2021.11.ノベルバー企画「運命の人」   作:大野 紫咲

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Day13.うろこ雲 「空色の猫」

「『うろこ雲』……ううん、うろこ雲……難しいなぁ」

 

 私、大野(オオノ)紫咲(ムラサキ)は頭を抱えて思案していた。

 洗濯物も干し終わって、開いたカーテンの向こう側には、シーツカバーがはためいている。

 専業主婦の務め。面倒だったけど、今日は秋晴れで天気もいいし、頑張って自分のもパートナーの分も洗った。まあ、一応これで今日の仕事は終わったことにさせてもらおうと言い聞かせながら、ノートパッドを机の上に開くけど、なかなかいい話が思いつかない。

 

 昼間、パートナーが会社に行ったり、家でリモートワークしたりしている間、一人で過ごす私の楽しみは、SNSで色んな人とお喋りすること。ゲームも大好き。それから、私が引き篭もれる唯一の世界・指先と筆から生み出される創作活動。

 もう、こんな風に物語を紡ぎ始めて、何年目になるだろう。とにかく物心ついたその瞬間から、「創る」ことが大好きだったことだけは間違いない。

 これだけは、人生で何事も長続きしなかった私が成し遂げられる、唯一にして絶対必要なライフワークと言える。

 三度の飯より文字が好きな人間と結婚した我が旦那は、幸いなことに私の活動にも交友関係にも、なんにも口出しして来ない。居住環境を整える労働をするだけで、残り時間は無限に小説を書いていることが許されるなんて、なんて幸せかと思ってしまう。これさえあれば子供も遺産も何も要らない。私の子供は、ページの中にいる数十人数百人の仲間たちだけで十分だ。

 でも、猫は欲しいかな。あまりに猫が好きだから、しょっちゅう話に猫が出て来てうちの子に触らせたり飼わせたりするし、執筆のお供のマグカップも猫。手紙を書く便せんもペンも猫。

 たとえばほら、こんな風に、猫の神様とかがいたら、面白いかも。でも、毎回猫じゃ飽きがくるかな。たまには狐にしてみよっか。猫に限らず動物は大好きだから、鳥も狐も狼も、出せるものはなんだって出したい。

 

 そんな風になりふり構わずペンを走らせる私にも、筆のノリがいい日と悪い日はある。

 毎日小説を書く企画に参加していたのだけど、今日のテーマは「うろこ雲」……思いつかないな。

 ベランダに出て手すりに寄り掛かりながら、今まさに目の前の空で現物を見ながら考える。

 うろこ雲っていうのは、秋の季語らしい。でもそんな、趣深くて雅な小説を書ける気はしないし。うろこ雲は、台風が近付いたり天気が崩れる兆候らしいって話も書いてあった。でも、台風なんて来そうもないくらい、いい天気だしな。

 うろこって言うからには、魚の鱗。じゃああれが何に似てるだろう、と私は考えた。

 

(……空色のたい焼き、っていうのはどうかな)

 

 うん。おっきい空色のたい焼きに、猫が飛び付いちゃうとか。

 そういうのがいいかもしれない。

 なんとなく書けそうな気がしてきて、私は急須の中のお茶を淹れ直した。

 まあ、書けなくたって、今日はお休み。パートナーに、車で美味しいお昼ご飯を食べに連れて行ってもらえる日だ。それまで、もう少しだけ頑張ってみることにしよう。

 

***

 

「へー……猫用のマントなんて、あるんだね」

「まだ発売前の試作品じゃがな。よく出来ておろう」

 

 神様の伽々未(かがみ)が偉そうに胸を張る横で、大きな空色の、魔女猫っぽいマントを着せられたベンガル猫のベルは、ふん、と不満げな鼻息を鳴らした。いい迷惑だ、って感じの顔だ。ベルは窮屈なのが苦手だから、マントも嫌いみたい。

 

「でも、よく似合ってるよ。ベル」

「空の神の力を込めた特別性らしくての。空色なら昼間の空を、濃紫なら夜の空を飛べるそうじゃ」

「そんなん、人間用に作れば飛行訓練なんかしなくても一発じゃないの?」

「素材にどれ程かかると思っとるんじゃ。今の下界は、大気汚染が深刻で空の品質自体が相当落ちとるからの。ここまでの一品はなかなか作れぬ」

 

 一体どんな製造過程を経ているのか気になったけど、ボクが聞いても分からない気がする。とにかく、魔法を使う世界の人たちにとっても高級品らしいってことはわかった。

 

「にゃーお」

 

 不意に、ベルが窓際に飛び乗ったかと思うと、窓から覗く青空に鼻先を掲げて匂いを嗅いだ。

 釣られて見上げたボクには、からっと晴れた綺麗な秋の空……だけじゃなく、何か巨大なものが見えた。そう、うろこ雲が漂っている空全体が、なんだか巨大な魚みたいな……相当遠く離れないと魚だと視認できないほどに大きな魚が、空を泳いでいる。

 幻か、と思いながらあっけに取られて目を擦っていると、ちらりと傍の椅子から見上げた伽々未は、何でもないことのように言った。

 

「鱗便、というやつじゃな」

「鱗便?」

「ペット専用の空輸みたいなもんじゃ。天界で始まったばかりのサービスなんじゃよ」

「どうして動物限定なの?」

「おまんらは、雲に乗るのをいかにも簡単な夢物語みたいに語るが、そうはいかぬ。精神と感情の複雑性ゆえに、人間はもっとも魂が重い動物じゃからな。以前はやっておったんじゃが、大量の人間が押し寄せた結果、底が破けて大事故になったことがあっての。それ以来、雲に飛び乗るというのは、天人でも人間でもタブーじゃの」

「なんか夢のない話だね……」

 

 まあ、かぼちゃの馬車がインスタントだったり、紙飛行機レターが匿名掲示板感覚だったりで、これまでも随分ファンタジーの夢を壊されてきたから今更だけど。

 こんなにはっきり形が見えるのに、下の人達が全然騒いでいないところから見て、やっぱりこれは天界関係者限定で見えるモノなんだろう。多分、普通の人間には、鱗雲が漂ういつもの空に見えてるに違いない。修業の成果がちょっとずつ出てるのかな、と思いながら、ボクはスタンドライトを点けた勉強机に戻る。

 

「それより、これ見てよ。また上がってたんだ、サキの小説」

「ほう。彼の人は小説家、というわけじゃな」

 

 ノートパソコンを覗き込んで、自分の髪の毛を引っ張りながら感心したような声を上げる伽々未に、ボクは首を振った。

 

「そんな、職業っぽい肩書きなわけじゃないけどね。サキは、物語を書くのが好きなんだって。今は専業主婦だからいっぱい時間があって、家事以外は色んな趣味とか執筆に、打ち込んでるみたい。前の世界で会った時もそうだったんだ」

「収益の出ん作家か。それもまた気軽でよいことじゃ。何を気にすることもなく表現活動に勤しめるからの。おまんらの世界では、同人作家とか言うんだったかの? いやいや、あのコミケとかいう奴の列はなかなかのものじゃな。小銭の両替やら戦利品の運搬にも苦労したぞい」

「待って神様コミケ行ったことあるの?????」

 

 伽々未って、本当にこの世界のサブカルみたいなもの好きだよな。ボクの部屋でも、しょっちゅう漫画とか雑誌とか読んでるし……。

 

「もっと早く気付くべきだったよなぁ。こっちの世界にだってSNSはあるし、サキがそれやってないはずがないんだからさ。ツイッターから辿ったら、小説投稿してあるサイトまで見れちゃって。ボクずっと張り付いてるんだ」

「夜羽、ちょっとストーカーの気があるのを自覚した方がいいぞい」

 

 散々魔法で個人情報を入手したり、行方を捜しまわったりしておいてそれは今更だと思う。迷惑を掛けるストーカーよりは良……くはないけど、事実、ボクがサキを探してる事実なんて、ボクの仲間とボクしか知らないし。守護するべき「運命の人」を探してる天使なんて、みんなストーカーみたいなものだよ。

 開き直りはさておき、天気のいい休みの日にも関わらず、ボクが部屋に籠ってパソコンを開いているのは、そういうわけ。

 この文字の海の向こうで、サキと繋がっていられる感じがするから。1頁を捲るごとに、ひとつまたひとつ、新しい景色が目の前に広がっていく。

 好きな人が書いた話だから、っていうのはあるだろうけど、贔屓目を抜きにしても、サキのお話って面白いんだよね。いつかコロナ禍が収まったら、イベントに行って握手なんてできちゃうかな、って考えるとドキドキする。

 どんな顔をして、ボクを待っててくれてるんだろう。最初に会った時、何て声を掛ければいい?

 考えれば考えるほど、募る想いが溢れ出しそうになっていく。早く会いたいな。

 小説の中の人たちに、自分を重ねて高まる心臓の鼓動を抑えながら、ボクはマウスをクリックした。

 

「なんじゃ、『いいね』だけか? 感想を送ったりしてみればよかろう」

「いきなり来たら、驚いちゃうかなって……それに、サキの小説、どこが好きなのか上手く言葉にできない。すごく好きなんだけど……ボクが口にするのは、何か違う気がして」

 

 読んだ奴は、欠かさずいいねとブックマークしてるんだけどね。

 そう言うと、伽々未は糸みたいに金の目を細めながら、呆れた声になった。

 

「おまん……そうやって『自分以外の誰かが言うから大丈夫だろう』『自分が言っても大した意味はない』と不精しておると、その作家がいつ筆を折るかわからんぞ。『実は好きでした』は、実質的な応援のうちには入らんからの」

「うっ……」

 

 妙に現代の同人活動にもツールにも詳しい神様じゃないか。

 でも言われたことは図星なので、やっぱりちょっと迷ってしまう。手の内で、星空の光を放つ万年筆を転がしながら、ボクは溜め息をついた。

 

「……どうせなら、文章じゃなくて、直接会って伝えられたらいいのに。文字を書くのは、慣れたら嫌いじゃないけどさ」

「だったら、行けばよいのではないか? 大体の居場所は特定できたじゃろ。まだ飛行魔法を使って長距離を飛ぶには心もとないじゃろうが、おまんにはその足がある。陸路に頼って旅をするのも、悪くはないぞ」

「自信ないよ、やっぱり……」

 

 感想や想いを綴った紙飛行機魔法に、敢えて住所は記していない。

 ボクは――サキに会いたいのと同じくらい、会うのが怖かった。

 もし、会ってボクのことを知らないって言われたら。怖がらせちゃったら。……忘れられるのなんて平気だ、って言いながら、ボクはやっぱり、その時のサキの顔を見るのが、本当は怖かったんだ。自分が傷付くのが嫌で、一歩を踏み出せない、情けなくて意気地なしのボク。

 魔法を沢山覚えて、近寄らなくてもサキの事を見守っていられるようになった。行こうと思えばいつでも会いに行けるようになったら、急に足が竦んでしまった。

 本当は、もうずっとずっと、ここでこっそり片想いのまんまいられた方が――ボクもサキも、幸せなんじゃないか、なんて。この状況が楽になればなるほど、逃げ腰なことを考えてしまう。

 小さな胸の痛みを抱えたまま、ふう、と俯いて息を吐くボクを、足元のベルがじっと見つめて尻尾を振っていた。

 大きく見開いた瞳で、ボクを見つめる姿に、手を伸ばそうとした時。

 急に、ベルがボクに向かって歯を見せながら鋭く鳴いた。

 

「にゃっ」

「……ベル?」

 

 ほんの、瞬きするほどの間だった。

 ぱんっ、と勢いよく音が響く。

 閉まっていたはずの両開きの格子窓が開いて、いつの間にか風が舞い込んでいる。驚いて立ち上がると、空を蹴って高く高く、青い天井に駆け出していくベルの尻尾と後ろ姿が見えた。

 

「ベル!?!?」

 

 窓際に駆け寄ったボクと伽々未の前で、ベルはたくましい脚で住宅街の並木や屋根の、遥か上を駆けていく。まるで、水の上を走ってく妖精みたいに。そうして、だんだん空を漂う雲の方に引き寄せられて、見えなくなってしまった。透明魔法も何も使っていないのに、あの空色のマントのせいで、目立つ柄をしてるはずのベルの姿は、いとも簡単に景色に紛れていた。丁度、さっきボクが鱗便を見たあのあたりだ。

 およそ普通の猫には不可能な脱走の仕方に、ボクはパニックになってしまった。空を飛んで飼い猫が脱走したなんて、聞いたこともない。

 

「ど、どうしよう伽々未……!」

「うぬ……あんまりおまんが不甲斐ないものじゃから、愛想を尽かされたのではないか?」

「そんなこと言ってる場合じゃなくて! 元はと言えば伽々未が持って来たマントのせいだろ!? 早く追い掛けないと!」

「いやしかし……おまんの今の飛行魔法で鱗便の速さに追い付くのは不可能じゃぞ。それより、あやつの行きそうなところへ先回りした方が早くないかの」

「ベルの行きそうなところ……」

 

 落ち込んだボクが、俯いて呟いた時。

 スマートフォンが鳴って、ボクは取り上げるがまま耳に当てた。

 

「もしもし!?」

「あ、ヨルくん? ねー、もしかしなくても、さっきわたしんちの窓の外飛んでったの、ヨルくんとこのベルちゃんでしょー?」

「! 雀愛のとこに行ったのか!? ベルは……」

「んーん。うちに来たわけじゃなくて、わたしは窓の外を走ってくのをちらっと見ただけ。でも、大騒ぎになっちゃってるよぉ。ネットの一部の民が動画アップしたみたいで、猫が空飛んでるーって」

「なっ、ウソでしょ……!?」

 

 慌ててツイッターを検索すると、さっきのベルらしき動画と画像が、確かに拡散されている。大体の人が、合成か何かだと思ってくれてるみたいだけど、あんまりバズるとそれはそれで面倒だ。一応、この世界の人達は魔法の存在を信じてないみたいだし。

 ベルの脱走の話をすると、素早く事情を呑み込んだ雀愛が、力強く協力を申し出てくれた。

 

「拡散されちゃった動画は、わたしが何とかしてみる! ヨルくんは、早くベルちゃん探しに行ってあげた方がいいよ! あのマント、試作品だから万が一ってことがあるしぃ、それにあれは昼の空の効力しかないじゃない。鱗便は乗り手の任意で降りれるハズだけど、夜になる前に見つけてあげなくちゃ、ベルちゃん墜落しちゃう!」

「……ごめん、雀愛! ありがとう、恩に着るよ」

「スズちゃんにおまかせぃ。だいじょぶよ、これでもわたしネットでVTuberとかアイドルやってるし、ネット関連の魔法は貞子先輩から学んだりしてるからねっ!」

 

 雀愛は誇らしげに言いながら電話を切ったけど、それどっちかって言うと魔法じゃなくて呪いじゃない……?

 でも、まあ……あれでも先輩魔女だから信じることにしよう。

 

「あとは、ベルの行きそうな場所か……」

 

 正直、小さい頃からずっとベルは大人しくていい子だったから、脱走するなんて事自体、今まで考えられないことだった。ボクが学校に行っている間に、使い魔の特権を生かして自由に出歩いてたりはすると思うし、ボクが家にいる間も時々散歩に出かけてたみたいだけど、わざわざ後を追い掛けたりしないから、行動範囲が分からない。

 それに今は、近所とかいうレベルじゃなくて、雲に乗って遠くに行ってしまったんだ。どうしよう。この街の外に出て、全然知らない場所に落っこちて、戻れなくなっていたら。

 飼い主のボクが嫌になって逃げだしたかもしれないのに、見知らぬ土地で頼れる人を探して鳴いているベルを想ったら、胸がぎゅうっとなって涙が出そうになった。そもそも、ボクがもっとちゃんとしていたら、堂々としてあんな弱気な事を言い出さなかったら、ベルはこんな目に遭わなかった。どっかに行っちゃおうなんて、思わなかったかもしれないのに。

 握った両の拳の上に、ぽつりと涙が落ちた。とっさの間に、依り代をベルの鈴からボクの鍵へと変えていたらしい神様が、ぽんと目の前に顕現して、ボクの目元を拭う。

 

「起こった事を後悔しても仕方があるまい。窓は閉めておったのに、儂もあやつの使い魔としての魔力を舐めておったわい。……よほど、飼い主のことを想っておったんじゃな」

「ボクを? どうして……」

「儂には、『嫌がっている』という体には見えんかったがな。飼い主はおまんじゃろ。人間界に換算すれば僅かな時間とはいえ、隣で時を過ごしてきて、おまんが一番あやつをよく分かっておる。よく、『声』の示す意味を考えるがよい」

 

 こういう時に限って、神様は回りくどいヒントしか言ってくれない。

 けれど、ボクは鼻を啜って深呼吸すると、目を閉じた。

 ベルの隣にいるボクが、一番ベルのことをわかってる。そうだ。ベルは、ボクの使い魔だったんだから。一緒に大きくなって、困った時や泣きそうな時もずっと一緒で、パートナーみたいな存在だった。

 そんなベルは……ボクの言葉を聞いて、何を思ったんだろう。ボクだったら? 大事な人が、一歩を踏み出せなくて歯がゆい思いをしていたら……

 光が差したような気がして、はっとボクは瞳を開けた。

 

「……ボク、わかったかも。ベルの居場所」

「ほぅ。して、儂が手伝えることは何かあるかな」

「神様。……伽々未。水中花の魔法を、もう一度使える? ベルのいる場所に、できるだけ早く移動したい」

 

 あの時は、一人でやろうとして失敗した。でも、今は一人じゃない。

 すべてを分かっているかのように、力強く頷いた神様を鍵に宿したまま、ボクは家を飛び出した。最短経路で、交通機関を乗り継いで、あの日の池へ。

 溺れた場所のほとりへ戻って来て、脚が震えたボクの肩を、伽々未が叩いた。

 

「大丈夫じゃ。儂は付き添えんが、やれるだけの事はやって片道分の通路は開いておく。万が一失敗しても、儂がこちら側におれば引き上げられる」

「水中花魔法は、一人じゃないと使えない……んだっけ」

「おまんの想いだけが、行く先へ繋がる頼みの綱じゃからな。そこに他者の干渉は必要ない。行く先ははっきりしておるのじゃろ?」

「多分……ううん、ぜったい」

 

 ボクとベルは、天使と使い魔。心のどこかで、つながってる。だから、何の根拠もないけれど、ゆっくり深呼吸して、落ち着いてベルの心を掴まえた時に、もうあそこしかないんじゃないか、って思った。

 水面に、あの時と同じコスモスと、家から持って来た白いバラの花弁を散らす。

 

「……水神(みなかみ)よ、迷いなき道筋を、此処に切り開け。

水鏡に映りし者と者を、引き合わせ給え。

()が色と情熱を捧げし分、最愛へと(えにし)を結べ。

我の名は夜羽……藤の名において、約束を果たしに行く者なり」

 

 ぼうっ、と光が水底から浮かび上がる。

 

「帰りは、電車かバスで帰って来るのじゃぞ!」

「わかってるよ、そんな親みたいなこと言わなくても」

 

 ほとりでの見送りに苦笑を浮かべて、ボクは飛び込んだ。

 深く沈みこんだ水は、今度は冷たくなくて、あたたかく導くようにして、ボクの全身に纏わりついていた。

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