2021.11.ノベルバー企画「運命の人」   作:大野 紫咲

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Day24.月虹 「怪盗たちの虹泥棒 第一楽章 過去への旅路」

 いつものように、サキの家のリビングにやって来たボクと雀愛、そしてヒバリは、不思議そうな顔のムラサキと一緒に、狭苦しい炬燵机を囲んでいた。

 そして、ボクらを呼び出した張本人である神様といえば――サキと友達が作ったクッキーの残りを前に、舌なめずりしそうな勢いで、白狐姿のまま踊り上がっている。

 思えば、基本的に人間の前に姿を現わしてはいけない伽々未が、紫咲の前に顕現しているのは、彼女が守護天使の契約主となってから初めてのことだ。かなりユニークな神様だという話を前もって聞いていたサキは、面白そうな目で、ぼふぼふと音を立てる伽々未の尻尾を見ていた。

 

「ちょっと、自分が話があって呼び出したってこと忘れないでよ」

「分かっておる。じゃが茶菓子の時間は大事じゃろう。むぐむぐ……美味いの。ほんに美味いの、これは。楽しい記憶が詰まっておる味がする」

「あはは、ありがとうございます。食べづらくないですか」

「大丈夫じゃ、獣姿でテーブルを使うのも、現世で慣れておる。ちょいとこの後、大掛かりな魔法を使わねばならぬのでな。魔力を節約中じゃ。人の姿になれずにすまぬの」

「いえいえ。そのお姿も十分可愛いですし癒されます」

「ふむ。人の姿の儂はもっとイケメンじゃぞ」

 

 そんな事を言いながら、のん気にクッキーを堪能して、髭のクッキー滓を丁寧に拭った神様は、満足そうにふぅと吐息を吐いた。

 

「かがみさん、おなか、いっぱい」

「うむ……食事後のヒバリの毛づくろいは、実に気持ちがよいのう」

「んふ。いっぱい、なでなで、する」

「本当に目的忘れそうだよこの神様……」

 

 伽々未は、完全にヒバリの膝にのびてくつろぎ、だらけモードに入っている。ベルでも、なかなかここまで野生を忘れた格好はしないぞ。

 耳をぴくぴくさせる伽々未を呆れて見守るボクの傍で、雀愛がいつになくおとなしいのは、先日の二重契約のことを気にしているのだろう。

 天使の規約に反してないとはいえ、伽々未曰く前例がないらしいし。

 呼び出されたのはおそらくその件だろうと、ボクも検討がついていた。

 

「まあ、そう急ぐな。話す内容は、どうせおまんらの思うとる通りのことじゃろうからな。

雀愛の……真なる『運命の者』が見つかるまでの仮契約と、一人の主に二人の天使がつくことの正当性についてじゃ。

正直、頭の固い連中には反対する者もおっての。まあ、だいたいそういう奴らから順にポストを降ろされていくゆえ、天界の上の人事体制としては、最新の価値観を反映しとるはずなんじゃが」

 

 なんだか黒々とした天界裏事情が出て来たところで、ヒバリの膝で耳を掻いていた神様は、すとんっと身軽にテーブルに飛び乗り、ボクら四人を見渡した。

 

「それでじゃ。

天使の師範である儂を含めた、彼らの協議の結果じゃが……とりあえず、紫咲(ムラサキ)には夜羽と雀愛、二名との二重契約が認められることとなった」

 

 正座したままうつむいていた雀愛の顔が、わかりやすくぱあっと輝いた。

 こっちを優しい目で見るムラサキとヒバリの反応から見るに、ボクも多分似たような反応をしてるんだろうなと思うけど……まあ、仕方ないよね。雀愛は仲間なんだし。ライバルとしては複雑だけど、一応は喜ばしいことなんだから、しょうがないでしょ。

 そんなボクらに、伽々未はぴこぴこと、白い毛に覆われた耳を動かす。

 

「ただし、条件がある。二人一緒に、天使の見習い卒業試験に合格すること」

「……見習い卒業試験?」

「そんなんあったっけ?」

 

 思わず、雀愛と顔を見合わせてしまった。

 きょとんとするボクらを、伽々未は交互に見比べながら言った。

 

「おまんらの特例を通すために、特別に規約に追加されたのじゃ。

まあ、そう構えずとも、自動車教習所の仮免みたいなものじゃな。現状では、二人とも契約は終えておるが、儂の弟子であることに変わりはない。

試験に合格すれば、まあ天使の経験としてはまだまだ見習いのひよっ子であることには変わりないが、一応は人間を守護する、一人の天使として認められる」

「免許があるの?」

「ライセンスとして、目に見える形で所望するのであれば、魔法装身具一式がもらえるぞ。ステッキと、飛行用のケープと箒じゃ」

「何それ!?!?!? そんないいモノがあるなら早く言ってよ!!!!!!」

「っていうか、スズは飛行魔法習ったからもう箒もあるし杖もマントもあるよ~! それじゃダメなの!?!?」

 

 そんなん初めて聞いたんだけど! 今まで苦労してやってきた、魔力アップのマニキュアとか水中花魔法とかなんだったのさ!!!

 思わず詰め寄ったボクと雀愛を、まあまあと肉球でなだめる神様。すごく悔しいけど、この肉球の掌を触らされると、大体どうでもいい気分になってきてしまう。伽々未の常套手段だ。もふもふはずるい。

 

「まあまあ。最初から楽をしたら、誰も真面目に魔法を身に付けようとはせんじゃろ。それにの、おまんらがこれまで習ってきたものは皆基礎じゃ。これがまともに出来ずに、箒や杖が扱えるなどと思わぬことじゃな。

やっと、おまんらにその資格が生まれたということじゃよ」

「う~……わたしなんか、ヨルくんよりずっと長く天使やってたのにっ」

「仕方ないじゃろ、雀愛は誰とも『契約』をしておらんかったのじゃから。

普通は、見習い天使が契約主を見つけて独り立ちする時に、これらの魔法具を自分で作ることで、師匠から一人前と認められるのじゃ。

これから、おまんらは自分の身だけでなく、パートナーと共に生きて相手を見守っていくことになる。それに足るほどの魔力と、天使としての実力が必要じゃからな」

 

 そうか……守護天使になるってことは、そういうことだよな。

 ボクだって、サキを守れるぐらい強い天使になりたいと、誓ったはずだ。

 ここまで時間は掛かったけど、ボクは少しでも立派な天使に近づけたのだろうか、と感慨深い気持ちでいると、伽々未がゆらんと尻尾を振ったので、我に返った。

 

「それで、ボクらは何をすればいいの?」

 

 待っていたというように伽々未がぽんと宙返りすると、尻尾の先からころりと、茶色い紙が落ちて来た。賞状のように丸まっているそれを、ボクと雀愛は手に取る。

 

「この羊皮紙に書いてある謎を解き、三人で力を合わせて課題をクリアするのじゃ」

「……三人?」

「通常ならば各々の装身具を作るという形で見習い卒業を認められるが、今回は試験ということで、ちと難易度が高いからのぅ。儂から助っ人を一人やろう」

 

 そう言った伽々未が、すとんと炬燵から降りると、ヒバリの傍で尻尾をふわふわと揺する。

 きょとんとしたヒバリが、ぎこちなく自分を指さしていた。

 

「……え。わ、私?」

「嘘、ヒバリを連れてっていいの?」

「ヒバリには魔法は使えぬが、おまんらのことをよく知っておるし、助けになるじゃろう。試験には、儂が付き添うわけにいかぬからな。ヒントもなしじゃ。

まずはその課題文の読み取りから、三人でやってみるがよい」

「きゃ~! 神様やっさしい!」

「まあ、今回の課題では、おそらく雀愛の使い魔は使えぬからのぉ。その分のハンデじゃよ」

 

 三人いればなんとやら、って言うし、人数が多いに越したことはないね。

 思いがけず仲間に入れて、ちょっと嬉しそうな顔をしたヒバリが、雀愛に肩をくっつけられながら真ん中に入る。改めて、ボク達は三人で羊皮紙を広げた。

 

「え~っと、なになに……」

 

『己が皺寄せし時の歪み、今こそ直すべし。

時を越え、月の下へ。探せや探せ、一時間。

それは、色を孕み光に傘差すもの。

それは、空に見ゆるもの。

それは、祝福の便り。

不足を補い、あるべきものをあるべき場所へ。

さすれば、かの人の思い出は守られん」

 

 うん、なるほど。

 さっぱり意味不明だった。これが課題文だって?

 

「いや、これ結局、何をどうすればいいのさ?」

「それを読み取るのも課題のうちじゃぞ」

「そんなこと言ってもぉ、具体的な意味がこれじゃさっぱりだよぉ……!」

「んん……むずかしい……」

 

 でも、これにはボクと雀愛の、守護天使契約がかかってるんだ。

 わからないけど、ボク達はわからないなりに、三人で首を捻って考えた。

 

「時を越えってことは、時空転移系の魔法を使うってこと? そんな難しいことできるかな」

「それなら、ヒバリちゃんがいるじゃないっ。ヒバリちゃんはいつも、時間も空間も越えてこっちに来てる子でしょー? 一緒に手を繋いで媒体になってくれれば、わたしが何とかできるかもっ」

「まあ、正直そこは雀愛頼みかもしれないけど、無理はしないでよね。一緒ならボクも手伝えるし」

「いちじかん……せいげん、じかん……?」

「そうだねぇ。もしどっかの時空に飛ぶなら、神様なしでわたし達の力だけじゃ、そんなに長く留まれないってことなんだろーけどぉ……でも、それはそれとして、いつのどこに行けばいいのぉ? 書いてなくない?

『月の下』だけじゃースズちゃん全然わかんないぃっ」

 

 バタバタと暴れ始める雀愛。その一方で、机の上に置いてあった紙の匂いを、ベルがふんふんと嗅ぎ始めた。

 

「あっ、おい、ベル。それは大事なんだから、イタズラするなよ」

「んん? ベルちゃんどーしたの? 何かあるみたい」

 

 ばったりと炬燵に倒れていた雀愛が、ぐっと起き上がると、ベルが踏んづけていた紙の端っこをまじまじと見つめ始める。

 

「んんっ……ややっ! この紙、何か魔法がかかってる! 書いてあるのこれだけじゃないよ!」

「マジで!?」

「暗号化系の呪文は、この世界のを参考にして天界にもあるんだよねぇ。よし、ここはスズちゃんが……」

 

 手を擦り合わせて、はぁ~っと息を吐きかけた雀愛が、両手をかざす。

 と、キラキラした光の粉が散って、そこには確かに、炙り出すようにして、さっきまではなかった文字が現れた。

 

『手がかりは、すぐ目の前に。

はじまりの時の、194番地を尋ぬべし』

 

「手がかりは……目の前……?」

 

 顔を見合わせたボク達は、三人で顔を上げる。そこには。

 

「……? ん? えっ、あっ、私!? なになに、どうかしたの?」

 

 炬燵に仲良く並んだ湯呑に、急須でお茶を足してくれている、サキの姿があった。三人揃って目の前って言ったら、今この状況じゃなきゃ成り立たないヒントだろうけど。

 でも、ボク達三人の共通項って言ったら、サキのはず。無関係とは思えない。

 

「ね~サキちゃんっ、『はじまりの時の194番地』って何!?」

「サキ、何か知ってるんだよね!?」

「むっちゃん、なら、わかる、かも」

 

 ボク達から詰め寄られて、ムラサキは目を白黒させる。

 そのまま、助けを求めるようにして、毛づくろい中の伽々未の方を向いた。

 

「えっと~……私が手助けするのはありなの? かな?」

「いいじゃろう。おまんは少なくとも、そこにいる二人の契約主じゃからな。天使たちと最もつながりの深い者を、除け者にはできまい」

 

 くすり、と笑った神様は、まるで最初からこうなるのを分かっていて問題を出したみたいだった。

 改めて、顔を輝かせながらサキの隣にべたべたくっつくボク達を見て、サキがくすぐったそうな笑みを浮かべる。ヒバリに、読んで読んでとせがまれながら渡された紙を見つめ、サキは言った。

 

「さっきから、みんなの話を聞きながら、問題文に関して思い当たるところは、あるといえばあるんだけど……」

「ほんと? こんな難しいのに」

「全部じゃないよ? たとえばこの、『それ』が何を指してるかだけど……」

「そうそうっ、全然わかんないよぉ、これ。空に見えるもの? って星とか雲とか鳥とか、いっぱいあるしぃ……」

「その前後から特定するのも、なんか難しそうで……」

 

 ボクと雀愛が次々言葉を発するから、ヒバリはその横で、ボク達を抑えながら大袈裟に深呼吸してみせる始末だ。

 落ち着いたところで、サキが羊皮紙を指さす。

 

「色を孕み光に傘差す……ってことは、色を持っていて、光を遮ることができるものってことでしょ。みんなにも、関わりがあることだと思うよ。っていうか、ここに来る前の夜羽くんとは、かなり関係が深いことだと思うけど」

「え、ボク?」

 

 何か見落としていたっけ、と慌てて首を傾げるボクに向かって、サキは含み笑いを見せながら、ボク達の顔を見回した。

 

「分かりやすいところからいこうか。

祝福の便り、これは私が知ってるとある花の花言葉なんだ。あやめさんも、その花言葉を意識して、名前を付けられたんだと思うけどね。菖蒲の花言葉は、『良い便り』とか『吉報』なんだよ」

「へええ……」

 

 じゃあ、三つ目のこれは、あやめの花のことかな。

 それでいて、空に見えるものと関係があること……?

 

「あっ、もしかして……」

 

 雀愛が、小さく声を上げる。何か気付いたんだろうかと思ったけど、瞳を光らせたままで、雀愛は何も言わない。そんな彼女を静かに見て、ボクとヒバリにサキは教えてくれた。

 

「ちなみに、あやめの花は英語で、アイリスって言うの」

「……? うん。そんな花の名前、聞いたことある気がするけど」

「ふふ、ヨルくんはまだぴんと来ないかな?」

 

 英語だもんね、と頷いたサキは、改めて一つ目のヒントを指さして、ボクらの顔を見比べた。

 

「これは、ボク達にも、関わりがあること……?」

「うん、そう。みんな、一人にひとつは必ず持ってるよ」

「ひとりに、ひとつ……わたしたちの、からだ?」

「そう。ヒバリちゃん鋭いね。近付いて来た」

 

 臓器のことか? だとしたら、ボクにも関わりがあるっていうのは、元の世界ではある意味これ以上なく身近なものだったから、理解できる。そう、たとえば、角膜とか。

 

「えっと……色がついていて……必ず持っている……」

 

 そう思って、サキの顔を見つめたボクは、その優しい眼差しを見て改めて気が付いた。頭にずしんと電撃が走ったみたいだった。

 

「瞳! 瞳の色だ! みんな、遺伝や住んでる場所によって色んな色を持ってる。それで、傘っていうのは、光の量を遮って調整できるってことだから……虹彩! ひとつめは、虹彩のことなんじゃない!?」

「よくそんな難しい言葉知ってたねぇ……でも正解。そして、虹彩を英語に直してみたら、もう答えはすぐ目の前だね」

「ふっふっふ、スズちゃん分かっちゃったぁ! だって、スズが生まれたその根本と関係があることだもん! そだよねサキちゃん!」

 

 自信に満ちた瞳を、雀愛がムラサキに向ける。

 不思議そうなヒバリとボクに向かって、雀愛が教えてくれた。

 

「あのね。虹彩は英語で『Iris』。虹彩には虹って漢字が使われてるでしょ」

「!? さっき、あやめの花も英語でアイリスって言ったよね。それで空に見えるものって、もしかして……」

「うん、そう。虹も英語でアイリス……だからこれ、月の下で一時間以内に虹を探しなさいってことだねっ!」

 

 思わず両手を差し出した雀愛と、手を組み合わせてしまった。

 はっと気が付いたらサキがこっちを見ていて恥ずかしかった。ついテンションが上がって子供っぽい事をしちゃった。

 けど、ヒバリはまだ納得いかなさそうに首を傾げていた。

 

「虹……晴れてる、日、じゃないと、見えない、よ……?」

「う~ん、それが確かに謎なんだよねぇ。月の下ってことは、夜に間違いないと思うんだけどぉ」

「それなら、ボク、聞いたことある。外国の滝のところで、夜に月光の元で輝く虹が見られることがあるって、テレビでやってたんだ」

 

 名前は忘れたけど、世界にはそういうスポットがいくつかあるって言ってた。

 けど、月の下の虹は普通の虹以上に発生条件が特殊みたいで、探すのはなかなか難しそうだ。

 

「それに、『あるべきものをあるべき場所へ』って……? まさかとは思うけど、この虹を動かせって話じゃないよね?」

「そのまさかかもしんないよぉ。わたしたち、魔法使いだもん。

それに、もう一つヒントがあるじゃないっ、『はじまりの時の194番地』。きっと、そこへ虹を持って行けってことなんだよ!」

「マジ……?」

「ねーサキちゃん、これに心当たりなーい?」

 

 戦々恐々とするボクの横で、喜々として尋ねる雀愛を前に、サキはちょっと首を傾げた。

 

「はじまりの時……はじまりの時か。あるとしたら……ちょっと待って」

 

 そう言って、サキはリビングの片隅にある戸棚を開くと、小さな文庫本を持って来た。住所録とかじゃなく、それどっからどう見ても、小説に見えるけど。

 

「はじまりってことは、二人の物語のはじまりだよね。その虹を二人で見てた人達に、心当たりがあるんだよー。

194って、番地って書いてあるけど、ページくさいでしょ? もしかしたら、これかなって。これ、愛理とあやめさんの出逢いをまとめた本なんだよね」

「えっ、そんなんあんの!?!?」

「あるのよ、実は。しかも、愛理のペンネームとかあだ名もアイリスだしね。無関係とは思えない」

 

 愛理がそんな風にボクに名乗ったことなかったから、全然知らなかった。

 ぺらっ、と手渡された薄緑色の本の表紙を捲って、言われたページを探してみたボクの両脇から、雀愛とヒバリが覗き込んでくる。

 

「……あとがきって書いてあるけど?」

「ありゃ。じゃあ違うかも……いやちょっと待って。それ上下巻なんだよ。もしかしたらこっちかも」

 

 上巻よりさらに分厚めの下巻を手渡された。どんだけ書いたんだ、サキは。

 本文の、194ページ。

 たしかにそこには、虹が出ている。愛理とあやめさんが、二人で滝に偶然かかった虹を見て、心動かされた愛理があやめさんに本当の名を告げようとする。そんな感動的なシーン。

 

「そこまで行きついたのなら、とりあえず第一関門は合格として、あとは儂から説明しよう」

 

 ベルと共に黙って見守っていた神様が、皆の前に歩いて進み出た。狐だけど。

 

「夜羽に雀愛にヒバリ。おまんらは天使である以上、多少は時の流れを無視できるという話を、儂はしたことがあるな?」

「そう、だね。せかい、渡ると、ずれる」

「ヒバリに至っては世界を超えてるし、ボクや愛理達がいる場所も、サキのいる場所とはほんの少し位相がズレてることあるよね」

「そうじゃ。だがその代償はゼロではない。時空の流れに皺寄せが起きたことで、今おまんらが調べた過去の一時から、その虹が消え去ろうとしておる」

「! ダメだよそんなの! ここで虹見れなかったら、愛理とあやめさん、心を通わせられないまんまになっちゃうよ!?!?」

 

 必死になって身を乗り出す雀愛に、伽々未は頷いた。

 

「そこでじゃ。あとはおまんらが読み解いた通り、別の時間帯から虹を拝借し、当該時刻に虹を出現させよ。

今まで習った、どのような魔法を使うても構わぬ。それが、おまんらの試験の内容じゃ」

「これが……試験……虹を、泥棒するの?」

「周りに人がおらぬことを確認してじゃぞ。いくら夜とはいえ、その時間帯に虹を見ておる観光客がおれば、その者の歴史が変わってしまうからの」

 

 なるほどな。雀愛の使い魔が使えない、っていうのはそういうことか。確かに、ベルみたいな特定の動物を飼ってるボクならともかく、野生の動物を使役してる雀愛にとっては、過去の時代に使い魔はいないはずだもんな。

 それにしても魔法使いというか……そんなの奇術師とか怪盗の仕事じゃないか……?

 虹を盗むなんて、一体どうやるんだ。

 

「だいじょーぶだよヨルくんっ! そんなに心配そうな顔しないで! 三人寄ればもんじゃの知恵って言うし! 行ってみればなんとかなるって!」

「文殊の知恵をもんじゃ焼きと間違われてる時点で、雀愛が同行することに不安しかない……」

「わたし、てつだう。なに、できるか、わからないけど、一生懸命、するから」

 

 一生懸命頷いて手を握ってくれたヒバリの首元に、宙返りした神様が、尻尾から出した鎖のような何かを掛けた。

 

「紫咲の懐中時計に魔力を込めてある。それを使うて過去に行き、任務を達成したら戻って来るのじゃ。

ただし飛べるのは三回までが限度、ひとつの時間帯における滞在時間は一時間までじゃぞ。健闘を祈る」

「より長い時空を超えたことがあるヒバリの方が、そういうアイテムの扱いは慣れてるよね……わかった。ボクらとヒバリで手を繋ごう」

「あ! わたし箒持ってっていーい!? ていうか杖とマントも使用可だよね!? どんな魔法もアリなんだから!」

「いいじゃろう。元はと言えば、おまんのための試験じゃからの」

 

 意気込むボク達を前に、置いて行かれそうになった紫咲が慌てて手を上げるのが見えた。

 

「あああのう! 私は何かできることないかな!? ただの主とはいえ、うちの子たちが頑張っているのをただのうのうと待つわけには……」

「それなら、おまんはおやつ係じゃの」

「お、おやつ……」

「夜羽たちのために、美味い茶と菓子を用意して待っておるがよい。出来れば飯もじゃ」

「え、ええと、そのぐらいならお安い御用ですが、そんなんでいいの……?」

「それが、腹ペコで帰って来る彼らにとっては、何よりも士気が上がることじゃろうからの」

 

 獣にしては睫毛の厚い目で、伽々未がぱちりとウインクする。

 要するに大人しく待っていろってことだけど、ボク達にとってもそれが一番力になる。契約主であるサキは、心の支え的な意味でも魔力的な意味でも、力の源だからね。

 出発しようとするボクら三人を、サキは慌ただしくぎゅっと抱き締めた。

 

「みんな、気を付けてね。危ない目にも遭うかもしれないと思ったら心配だけど……ちゃんと無事に、全員でここに帰って来るんだよ?」

「任せておいて。必ず合格して、一人前の天使になってみせるから」

「がんばる。むっちゃん、まっててね」

「スズのためにみんなが頑張ってくれるんだもんっ! 絶対張り切って、思い出も守るし一発合格しちゃうよー!」

 

 力強く拳を突き上げた雀愛の周りを、黄金の光が取り巻く。

 慌ててボクはその手に自分の掌を伸ばした。

 

「うわっ、もう魔法発動してる! 早く! 全員で手つないで!」

 

 左手に雀愛の手、右手にヒバリの手。

 緊張で少し汗ばんだ掌を、三人で互いにぎゅっと握り合いながら輪になった時、時空転移魔法が発動して、ボクらは見知らぬ土地へ飛ばされていた。

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