蝉の五月蝿い鳴き声が、聞こえてくる。
私、霧雨魔理沙は博麗神社の賽銭箱に座り、ボーッとしていた。
鳥居の辺りに陽炎がゆらゆらとしているのに気がつき、はぁと溜め息をつく。
......霊夢、どこへ行ったんだろう…?
昨日はいつも通り、参拝客も来ない神社を掃除していたというのに、今日はどこを探してもいない。
相当のことがないと霊夢は人里へおりて行ったりしないし、私の知らないところで異変が起こっているのだろうか。
...いや、それはないはずだ。あのブン屋がそんな美味しいニュースを逃すはずもないからな。
うーん、とりあえず人に聞いて回るか。
......
アリスの家にやってきた。
コンコンとドアをノックすると、中からアリスが出てきた。
「あらどうしたの?魔理沙」
私はいつも夜とか夕方ごろにアリスの家に行くため、こんな真っ昼間に来たのは久しぶりだ。
「あー、えっと、霊夢知らないか?」
「霊夢?知らないわよ、ここ最近会ってないし」
やっぱりアリスは知らないか。
「そうか、ごめん、ありがとう」
「え?用事はそれだけなの?」
「ああ、それだけだ」
「そう、じゃあまたね」
アリスは笑顔で手を振って、ドアを閉めた。
......
次は紅魔館に来た。
来る途中にチルノ、ルーミア、リグル、ミスティアのいつもの4人組がいたが...あんなのに聞いても何も情報を得られないと思って通り過ぎて来た。
今日は珍しく寝ていない赤髪の門番、紅美鈴に話を聞いてみる。
「美鈴ー」
「あ!魔理沙さん、お久しぶりです」
私を見ると、パッと笑顔になり、こちらへ走ってくる。
「どうしたんですか?」
「いや、今日霊夢が神社にいなくてさ。知ってるか?」
「霊夢さん...そういえば一昨日紅魔館に来てたらしいですよ」
「一昨日?それはどういう用事で来ていたかわかるか?」
きっと寝ていて知らないんだと思うが...。
「え、えーっとですね、......ごめんなさい、居眠りしてて...」
ほら、やっぱり。
「だよな。まぁいいや、ありがとう」
「いえいえ、私も霊夢さん、探してみます!」
......
大図書館。
「パチュリー、いるかー?」
ここには週に一回の頻度で来ているため、久しぶりという感覚はなかった。
すると、本棚の裏からひょこっと出てきたのは、
「あ、魔理沙さん」
小悪魔だった。小悪魔はパチュリーの相方のような存在で、一緒にこの図書館で過ごしている。
「おう、小悪魔。霊夢って知らないか?」
「へ?霊夢さんですか?んー、レミリアさんとこの間喋ってましたね」
「それって、一昨日の話か?」
「そう...ですね。おやつがマカロンの日だったので、一昨日ですね」
おやつがマカロンで一昨日とわかるのか。ある意味すごい気がしなくもない。
「なるほど、ありがとう。後パチュリーを呼んでくれないか?」
「了解しました!」
頭に生えている悪魔の角をぴょこぴょこと左右に動かし、向こうへ去っていった。
......
「で?用事は何かしら?」
小悪魔にパチュリーを呼んでもらい、今に至る。パチュリーが来るまでに相当な時間がかかっていたが…何か実験でもしていたのだろうか。
まあそんなことはどうでもいい。霊夢のことを聞こう。
「一昨日、霊夢が紅魔館に来ていてレミリアと喋っていたらしいが...どんなことを喋っていたか知ってたりしないか?」
「そんなこと...?私が知るはずもないじゃない」
「だよなぁ...」
「というか、それレミィに聞いた方が早いんじゃないの?」
あ、確かに。
「...ごめん、レミリアのところ行ってくる」
苦笑しているパチュリーを後ろに、そそくさと出口へ向かった。
......
レミリアのところへ行く途中、咲夜に会った。
「あ、咲夜」
「どうも、こんにちは」
仕事の途中とは思えない落ち着きっぷりだ。
「レミリアってどこにいるんだ?」
「あら、お嬢様に用事?お嬢様ならテラスでお茶しているかと」
「そうか、ありがとう」
「あなたが本を盗む以外の用事で紅魔館に来るなんて珍しいわね」
「うっさい!いいだろー!?別に」
「良くないですわ」
にっこりと笑顔でそう言われた。
......
ようやくテラスにたどり着いた。
この館...どうなってるんだ、外から見た感じだとあまり広く見えないのだが、中を歩くとものすごく広い。遠い。キツい。
テラスのドアをガラガラと開けると、窓際で外を見ながら紅茶を飲んでいたレミリアがこっちを向いた。
「あ、魔理沙じゃない!」
そんなに嬉しかったのだろうか、ひょいっと椅子からおり、私の元へやってきた。
「久しぶりね魔理沙ー!」
「お、おう、久しぶりだな。とりあえず座ろうぜ」
「ええそうね!」
レミリアに腕を引っ張られ、さっき座っていた席に連れていかれた。
「今日はどうしたの?」
「ああ、一昨日霊夢が来たんだろ?確か」
すると、レミリアはハッとして手を叩いた。
「そう!霊夢がなんか変なこと言って帰って行ったのよ!」
変なこと...?
「変なことってどんなことだ?」
「うーん、私にもよく理解できなかったのだけれど、紫の結界に外の世界の人が閉じ込められている、って言ってたわ。確かね」
「それで霊夢が助けに行ったのか...?」
「多分そうだと思うわ。というか、紫が結界に人を閉じ込めるって…相当な人なのねぇ」
「確かに、あの紫が普通の人間に目を付けるわけないしな」
「紫呼んでみたらどう?」
確かにそうできればいいのだが...
「でもあいつって霊夢の前にしか姿を現さないよな」
すると、レミリアは眉間にしわを寄せた。
「...ん?どうした?レミリア」
「あなたの後ろ...何か」
後ろを指さされ、振り返る。が、何もなかった。
「何もないぞ?何が見えるんだ?」
「な、なんでもないわ...ええ、きっとなんでもないのよ、うん...」
俯きながらそう呪文のように言っていた。
「お、おいおい?何があったんだよ」
そう言うと、レミリアは呪文のような言葉を唱えるのを止め、そのまま言った。
「...なんか...血だらけの霊夢が...いた気がして......」
「!?」
もう一度、急いで後ろを向くが、やはり何もない。
「き......きっと...幻覚...よね?」
「そう、だな...」
いっきに空気が気まずくなる。
「わ、私帰るな」
「ええ...うん...」
私はその場に居れず、急いでテラスのドアへ走っていった。
......
紅魔館を走って出てきた。美鈴は寝ているようだ。
「はぁ...はぁ...!」
レミリアが言っていたこと...本当だろうか。もし本当なら、急いで霊夢を助けにいかないと...
私は駆け足で家へ帰ることにした。
その背後に、何か寒気を感じたが、気にせずに走った。
「たす...け...て......」