ねえ。あんたは「運命の人」って信じる?
ボクは信じる。生まれ落ちたその瞬間から、そのずっとずっと前から、ボクには会いたい人がいた。
どうしてそんなことわかるのか、って?
ボクと「その人」は、違う世界の違う場所で、会った事があるからさ。いわゆる「前世」ってやつ。まぁ、その世界のボクはまだ死んではいないから、正確には「前世」って言い方は正しくないのかもしれない。隣世とでも言えばいいのかな? 便宜上、前世にしとくけど。
前の世界にいるボクと「その人」は仲が良くって、言っちゃ何だけど、相思相愛って関係。生まれ変わっても、その手を離したくない。もう一度彼女と出逢って傍にいたい――そう思うくらい。
けどボクにはどうしても、「前世」のボクのままでは、「その人」に会うことができない理由があった。
だから、ボクは神様にお願いした。生まれ変わりを司る神様、ってやつ。
そして交渉の末、いくつかの条件と契約の元で、もう一度彼女の元へ、ボクと同じ――けれど異なるボクとして、体と生を受けて会いに行けることになったんだ。
神様が掲示してきた約束事は、結構多くて面倒くさい。
まず、ボクの意思を確認するようにして、次の四つを確認された。
ひとつめ。「前世」に関することを、事情を知らない人間の前で決して口にしてはならない。
だから、これを読んでいるあんた達も、ボクがこの姿になる前は一体何者だったのか、何を経て彼女にここまで執着するのか、残念ながら知ることはないと思う。
ボクが彼女を、この上なく愛していること。それだけ知っておいてくれればいい。
ふたつめ。転生を行うということは、元の世界にいたボク自身の魂から、それを分割させることになる。一度分離して独立した魂は、戻りたくても元のボクに融合させることはできないし、別世界に転生したからといって、元の世界のボクが消滅するということもない。
これには、むしろボクは賛成した。戻れないって言われても、ぶっちゃけそれはボクの自己責任だし、かといって前の自分にも愛着がないわけじゃない。消えずに残ってくれた方が、それはそれでいい。
みっつめ。「前世」の記憶は自分には引き継がれるが、「運命の人」に別世界での記憶があるかどうかは、定かではない。
別にいいよね。たとえ覚えてなくっても、何度でもボクを好きになってもらえばいいだけの話だから。
よっつめ。たとえ転生をして、「運命の人」に既に相手がいたとしても、転生自体を取り消すことはできない。
ボクはそれでもいいと言った。いつどのタイミングの彼女に会ったとしても、彼女がボクの大切な人であることに変わりはない。彼女の一番傍にいられる可能性は低いかもしれないけど、同じ世界で生きていられたらそれでいいんだ。
さあ、ここからが少しややこしいところ。
頑なに頷き続けるボクに、少し珍しそうな顔をした神様は、具体的な条件を持ちかけてきた。
いつつめ。転生を果たし、「運命の人」を探せる代償として、ボクは天界の「天使見習い」として、善行を積まなければならない。
「天使」なんて仰々しい名前が付いてるけど、ここで言う「天界」自体が何でもありの亜空間みたいな場所だから、天使というのはどちらかというと魔法使いとか精霊に近いものらしい。
世界を渡るっていう特殊性故、いきなり人間になることはできないんだって。
まあ、よっぽど酷いことをしなければ資格剥奪にはならないらしいから、変に肩肘張らず普通に生きていればいいって言われたけど、とりあえず人助けになるようなことを積めば、使える魔法が増えたりして便利らしい。
転生が保証してくれるのは、「運命の人」と同じ世界にいるところまで。どのくらい離れた場所に落ちるか、どのくらいの年齢差に生まれるかは、完全なる運。ノーヒントで「運命の人」を探すには、この天使の力や魔法が必要不可欠というわけだ。
むっつめ。転生後、人間の年で十八の誕生日を迎える前までに「運命の人」と思いが通じ合わなかった場合、人間としてその世界で一生を終えるか、天界に留まり天使として就職するか、選択を迫られることになる。そのどちらの選択も拒否した場合は、泡になって消える。消滅後の魂は、どこにも行きつくことはない。
なんだか、人魚姫みたいな話だね。要は十八歳がタイムリミットってわけだ。十八までに出来ることって、保護者の庇護下にあることも考えれば意外と少ないと思うんだけど?
とにかくそれまでに何とかして、彼女を見つけ出さないといけない。見つけ出すだけじゃなくて……振り向かせないといけないわけだけど。会えただけで満足っていう奴は、ここで普通に人間になるのを選ぶのかな。
ななつめ。無事に「運命の人」と思いが通じた場合は、その人に「契約」を結んでもらうことにより、天使として永続的な生を得ると共にその人を守り続ける「守護天使」となるか、人間になって共に年を取り添い遂げるかを、選択できる。時間切れの時とは違い、後になって人間になることを選択することもできるが、その場合、人間から天使に戻ることは出来ず、一切の魔力も剥奪される。
どうも天使っていうステータスを大分人間の上位互換に置きたいみたいだけど、正直言って、これはどっちが幸せなんだろうね。ボクも、その時になってみないとわからない。
魔力が尽きない限りは天使に寿命ってものはないから、守護天使になることを選んだ場合は、ボクは(外見上は)いつまでも年を取らないことになる。ずっと同じままのボクと、だんだんと年を取っていく彼女と、もし一緒にいられることになったとしても、彼女は幸せに思ってくれるだろうか。
けれど、もしボクが天使のまま力を持ち続けられれば、死ぬまで彼女を危ないことから守ることができるし、次に生まれ変わった時に、また彼女を近くで見守ることも可能かもしれない。どちらにしろ、何もかもが上手くいけば、の話だけど。その時は、きっとすごく悩む気がする。
細かい事は他にも色々あるけれど、とりあえずこれが、大ざっぱにボクが同意した全部。
そして契約を結んだ神様は、ボクに鍵を渡してくれた。
鎖に通して首から提げる、ネックレス型の魔力が籠った鍵を。
これがボク――
震える手が、光る鍵を真新しい鍵穴に差し込んで、光に溢れる雲の上の扉を開いていく。不安と期待でいっぱいの、ボクの物語のはじまり。
ねえ。あんたは「運命の人」って信じる?
ボクは信じるよ。
だから、今から会いに行くから、どうか待っていて。
あの優しい微笑みを、もう一度ボクに見せてほしい。