――あなたは夢を見ていた。
夢の中のあなたは、スタイリッシュな
久々の
その後も夢の中のあなたは
――ここ最近おかしな夢ばかり見ているなぁと、カーテンの隙間から差し込む日の光で目覚めたあなたは思っていた。
先日見た夢は背中に人を乗せたまま四足歩行で走るパ鹿パ鹿しいものであったし、あまつさえあなたはそのキュートな尻を鞭でペシペシされていた。もしや何か変な性癖に目覚めてしまったのではないかと心配になり、あなたはその後の数日間、夜も眠れず昼寝してしまうほどであった。パ鹿め、尻よりも脚だろう上の人よ。あなたは重度の脚フェチなのだ。
階下から漂ってくる朝食の香りにおなかのなかの小人さんは飯を寄越せとピィピィ叫び、それを拒否する理由も無く起床することにしたあなた。夢見の悪さからかベッドから起き上がった瞬間にバランスを崩し、危うく床に平積みになっている漫画の山に頭から突っ込みそうになってしまった。既にお気に入りは寮へと発送しているので、今散らばっている分はこのまま家に残していく事になる。電子書籍なら場所はとらないのだろうが、やはり紙媒体のほうがあなたは好きなのだ。
……そういえば今日の夢の中では耳と尻尾は無かった気がするが、夢の中のあなたはどうやって音を聞いたりバランスを取っていたのだろう? 答えが出ないので、あなたは考えるのをやめた。
紙々の山嶺を抜き足で踏破し、母親によって無理矢理据え付けられた姿見へと近付くあなた。いい加減身だしなみに気を使えと口酸っぱく言われているので、リビングに向かう前に一度確認するのがあなたの日課である。真新しい制服に袖を通し、あなたは意を決して姿見の前へと立った。
「…………」
大きめの耳に透き通った白髪と赤い瞳、そして前髪に一房混じった
「おはよう、朝ごはん出来てるわよ」
あなたがリビングに顔を出せば、既に母親によって朝食が用意されていた。今にも暴動を起こしそうな小人さんたちを宥め透かしながらあなたは今朝のメニューを確認する。
トーストが半斤に卵を10個使用した大皿いっぱいのスクランブルエッグ、横にはベーコンが山のように折り重なり食欲をそそる良い香りを漂わせている。大きなボウルには大雑把に手でちぎられたレタスと丸ごと人参が5本。甘くジューシーで生でも美味しいそれはあなたの大好物だ。
冷蔵庫から1Lの牛乳を取り出しマイジョッキにだばだばと全部注げば、あなたのご機嫌な朝食タイムの始まりである。なお毎日の牛乳は残念ながら『効果はいまいち』なようで、あなたの身長は140cmほど、そのバストは平坦であった。
「うん、制服姿も可愛いわね。ママが学生だった頃を思い出すわ!」
モリモリと朝食を頬張っているあなたのところに、コーヒーを片手にキッチンから戻って来た母親が声をかけてきた。娘のあなたから見ても一児の母とは思えないほど若々しく、エプロン姿で微笑む様はまごうことなき若奥様。これでもGⅠレースを勝利している立派なウマ娘で、現在は出張の多い父親に代わって家を守っている専業主婦である。
……だがあなたは知っている。
制服が届けられた日の夜、箪笥の奥にしまいこんでいた懐かしき制服を引っ張り出した母親が、タイミング悪く出張から帰って来ていた父親とうまぴょいしていたことを。そうやって両親が時折うまだっちに耽る様を見て見ぬふりをする情が、あなたにも存在した。
今思い返せばその前のすきだっちの時に母親が着ていた衣装は、彼女が現役時代に着ていた勝負服だったのだろう。……あなたに弟か妹が出来る日はそんなに遠くなさそうだ!
「いってらっしゃい、車と歩行者に気をつけてね!」
玄関で靴を履いていたあなたの背中に母親からの応援が届く。そう、今日からあなたはトレセン学園に通うのだ!
既に荷物は学生寮に送ってあり、入学式に身一つで登校出来るのはとてもありがたい。月に一度は顔を見せに帰って来るからと母親に告げ、いざ出発と勢いよく玄関の扉を開けたところで――。
「わん!」
――家族の一員である。真っ白もこもこの毛むくじゃらにあえなく押し倒された。
ポアっとしたとぼけ顔であなたの顔を舐めて来るのは、あなたが産まれる前から家にいる大きな犬だ。道行くウマ娘のお山をガン見する彼女と脚を舐めるように観察するあなた。2人で一緒に朝夕とランニングするのがあなたの日課であったが、残念ながら彼女をトレセン学園に連れて行くことは出来ない。学生寮はペット厳禁である。
「わふぅ?」
なんにも悩みなど無さそうな彼女の顔をムニムニとマッサージしながら、あなたは彼女に暫く会えなくなることをと告げる。毎日の散歩は母親に任せるとして、あまり食べ過ぎて太ったりしないようにと念押しをするあなた。わんと勢いよく返事は帰ってきたが、残念ながらあなたの気持ちは伝わっていないだろう。母親のさじ加減に期待するしかないようだ。
靴紐がしっかり結ばれていることを確認し、しゃがみ込んだ体勢からグッと背筋を伸ばして立ち上がりつつ両手をYの字に掲げるあなた。太陽賛美のポーズはあなたがド嵌まりしたゲームでNPCが行っていたジェスチャーである。その特異な外見から産まれた時に
日光の下で元気に走り回れることを、丈夫に産んでくれた両親と太陽に感謝の気持ちを込めて全身で表現するあなた。太陽万歳! なお小さな頃は母親と似ても似つかない毛色(母親は鹿毛)のため、自分は本当は橋の下で拾われた捨てウマ娘なんじゃないかと疑っていたのも今となっては良い思い出である。
感謝のポーズを終え、春のうららかな日差しの下を走り出すあなた。トレセン学園までの距離は大凡20km、ゆっくり走っても入学式には十分間に合う計算である。すれ違う近所の人たちに挨拶を繰り返しながらウマ娘専用レーンを徐々に加速するあなた。そう、文字通りあなたは学園生活のスタートを切ったのだ!
定刻通りに始まった入学式。温かな陽気で
肩を震わせるあなたを見た隣の席の女子が具合でも悪いのかと心配してくれるのが非常に心苦しく、後で教室で再会した時に笑いを堪えていただけだと話した時の彼女の顔は実に味わい深いものであった。ぷく~と頬を膨らませる彼女にひたすら謝り倒し、お詫びに食堂でランチを奢ったのがきっかけで彼女と友人になれたのだから、是万事塞翁がウマというやつだ。
入学式とその後のクラス分けも無事に終わり、これから暮らすことになる美浦寮へと到着したあなた。寮の入り口で部屋割りを教えてくれた褐色肌の健康的な寮長は、なんと学園案内VTRで魔法少女の恰好をしていた先輩ではないか!
あなたが思わず「あの時のおみ足は最高でした!」と拝み倒してしまったのは当然の帰結であったといえよう。顔を真っ赤にしてあなたの首を締め上げる先輩だが、あなたの宙吊りのおなかに先輩のたわわが良い感じに当たり、あなたは天国と地獄を同時にに味わうこととなった。
一頻り戯れた後に解放されたあなた。大きく息を切らせた先輩曰く、あなたの同室は高等部の先輩らしい。本来であれば同じ学年の生徒がルームメイトとなる筈であったのだが、人数の関係で半端が発生しその皺寄せが偶々あなたに直撃したようだ。編入生が来るまで1人部屋という話もあったのだが、寮生活や学園での暮らしについて話せる相手がいないのは如何だろうかという会長の一声で例外的に認められたそうだ。
1人部屋のほうが趣味の時間が保証されたかなぁと思うあなたであったが、寮長の話ではその先輩も随分クセの強い人とのこと。まぁ仲良くやれよ?と肩を叩かれたあなた。可愛いにんじんキーホルダーの付いたルームキー片手に、あなたは運命の地へと向かった。
「…………?」
ノックをしても返事が無く、ドアノブに手を掛ければ鍵は掛かっていないという想定外の状況に戸惑うあなた。そろそろとドアを開けてみれば、中は特殊な趣味に塗れた部屋であった。
部屋の中心より半分を境界にクッキリと区切られた領域。国境を跨るように大型の薄型テレビが設置され、下部のラックには各種ゲーム機がセットされている。壁面に棚は上部にウマ娘のフィギュアが鎮座するコレクションケースが並べられ、下部は専門書と漫画が隙間無く詰め込まれている。ベッドの上に寝かされている抱き枕にプリントされているのはひょっとして生徒会副会長のエアグルーヴ先輩ではないだろうか? コイツぁ予想より手強そうだ………あなたはグッと拳を握りしめた。
ベッドの上に置かれていた段ボールを開封し、据え付けの家具に放り込んでいたあなた。厳選して持ってきたブルーレイボックスに手を伸ばしたところで部屋のドアが開いたことに気付き、そちらに目をやると……。
「…………」
両手に1本ずつペットボトルを持ったウマ娘が、呆けたような顔であなたのことを凝視していた。
背はあなたよりはるかに高く、目算で170cmは有りそうな気がする。長い黒髪を後頭部で纏め、おでこを全開にした
抱き着かせて貰うか、それとも踏んで頂くか……。あなたが真剣に悩んでいる間に目の前の推定同居人な先輩は再起動し……。
「ふぉぉぉぉぉ!? 寮長から後輩が来ると聞いては御座ったが、まさかこんなに愛らしい妖精とは拙者想定外で御座るよぉぉぉ!?」
……しまった、
興奮する彼女を何とか落ち着かせ。向き合ってそれぞれのベッドに座るあなたと先輩。わざわざ飲み物を買いに行ってくれていたようで、まさかその間にあなたが部屋に到着しているとは思わなかったよと苦笑している。差し出されたペットボトルを礼を言いながら受け取ったあなた、そういえばまだ自己紹介をしていなかったことに気付き、居住まいを正して彼女へと向き直った。
「ほうほう! なんとも良き響き!! ……しかしながら名前に比して然程
……どうやら、またいつもの勘違いが起きてしまったようだ。みんな最初は勘違いしてしまうので説明し慣れてはいるのだが、やはり不満が顔に出てしまったのだろうか。謝罪の言葉を口にしようとした先輩の視線があなたの傍らに転がる
「――その髪は赤く染めねぇのかい?」
貴様染めたいのか!
「へっ、冗談で御座るよ……」
ピシガシグッグッ! あなたは魂の親友を得た!!
「いやぁ失敬、そんな意味があるとは知らず申し訳ないで御座る」
頭を下げる先輩に対し気にしないで欲しいと告げるあなた。そんなことよりも同好の士であることが判明したほうがあなたにとって大事である。段ボールから取り出される前世紀の香り漂う作品たち。あなたはむせるアニメとその監督の作品を心から愛しているのだ。
先輩の手も借りて並べ終えたあなたの宝物たち。部屋の左右の温度差で一般人なら風邪をひいてしまいそうだが、あなたたち2人には何の問題も無い。手伝って貰ったお礼を言おうとして、先輩の名前を聞いていなかったことにあなたは気付いた。先輩も同様だったらしく、これは失礼と頭を掻きながらベッドの上に正座し、あなたへと向き直る。先程までの浮ついた空気は一掃され、凛とした雰囲気に満ちる部屋。きりりと結ばれた唇から放たれた言葉は……。
「拙者、高等部
春風に飛ばされるように時間は過ぎ、あなたは選抜レースの集合場所に立っていた。
日本全国から厳しい試験をパスして集まったウマ娘たち。その栄光と挫折の始まりとなるのがこのレースである。入学式の一件から行動を共にしていた友人は「まだ見ぬ葦毛に会いに行く」などと言いながら何処かへ走り去ってしまい、あなたは絶賛ボッチである。
1000mから2000mまでの距離の中から最も自分が得意とするレースを選び、スカウトに訪れているトレーナーに自分を売り込もうとアピールするウマ娘たち。一部のやる気勢はチーム主催の選抜レースに出走して所属する権利を勝ち取る場合もあるが、多くはこの合同選抜レースで結果を出しスカウトしてもらうのが普通である。
学園指定のジャージに着替え、恐々とゲートに入って行く初々しい同級生を眺めているあなた。残念ながらあなたのやる気は絶不調だ。
あなたは走るのが嫌いなわけでは無い、むしろ大好きだ。部屋に引きこもってゲームをするのも好きだが、それはそれとしてウマ娘らしく外を元気に駆け回るのも好きである。川沿いに整備されたウマ娘レーンを源流から河口まで走り切る楽しさは筆舌にし難いものがある。
ではレースは如何なのかといえば、正直楽しくない。ゲートはあまり好きではないが、出遅れないよう気を配ることは出来るし、競争相手と競り合うのも悪くない。
つらつらと考えているうちにあなたの名前が呼ばれた。一緒に名前を呼ばれた子たちとゲートに向かい、その狭さにうんざりしながら開く瞬間を待つ。あなたが選択したのは2000m。選抜レースで走ることの出来る距離で一番長いものだ。
ゲートが開いた瞬間にあなたは飛び出した。緊張や不慣れから来る浮つきで出遅れた子たちを後ろに先陣を切ったものの、すぐに後ろから来た子たちに抜かされていく。前を行く集団が掛かっているわけでは無い、単純にあなたが遅いのだ。
待っている間に準備運動をしていたとは思えないほど冷え切ったままの身体。前方へ振り上げる脚は重く、その回転数は一向に上がらない。
1000mを過ぎたところで先頭との差は20バ身以上。逃げウマ娘が先行集団に吸収され、後方の集団が最終コーナーまで足を溜めようと逸る気持ちを抑えている。
残り400m。後方集団がスパートをかけ、先行組を飲み込もうと迫る。そうはさせじと必死に前へ進む先行ウマ娘、あなたは後ろからそれを眺めている。
残り200m。あなたの
残り100m。上体を地面と平行になるまで倒し、膝が胸に付かんとするほどに腿を上げ、ストライドを極端に伸ばす。踏み込んだ踵が
――ああ、やっとだ。
視界がクリアになり、重さすら感じぬほどに軽くなった脚を踏み込む。クラウチングスタートと見まごうほどまでに倒された上体、コースの外で見ていたトレーナーたちが故障ではないかとざわつく声が耳に五月蠅い。暖気の終わった身体を解放し、ゴールへ向かってスパートをかけようとしたところで――。
「9着、〇〇〇〇〇〇〇〇!!」
――あなたの身体は既にゴールを通り過ぎていた。
あなたは出走者9人中の9着。つまりビリである。
1着でゴールし喜びを全身で表現する者、僅かに届かず悔し涙を浮かべる者。緊張で本来の力が出せず、次は頑張ろうと気合いを入れる者。周りの空気に耐え切れず、あなたはそそくさとゴールを後にした。走る前から判っていた結果とはいえ、それでも負ければ悔しいものである。
コース外周の木陰まで歩き、ごろんと大の字に寝転んで目を瞑るあなた。身体の熱が引くのに呼応して訪れた微睡みに身を任せていたところで頬に冷たい感触が。冷たいペットボトルから繋がった腕に視線を沿わせていけば、日差しを遮るように誰かがあなたを覗き込んでいることに気付いた。艶やかな黒髪をひっつめにした長身のウマ娘。怜悧な造形の顔を笑みの形に歪めた先輩……サムライハートだった。
レース後の火照った身体に水分を有難く受け取り、感謝を告げるあなた。「いやぁ惜しかったで御座るなぁ」という言葉から彼女があなたの走りを見ていたことが判る。彼女に悪気が無いのは承知しているが、それでもあの無様な走りを「惜しかった」と言われるのは気持ちの良いものではない。
そんなあなたの気持ちは百も承知なのだろう。ぷく~と頬を膨らませるあなたの頭を撫でながら、彼女が指摘したのはあなたの適性……走り方についてである。
「拙者の見立てでは、貴公おそらく
彼女の言う通り、あなたは長距離を得意としている。……というよりも、
極端なスロースターターであり、生半可な距離では速度が乗ってくる前にゴールになってしまう。序盤からスピードを出そうとしても小柄な体躯ではパワー不足で加速性能に欠け、逃げを打つことも不可能である。
必然、長距離を走るしかないのだが……クラシック級にならなければ長距離レースが開催されないため、あなたが十全な力を発揮できる適性距離のレースは存在しないのだ。
しょんぼりしながらぽつぽつとそれを口にするあなた。口を閉ざしあなたの告白を聞いていた彼女が深く頷き、突然あなたの手を握ってきた。
「昔は拙者も貴公のように競争ウマ娘としてだったんで御座るが、膝に矢を受けてしまいましてな……」
どうやら彼女サポート科に転科する前は、彼女もレースに出ていたらしい。しかしレース後の骨折で走れなくなり、サポート科へと移ったのだという。彼女の口から語られた内容に驚きに目を丸くするあなたに向かってニッコリと微笑み、豊満な胸を揺らしながら彼女は……。
「貴公に是非とも会って頂きたい御仁がいるで御座る。明日の放課後、時間を頂戴出来ますかな?」
彼女の太陽の如き眩しい笑顔を前にして、あなたはただ頷く事しか出来なかった。
翌日の放課後、あなたは彼女……ハートに連れられてチーム部室のある一画を訪れていた。
最初は彼女の事を『サムライハート先輩』と呼んでいたあなただったが、彼女から「もっとフレンドリーに呼んで欲しいで御座る!」と言われ愛称っぽくハートと呼ぶことに。その体中から発せられる善性に思わず『ハート様!』と呼んでしまい「それは止めて」とマジ顔で言われため、その場であなたは土下座した。流石全国の太ましい子どものニックネームを全て塗り替えただけのことはある破壊力である。
星の名前の付いたネームプレートを眺めながら歩く事暫し、無記名の札がぶら下がった一棟の前でハートは止まり、くるりとあなたへと振り返った。
「今年度新設のチーム故、まだ名前も張り出してないので御座る。ささ、中へ中へ!」
背中を押されながら部室へと入ったあなた。薄暗い部屋の中は雑然としており、複数配置された端末にはびっしりと付箋が張られ、部屋の奥からは怪しい煙と何処か蠱惑的な香りが漂ってきている。あなたが外界との温度差に戸惑っていると、不意に部屋の明かりが点きその眩しさに思わず目を覆ってしまった。視覚を阻害され周囲を把握しようと小刻みに動くあなたの耳元に、温度と湿度、そして粘度の異なる2人の囁きが注ぎ込まれてきたのはその直後である。
「ふぅン、その
「随分貧相なナリだが、足回りは頑丈そうじゃねェか。目つきも悪かねェし」
慌てて飛び退ったあなたの前には2人のウマ娘が立っていた。1人は濁った瞳で薄ら笑いを浮かべる栗毛。現役時代の勝負服を模した私服と白衣に身を包んだ【超光速のプリンセス】。もう1人はあなたと同じかそれ以上にキッツイ目つきの黒鹿毛。データ面を重視し偶然を排除した先に勝利を夢見たタイトスカートに白衣姿の【準三冠ウマ娘】。後ろからあなたの肩に手を乗せたハートが眼前のGⅠウマ娘を自慢げに紹介してくれた。
「アグネスタキオン殿にエアシャカール殿。ドリーム・シリーズで活躍する超一流ウマ娘にして、新設チーム『アルコル』のトレーナーで御座る!」
「まぁ、チームといっても他のところと違って、レースに勝つことが第一目標じゃ無いんだけどねぇ……?」
フンスと胸を張るハートの言葉に冷や水をぶっかけるようにサラッと言い放つアグネスタキオン。しかし、そんな彼女の言葉はあなたの耳には届いていない。
アグネスタキオンにエアシャカール。あの最強チーム『リギル』に所属している面々に匹敵する活躍をした名ウマ娘にして、ウマ娘というファンタジーな存在を解明しようと研究を続ける探求者である2人。そして何よりあなたの心を掴んで離さないのは……。
「オイ、てめェ大丈夫か? 心拍数と体温が急上昇してやがるし、呼吸も荒くなってンぞ?」
……黒いストッキングに包まれた、至高の美ともいうべき2人の美脚! 重ねて言うが、あなたは重度の脚フェチである。
「うんうん、推しにあんな距離まで接近されてしまったらキュン死しかねないで御座るからなぁ。貴公も以後は気を付けるで御座るよ?」
尊死しかけたあなたを備え付けのソファーに寝かせ、額に濡れタオルを乗せてくれたハート。わかる、といった表情で頷く彼女をエアシャカールが胡乱げに眺めているのをあなたは横になりながら見ている状態だ。
寝かされた状態で両トレーナーから聞いた話を纏めると、どうやら2人はジュニアクラスでは能力を発揮出来ず、伸び悩んでしまう晩成型のウマ娘に対する育成方法を研究しているようだ。
選抜レースで思うように結果が出せず才能が無いと諦めて学園を去ってしまう者や、地方に編入してから本格化を迎え何故もう少しトレセン学園で頑張らなかったのかと後悔してしまう者。そういったウマ娘に対して成長を促すアプローチを模索し、夢を諦める者を減らすことを考えているらしい。
なおこれはハートがあなた向けに翻訳してくれた内容であり、両トレーナーはもっとストレートに「才能と努力が噛み合っていない者を叩いて伸ばす方法を研究している」とのたまっていたのをあなたは覚えている。
「――というわけで、現状に素質がまるで合っていない君のようなモル……ウマ娘をハート君に探して貰っていたンだよ。どうだろう、私たちのじっけ……チームに所属してみないかい?」
「てめェはもう少し判り易く交渉相手に利益を提示しろってんだよ。……いいかチビ? 俺たちはお前を
さァ、どうする? と差し出された手を即座に取るあなた。その速さには流石に驚いたようで、「ちったァ悩むフリくらいしやがれガキンチョが」とあなたは小突かれてしまった。
「いいねェ、素晴らしい思い切りの良さだよ。ならばキミは今日からチーム『アルコル』最初のメンバーだ!」
萌え袖をブンブンしながら宣言するタキオン博士に思わずほっこりするあなた。一頻り喜んだ後にふと我に返った彼女があなたに訪ねてきた。
「そういえば、君の名前を聞いていなかったね。ハート君からは面白い新入生がいる! しか聞いていなかったし」
「あ? なんだてめェ調べてねェのかよ!? スカウトするヤツの事前情報くらい抑えておけっつーの!」
ギャーギャーと言い争う2人を制し、名前を名乗るあなた。ふむふむと頷くタキオン博士がドヤ顔で言い放ったのは……。
「実にいい名前だ。その名の通り、レース場の全員を
「ソイツの綴りは
ありがとう三女神様、素敵なものを見させていただきました!
真っ赤な顔で涙目になってプルプル震えている博士を見てあなたは非常に申し訳ない気持ちになるとともに、このチーム『アルコル』に所属して本当に良かったと心の底から三女神に感謝を捧げたのだった……。
別作品の息抜きに書くつもりですのでゆっくり更新となる予定ですが、もし宜しければ評価に感想、お気に入り登録をお願いいたします。……もしかしたら更新速度がちょっぴり向上するかもしれませんので……。
お読みいただきありがとうございました。