2021.11.ノベルバー企画「運命の人」   作:大野 紫咲

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※前話、ムラサキのところにヨルくんがやって来る少し前のお話です


【番外編】もえるこころ

「……」

 

 ため息を吐いて、ぼんやり窓ガラスの向こうを見つめることが多くなった夜羽のことを、ボクは見つめていた。

 こっちの世界に来て、同じ家に暮らすようになってから、ボクは夜羽と同じ、人間界の小学校に行っている。みんな同じような鞄を担いで、同じ机に座って、やりなさいって言われた宿題をやって、当てられたら答える。どの授業もおんなじような感じで、ふーんこんなもんかなって感想だった。

 じっとして黒板を見ているより、街の中の色んなものを見てる方が面白いから、ボクはすぐ魔法で授業をサボって、外に出掛けてしまう。

 けど、夜羽は違うらしい。

 今日も一日、学校を休んでいたけど、休むくらいつまらないなら、夜羽もサボればいいのに。

 じーっと傍に立って顔を凝視していても、やめろよとか照れたような顔もしなくなって、元気なさそうにカーディガンの裾をいじってる。

 

「ねー夜羽。プラレールやろう」

「……今、気分じゃないからいい。ボクの新幹線が欲しいなら、貸してやるよ」

「なんで、家にいるのに遊ばないの?」

「今遊んでても、明日は学校に行かなきゃって思ったら、元気出ないもん」

「じゃあずーっと行かなきゃいいじゃないか」

「そういうわけにいかないだろ。ボクはちゃんと……勉強しなきゃ。いい子なんだから」

 

 ヘンな夜羽。

 魔法を使えば、いくらでもズルが出来るのに。

 それはイヤなんだって。不思議だな。

 天使のくせに、契約主がいるなら主とずっと暮らせるくせに、夜羽ってすごく真面目。

 別に、頑張らなきゃ守護天使になれないわけじゃないし、守護天使になったからって苦労しなくちゃいけないわけじゃないのに。

 ボクにはどうしても理解できない。

 

「……」

「……」

 

 ボクには理解できなくて、どうしたらいいかも分からない。

 辛気臭い顔を前に、首を傾げるばかり。

 

「うーん」

「どうしたの、恵李朱」

「うーん」

 

 ボクによく似た顔が、ボクを見ている。

 肌の色以外全然違うけど、夜羽はボクのことを似ているって思ったらしい。この世界の設定上は双子ってことにしているけど、たしかに毎日顔を突き合わせていたら、ボクまで本当に似ているような気がしてきた。

 

「顔が似てても、相手の考えてることまではわからないな」

「当たり前だろ、違う人間なんだから」

「そういうもんかな」

「そういうもんだよ。ってか、それが普通だろ」

 

 呆れたように夜羽が言う。

 ボクは、ピアスになって耳に提がっていたサソリのあ〜るの尻尾を、指でつまんでぶらんと振ってみた。

 使い魔のサソリを使って、尻尾の毒を刺せば、ボクはしばらくの間相手の心を読むことができる。ムラサキは冬の間、体調が優れないことが多いから、喋るのがしんどそうな時はそうやって相手の声を聞いた。同じことは、守護天使である夜羽もテレパシーで出来るはずだけどね。

 でも、夜羽の心に広がっている「さびしい」という感情は、読めてもどうやって消すのかわからない。

 ボクは悪魔だから、辛い気持ちを自認させる作用はあっても、解消の仕方は知らない。

 

(……ムラサキは、どうやってたっけ)

 

 そういえば、ムラサキは遠くの人にも、よく「プレゼント」を贈っていた。

 それって、夜羽にも効くのかな。ボク、何か持ってたっけ。

 

「……恵李朱、何やってるんだ?」

「はい。これ、あげる」

 

 ボクはスクールバッグの中から、今日の帰り道に拾ったものを取り出した。

 傾き始める太陽に照らし出された、スケスケのそれを見て、夜羽が怪訝そうに首を傾げる。

 

「なんだ、これ。……ビー玉?」

「道に、たまに落ちてるんだ。ほら、これも。これも。珍しいやつなのか? これ」

 

 魔界ではたまに鉱物が道端に生えてることもあるけど、丸い透明な球を見て、夜羽は首を振った。

 

「別段、珍しいものじゃないよ。誰かが、ゴミ箱に入れずに勝手に捨てたんだろうね」

「これ、何でできてるんだ?」

「ガラス。ガラス窓と同じ材料だよ。ビー玉は、よくラムネの瓶に入ってる奴なんだ」

「ラムネ???」

「夏に飲む飲み物。こうやってビー玉を下に押すと、しゅわ〜って泡が出る」

 

 教えてくれたけど、想像がつかない。

 どんな飲み物なのかぼ〜っと考えていたら、指で球をつまんだ夜羽が言った。

 

「でも、なんでボクにこれを?」

 

 そっか。別に珍しいものじゃないのか。

 特別なものじゃないなら、特別なものにすればいい。

 うーん、ともう一度ボクは考えてから、布団に転がった目の前のビー玉を一個、両手で持ってぶーっと息を吹き入れた。

 

「わっ」

 

 透明な球の内側が、瞬く間に業火の色に変わる。

 うん。これでよし。

 夜羽が見ている前で、ボクは10個ほど集めたビー玉に全部、朱色(あけいろ)の炎を入れてやった。

 炉の中で溶けた真っ赤なガラスみたいに、赤、オレンジ、黄色、物によって全部違う輝きが入っている。同じ魔法を使っても、同じにはならないみたい。

 

「これは、恵李朱の魔法?」

「うん。ボク、炎を操るのは割と得意だから」

 

 はい、と手の中にガラスを落っことすと、半透明の燃える世界をかざして、じっとボクの瞳を見た夜羽は、ふと目元を緩めた。

 

「これ、やっぱ恵李朱にやるよ」

「は? なんでだよ。折角ボクが作ったのに」

「いいから。じゃあ、一個だけもらう。残りは恵李朱が取っておきな。弟だろ」

 

 弟であることと、プレゼントを譲られることの繋がりが、全然見えないんだけど。

 しかも夜羽はなぜか、可笑そうに肩を揺らして笑っている。

 なんで? なんでだろう。

 いくら考えても、ボクはわからない。

 ガラスの滑らかな表面が、きらりと夕日を反射する。そこには夜羽だけじゃなくてボクの顔も映っていたみたいだけど、ボクは自分の表情など知らないまま、掌でビー玉を転がして遊ぶ夜羽の前で首を傾げ続けていた。




エリスくん、ヨルくんはね、ビー玉に炎を吹き込んでその色の変化に瞳をキラキラさせる楽しそうなエリスくんの顔を見たから、あげるねって言ったんだと思いますよ(^^)
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