。
「侑ちゃん、お茶のおかわりいる?」
「うん、お願い」
歩夢は侑のマグカップのお茶が残り少なくなっていた事に気付き、侑におかわりの確認を取ってからマグカップに注いだ。
こんなやり取りがもう既に何回も発生している。その間に俺はテーブルの上に置いてあるお菓子を1つ手に取り食べている。
「ねぇ、歩夢。今更だけど今日は私が居て本当に良かったの?」
「うん、いいの。これが私からのお願いだから。それに本当なら秋夜くんも含めた四人のつもりだったからね」
「歩夢がそう言うならそれでいいんだけどさ⋯⋯」
もう2時間近くのんびり過ごしているのに今更感があるとは思ったけど侑がそう思うのも仕方ないか⋯⋯
実は俺と歩夢は紆余曲折あったけど恋人同士なのです。
そんな二人のところに自分が居てもいいのかと考えるのは当然の事だと思う。俺だったら耐えられなくて帰っているかもしれない。
でも侑がここに居てくれるのはやっぱり大切な幼馴染みとの時間ていうのもあるからだと俺は勝手に思っている。
「でも、まさかハルと歩夢が付き合う事になるとはね~」
「まあ俺も付き合い始めたばかりの頃は実感なかったからな~」
「そうなの⋯⋯?私、頑張ったのに⋯⋯」
まずい!歩夢が悲しんでいる⋯⋯確実に誤解されてる!
歩夢の表情を見てハッとした俺は横からの視線に気付いた。
「⋯⋯ハ~ル~?私との約束忘れたかな?」
「忘れてなんかないよ!でもどうしたら⋯⋯」
侑が物凄くニコニコしながら話しているけど眼が全くと言っていい程笑ってない。というか怒る寸前の眼をしてる気が⋯⋯
ちなみに侑との約束は歩夢と付き合う事になった時に歩夢からの告白を受けた現場に一緒にいた侑から「歩夢を泣かせるような事はしちゃダメだからね!もし泣かせたら怒るから!」と言われ、俺ももちろん泣かせるつもりなんて毛頭ないから「大丈夫!」と言ったのにこの体たらくとは⋯⋯
「あの~⋯⋯ごめんね、今のは嘘だよ?ちょっとだけドッキリを仕掛けてみただけだよ!」
歩夢は俯いていた顔を上げると全く泣いてる様子もなくそれどころかドッキリが成功して嬉しそうに笑っている。
「えっ⋯⋯嘘?なんだ本当に悲しんでいるのかと思っちゃったよ~」
「私も本当に悲しんでいるのかと思ったよ⋯⋯ごめんね、ハル!でも珍しいね、歩夢がこういう事するなんて」
「いいよ、気にしてないから大丈夫」
でも確かに侑の言う通りかもしれない。普段ならこういう事はかすみちゃんとかしずくちゃん辺りがやりそうな事というかやられた事があるんだけどね⋯⋯それはともかく何かあったのかな?
「ねぇ、歩夢。訊いていいか分からないけど何かあったの?」
「何かあったというよりは今だからこそかな?」
「「今だからこそ⋯⋯?」」
侑が歩夢に疑問に感じた事を率直に質問すると、歩夢からは明確な答えではなくヒントが出されたが俺達には全く分からない。
「今回は私のお願いだけど、こうして一緒に集まってのんびり過ごすのって凄く久しぶりじゃないかな?」
「あっ⋯⋯確かに。同好会の活動も忙しいのもあるけど他の部活にも手伝いに行ってるし、やりたい事の勉強もあるからこうして三人で集まる事ってなくなってたね」
「そうだね⋯⋯私も同好会の活動と音楽科の勉強であまり時間取れていなかったかも」
歩夢はしっかり俺や侑、この場にはいないけどシュウの事も見ていてくれたんだな⋯⋯だからこうして集まってのんびりする時間を作ってくれたのか。
やっぱり歩夢は優しい女の子だよ⋯⋯そうだよな、俺はこの優しさに何回も助けてもらったんだよな。だからこそ歩夢から告白された時は凄く嬉しかったし、涙まで出ちゃった。
「だから私の誕生日のお願いとして私の部屋に招待してのんびりしているんだよ?それで少しだけがイタズラしたくなっちゃったの」
「そういう事だったんだね。何もなくて安心したよ」
「そうだね、でもたまにこういう事をするのは歩夢は可愛いところだよ!」
それは間違いないね。こういう普段とはちょっと違う姿も歩夢の魅力なんだよ。
「それにしても、まさかハルと歩夢がね~」
「なんだよ、ニヤニヤして」
「べっつに~、ねぇ、歩夢!好きになったのって『あの事』が関係してる?」
「それもあるけどでもやっぱり春輝くんと一緒にいるのが楽しいからかな。もちろん、侑ちゃんや同好会の皆との時間も同じくらい楽しくて大好きだよ!」
「なるほど、なるほど。それでハルはどうして歩夢と付き合う事にしたの?」
流れ的に俺にも訊いてくるよね~うん、知ってた。
「これは歩夢には限った事じゃないけど、俺は同好会の皆から何度も支えてもらったし励ましてももらったよね、だから皆には本当に感謝してる。シュウや周りの人にも助けてもらったと思ってる」
俺は歩夢の事を語る前に今までの事を話す事にした。
「俺が同好会から離れようとした時だって皆は話を聞いて引き留めてくれた。その中でも歩夢には特に間に入って支えてもらったと思ってる⋯⋯そんな優しい歩夢だからこそ好きになる事が出来たんだよ」
少し恥ずかしかったけど歩夢への思いの丈を話す事ができた。それを聞いた歩夢が俯いて肩を震わせていた。
「どうした⋯⋯歩夢?」
「春輝くん⋯⋯嬉しいっ!」
「おわっ!?」
顔を上げた歩夢は満面の笑みを浮かべて俺の方に抱きついてきた。こんな反応をされると思ってなかったのから受け止める事はできたけど変な声が出てしまった。
「おー!大胆!」
この様子を見ていた侑は珍しい光景を見れて興奮している。
普通ならこういう時って侑が止めに入りそうなものだけど期待できないね。かすみちゃんがいる状況ならすぐ割って入ってくると思うけど、たまにはこういうのも悪くないかな。
それから少し時間が経ち⋯⋯
「歩夢さん?そろそろ離れない?」
「⋯⋯うふふ♪」
さっき俺に抱きついてからぎゅっとしたままの状態が続いている。俺はそろそろ離れた方がいいと思ってるけど歩夢はご満悦の表情なので対処に困っている。
「ねえ、侑どうしたら⋯⋯」
「そのままでいいんじゃない?」
いや~それはちょっとこの部屋暖かいからこのままだと流石に暑いかな⋯⋯でも無理に剥がすのは可哀想だからそれはなしだ。
侑に助けを求めるもあえなく玉砕。これはもう歩夢が満足するまで解放してもらえなさそうだな。
それにしても付き合い始めてから歩夢が甘えてくる事が多くなったかも?前だったら同好会で誰かが俺に甘えてきても見てるだけだったのに今では自分から甘えに来てくれるようになった。
さらに時間が経ち⋯⋯
「⋯⋯そろそろ離れるね」
満足したのかついに歩夢が解放してくれた。
やっと解放されたけど離れたらなんとなく寂しさを感じる⋯⋯
「やっと解放されたね。でも良かったよ~仲良さそうで!」
もしかして仲良く見えてなかった?
「もしかして心配してた?」
「少しだけね?あと同好会の皆も知りたがってたから」
皆も心配していたのか⋯⋯多少はぎこちなかったかもしれないけど心配はいらないよ。